旅に出る
此処から

僕とリクは、あの岩の上にいる。
ここで修行するのは、あの一件以来の事だ。

数日間、リクは部屋に閉じこもりっぱなしで、誰とも話そうとしなかった。僕も母さんも、敢えて話しかけることはしなかったけれども。

どうやら和尚の言葉でリクはここに来る気になったみたい。


「…リオ」
(…?)

リクが沈黙を破る。

「昨日爺ちゃんに頼みごとをされてな」
(……)
「若葉寺の修復のために、エンジュまで勧進帳を届けて欲しいそうなんだ。それで…」
リクは目をつむったまま続けた。

「とても長い道のりになりそうなんだ。家に帰ってくるのも当分先のことになりそう、…だから」

「リオもついてこないか?」
(……)
「母さんがいるから無理にとは言わないし、リオが行きたくないならそれでいい。もちろん…」
(何言ってんの)

リクとここに来た時に決めてたことだ、答えなら出てるよ。


…そうだ、何処までだって、

(行くに決まってんだろ)
「……だよな(笑)」
(まさかおいてこうとか思ったわけ?そりゃ薄情でしょ、何年の付き合いと思ってんだよ)
「わーかった、わかった。悪かったよ」


(まずはお母さんかな)
「だな、話しとかないとな」

僕らは話を切りだした後のお母さんの表情を想像して、一緒に吹き出した。

そうだ。僕らはこの場所から始まったんだ。
新しい始まりも、この場所からじゃなくちゃ。

太陽は斜め掛けに僕らの顔を照らして、いつだってそこにあり続ける。

だからこそ、僕らは自分達の場所がよく分かる。

此処が、始まりだ。




類似 ( 2014/02/23(日) 18:48 )