第五十七話*旅のつながり
「よっと…蔓のムチ」
蔓のムチで一気にアーケン二匹とウリムーを薙ぎ払い、戦闘不能にするメルス。彼の戦闘能力とセンスの高さが窺える。
「ふぁ〜…すごいねぇ、メルスは」
「そーか?」
感心したように呟くクローネに、ケラケラと笑うメルス。
歩き出すメルスの横に着くと、クローネは「そういえばさ」と話題を振る。
「メルス、この前ボクの仲間の種族とか教えてなかったのに、どうしてわかったの?」
「あーそれは簡単。ウチまぁ普通の奴よりは耳がいいから、あの銀イーブイ君がクローネの名前呼んでるの聞こえたんだよ」
「あ、そうなんだ!」
「あはは、まぁそりゃ教えてもいないのに当てたらびっくりするよな。悪かったな」
「ううん」
頭を掻きながら謝るメルスに、クローネは首を振る。
そして周りを見回しつつも話題を一生懸命考えながらメルスに振る。
「メルスは放浪者なんだよね?どんなところに行ったことがあるの?」
「そうだなぁ…てきとーにフラついてるからなぁ。
ずっと南にある遺跡とか、東の方にある洞窟群とか…面白そうなところや冒険できそうなところはなんとなーく冒険してるなぁ」
「へぇ〜!すごいなぁ!!」
「あーそうだ、クローネに会う前には東方に行ってたな」
「東方!?」
「おう、あっちは建物の造りも文化も全然違って面白かったぜ」
「ほぇ〜……」
驚いたように感嘆の声をあげるクローネ。その反応が面白かったのか、メルスはクツクツと笑いながら話を続ける。
「で、珍しいものが多くてついウロウロしてたらな、めちゃくちゃ短気な奴に不審者扱いされちまってな、一戦交えた」
「え!?」
「タイミングよくそいつの妹が止めに入ってくれて誤解は解けたけどな。で、なんとなーく仲良くなった」
「わ、わぁ…なんか壮絶だねぇ…!!」
なかなかに壮絶な話をケラケラと笑いながら話すメルスを驚いたようにクローネは見つめる。
「そいつの名前…なんていったかなぁ……
確か…つ、つき…?」
頑張って思い出そうとしているのだろう、首をひねりながら考え込むメルス。しかし、断片的に出てきた名前に聞き覚えのあったクローネはひょっとしてと思い声をあげる。
「もしかして、月影?」
「おぉ!それだそれ!!そうそう、確か
月影 焔 と
月影 翡翠だった!思い出した、いやぁすっきりしたぜ!」
メルスは思い出せたことですっきりしたらしく、とても良い笑顔になる。が、疑問が浮かんだらしくすぐに訝しそうに「でも」と口を開く。
「なんで知ってるんだ?」
「えっとね、ボクの仲間のお兄さんとお姉さんなの」
「おぉ!?ま、マジか…!」
「兄姉はすごく個性的って言ってたんだけど、その二匹ってどんな感じだったの?」
「んー…簡単に言うと、焔は暑苦しくて短気、翡翠はニコニコ笑顔で毒舌吐く奴だったかな」
「わぁ、個性的だねぇ」
「クローネが言っても説得力無いけどな、アハハ!」
「なんでまた笑い出すの!?」
ケラケラと笑いだすメルス。おそらく笑い出したので次この話題を持ち出しても思い出し笑いをしそうなのでクローネはこの話題を打ち切ることにした。英断である。
「メルス…えーと、えーと…」
「そんな無理に話題探さなくてもいいぜ?」
「いや、ボク沈黙って好きじゃなくて…えーと…あ、妹さん、元気?」
「………」
メルスはシスコンである。なのでこの話題は良いと思ったのだが…メルスは黙り込んでしまった。その反応に、何かまずいことを言ってしまったかと慌てるクローネ。
「め、メルス?」
「…あ、いや何でもない。わりぃな、急に黙って」
「あ、ううん」
そのまま少しの間クローネもメルスも黙って歩いていたが、不意にメルスが口を開いたことで静寂は途切れた。
「妹とは…会ってねぇんだ」
「え?」
「…もう、七年くらいになるかなぁ。別れも言えないまま離れちまったから…きっと怒ってんだろうなぁ、ハハハ!」
「メルス……」
辛そうな表情を押し殺し、笑顔を取り繕うメルスに、クローネはかける言葉が思いつかず黙り込む。しかし、次の瞬間には思ったことが口から出てきた。
「きっと…きっと会えるよ!!絶対!!」
「……!…あぁ、ありがとな」
メルスはにっこりと笑い、クローネの頭を撫でる。クローネは何故撫でられているのかわからなかったが、普通に目を細めて撫でられている。
「えーと…?」
「んー?あぁ、ごめんな。よく妹にやってたもんで、つい癖でな」
「そうなんだ」
メルスは手を引っ込めて笑いながら頭を掻く。クローネもにっこりと笑顔を見せる。そして、メルスと妹は仲が良かったんだなぁと少し羨ましくも思ったのだった。
そのままメルスとクローネは進んでいたが、不意にメルスが立ち止まった。クローネは「メルス?どうかした?」と声をかけ、訝しげにメルスを見つめる。
「…うん、ここまでだな!」
「え?」
「じゃーな、クローネ!あ、ウチのことは内密に、頼んだぜ!!」
メルスはにっこりと精悍な笑みを見せると、その佇んだ体勢から綺麗にとんぼ返りを決め、木の枝へと飛び乗る。その見事な運動神経にクローネがポカンとしていると、メルスは笑顔で数回手を振るとそのまま木々の枝を飛び移りながら去っていく。
「おい天然お気楽超絶能天気迷子ヤロー」
「だからその酷いあだ名付ける癖やめろっての」
「うっさい指図すんな銀色ロイヤルグレート大バカツッコミ野暮天アホンダラチビ」
「だから色で呼ぶなチビっていうな!そしてその酷いあだ名いい加減やめろっての!!」
「やだ」
「だからなんで即答!?」
「あーなんかうるさいな…森の中のはずなのに謎のうるさい幻聴が聞こえる。あれ、気のせいか」
「だから幻聴扱いすんな!人の話少しは聞けよ!?」
「聞いてほしいなら他を当たってよね、気持ち悪い」
「なんなんだこのデジャヴは…!?」
クローネの方へと歩いてきながら言い合いを続けるポケモン――シェリルと嶺緒。
クローネはぽかんとしていたが、やがてハッと我に返ってシェリル達の元へと駆け寄る。
「シェリル、嶺緒!どうしたの?」
「どうしたのって…お前の進んだ道が正解の道で、俺達が進んだ道ははずれだった。だから追いかけてきたってわけだ」
「あ、そうだったんだ!」
「しかし…よく迷子にならずにここまで来れたな?どっかで迷子になってると思って時間かけて進んできたんだが」
「あ、いや迷子にはなったんだけど――」
「だけど?何?」
「あ、ううん!なんでもないよ」
「………」
メルスのことを言いかけたクローネだが、何とか誤魔化そうとする。シェリルはそれにたいして、とても冷たい疑心に満ちた目を向けていたが。
「とりあえず、さっさと進もう。此処まで一応細かく探したが、アルカは見つからなかった。ってことは、此処にいるならもっと奥の方にいる可能性が高いってことだ。できれば【ススカゼ草原】の方で見つかってくれてるとありがたいんだがな」
「そうだね、心配だし早く行こう!」
嶺緒はさっさと歩き出す。そしてクローネもその後に続こうとして、シェリルの「ねぇ」という言葉で呼びとめられた。クローネは足を止めると、きょとんとした表情でシェリルを見る。
「何、どうかしたの?」
「…あんた、誰かと会った?」
「え!?」
メルスと進んでいたところは見られてはいないはずだ。メルスはやたらと警戒心が強いため、それなら気づいていてもおかしくはないだろう。
そのため、クローネは驚きを隠せない。
「な、なんで?」
「……別に。あんたが迷子にならずに此処まで来れるなんて珍しいなーって思っただけ」
「…う、ううん。誰もいなかったよ」
「……あっそ」
シェリルはまだ疑いの目を向けていたが、面倒になったのかクローネを放置して歩いていく。クローネはとりあえず誤魔化せたことに安堵の息をつく。そしてシェリルと嶺緒を追いかけるのだった。
「今回も黙っててくれたのな。なーんか申し訳ねぇな」
木の枝に座り、そう呟くエメラルド色の目をしたツタージャ――メルス。
「しかし…クローネの仲間の子の声…何処かで聞いたことあるような……」
メルスは思考を巡らせるが答えには至らず、「ま、気のせいか」と呟き、立ち上がって伸びをする。
「さて…退散とするかな」
メルスはエメラルド色の目を悪戯っぽく輝かせると、再び木々の間を駆け抜けていった――