ポケモン 不思議のダンジョン 〜光の煌き 闇の誘い〜






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*第五章*Sign of disorder
第五十九話*お互いの境遇
その夜のことだった。
既にシェリル達はベッドに入り、目を瞑って眠りに入ろうとしていた。

「………シェリル、嶺緒。……まだ起きてる? 今夜は少しムシムシしてて寝苦しいねぇ…」

突然のクローネの言葉に、シェリルは目を開いた。シェリルはクローネにも嶺緒にも背を向けているので、クローネの表情も、嶺緒が起きているのかもわからない。
と、別の声が聞こえた。

「…早く寝ないと明日に響くぞ」

「うん、そうなんだけどね…」

「じゃあさっさと寝たら」

呆れたような嶺緒の言葉に、クローネが苦笑する。クローネの声は眠そうであり、欠伸をしているのも聞こえる。しかし嶺緒ははっきりと喋っているあたり、眠気はないのだろう。そんなことを思いながらシェリルも反応を返す。

少しの間静寂が流れたが、それを破るかのようにクローネはまた話しだす。

「……ボク、今日アルカ達を見てて思ったんだけどさ…シェリルの世界、えーと…【ルルーシュア】にいるシェリルの両親や友達って、どうしてるのかな?やっぱり、心配してるのかなぁ」

「してない」

シェリルの即答に、クローネも嶺緒も少し驚いたようだ。身じろぎの音が聞こえた。クローネは「でも」と疑問の声をあげる。

「シェリルが来てから数ヶ月が経ってるし…さすがにそんなに音信不通だと、やっぱり心配するんじゃないかなぁ…」

「してないったらしてない」

やはり即答で返ってくるシェリルの返答に、クローネは首を傾げた。嶺緒も黙ってはいるが耳を傾けている。二匹とも、どうしてシェリルがそんなにすぐに否定の言葉を返せるのか、疑問に感じているようである。

クローネは少しの間考えていたが、やがてある疑問を口にした。


「…あのさ、シェリルの両親や友達って、どんな人達なの?皆で仲良く暮らしてるの?」

「………」

シェリルは聞かれるとは思っていなかったため少し驚いたが、やがてその表情は暗く歪む。少しの間黙り込むが、やがて小さく溜め息をつくと口を開いた。言いたくはなかったが、自然と言葉に出てきていた。

「…知らない」

「え…?」

「見たことない。母親は僕を産んで、死んだんだってさ」

シェリルの言葉に、クローネも嶺緒も驚いているのがわかった。息を呑んだのが気配で感じ取れたからだ。
シェリルは特に感情も込めず淡々と話していく。その声は感情がこもっていないというより、無理に込めないようにしているようだった。

「父親は見たことがない。最初からいなかった。
ま、両方とも元からいないと正直特になんとも感じないけどさ。
……兄弟は一人いた。そいつはかろうじて母親の記憶があった。母親は僕を産んで、死んだって事ぐらいだけどね。
あと、僕の家には居候が三人…二匹はポケモンだけど、いた。アブソルのルトア・フォルトゥーゼと、グレイシアのヒューシャ・クロウカシス。ルトアもヒューシャも、捕まってるとこを小さい頃の僕が同情して逃して、うちで匿ってる。それぐらい、かな。
あと僕人嫌いだから友達はいない。
だから、両親も友達も心配なんかしてない。……してないというより、元からいないから心配のされようがないってわけ。
…まぁ、僕としては家が無くなってないかが心配だけど、まぁルトアとヒューシャがいるから大丈夫でしょ」

シェリルはそう言って締めくくる。
妙に謎の残る言い方だったが、黙った様子を察するとこれ以上は言う気がないのだろう。クローネはそう感じ、今度は嶺緒に話を振った。

「ねぇ、嶺緒の家族は?」

「………前も言ったろ。九兄弟だ」

嶺緒は二匹に背を向けたまま面倒くさそうにそう呟く。だが少し黙ったあと、溜め息を一つつくと話を続けだす。

「上から順に、(あかつき)兄さん、琥珀(こはく)兄さん、(あおい)兄さん、お前らも会ったことのある真珠(しんじゅ)姉さん、(ほむら)兄さん、紅玉(こうぎょく)姉さん、双子の雪乃(ゆきの)姉さんと翡翠(ひすい)姉さん。それに俺を含めて九兄弟」

嶺緒はそれだけ言うと、黙り込んでしまった。シェリルと同じく、これ以上は言う気がないのだろうとクローネは察し、追求はしなかったが。

静寂がその場を包み込み、しん…と静まり返る中、クローネが口を開いた。

「……ボク………ボクにはね、親がいないんだ」

「……!」

シェリルは閉じかけていた目を見開いた。嶺緒の方からも身じろぎの音が聞こえた。口には出さなくても、彼も驚いたらしい。
クローネは、独白するかのように話を続ける。

「兄弟もいないんだ、いるのかどうかすらわからないって方が正しいんだけどね。物心ついたときから、ずっと一匹だった。
友達もいなかった。……ほしかったんだけど、できなかったんだ。
今はポケモン同士の諍いが絶えないから。皆もっと仲良くすればいいのに、いがみ合ったりするポケモン達が増えてる。見た目は仲が良さそうでも実は違ったり、本音を言い合わなかったり…とかさ。そういうの、ボクは嫌だったんだ……
だから、今まで友達ができなかった」

だからこそ、ガレットの時もセシリアの時もクローネは必死に反論していたのだ。今までのクローネを思い出しながら、シェリルは妙に納得がいった。

「……でも、結局ボクもセシリアと同じだったのかもしれない。騙されたり、裏切られたりするのが怖かった。自分が傷つくのが……きっと、怖かったんだ」

クローネの声は、今までの彼からは想像もできないほど寂しそうで。
静かに紡がれるその言葉は、きっとクローネがずっとずっと溜め込んできた本音だったのだろう。

「でもね……ずっと友達がほしいと思ってたんだ。上っ面の付き合いじゃなく、心から信頼しあえる…本当の友達が。
そして、そんな友達と一緒に「何かやりたい!」って思いついたのが、この楽園作りだったんだ……」

語られる、ずっと胸の奥にあったであろうクローネの本音。

「だから……今は、毎日が楽しい。『アストラル』の皆が本当の家族みたいで…たくさんの人と友達になれて…暖かくて賑やかで、これが幸せってことなんだなぁって…そう、初めて実感できたんだ。
ありがとう、シェリル、嶺緒。これからも……よろしく、ね……」

その言葉を最後に、クローネは静かになる。そしてやがて聞こえてきたスースーという寝息。どうやら寝てしまったようである。
シェリルはふぅ…と小さく溜め息をつくと、クローネと嶺緒に背を向けるのをやめ、振り返る。

「ねぇ、銀色チビ」

「その呼び方やめろっつってんだろ」

しっかりと反応が返ってきた。しかしシェリルは驚かない、起きているのは想定済みだからだ。
嶺緒も黙ってはいたが、クローネの本音を聞いていたのだ。

シェリルは横向けになるのをやめ、仰向けになると天井をじっと見つめる。天井の模様をじぃっと眺めながら、気になっていたことを口にする。

「…あんたの両親のこと、まだ聞いてない」

「………」

黙ったままの嶺緒。しかし、寝ていないことはシェリルは気配でわかる。言いあぐねているのだ。
やがて、お手上げと言ったように溜め息をつく嶺緒。

「…もういねぇよ」

「……!」

「数年前の大火事で、死んだ」

嶺緒の言葉に、シェリルはぴくりと反応するものの、返答はしない。黙ったまま、先を促す。


「…俺は、あいつらが嫌いだった」

「……え?」

嶺緒の突飛な言葉に、シェリルは今度こそ驚きの言葉を隠せなかった。

「俺だけじゃない。俺ら兄弟は、全員嫌ってた。あいつらは…俺ら兄弟を何処かおかしくさせた。死んだ今でも、俺はあいつらを許してねぇ」

嶺緒の言葉から感じるのは、はっきりとした憎しみ。隠すことのできない憎悪の感情を、嶺緒の声からシェリルは感じとった。
これ以上は詮索されたくないのか、「…お前は?」と話を振る嶺緒。

「…だから言ったろ。僕は母親も父親も知らないって」

「そうじゃない」

「じゃあ何」

「兄弟のことだ」

「…………」

シェリルは今度こそ黙り込んだ。先程は誤魔化していたのだが、嶺緒は気になっていたようだ。思わず口をキツく結んでしまう。しかし、此方が聞いた以上は答えねばならないと感じ、小さく息を吐く。そして、返答する。なるべく感情を込めないようにしながら。

「死んだ。多分ね」

「…多分?」

「確認したわけじゃないから」

あまりに淡々とした返答に、嶺緒は「…そうか」としか返せなかった。
シェリルは腕をぎゅっと握り、気持ちを押さえながら再び口を開く

「……で?他にないなら僕寝るけど」

シェリルの言葉に、嶺緒はほんの少し黙ったが、「あと一つ」と言った。聞いておきながらシェリルの表情は面倒くさそうに歪む。

「居候が三人…って言ってたよな。ルトアとヒューシャ……もう一人は、どうしたんだ?」


返事は、返ってこなかった。静寂がその場を包む。
答えたくなかったのか、寝てしまったのか。どちらにしろ答えは返ってこないと察した嶺緒は諦めたように溜め息をつく。

「まぁ、言いたくないならいい。教えてもいいと思った頃にでも言ってくれ」

嶺緒は聞いているかはわからないが、シェリルに向けてそう声をかける。やはり、返事は返ってこない。嶺緒は肩をすくめ、寝返りを打つと眠りにつく。


寝息が聞こえだした頃に、シェリルは目を開いた。起きていたのだ。
ムクリと起き上がり、クローネと嶺緒の方を見つめる。ぐっすりと眠りについており、起きそうにはない。
何とも言えない複雑な表情で二匹を眺めていたが、やがて溜め息を一つつき、ベッドにもぐり直す。

「……」


しばらく天井をじっと眺めていたが、やがておもむろに蔓のムチを伸ばし、ベッドの下をあさってロケットのついたペンダントを引っ張り出す。
開くとそこには、一枚の写真。一番大切な、一番輝いていた頃の写真。それと同時に、一番嫌いな写真でもあった。

人間の少年が二人と少女が一人、アブソルとイーブイと共に微笑んで写っている。



―― シェリル……!! ――



「っ…!」

パチンッと大きな音を立ててロケットが閉じられる。
瞼を閉じれば鮮明に思い起こされる、あの時の光景。あんなことはもう二度と起こしてはいけない、そう心に誓った。なのに。
日に日に『アストラル』のメンバーに気を許していく自分が、嬉しいと共にどうしようもなく許せない。

(こんなの…許されない。甘えちゃいけない)


「僕は…()()()()()()()()()()()()

そう心に決めた台詞。
だが。

クローネの笑顔を見ていて。嶺緒と口喧嘩をしていて。『アストラル』の皆が温かく迎えてくれるのを見ていて。
どうしようもなくその冷たく固めた心が温かく溶かされそうで。
だからこそそんな自分が許せない。


(ダメなんだ…甘えちゃ、ダメだ。あんなことは…もう……)

シェリルは溜め息をつき、ロケットペンダントを再びしまうと、目を閉じる。
今日の疲れか、眠気が一気にシェリルに襲ってきた。睡魔に身を委ねながら、シェリルはぼんやりと考えていた。



(僕は……もう、自分がわからなくなってきた)



「わからないよ……(ひいらぎ)







■筆者メッセージ
連続投稿です。…ストック使い切りましたけど(おい

毎回思いますが、伏線回収のつもりが伏線強いてしまうこの癖直さなくちゃなぁ……と、考えてはいますが何故か繰り返している今日この頃(((爆
なんだか元のゲームでの伏線回収が無いと機会を失ってしまいそう←

…というか今気づきましたけど、月影兄弟の名前がイメージ、宝石の和名と交互になってますね…w

そして、教えていただいて気付いたのですが、別の小説のキャラ名が出てきてしまっていたようです。読み過ぎなのだろうか…すみません。憧れの小説であることに加え、説明文をその小説+某動画サイトにて参考にさせていただいていることがあるので混同してしまったようです。こんな不祥事を起こしてしまったことは事実です、この説明も言い訳にしかなりません。間違いとはいえ結果的に勝手に使用してしまい、本当に申し訳ありませんでした。
そしてご指摘していただき、感謝しています。教えていただかなければ、尊敬している方にこのままご迷惑をかけつづけるところでした、本当にありがとうございます。
レイン ( 2016/01/25(月) 20:05 )