リング短篇集
ポケモンって素敵だね
底辺生主の俺が夏の終わりにスターとなる物語
**底辺生主の俺が、人気を得る光明を得る

 今や国民の生活の一部となっている動画配信サイト、ニヤニヤ動画。そのサイトには生放送というコンテンツもあり、そこでは生放送主(通称「生主」)と、視聴者(通称「リスナー」)との間でリアルタイムでやり取りできるのだ。
 俺もその生主で、名前はオレモモンというのだが、人気はあまり良くない。リスナーの奴らは、俺のすごさを全く分かっちゃいない。俺は勉強とか就職なんかよりも、人を楽しませることを優先しているっていうのに、奴らは何のありがたみも感じていないのだ。
 毎日の面白トークに対しても、「つまらん」だとか、「で?」などと煽るばかりで称賛するコメントは皆無と言ってもいい。俺のトークに対して支援をしてくれる人もいない。芸能人みたいに皆を楽しませているんだから、支援なんてするのは当然だろうに? 恩知らずな奴らばかりだ。
「おい、おまえらさぁ。分かってるの? 俺のパソコンがもう劣化して使い物にならないわけ。だから、誰か新品のパソコンの支援とかさぁ、そういうお金持のリスナーはいないわけ? お前ら金も出せないとか無職なの!?」
372コメ:新品のパソコン先週買ったよー。快適快適wwww
373コメ:お前自分が言われると嫌なことを悪口にチョイスしているだけだろ? だから『無職なの?』なんて言葉が出る。
374コメ:新車一台買えるくらいの貯金あるけれど嫌
375コメ:画面の向こうの人間は無職じゃない人の方が多いので、その煽りに対した効果はありませんよ?
376コメ:いるわけないじゃん
380コメ:俺働いている気がしたけれど、ついさっきおまえに無職だって気付かされたわ。支援してあげたかったけれど無職だから出来ないね。
385コメ:古事記ktkr
387コメ:あ、俺も支援しようと思ったけれど無職だった!
「うっせーな! 乞食じゃねーよ! 支援は正当な対価だろうが!? 誰が放送してやってると思ってるんだ!!」
 楽しませてやってるというのに、支援をしてもらおうと思っても、リスナーの奴らは乞食だ乞食だと暴言を吐いてくる。
390コメ:誰も頼んでませんけれど?
394コメ:有料放送にすればいいんじゃない? 見ないけれど
395コメ:誰がコメントしてやってると思ってるんだw
397コメ:こら、大声出しちゃだめでしょ、ふみ君!
「うっせーな! 本名で呼ぶんじゃねーよ!! きちんとニックネームで呼べよ!」
 それだけじゃない。奴らは俺が過去に放送した外配信や、つぶやきを投稿するミニブログサイト、通意他に書きこんだ内容から俺の家を特定し、本名や家族構成までばらしてネット上の掲示板に載せてしまっている。これのせいで俺の本名をネットで検索すれば、俺の生放送主の情報に飛ぶことが出来るようになり、妹や母親が文句を言ってきている。
 そのせいで家では居心地が悪くなるし、ネット解約したいだとか言い出すし、もう最悪だ。なんでみんなのために放送している俺がこんな目にあわなきゃならないんだ!
411コメ:石*崎*文*也くん、大声出したら妹さんやお母さんに怒られるよ?
(※本名をそのまま書くとNGワードとなり弾かれるので、一文字ごとに空白や記号などを挟んでいます)
413コメ:クチバシティ ヤマネ区 オオノキ3−4−5
「だから住所書くんじゃねーよ! あぁ、もうお前NGだわ! コメント二度と書き込むんじゃねー! あぁ、むかつく。お前らのせいでストレスが溜まりっぱなしだ!」
418コメ:ストレス溜まるなら放送止めればいいじゃん
419コメ:効いてるwww効いてるwww
425コメ:NGしても無駄でーす。いくつもアカウント持ってまーす☆
「あぁぁぁぁぁぁもううざってぇ! どいつもこいつもクズは俺の配信を見るんじゃねーよ!」
430コメ:と、ニートが申しております
432コメ:屑って無職のこと?
「うるせー死ね!! アンチは全員死ね! 全員ブロックしてやる!!」

 叩きつけるようにアンチたちを片っ端から放送から蹴りだしてやる。どうして誰も俺を助けてくれないし、俺の言うことを何一つ聞いてくれないんだ……はぁ、鬱になる、死にたい。

477コメ:シーン……
479コメ:お前顔真っ赤になってブロックしたらコメント全然なくなったな

「うるせーよもう……アンチがいなくなって精製したわもう。あーもう、どうすればいいんだよ。支援ないと新しいパソコン買えないし、今だってただでさえカクカクで他の動画すら見るのも難しいのに……こんなんじゃ初見さんも呆れて帰っちゃうよ……」
482コメ:大丈夫、初見じゃなくっても飽きれるから
483コメ:呆れると同時に、笑いものにするために見てあげてるよ

「あぁもう、うるせぇんだよ!!」
 頭を掻きむしり、歯を食いしばる。最近はこればっかりだ。
「だいたいさぁ、母親は妹のためにネットを解約しないでいるが、妹がいなければ今すぐにでもネットを解約したいと言っているんだよ。お前らアンチとおんなじ、俺の魅力を全然理解しない奴ばっかり! お前ら本当に全員死ねよ!」
487コメ:そのママのおかげで放送できるんだろ
489コメ:視聴者に死ねとか言っている奴が大手になれるわけないじゃん
「それに、最近深夜に放送すると落ちるでしょ? あれさぁ、妹が寝てしまっても放送を続けていると、あの糞ババアがブレーカーを落として放送を強制的に切っちゃうの? パソコンにも悪いし、そのせいでパソコンの調子も悪いし。人間のやることじゃねーよ」
493コメ:お前が人間じゃないからな
494コメ:お前を人間扱いする必要ね―じゃん
「そうじゃなくって、あの糞ババアが人間じゃねえって言ってるんだよ! 頭悪いのか!?」
496コメ:だから、母親じゃなくってお前が人間じゃないんだって
499コメ:人間なら普通の職場で働けるだろ。働いていないお前は人間以下のゴミ
「うるえせーなぁ、ニートじゃねえって言ってるだろ!?」
505コメ:ニートだなんて言ってねーよ
507コメ:幻覚でも見てるのかよゴミ
「あーもう、とにかく! 親なら子供のやることを応援することくらい当然だろうに、どうしてそれを理解してくれないんだ!? 俺はなぁ!! いつか大手生主になって、支援者にお金をもらって贅沢に暮らすんだ!! そのためには質のいい放送機材や配信環境が必要なのに母親は何にも協力しないってどういうこと!?
 クズだって思わないのかお前ら、親の義務を果たしていないって思わないのかお前ら!? お前らだってそう思うだろ!?」
511コメ:思わないよ
512コメ:配信機材程度で面白くなる人は元から面白い。どんなに強い銃を持っていても当たらなければ水鉄砲以下よ
513コメ:親は正論
514コメ:諦めろよ
515コメ:働いて買えば?

「なんでお前ら俺の意見に誰も賛成しねーんだよ? お前ら本当にクズだな、こういうサイトではみんなが助け合うべきなんだぞ? まずは俺を助けるくらいのことやってみろよ」
518コメ:言い出しっぺの法則だな。お前がまず最初に助けろよ
521コメ:お断りします
523コメ:じゃあお前が俺を助けて。まずは家の掃除して

「ダメだこいつら話が通じない。あーもー、ファンを増やすにはどうすればいいのかなぁ……もうどうすればいいか分かんねえよ。働けとかうざったいリスナーしか来ないし荒らされるし、何だよ、俺なんにもしてねーのにどうしてこんな目にあわなきゃならないんだよ!?」

530コメ:くさいから
532コメ:頭が悪いから
535コメ:働かないから
536コメ:生まれてきたことが間違い
「あーもう!! くっそ、皆うざったい、死ねよ本当に……死ね! 俺の邪魔する奴らは本っ当に死んでほしい!! 俺以外の生主で、大して面白くもないくせに人気のある奴らも、どうせ裏で何かやってるんだろ? 俺は正々堂々やっているのに卑怯な奴らだよな本当」
541コメ:大して面白くないのは、お前がが他人が面白いと思うことを自分が楽しめていないだけだろ?
543コメ:ならお前も裏で何かやればいいじゃん
548コメ:お前思っていることすべて口に出るから言っていることがスゲー支離滅裂だぞ?
550コメ:ついでに自分の放送を客観的に見られていないだけなw >541コメ

「もうどうすりゃいいんだよぉ!? なんで誰も俺の良さが分かっていないんだよ! 俺に支援すりゃ面白くなるってのに……」
552コメ:じゃあ面白いことやって。何か支援するから
555コメ:面白いことをやってから支援を求めろよ
557コメ:今まで面白い放送あった?
564コメ:面白い放送なんてなかったよ

「『じゃあ面白いことをやって』だとか。ウザってーんだよ! 面白くないなら見るな! 帰れ! 知能の低いヤドン以下のゴミどもが!!」

579コメ:俺はこいつがすぐに怒るのが面白い。でも、怒らせるためには支援しないほうがいいんだよなぁ
584コメ:それそれw 支援しない方が面白いんだよなw >579
587コメ:余裕があると逆につまらなくなるもんな。お金あると自慢しかしないし

「いいから支援しろよ!? 支援しない奴なんて見る価値ねーんだよ! あーもー!!! お金がないからいつまでたってもこの家から抜け出せない。大声出せない!! 支援がないと家も借りられないんだよ、アンチどものせいだ」

590コメ:大声出してるじゃん
592コメ:お前のせいじゃん
595コメ:働けよゴミ
 どれだけ俺が怒りをあらわにしても、奴らはずっとこんな調子だ。畜生、どうして俺は生放送で金を稼げるスターみたいになれないんだ? ウザすぎてウザすぎてむかつき度マックスで頭がおかしくなりそうだ。あーもう、これ以上放送続けてるとパソコン割っちゃいそう。
「あーもう! 今日はもう配信やめる! ばいばい、皆さんお疲れ様でした!」

603コメ:逃げた逃げたw
606コメ:結局 君が 一番ダサくて弱いんだね
610コメ:もっと話そうよw アンチが話し相手になってあげるよ?

「死ね!! 自殺しろ! クソが!!」
 叩きつけるように俺は放送を終える。くっそ、何もかもうまくいかない。家族もアンチも何もかもみんな糞だ、死ね!! なんか気分でも変えて他の生主の放送でも見に行こうかな……はぁ。

「あ、フォッカちゃん生放送やってる。見なきゃ」
 フォッカちゃん。もちろんフォッコにちなんだ名前なのだが、名前の割に格好はテールナーに近く、赤い耳毛の出たヘアバンドや、木の枝の刺さった尻尾飾りなどが萌え萌えキュンな女の子。彼女は歌い手として生放送で活躍しているのだが、歌も上手いしその上ルックスも良くて、もちろん俺も大ファンだ。
『えーとねー。今日の私は、重大発表があるんです』
 いつもの挨拶を終えたフォッカちゃんが、今日は何事かをもったいぶりながらそう言って、もじもじとしながら机の下を漁る。何かと思ってずっと待っていると、彼女が取り出したのは紅白の球体、モンスターボールだ。まさかと思ったらそのまさかで、彼女は得意げにボールのスイッチを押すと、中からフォッコを繰り出すではないか。
「私、彼氏が出来ちゃいましたー」
 元気にそう宣言すると、フォッコは尻尾を振りながらフォッカちゃんへと擦り寄り、体を撫でてもらう。あぁ、もうそこのフォッコ俺と代われよ。フォッコはすでにかなり懐いているのか、フォッカちゃんの傍を離れようとはしない。その光景を見て、『羨ましい』とか、『そこかわれ』というコメントの他に、『可愛い』『癒される』などのコメントも見られるではないか。
 そうだ、これだ! 俺もポケモンを手に入れれば、人気生主になれるはずだ! そう、俺の配信にはかわいらしさが足りなかったのだ!

**底辺生主の俺が、ポケモンをゲットする

 そうと決まれば、ポケモンを手に入れて人気を得ないと。そうだよ、可愛いポケモンさえいれば人気なんてのは簡単に集まるんだ(※集まりません。捕らぬ狸の皮算用が得意なだけなのです)。そのためには人気のあるポケモンがいい。かと言って、ピカチュウなんかだとあまりに他の配信者と被りすぎていて面白みがない。もっと、可愛げがありつつも、俺にふさわしいような格好良さもあるポケモンがいい。
 可愛さと気品を備えたポケモン、と言えば何がいるだろう。トリミアンやキュウコンならばもってこいだ、グラエナもいい。アブソルなんかも悪くない。どれもこれもいいじゃないか。だけれど、ゲットはどうしよう。十年以上前の話ではあるが、俺も十歳になった時にポケモンを持って旅に出たことがあり、トレーナーズカードは身分証明書代わりに持っている。車の免許が難しすぎるから、いまだにこれくらいしか身分証明書がないから、奇跡的に手元にあるのだ。
 だけれど、一個目のバッジが取得できずに面倒くさくなった俺は、さっさとポケモンを親戚に返して家へと帰ってしまった。家族からは、こんなに早く帰ってくるなんて情けないと叱られたが、そんな事を言われたって、ポケモンが全然うまく動いてくれないし、懐いてもくれないのだから仕方ないじゃないか。そのくせ、妹や親戚にはすぐに懐くのだから気分が悪い。
 でも、今の成長した俺ならばきっとポケモンもなついてくれるはずだし、上を目指すのだってそんなに厳しくないだろう。俺自身は努力とかそういうのは苦手だけれど、ポケモンバトルなんてものはポケモンに努力させればいいだけだからジム制覇なんて簡単だ。
 そうすれば、俺のことを支援してくれる人間なんていくらでも集まるはずだ。とりあえず、何はなくともモンスターボールなければ捕まえられないわけで、近所のスーパーまで足を運ばねばならない。全く、かれこれ一週間も外に出ていないから面倒で仕方がない。そんな時、目に入って来たのがポチエナの里親募集の張り紙である。
「そうだ、赤ん坊のころから育てれば捕まえる手間も省けるし、俺を慕ってくれるじゃん。楽勝だぜ」
 トレーナーカードは持っているから、俺が引き取るといっても断られないはず。よし、早速連絡だ。俺は携帯電話を取り出しポスターに張り出された連絡用のSNSのアカウントにダイレクトメッセージを送る。そうして電話番号を教えてもらい、俺は電話をかける。
「はい、相田です」
 電話の向こう側にいたのは、女性の声である。別になんてことのない声ではあるけれど、ただ話を聞き流すだけならともかく会話するとなると物凄い久しぶりで。
「あ、あの……その……電柱の広告見て……その、さっきダイレクトメールして……それで」
 俺も上手く言葉が出なかった。
「はい、石崎さんですね?」
 俺がたどたどしく説明しているうちに、じれったくなったのか相田が尋ねて来た。くっそ、お前結論を急ぎすぎなんだよ。
ポチエナを可愛がっていただけるのでしたら、ぜひお願いしたいのですが……ポケモンの飼育に関する知識とかはありますでしょうか?」
 ち、そんなことどうでもいいからさっさと寄こせよ。里親が見つからなくって困ってるんじゃないのかよ。そう言ってやりたいところだが、これで気でも変えられたら困る。全く、心配性な奴ほどウザい奴はいない。
「え? あ、はい……その、私はポケモンを持っていないんですけれど、その……俺の妹がオオタチを持っていまして、俺にもよくなついてくれています(嘘だけれど、こいつは馬鹿だから騙されるだろ)。ポチエナ自体はまだ飼ったことはありませんが、資料を調べながらなんとかしていこうと思います」
「絶対ですよ? きちんと躾もして、可愛がってあげてくださいね?」
「分かってるよ、うるさいなぁ」
「うるさいって何ですか? あのですね、ポケモンを飼うってことは命を預かるってことですよ? ちゃんと幸せにしてあげられないようなら、私はそんな人にポケモンを譲りたくないのですが?」
「あ、いや……すみません」
 全く、あまりにしつこいからつい本音が出てしまった。くっそ、ポチエナの幸せなんて人間様に比べればどうでもいいだろうに。いい子ぶってるんじゃねーよ全く。
「すみません、早くポケモンを欲しい気持ちでいっぱいで……」
「分かりました。それじゃあ、直接選んでいただきたいので、予定の確認をしたいのですが……」
「それなら、私は今は……仕事が暇なので、いつでも大丈夫ですよ」
「でしたら、明後日の昼頃。土曜日にうちへいらしてほしいのですが」
「分かりました、お願いします……」
 ふぅ、なんとか連絡は取れたぞ。さぁ、土曜日が楽しみだ。

 その日の夜、俺はリスナーの皆にニヤニヤ動画で生放送を行い、明後日に重大な出来事があることを告げる。
「皆さん、なんと……二日後の土曜日に重大発表がありまーす!」
13コメ:で?
14コメ:いつもの乞食だろ?
15コメ:くさそう
16コメ:どうせ口だけ
17コメ:そう、死ねば?
18コメ:自殺するの? 応援するよ

 重大発表って言ったのに、なんでこいつらの反応はこんなに薄いんだか。でも、俺がポケモンを連れてきたらあいつら絶対に驚くはず。見てろよ見てろよ!

 そうして、二日経った。アンチの罵倒コメントにも負けずに、俺の放送を待ってくれるリスナーのために放送をしていたが、重大発表を期待してくれる人はあまりいない。だが、俺がポケモンを連れてきたら奴らは絶対驚くはずだ! 見てろよ!
「さぁ、皆さんこんにちは。リスナーの皆様にひと時の楽しい時間を届ける、オレモモンの面白大放送の時間でございます! さて、みんな! 見てくれる方は『乙』弾幕してください!」
 『乙』、とはお疲れ様と言う意味で、こうして枠を取ってあげた俺をねぎらうためのコメントを、弾幕のように打ってくれるのが理想なんだけれど。
10コメ:死死死死死死死死死死死死死死死死死死
12コメ:呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪
16コメ:ゴミニートゴミニートゴミニートゴミニートゴミニートゴミニート

「あー……ダメですねー。アンチたちによる『死』や『呪』の弾幕ばっかりですねー」
 いつかビッグになるためには、こうしたアンチとの戦いも必要なことだろうと諦めるしかない。
23コメ:お前目見えてないの? 死とか呪『ばっかり』じゃなくって『それしかない』じゃねーか。

 はい、アンチのコメントは無視無視。

「では皆さん。今日はお待ちかねの重大発表についてです! さぁ、皆さん『8』弾幕をお願いします!」
 8弾幕とは『8888888888888888』のように連続して8を並べることで、拍手の擬音である『パチパチ』を意味する弾幕だ。もちろん、俺のような素晴らしい配信者にはふさわしい弾幕なのだが……

120コメ:4444444
131コメ:4444444444444444444444
145コメ:44444444444444444
「4弾幕やめろよ! 空気読め!」

170コメ:今は文也を馬鹿にする空気だから、視聴者は全員が空気を読んでいるだろ?
184コメ:お前が読んでほしいのは空気ではなく自分の欲求だろ? 俺達は皆空気を読んでるんだよバーカ
「あー……これはアンチの『4』弾幕のせいで一般のリスナーが驚いてしまって『8』の文字なんてほとんど見かけられませんねー。それでも応援してくれる人がいるからつづけますね。

191コメ:8弾幕なんてどこにもないよ?
198コメ:幻覚見えてるな……かわいそうに
 はい、アンチのコメントは無視無視。
「じゃじゃーん! 取り出しましたるはこの紅白に分かれた球体! そう、モンスターボールです。さてさて。この中に入っているのは一体? ダダカダンダカダンダカダンダカ……ダーン! はい、可愛いポチエナでし……くっさ!」
 ボールから出したポチエナはようやく2レベルになったところで散歩に連れて行ったり、離乳食を始める目安となるレベルである。そうなったら外に出していいんじゃねーのかよ!? なんでこんな状態になっているんだ!?
「なんだよこいつ、うんことションベン付いてやがる……くっせーなぁ! ふざけんなよ、なんで空気読まねえんだよこいつ!」
 ポチエナは俺を見ると近寄ってこようとしたが、そんな状況で抱き着かれでもしたら匂いが移る。俺はすぐさまそいつをボールに入れて臭いものには蓋をした。
170コメ:うわ、こいつ最低
178コメ:子供が空気読めるわけねーだろ、頭湧いてるのかお前?
182コメ:トイレの躾も出来てないポケモンをボールに閉じ込めるとかお前、ポケモン飼う資格ねーな
184コメ:ボールの中には排泄できるスペースがあるけれど、この様子じゃ全く躾されてないみたいだな
「うるせーよ! トイレの躾なんてもんは子供産ませた奴が譲る前にうっておくべきだろうがよ!」
189コメ:貰い物のポケモンにこの態度とか
197コメ:躾が出来てないな……文也の
「うっせーな! とにかく、これからこいつは俺の配信に出るからな! 名前も募集するから考えとけよ!」
226コメ:こいつポケモンの事を配信の道具としか思ってねーな
229コメ:ニートのくせにポケモン飼ってるんじゃねーよカス
「俺はニートじゃなくって配信で食って行くんだって言ってるだろうがよ! お前らこそニートだろうが糞が!」
234コメ:今の状況じゃ食べられないだろ? 食べられるようになってから言えよ
239コメ:ニートなのはお前だけだろ?
242コメ:配信業wwww 年収一万以下のくせにwww
250コメ:じゃあお家を出て、ママのご飯を食べないでも生きて行けるようになったら言ってくだちゃいねー、ボク?
「年収一万じゃねーよ! ちゃんとバイトして二十万稼いだっつーの! 見てろよお前ら! 俺は一年以内に有料配信始めて、お前らみたいな貧乏人は見れない放送でリスナー楽しませてやるからな! ニートアンチどもは有料放送の料金も払えずに指咥えて見てろよ!」

256コメ:一年以内に(と、去年も言っていたのは秘密です)
258コメ:バイトで稼いでいても配信で稼がなきゃ意味ね―よ
265コメ:配信サイトに認められれば、有料にて生放送を配信することが可能になるけれど、こんな有様じゃ無理だろ
273コメ:うん、そうする。有料配信できたらね!(出来るとは言ってない)
284コメ:去年も同じこと言っていたじゃん。お前が言う『一年以内』ってどういう意味なの?
 あー畜生! ポチエナのせいで今日も荒れ出してきた。最悪だもう……くっそ、とにかく体洗って部屋も掃除しなきゃ……
「あ、お前抱き枕に噛みつくな! 振り回すな!」
 いつの間にかポチエナは勝手にボールの外に出て、床に置いてあった俺の推しであるアニメキャラの抱き枕に噛みつき振り乱す。ポチエナを蹴り飛ばしてやると、こいつはキャインと悲鳴を上げる。ざまあみやがれ、俺の大切なものを傷つけようとするからだ。
304コメ:うわ、最低。ポチエナなんてなんにでも噛みつくのが仕事みたいなもんだろ
「黙れよアンチども! ポケモンが悪いことをしたら叱るのは当たり前だろーが!」
313コメ:その叱り方が間違ってるんだよks
「じゃあどうやって悪い事をしたってポチエナに理解させるんですかー? 暴力以外にないでしょ? はい、論破!」
320コメ:論破ってよく言う奴ほど頭が悪い法則
333コメ:論破って言葉は言ったもの勝ちの魔法の言葉じゃないよ?
「じゃあどうすりゃいいか言ってみろよ! どうせ言えねーんだろ?」
 あーもう、イライラする。こんな論破してもしつこく言ってくるような奴は無視していいよな。
349コメ:どうすればいいかって……叱る時の言葉を統一して『ダメ』とか『やめなさい』みたいに決まった言葉で叱るのと、叩く場合は……
「はい、長すぎ。短く纏めることもできないくせに偉そうな事を言うんじゃねーよ」

359コメ:この程度の文字も読めないとか小学生以下だな……
 あーもう、ウザったい。俺のやり方で間違ってねーんだよ! 俺がアンチの話をぶった切ると、コメントには『最低』だとか『死ね』だとか、悪口がたくさん集まっている。知るか、アンチどもが勝手にわめいているだけだ。

「ちょっと五月蠅いんだけれど。黙っててくれない?」
390コメ:あ、妹来た!
397コメ:妹さん、文也君がポチエナをいじめていますよ
「さっきから騒がしいと思ったら何この匂い?」
412コメ:ポチエナの匂いですよ妹さん
 なんでこんなタイミングに来るんだよ、この糞野郎! こいつが来るとアンチの奴らが『妹の声を聞きたいから黙れ』とか言いやがるんだよ……妹のせいでどれだけ放送が荒れたことか。
「今配信中なんだよ、邪魔すんな!」
422コメ:どんどん邪魔しちゃってください
425コメ:邪魔してもらってありがとうございます、だろうがカス
「は? 知らねーよ。配信中だろうと何だろうと静かにしろよ。ってか、何か変な匂いと思ったらなんでポチエナがいるのよ? ちょっと、怯えてるじゃない……どうせ、あんたの八つ当たりでこの子を傷つけたんでしょ」
「ポチエナに傷なんてついてねーだろ? 血も出てねーんだ」
 なのにピーピー喚きやがって。ポケモンなんて体が丈夫なんだから適当に扱っといてもんだいねーんだよ。
「じゃあ、私があんたを蹴り飛ばしても血が出てなければセーフね? 蹴るよ」
444:妹さん頑張れー
447:セーフセーフwwwww 血が出てないもんねwwww 金玉蹴り飛ばしちゃえよ
「そ、そうは言ってないだろ?」
 いつもこうだ。俺は一日に二時間ほどの配信に忙しくて体を鍛える時間もないのに、こいつはバレー部で体を鍛えているのをいい事に暴力を振るいやがる。
 俺は説教で妹を殴ったことはあっても、こいつみたいに理不尽な暴力を振るったことなんてないのに。
「喧嘩でも私に勝てない引きこもりニートが偉そうにしてるんじゃねーよ……君、大丈夫? おいで」
 妹はそう言って身を屈めると、ポチエナは妹に喜んで掛け寄って行った。
461コメ:ポチエナ「こんなゴミよりもこっちの妹の方が上手く育ててくれるワン!」
463コメ:人望の差が露骨に出ていますなぁw
467コメ:リスナーには死ねとかクソとか気軽に言えるくせに、妹には言えないゴミ
470コメ:おい、妹にもいつもの調子で喚いて見せろよw できないんだろ? 雑魚だから
「あーあ、君はボールの中でうんちしちゃったんだね……おいで、体洗ってあげるから。こりゃボールの中身も洗浄しないとだね」
 妹は俺を見て大きなため息をつく。糞野郎、俺より頭がいいからって偉そうにしやがって。
「ってか、おいクズ。お前ペット用のトイレシートはないのか?」
「そんなもんねーよ! オオタチだって使ってないだろ!?」
 あんなもんを使うのは金の無駄。ボールに入れておけば済む問題だろうが。
470コメ:うわぁ……こいつなにも分かって無い
475コメ:お前馬鹿か? このゴミがそんな一般的なことわかるわけないだろ?>470
「マフマフはボールの中でトイレが完璧に出来るからね。それが出来るようになるまではボールの外でちゃんと躾してたんだよ! なんも知らないんだなお前は、目の前の箱は何のためにあるんだよ、お前がオナニーするためだけか?」
「女のくせにそんな下品なこと言ってんじゃねーよ!」
「論点すり替えんな! 今度は殴るぞ? いいから答えろよ、ポチエナを飼うために必要な情報を、本でも何でもいいから調べたか?」
「……何にも調べてねーよ! そんな事しなくたってポケモンなんか育つんだよ!」
 俺が言うと、妹は俺に近づいてきて拳を振り上げる。俺がとっさに顔を庇うと、妹はわき腹に拳を叩きこんできた。俺は思わず悶絶する。
487コメ:こうかは ばつぐんだ
490コメ:格闘タイプの攻撃が効くってことはこいつノーマルタイプ?
496コメ:悪タイプじゃね?
501コメ:ゴミタイプだろ
「何も調べないお前にポケモンを持つ資格はないから」
 そうして妹は立ち去って行く……くそやろう、いつか殺してやる。死ねよ本当。
507コメ:ざまぁぁぁぁぁぁぁwwwww
510コメ:自業自得乙
514コメ:妹さんGJ
519コメ:そのまま死んでいいよ
 画面にアンチのコメントばっかりで俺の事を心配する声はほとんどない。糞野郎め、妹さえいなければ俺はもっとアンチが少ない放送が出来るのに……。
「もういい、ポチエナがいなくなったから今日はもう放送止める!」
544コメ:どうぞ
548コメ:で?
「どうぞじゃねーよ! 乙でも何でもいいから労いの言葉くらいかけられねーのかよお前らはよー!!!?」
556コメ:無理
559コメ:土下座して頼めば考えてやるよ(労うとは言ってない)
「うるせぇ、もうやめるアンチは消えろ!! くそったれ。俺の人生何もかも誰かに邪魔されてばっかりじゃないか。何で俺がこんな目に合わなきゃならないんだよぉ……俺は何もしてねーのに。
580コメ:なにもしてないをしているんだよ(哲学)
582コメ:ごくつぶしをしてるだろ?
「うるせーんだよ! 意味わからない事をってるんじゃねぇ!」
 今日の放送は終わりだ、ゴミが!

**底辺生主の俺が、ポケモンと外配信する

 あれから一ヶ月。ポチエナはリスナーの皆からミラという名前を貰って、名前もついた。驚いたのは、こいつが男ではなく女だったという事だ。ポチエナとその進化形のグラエナは生殖器を一目見ただけでは男女の違いを見分けるのが難しいらしく、リスナーの奴らは『ポチエナで童貞卒業?』だとか、『雌ポチエナにセクハラとか、ついに雌なら人間じゃなくても良くなったか……』などと、いらつくような発言が飛び交っていた。
 こいつはオスだと俺が主張したら、性別すらわからないのかと嘲笑の嵐。あいつら人を馬鹿にする時だけは生き生きしていて、人間としておかしい。股間にチンコがぶら下がっていて男だと思わないわけがないじゃないか。それをあいつら、ポチエナについて調べればすぐにわかることだとか抜かしやがって、そんなもん調べる奴なんていねーよ!
 そうして笑われて、リスナーにうぜーんだよと叱り飛ばすと、ポチエナは怯えてきゅんきゅんと鳴き声を上げて、うるさいと文句を言っても一向に泣き止まないし、ますますリスナーが俺の事を罵ってくる。挙句の果てに、妹がマフマフを連れて部屋に突撃してきて。俺を殴った挙句にミラを奪って行って、結局配信らしい配信なんて出来やしない。
 季節が夏休みに突入したせいで妹はいつも家にいて、それだけでもイライラするというのに、ミラもずっと妹と遊びたがって、すっかり懐いてやがる。なんでミラは俺の言う事を聞かずに妹の言う事を聞くんだ!? 俺が飼い主なのに……あぁもう、イライラする。
 
「それではみなさんおはようございます。今日は、昨日の予告通り、ミラちゃんと一緒に外配信でーす」
 ともかく、ミラには俺が主人であるということを早急に理解させなければならない。そのためには、やっぱりポケモンバトルだろう。ポケモンバトルで見事勝利すればミラだって俺の事を主人と認めてくれるはずだ。とりあえず、マフマフとじゃれ合っているうちに噛みついたり引っ掻いたりということは出来るようになっていたから、それでバトルは出来るはず。
21コメ:お前いくら特定されているからって玄関出るところから配信するなよ……
26コメ:臭いから外に出ないで
「はいはい、ポケモン持ってない奴らの嫉妬乙。ポケモンと遊ぶことも出来ない寂しい奴らは家で寝てオナってろよ」
 鬱陶しいコメントなんて無視だ無視。さぁ、ポチエナと一緒に外に出よう……
「おい、逃げるな! 俺と一緒に散歩するぞ!」
 しかし、ポチエナは俺とは決して一緒になろうとせずに、家の中を逃げてばかり。
「おら、動くな!」
 だけれど、こんな狭い室内でなら逃げ回る場所なんて少ない。ミラは頭が悪いので台所の袋小路に逃げてしまっており、ここまで壁際に追い詰めてしまえばあとはどうにでも……
「いってぇ!!!」
 と、油断していた俺が馬鹿だった。ポチエナは生意気にも俺に噛みついてきた。しかもそのまま首を振って俺の手を噛みちぎろうとしてくる。殴ってもやめろと命令しても、ポチエナは離してくれず、抵抗していると階段を勢いよく降りる音ともに後ろから声が。
「またミラをいじめてる……」
 妹の声だ。姿は見えないが、どうやら後ろにいるらしい
45コメ:お、妹だ。ミラを助けてあげて―
「おい、彩音! 早く助けろ! 見てわからないのかよ!」
「ん? じゃれ合ってるだけでしょ? ミラってばお兄ちゃんと遊んであげて偉いでちゅねー」
67コメ:妹wwwwwwwww
70コメ:そうだな、遊んでいるだけだwwww もっと遊んでやれよミラちゃん
「ふざけんな! 噛みつかれてるの見てわからないのかよ!?」
「だーかーらー。じゃれついているだけでしょ? 何か問題でもあるの?」
72コメ:ないな
76コメ:ない
81コメ:ないない
「いいからオオタチを出せぇぇ! 俺が死んだらどうする!?」
89コメ:死ぬの? やったぁぁぁぁぁぁぁ!
92コメ:いいじゃん。誰も損しないな
97コメ:何の問題もないな
98コメ:死ねば?
「私あんたが死んでも何も困らないし、あんたのポケモンがあんたを殺しても、法的には事故扱いだからね。ウンコ製造機を廃棄出来るいい機会逃すわけないじゃん。ってか、ミラちゃんまだ7レベルだよ? それに勝てないってやばくない?」
「うるせー助けろ!」
「助けてくださいでしょ? 人に頼むときはどうすればいいかって、あんたは同じお母さんに育てられたのにどうしてわからないの?」
113コメ:頭おかしいから
115コメ:馬鹿だから
119コメ:自己愛性人格障害だから
「知らねーよ! いいから助けろって言ってるだろうがぁぁぁ!」
「あ、いっぱいコメント来てるよー。みんな、ミラに応援のメッセージ送ってあげてねー。このクズの指を噛みちぎってもらえますようにってさ」
 妹は俺に対して全く関心を示さず、それどころか配信中のスマートフォンのカメラで俺を撮影しつつ、コメントを見て笑っている。ミラは俺が腕を持ちあげて、宙ぶらりんになっても俺の手から離れてくれず、唸り声を上げながら首を振っている。気が遠くなるくらいの痛みのせいでまともに歩くことも出来なかったが、台所の水道から冷水を浴びせてやると、ミラは驚いて手から離れて、水しぶきを立てながら妹の方へと逃げていった。
「おーおー。かわいそうに。ミラはまたいじめられたの?」
150コメ:そうだよ、今のは完全にオレモモンがいじめてた
153コメ:あぁ、文也君にいじめられていたな
「いじめられたのは俺の方だろうがよ! 何で俺が噛みつかれなきゃならないんだよ!?」
 俺は痛みに耐えながら、台所の水道で傷口を洗い流す。糞ったれ、どうして俺がこんな目に合わなきゃならないんだ。こんなはずじゃなかったのに。
「躾とか言ってグーパンで子供を殴ってる奴がよく言うよ。結局、お手もお座りも私が覚えさせたくせに、芸を覚えたとかって生放送していたりもしたよねー? まぁ、あんたの言う事なんてまるで聞く気がなかったみたいだけれど。哀れだねー」
156コメ:それなwwwww こいつの言うこと聞くわけないよなwwww
「お前がそうさせたんだろうがぁ!」
「は? 私、『兄の命令を聞くな』、なんてミラに命令してないんですけれど。ミラは私がそんなことを言わなくっても、あんたが従う価値のない人間だってことを理解しているってことなんだけど?」
161コメ:従wうw価w値wがwなwいwwwwwww
164コメ:ポケモンの勘は鋭いねぇ
167コメ:ミラ『ゴミには従わないワン!』
「くぅぅぅぅ……あーもー! 黙れ黙れ黙れ! お前に俺を批判する権利なんてねーんだよ! 俺は兄だってのになんで尊敬しないんだよ!?」
171コメ:お前に尊敬する要素がないから
174コメ:ホントそれ>>171こめ
「あんた父さんも母さんもを尊敬していないじゃん?」
「それは関係ねーだろ!? あんな『働け』としか言わない親をどうやって尊敬しろって言うんだよ」
188コメ:働かない奴をどう尊敬しろって言うんだよ
190コメ:働けば言われないじゃん?
「じゃあ、あんたのどこを尊敬すればいいの? 年上だろうと尊敬できる要素ないよ? あんたのせいでウチは砂や砂利を着払いで送られたり、寿司屋ピザの宅配があったり、公衆電話から深夜に電話があったり、警察を呼ばれたりとんでもない目にあってるんだよ? そんな奴をどうして尊敬しなきゃいけないの?」
199コメ:妹! 完 全 論 破
202コメ:ここで文也君痛恨の沈黙wwwww
「……え、えっと……夢を追いかけてるだろうがよ! 配信で食っていけるようになりたいっていう壮大な夢を!」
207コメ:は?
210コメ:夢を追いかけている奴は偉いとか、お前今いくつだよwww
「じゃ、その夢を追った結果、得られたお金はいくら? せめてリスナーから着払いで届けられた砂利ぐらい買えるよね?」
「土下座したらリスナーがくれた……2000円だよ」
「それじゃ千倍にしてもやっと一年生活できる程度だね。千回土下座したら? そうすればようやく200万円だよ」
215コメ:ただし千回も2000円を貰えるわけではない……世界は非情なのだ
 妹はミラを抱き上げながら俺を見下ろしている。
「こっちは血がだらだら流れてものすごく痛いのに、妹ばっかり楽をしているくせに、ポチエナは妹ばっかり懐きやがって不公平すぎるだろうがよ! どうして主人でも何でもないお前が好かれてぇ! 主人の俺がないがしろにされるんだぁ!? 理解できない、ポケモンは意味が分からねーよ!!」
226コメ:『妹はオオタチの散歩に行っているんだからポチエナの散歩も妹に任せたよ。めんどくせえし』とか言ってたの、どこのどいつだったっけ?
230コメ:誰だろ? >>226コメ
233コメ:だれかなー(棒読み)まるでけんとうもつかないなー
239コメ:こいつそんなことまで言っていたのかよ……本当に疫病神だな
「散歩程度なんだって言うんだよ!? 理解できねーよ! 俺の方が年上だぞ、偉いんだぞ!?」
「ポケモンにとって年上かどうかなんて意味ないし。強いか弱いかなら私の方が強いでしょー? それに、あんたベッドにおしっこしたとか言ってミラを叩いてたじゃん」
「当り前だろうが人間の物を汚すんじゃねーよ! それに、叩ける奴の方が強いから偉いんだよ!」
255コメ:現在はミラの方が強いから、オレモモンよりもミラの方が偉いようです
262コメ:それどころか妹の方が強いんだぜ……>255コメ
「汚したその時に叱るならともかく、何時間も前の粗相を怒ったところで子供は理解できないよー。ポチエナにとってあんたは理不尽に暴力を振るうだけの存在なの。分かったらさっさと部屋に引きこもってな」
「外配信するってリスナーと約束したんだよ、ミラを寄こせよ!」
「は? いいよ、あんたのポケモンだし、好きにすれば? また噛まれても知らないよ」
 妹はミラを床に置くが、ミラは妹に甘えて、足に縋りついてじゃれついている。だけれど俺が一歩でも近づけば、気配でこちらに気付いて威嚇をしてくる。牙をむいて唸り声を上げて、もはや完全に敵視をされている状態だ。
277コメ:ミラ「だが断る」
280コメ:こりゃだめみたいね……
「俺が拾ってやった恩を忘れやがって……」
「はぁ? あんた、里親募集から引き取ったって言ってたじゃん? 何で拾った事になってるの? 頭おかしいんじゃない?」
286コメ:自己愛性人格障害特有の記憶の改変ですよ、妹さん
288コメ:虚言癖ですから、現実と妄想の区別がつかないんですよ
「うるせーよ! 口答えするな! 言い訳すんな! 同じようなもんじゃねーかよ! 俺のおかげで、飯食えてるってわからないのかよ!?」
「他の飼い主に引き取られても飯は食えたでしょうね。はーあ。予防接種代もノミ避けシャンプー代も払えないくせに、無計画にポケモンを飼い始めるとか本当に頭悪い。ほら、ミラもあんな頭悪いのは放っておいていきましょう」
 そう言って、妹はミラを引き連れて部屋へと戻って行った。
「あー、もう! なんだってんだよ、死ねよ糞野郎! お前なんて生きてる価値ないんだよゴミが!」
294コメ:壮大なブーメラン
299コメ:あれ、鏡に向かって言ってるのかな?
303コメ:負け犬の遠吠え乙wwww
309コメ:だれかー! 鏡持ってきてー!!
「うるせーんだよアンチはよぉ!? テメーら死にてぇのか!?」
312コメ:お、ようやく画面見やがったか
315コメ:妹テラ正論
320コメ:ゴミに噛みついたせいでミラちゃんがお腹壊さなければいいけれど……心配だなぁ
 コメントを見ると、ファンは言葉も出ないようで、アンチばっかり発言が目立つ。
「あのさー……ちょっとみんな聞いてよ。妹がさ、もうトイレの躾を完ぺきにしたと言っててさ。ミラを部屋に入れても大丈夫だとか言ってるんだよね。俺の部屋じゃペットシーツひいてても全然従ってくれないのに。それに、俺の部屋じゃ何もかも噛みつくから全然遊ばせられないのに、あいつは噛みつかれそうなものは避難させたから大丈夫とか言っているんだよ。なんだよそれ?
 なんなんだよそれは? 部屋に物が少ない妹にしか出来ないことで偉そうに言いやがって。そんな事を言って優越感に浸る妹は本当に性根が腐ってやがる! 死ね! 死ね! あー畜生! 妹なんて存在する価値ねーんだよ!」
344コメ:妹正論じゃん
345コメ:じゃあ噛まれないように物を捨てれば?
348コメ:整理整頓してるんだね、偉い妹さんだ
350コメ:お前の方が存在する価値ないよ?
「うるせぇぇぇぇぇぇ! どうして妹が正論なんだよ!? 俺が出来ないことで自慢しやがって! 車いすの人間に『俺って走れるんだぜ』って自慢するくらいありえねーよ!」
356コメ:そっか、文也君頭に障害があるから、確かに普通の思考が出来る事を自慢しちゃかわいそうだね……
360コメ:ひらめいた、ホームレスになれば部屋という概念がなくなるからいくらでもポチエナを遊ばせられるじゃん! 家出てけよ
365コメ:ホームレスなら死んだ時に骨まで食べてもらえるし、一石二鳥だな >365コメ
「あぁぁぁぁぁもぉぉぉぉぉぉ! あーもー、スマホ叩き割りたい。アンチ殺してやりたい! もう死ね! 喋るな! 自殺しろ! 消えろ! 窒息死しろ!!」
 スマホを叩き割りたい衝動を堪えて俺は放送を終了する。
「なんで誰も俺に優しくしてくれねーんだよ……俺は何も悪い事してない。俺は悪くないのに……あぁぁぁぁぁ!」
 テーブルの上に置いてある花瓶を床に叩きつけて、俺は逃げるように自分の部屋へと入り込んだ。畜生、何で上手くいかないんだ…… 

374コメ:何か割れたなw
380コメ:逃げた
384コメ:本当に疫病神だなこいつ

**底辺生主の俺が、ポケモンとバトルする


 あの日の夜、俺の手はブクブクに腫れあがり、高熱に苦しんだ。病院に行きたかったが、親は『お金ならあげないよ?』と冷たい態度をとってくる。子供が怪我をしたら金くらい出すのが親の義務じゃないのかと説教したら、親は『働くのが成人の義務じゃないのか?』とこちらを冷たく睨んだ。親の義務も果たしていないくせに俺ばっかりに義務を負わせようとしやがって、何様のつもりなんだ!? 本当に俺の親はクズだ、早く死んでしまえばいいのに。
 今度こそだ。今度こそ外配信に行く。ポチエナに俺を主人と認めさせるにはこれしかない。
 今日は平日……なのだが、夏休みだから妹は昼でも家にいて、現在は朝の部活を終えてシャワーを浴びている。今はミラに何をするか分からないからと、あの野郎は常にミラが入ったボールを持ち歩いているため手出しが出来なかったけれど……シャワーを浴びている今なら大丈夫なはず。妹は脱衣所にボールを二つ置きっぱなしにしており、そのうちの一つを取って俺はスマホを片手に外へと飛び出した。
 逃げるようにしてたどり着いた家の近くにある公園は、周囲を林に囲まれ雑草も短く刈り揃えられた景観のいい公園で、面積も広いためポケモンバトルの野試合が盛んに行われている。レベルが高いポケモン同士の本格的な試合から、幼いポケモン達のじゃれ合いまでレベルも様々で、ここでならミラも十分に遊べるはずだ。
「はいみなさん、こんにちは。オレモモンでございます! 今日は、今度こそ外配信でミラと俺によるポケモンバトルを見せたいと思います。見てください、この公園。綺麗でのどかでいいところでしょう? 俺の家の近所にある公園でしてね、いいところなんですよ。
 いやですね、これから俺はポケモンバトルでデビューするわけなんですが……その、なんていうかさぁ。ポケモンバトルとか、簡単っしょ? なんていうの、ポケモンに努力させればいいだけなんだからさ、面倒くさがりな俺でもポケモンが頑張ればいいだけだから強くなるのは簡単じゃん?」
5コメ:は?
9コメ:お前ポケモントレーナー舐めてんの?
13コメ:お前じゃ無理だ
「あのさー、お前じゃ無理だとか言っている馬鹿、お前なに? やってみなきゃわからないじゃん!!」
19コメ:ポケモンだけじゃなく人間も努力しなきゃ無理だし
23コメ:そもそも勉強できないとポケモンに的確な指示を出すのも難しいから
26コメ:やってみないのに簡単とか楽勝とか言っている人間のセリフです、ご確認ください
「はん、ほざいてろよ! お前ら雑魚と違って(俺はポケモンバトル配信で強さ見せつけて支援を募るからな? 俺が強くなって支援金貰ったら、お前らアンチなんて俺の放送にはいらねーから!!」
28コメ:何? アンチがいないと寂しいの? かまってちゃんなの?
32コメ:強くなったら支援金あげるよ―(※強くなれるはずがないと確信しながらコメントを打っています、悪しからず)
36コメ:弱かったら引退な
38コメ:俺バッジ8つ持ってるけれど俺も雑魚なの?
「うるせーんだよアンチども! お前らをNGにしないだけありがたいと思ってろカスが!」
41コメ:弱かったら引退な弱かったら引退な弱かったら引退な弱かったら引退な弱かったら引退な弱かったら引退な
43コメ:弱かったら引退な弱かったら引退な弱かったら引退な弱かったら引退な弱かったら引退な弱かったら引退な
47コメ:弱かったら引退な弱かったら引退な弱かったら引退な弱かったら引退な弱かったら引退な弱かったら引退な
51コメ:弱かったら引退な弱かったら引退な弱かったら引退な弱かったら引退な弱かったら引退な弱かったら引退な
「黙れお前らうるせーんだよ! そんなに引退して欲しいなら引退してやるよ!!!」

57コメ:どうせしねーだろ。そう言って引退宣言して何度も復活しましたんだから
60コメ:どうせ引退しないしないくせにいう事だけはでかいな
 アンチどもはそんなに俺を引退させたいのかよ。むかつく奴らだ。
「ともかく、これから戦うからな。ミラと同じく進化していないポケモンと戦って、こいつを成長させてやるから。今日は流石に対戦デビューだから負けてしまっても弱いとか言うのは止めてくださいね」
64コメ:ここはクチバ市楓ヶ丘公園ですね分かります
「居場所特定してんじゃねーよ! お前らのせいで家族に迷惑かかっているってのわかってんのか!?」
70コメ:こいつまだ生きてたの?
76コメ:文也君おこなの?
「本名呼ぶんじゃねーよ! お前ら何回言ったらわかるんだよ!」
82コメ:永遠にわかりませーんwwww
85コメ:そんなに叫ぶと不審者扱いされちゃうよ、文也君
「不審者扱いされるのはお前らが叫ばせるからだろうがよ! お前ら自覚ないのかよ?」
92コメ:べつに俺ら叫べとか命令してないし……
94コメ:叫ばなければいいじゃんwwww 何で叫ぶの? 叫ばなければいいじゃんwwww 何で叫ぶの?
「お前らそうやって屁理屈ばっかりだな? お前らが叫ばせるから俺が叫んでるってわからないわけ? 意味わかんねーこと言ってるんじゃねーよ! 謝れ!」
107コメ:あーごめんごめん
109コメ:断る
111コメ:すみませーん。僕が悪かったでーす、ゆるしてー ぺこりー
116コメ:あいむそーりーひげそーりー
「お前ら謝る気全然ないだろ! 出て行け糞が!」
 しょっぱなからイライラさせる奴らだ。本題に入る前にこんなにおちょくりやがって、アンチはファンに失礼だと思わないのか?」
121コメ:お前にファンなんていねーよ。アンチだけだろ
「とりあえず、ポケモンを連れて歩けばポケモンバトルを仕掛けてくる人もいるでしょうからね! それでは、ぶらぶら歩きながら対戦相手を探しましょう! さぁ、出てこいミラ!」
 さぁ、ミラをボールから出してやる。赤い光を伴って現れたミラは、俺の方を一瞥すると――
「あ、コラ待て!」
 そのまま一目散に走って逃げてしまった。
「おい逃げるな! 何で逃げるんだよ、おい!」
124コメ:逃げることも予測出来ないとか想像力が足りないよ
126コメ:あーあ、まだ子供なんだからリードもつけずに制するのは難しいってわかってるだろうに。馬鹿だね
128コメ:はい、雑魚乙 やっぱりお前にポケモントレーナーは無理だわ
「うるせーよ、今はお前らに構っている余裕はねーんだよ!」
134コメ:じゃあ別に俺達に構わなければいいのに
「あーもー!」
 アンチの奴らがウザすぎる! こんな時まで俺を馬鹿にするとか死ね! 本当に死ね! 俺は必死に走ってポチエナを追うが、ポチエナはものすごい速さで走って捕まる様子はまるでない。俺はすぐに疲れて息切れを起こし、ふらふらとベンチに座らざるを得なかった。
「はぁ……何であいつ逃げやがるんだ! 何で俺の言う事を聞かないんだ……本当にどうしようもないポケモンだな、頭おかしいんじゃねーのか? オオタチだって俺の事は嫌がってもあそこまで聞き分け悪くねーよ! あーちくしょー……どーしよう。俺どうすればいいんだよ……絶対に妹怒るだろうな……ミラが悪いのに俺のせいにされるんだろうな……はぁ」
136コメ:お前が悪い
139コメ:全部お前が悪い
 もう、探しに行く気力もない。どうせミラは俺に発見されても絶対に捕まえられてはくれないだろうし。もうさがしても無駄だよな……。
「はぁ……もっと飼いやすくって俺に懐いてくれるポケモンないかなー」
142コメ:モノズとか超お勧め。顔の前に手を出すと喜んでくれるよ
148コメ:ワニノコとかどう? 飼いやすいよ。口元撫でると懐いてくれるし
153コメ:ヤブクロンなんかお似合いだよ。オレモモンの部屋なら気に入ってくれると思う
「うるせーんだよてめーらは!! お前らもっと飼いやすくて格好いいポケモンとか思い浮かばねーのかよ? ヤブクロンだなんて、あんなゴミなんて俺には似合わないっつーの! 大体、モノズとか言うのは知らんがワニノコなんて噛み付きまくることで有名じゃねーか」
157コメ:自分の方がゴミであることを自覚していないんだなぁ……かわいそうに
 あー、もう。嫌だ嫌だ。なんか気分が萎えてきた。
「なーリスナーの皆さん。ポチエナが脱走したから見つけたら捕まえて欲しいってSNSに拡散してくれないか? 俺じゃ多分捕まえられないからさー。あーあ……どうしよ。このまま配信続ける? 探して見つけたところで絶対に捕まらないし、無駄だよね? 配信やめる?」
168コメ:自分で考えろよ優柔不断のゴミが
172コメ:今警察がそっちに向かってるよ
「はいはい、警察警察。頼りになりまちゅねー。お前ら警察なんかに通報してる暇があったら働けよニートども。で、どうするの? 放送続けたほうがいいの?」
180コメ:底辺って何でこう優柔不断なんだろう
181コメ:そりゃあんた、優柔不断だからこそ今まで何もやってこれなかったんだろ
183コメ:本人は俺達に選ばせてやってるっていうつもりなんだ。察してやれよかわいそうだろ?
「あーもう……それじゃお前らのために配信続けてやりますよ。それじゃ、この公園をぶらぶら歩きまーす」
185コメ:人映してんじゃねーよカス
187コメ:盗撮すんな
190コメ:誰も続けてくれだなんて言ってねーよ、幻覚見てんじゃねーよ
「公共の公園を映して何が盗撮だよ、うざったいな。別に裸で歩いているわけでもあるまいし、お前ら神経質すぎなんだよ」
 神経質なアンチどもの言葉を鼻で笑ってやると、後ろから突如衝撃が走り、俺は前方へふっ飛ばされた。背中に走った突然の痛みに目を白黒させていると、立っていたのは息を切らせてこちらを睨んでる妹とオオタチのマフマフであった。
194コメ:何があったの?
195コメ:スマホ飛んだ?
198コメ:空が映ってまーす
「おい、お前勝手に何やってるんだ?」
 妹が怒鳴る。まだ髪の毛は乾きかけなところを見ると、シャワー上がりにミラがいないことを気付いたのだろう。片手にスマートフォンが握られているところを見ると、生放送で居場所を探り当てたらしい。
「なんだよお前いきなり蹴るんじゃねーよ!?通り魔かよ」
「黙れ!」
 背中の痛みで立ち上がることも出来ない間に、俺は顔を蹴り飛ばされる。耐えがたい激痛で思わず顔を抑えていると、横に回り込んだ妹からわき腹を蹴られた。
201コメ:何か分からないけれど妹キタ――(゚∀゚)――!!
203コメ:また神回か……
「お前は自分が何をしたのか分かってるのか!? このままミラが戻ってこなかったらどうするつもりだよ? それなのに探すのを一分もせずに諦めようとしやがって……お前に命を預かる資格なんてねーんだよ! ポチエナを探し終えるまで家に戻ってくるな! さっさと行け!」
「ちょっと待って、まだ痛い……」
「また蹴られたいの?」
「く……くっそ野郎! お前いつか捻り潰してやるからな! 無職なんだから俺には失うものなんてないんだからな!」
「は? 無職? あんた配信業やってるんじゃないの? というか、お父さんとお母さんの援助なしであんた生きていけるの?」
210コメ:お前無職の自覚あったんじゃねーかw
212コメ:配信業じゃなかったんだwww
215コメ:本当は配信業なんかじゃ鐘は稼げないって気付いているんじゃねーかwwww
「うるせぇ! うるせぇ彩音! 高校にまじめに行ってるくらいで偉ぶってるんじゃねーよ!」
「バイトもまじめに行っているよ? 半年で怒られるのが嫌だって逃げ出したあんたと違ってね」
219コメ:妹に何一つ勝てないゴミですね
224コメ:はい、妹の論破。お兄ちゃんもう少し頑張ってよー
「糞ったれ……探せばいいんだろ!」
 こいつは俺が絶対に反論できないことばっかり口に出して俺を責める。意地が悪くって、容赦がなくって、本当に優しさのかけらもない。


**底辺生主の俺が、ポケモンと一つになる

 ミラが脱走したあの日、妹はすぐにミラを見つけていて、ボールにミラを入れてすぐに帰っていったらしい。しかし、何の連絡も受けなかった、というよりは放送用のスマートフォンを没収されていた俺は暗くなってもずっと探し続けていて、どうしようもなく家に戻ると、もうミラが戻っている事実を聞かされた。
 先ほど蹴られた背中やわき腹などは痣になっていて、俺は体を動かすのが辛く、帰ったら風呂にも入らずベッドにごろりと横になる。妹の事がむかつくが、妹が暴力的すぎて面と向かって対抗するのも危険なので、俺はため息しか出なかった。

 そうして、夏休みも終了間際。結局、妹はあれから家でミラをボールに入れている時はボールから片時も離れず、風呂もトイレも寝る時でさえも持って行った。そのため、外配信も二度と出来なかった。学校が始まっても、非常時を除いて室内でポケモンを出したり授業中にポケモンを出すなどして授業を妨害しなければポケモンの持ちこみは許可されているため、そうなると絶対に奪うことも出来ず、俺は焦りでイライラしていた。

 妹はミラ学校の同級生のポケモンやマフマフと軽くバトルをさせることを夏休み中繰り返していたおかげでまだ生後三ヶ月くらいだというのにグラエナに進化してしまった。俺が進化の様子を配信出来たならどれだけ盛り上がったことだろうか? そんなことも考えずにミラを進化させて、挙句の果てにミラと楽しそうにしている妹も、妹と仲良くしているミラも、全部が気に入らない。
「あのさ、俺さ。ミラの怪我のせいでもうバイトやめていいよって言われて、これからまたお金なくて積んでいる状態になる。理解してる?」
203コメ:どうせ実らのせいじゃなくって今までの勤務態度が悪かったから、怪我に乗じて解雇宣言されただけだろ?
207コメ:怪我はきっかけだとしても、本当はその前からやめてもらいたがってたんじゃねーの?
210コメ:お前が勝手にやめただけだろ?
「うるせーなぁ!? なんでどうしてお前らリスナーは俺に何の手助けもしてくれないの?」
213コメ:リスナーに対して『お前ら』とか言っているからだゴミ。土下座でもしろよ
「本当にさー……支援ちょうだいよ、まだ傷が残ってて痛いんだけれど?」
224コメ:俺働いていたはずなんだけれど、誰かさんが「ニート」って言ってから俺は実はニートだって事に気付いたんだよ
228コメ:俺ニートだから支援できない。以前の放送では働いているって言ったけれど、お前が『嘘つくんじゃねー』って言ったからニートだって認めるよ
234コメ:あ、俺もニート
235コメ:俺もニートだわ
237コメ:お前らニート多すぎwwww あ、俺もニートでーすwwww 支援できませーんwwwww
242コメ:ニートなら支援できないのは仕方ないな。ちなみに俺も今だけニートになる。この放送中限定ニートだ!
244コメ:貯金しとけよ。配信業なら仕事してるんだろ?
「お前ら嘘ついているんじゃねーよ!!!」
249コメ:以前俺が働いているって言ったら『嘘ついてんじゃねーよ』と煽ったくせに……どうすればいいんだよ?
251コメ:働いているといっても嘘、ニートと言っても嘘……この矛盾がたまらないw
「お前ら俺に金を出したくないからってニートの振りしてるだけだろ、分かってるんだからな!?」
254コメ:で?
256コメ:ポチエナはどうしたの?
262コメ:お前まだ生きてたの?
266コメ:初見 死ね
「うるせえよ、とっくに進化したって言ってるだろうが! 情弱かよおめーはよ!」
 最近はどんな話をしていても、こうしてミラの事を聞いてくる奴がいる。
「ミラも妹も俺の事なんていなかったように言ってやがって! ほんと死ねよ! 全員死ねよ!」
271コメ:お前が死ね
277コメ:だってお前は家族にとってはいないほうがいいし……不要だしなぁ
279コメ:扶養家族ならぬ不要家族wwww
「あーもー! お前らうるせーんだよ!? お前らが俺の何を知っているんだよ! 畜生!」
 あまりに苛立った俺は壁を蹴り飛ばす。壁に穴が開いたが、構わず殴り続けた。そうすると、突如俺の部屋のドアが開く。
「うるさいんだけれど」
 ドアを開けたのは妹。マフマフとミラも足元にいる。
「配信中に来るんじゃねーって言ってるだろ!? 何万回言えばわかるんだよ死ね!」
296コメ:妹来た!
298コメ:妹さんこいつ殴っていいよ。むしろ殴れ
「騒ぐんじゃないって何万回言えばわかるの? 殴るよ?」
「やってみろや! 俺もただじゃやられねーぞ!? こっちはリスナーは味方してくれるんだ!
300コメ:味方しないし、画面越しでどうやって味方すればいいの?
「はぁ? あんた頭おかしいんじゃない? リスナーがどうやってこの状況で手助けしてくれるの? 警察でも呼んでくれるっていうの? 頭の病院の救急車でも呼んだほうがいい? とにかく、テレビの音が聞こえないから静かにしてよね。ドラマいいところだったのに、あんたのせいで台無しだよ。」
302コメ:妹さん楽しんできてねー
303コメ:そりゃこいつの声が聞こえたらドラマも台無しだわなぁw
「俺の心がボロボロなのに、お前は家族なんかよりもドラマの方が大事なのか?」
「あんたの子と家族だなんて思いたくねーよ」
307コメ:お前が家族とか人生の汚点だわなw
「お前、俺が配信で成功しないのもストレスで暴れるのもお前がストレスを与えるせいなんだぞ? 俺が成功しないのはお前らのせいなんだぞ? わかってるのか彩音!?」
「私の名前出さないでよ。っていうか、あんたの大声と無職で働かないこと、家の住所がばれていることで私もストレスたまってるんだけれど? その事一度でも謝った?」
「配信業の有名税だよ! 俺はそうやって人気生主になるんだ!」
314コメ:有名税とかwwwww 収入よりも高い税金とかないわw
「寝ごとは寝て言えよ。っていうか、人気? こんなアンチだらけの状態でどういう幻覚を見たら人気生主になれると思うの?」
「違げぇっつうの! こいつらは俺に嫉妬しているだけなんだ! 俺が成功するのが妬ましいから荒らして邪魔してるだけなんだ! お前だってそうだろ!? 兄が成功するのが妬ましくて、俺のことをアンチの振りしてコメントで叩いているんだろ!? お前みたいなやつが一番邪魔なんだよ! 死ねよ!」
「へー? 私がアンチの振りしてコメントで叩いているの? 寝る時間も惜しんで? 学校に行っている時間に? 部活の最中でも? そんな時の放送でもアンチコメントだらけだったよねー? 私が何もする必要もなくアンチしかいない放送をしているくせに良く言うよ。つそれともなに? 私、無意識のうちにアンタの放送にアンチコメを打っていたの? 私サイキッカーの素質あるの? スプーン曲げの練習しようかしらーってこと? ばーか。
 あんたそんなに私が嫌なら一人暮らしすればいいじゃん、上のお兄ちゃんみたいに就職して独り立ちしてさ」
319コメ:ぐぅの音も出ない正論
324コメ:世界よ、これが論破だ
330コメ:嫉妬じゃない、Shitだ
「ほーら、もう何も言えない。言い返せないんでしょ? もう付き合ってらんないし、もうCM終わっちゃうから行くね」
 大きくため息をついて妹は部屋を出ようとする。くっそ、配信の方はコメントが大荒れで、俺を馬鹿にするコメントばかりが溢れてやがる。ミラに噛まれたのもバイトクビになったのも全部妹のせいだってのに、俺の邪魔することだけは絶対にやめない。妹に生きている価値なんてない。死んでしまえばいい。
「ふざけんな謝れ! 俺に謝れ! ミラを奪ってごめんなさいって謝れ! 配信の邪魔してごめんなさいって謝れ! 俺をむかつかせてごめんなさいって謝れ! 土下座して謝れ!」
「キモい」
 妹は俺を一瞥して、立ち去って行こうとする。
336コメ:全面的に妹さんに同意
339コメ:あぁ、キモイな
「ふっざけんじゃねぇぇぇぇ!」
 もう我慢の限界だ。殺してやる。俺は床に落ちていたカッターナイフを手に妹に襲い掛かる。足音に気付いて妹は振り返り、とっさに腕をかざした。夏だから半袖で、手首のあたりがざっくり裂けて血が噴き出る。妹はたまらず尻もちをついた、いい気味だ。
 その時、ダッと駆け出したミラが俺を押し倒し、俺の首元に――
「あぐ、あ……」
343コメ:誰か倒れたぞ? 妹と文也?
345コメ:ヤバくね? 警察呼んだほうが
347コメ:え、なに? マジでやらかしたのかこのゴミ?
349コメ:ドアの向こうから声だけ聞こえるな……見えないところで何が怒ってるんだ?
「痛い……ちょっと、お父さん、お母さん? 文也に切られた! 手首切られた! 病院……多分動脈は切れてないけれど、病院……ミラ?」
「どうした!? 大丈夫か? ……おい、文也? ミラ……やめなさい! ミラ! うわっ……嘘だろ、これは……」
358コメ:あ、父さんの声かな?
「ミラ、文也を殺しちゃダ……いや、やっぱいいや。放っておこうよ?」
「ちょっと、彩音何言ってるの? このままじゃ文也が死んじゃうでしょ?」
371コメ:おいおい、文也君妹に見捨てられてるしwwwww ってか、殺されてるの?
377コメ:ママ、正論だけれど正直文也君は死んでいいと思うの
380コメ:そんなに兄が嫌いなのかよ……俺、妹はいないけれど弟は大事にしよう……
「だって、私にこんな怪我を負わせて、その他にも色々やられて、しかもニートでしょ? 万が一にでも助かって欲しくないよ!」
386コメ:妹ひっでーww まぁ、文也君に一ミリたりとも同情できないけれど
「とにかく病院連れてってよ! 早く私の止血しないと! 緊急外来の病院あるでしょ?」
393コメ:意外と余裕あるな妹さん。とりあえず、死にはしないだろうけれど障害とか残らないといいけれど…・・・
「分かった……あぁ、コラ! ふみちゃんを食うな! 首を振るな! あぁ、もう……ダメだ、今は興奮してて聞こえてない」
400コメ:あ、今の声ママかなこれ? さすがに困難でも可愛い息子だったのか……
404コメ:見てるかどうかわからないけれど、妹さん。まずは手首を縛って心臓よりも上の位置に腕を持ちあげよう。動脈が切れていないなら慌てなくって大丈夫。直接ハンカチを傷口に当てればおk
407コメ:ってかコメ流れるの早すぎない?
412コメ:神☆回☆確☆定!
429コメ:仏回じゃね? >412
440コメ:ってか、静かになったけれどマジで放置? 警察呼ばないで大丈夫なん?
451コメ:誰が上手いこと御うぃえと>429
456コメ:子の場合ミラの所有者の文也君が自分の持ち物で怪我をしたのと法的には同じ。自分が買ったチェーンソーで首を切ったようなものだから妹さんには罪ないよ
470コメ:456コメセンクス
「ミラ、お父さんと病院に行ってくるから、留守番しててね?」
「ガウッ」
541コメ:やっぱこれ警察呼んだほうが良くね?
お知らせ:放送タグに『死んでみた』が追加されました
562コメ:タwwwwwwグwwwwww
578コメ:おい、タグwwwwww いいぞもっとやれwwww
お知らせ:放送タグに『仏回』が追加されました
600コメ:タwグw増wえwたwwwwww
612コメ:お前ら人間の死を笑うなよ!! あ、人間じゃなかったか、すまん




1213コメ:今来たけれどどういう状況?
1215コメ:文也君が家族と喧嘩→妹がナイフか何かで切られた→グラエナがブチ切れて襲う→妹は家族と病院に→文也君無事脂肪
1218コメ:マジかよ、やったじゃん!
【この放送は終了いたしました】

 ◇

『24歳無職の男性
 自身の所有するグラエナに噛みつかれて死亡』
 朝のニュースに、彼の名前が出る。
『被害者は、ニヤニヤ動画という動画配信サイトのまま放送中に家族と喧嘩となり、
 カッターナイフで妹を切りつけた際に、妹に懐いていたグラエナに襲われたとのことで、
 その一部始終は運営の判断で削除されましたが、ニヤニヤ動画でも拡散が続き、
 Pikatubeやその他の外国の動画サイトに投稿され、削除もままならない状況となっている』
 ポケモンの専門家に話を伺うと……
「グラエナってのは、実際危険なポケモンなんですよね。餌を与えてくれるから人間に従ってくれていますけれど、本来は自分よりも弱い人間にしたがってくれるような都合のいいポケモンじゃないんですよ。なんでも、この生主……? っていうのは、聞くところによるとこの被害者はあまり外に出たがらず面倒くさがりで、散歩も餌やりも躾もロクにせずに妹や家族に任せていたって話だそうですね。
 グラエナは優れたトレーナーには服従するけれど、いわゆるダメ人間には絶対に従いません。グラエナが主人と認めてしまった妹を攻撃すれば、当然のように『主人』を守るために攻撃しますよ。この場合は妹さんが『主人』という認識だったのでしょうね。流石に殺すまでやるというのは聞いたことがありませんが、毎日生放送の配信? とかいうので騒いだりして、すぐに大声などを出すことから家族も深夜に起こされることが少なくなかったそうです。そういうこともあって家族からもグラエナからも相当嫌われていたのでしょう。
 ポケモンを所有している人達は、自分のポケモンが最悪こういう事件を起こすのだって事をきちんと理解したうえで、きちんと責任を持って管理していただきたいですね」
『今回の件で、すぐに適切な治療を行わなかったことや、被害者を殺すようにグラエナをけしかけたのではないかと、家族は警察に事情聴取を受けています。ネット上では「グラエナは悪くない。処分はしないで」や「妹は無罪」というような意見が見られ、グラエナの所有権が被害者である長男にあったことや、被害者が先に妹を攻撃したことなどが今後の裁判の争点になると思われる』

 ◇

 そうして、一週間後
 彼の死がニュースをにぎわせた後、ニヤニヤ動画もまた一種のお祭り状態である。
 "死んでみた" "オレモモン(生放送主)" を含む動画が31件見つかりました。

 彼は、お星さまとなって、死してなおネット上で輝き続けるのだ。


Ring ( 2016/10/21(金) 22:24 )