旅に出る
エンジュ行きの勧進帳 2
「突然じゃがの、エンジュシティまで行って来てほしいのじゃ」
「…エンジュ?」

少し考えた僕は、はっと気が付いた。

「焼けた塔…?」
「ご明察じゃの。焼けた塔の修繕工事が終わったのはついこの前。じゃがまだ修繕の建築士がわんさかおろうて。あそこの者に話を通してもらえば、少なからずの人手は出るじゃろう。その旨を伝える仕事をお前に頼みたいのじゃ」
「それなら僕が行かなくても、ワタルさんや、爺ちゃんだって行けるじゃないか」
「そうじゃ、わしらならすぐにエンジュへ飛ぶことができる。じゃがのぅ、それでは駄目なんじゃ。そう、お前でなければ。お前に旅に出てもらわんと行かんのじゃ」

爺ちゃんの口調は穏やかだったが、言っていることは理解できなかった。

「…どうして僕に」
「修繕はそんなに急がんでも良いんじゃわ。暫くはこの家に居候すればよいからのぅ。それに、お前には、もっと広い世界を見て欲しい。ポケモン達と共に旅をして、様々な者と出会い、成長して欲しいのじゃ」

「…それじゃあまるで普通のトレーナーみたいだ。僕はここの暮らしで満足してるし、別に旅に出る気も今後一切ない。旅に出たって何にもならないだろ」
「違う、そうじゃない。おまえはそこを勘違いしとる。

よいか、旅に出たトレーナーには、その1人1人にそれぞれの出会いがあり、別れがあり、戦いがある。
全てのトレーナーにとって、その旅は"普通"などではない。自分の人生を大きく削り、様々なことに触れて、その全てが自分の糧となっていく旅がこの世界に千差万別、無限と存在するのじゃ。それぞれの生き方の上で、闘うことに心血を注ぐ者もおり、幾千の謎を解き明かしたいがためその道に生きる者もおり、優個体のために育て屋の前を延々と往復する者もおるのじゃ。

各地のジムを回り、戦いを通して、己を、ポケモンを、そして人を知るという事がどういうことか、知りたくはないか?

それにシンオ…」


分かってる。
うん、そうだ。
爺ちゃんの言っている世界は、僕が以前思い描いていた場所なんだ。
でも、何故か。
別に進んで旅に出たいとは言わなかった。
優柔不断だったのか、
臆病だったのか、
どっちも多分違う。


類似 ( 2014/02/18(火) 21:21 )