ポケモン 不思議のダンジョン 〜光の煌き 闇の誘い〜






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*第五章*Sign of disorder
第五十四話*不穏な事態
「はあっ…はぁっ……!」

無我夢中に草を乱雑に掻き分け、前へと進む。
前や後ろ、いろんな部分に絡みついてくる草を払ったり掻き分けたり蹴ったり、夢中で払いのけながら進む。とにかく、前へ進むしかない。

ようやく町が見えてきた。もう少し、もう少しで――!!










「ふぁ……」

朝食をクローネと嶺緒が片付けている中、シェリルは準備を終えて欠伸を一つ漏らす。
クローネがそれを見て食器を片づけながら声をかける。

「シェリル眠そうだね?大丈夫?」

「うっさいバカ。誰のせいだと思ってんだ」

「え?誰かのせいで寝れなかったの!?」

「お前だよ天然大バカ騒ぎ過ぎの電気ネズミ野郎」

「え、ボク?」

「お前酷いあだ名で呼ばれるの慣れ過ぎじゃねぇか…?」

恨みがましそうにクローネを睨むシェリルと、首を傾げているクローネ、そして呆れたような嶺緒。

何故このようなことになったのか。
それは昨日、ガレットに頼んでいた畑が完成したからである。



 ――――


「…え?畑の管理、ですか?」

「うん!シェリルがね、ラシアは畑仕事の経験があるんじゃないかって言ってたから!どうかなぁ?」

「まぁ…確かに俺は実家が農場やってるんで経験はありますけど…」

「すげーなシェリル、よくわかったな。俺の実家の仕事もわかったりして!ハハハッ――ッテェ!!」

「ラクシャ黙ってろ。
……まぁ、構わないですよ。本業ですし」

「本当!?ありがと!!」


 ――――



シェリルの予想通り、ラシアは畑仕事の経験があるらしく、あっさりと引き受けてくれたのだ。
パラダイス初の施設ということもあり、どうやら舞い上がったらしいクローネは夜遅くまで騒いでおり、結果シェリルと嶺緒は若干だが寝不足に陥ったらしい。
そのせいかシェリルは朝から機嫌が悪いのだ。そのとばっちりとして嶺緒は今日もぶん投げられている。

片付けを終わらせると、シェリル達は家を出る。そこにはエルムとルトが既に家の前に来ていた。
セシリアは此処にいないあたり、今日はお休みなのだろう。

「…うわ、もう来てる」

「エルム、ルト、おはよう!」

「はよ」

「よぉ!」

「おはようございます!」

シェリル以外はいつも通り、挨拶を交わす。
そしていつものように掲示板に向かってメンバーが歩き出そうとしたその時だった。

「あの…!」

女性のものらしき声が聞こえ、全員がそちらを見ると、パラダイスセンターの方からハハコモリとヨーテリーが歩いてきた。この二匹は宿場町付近に住んでいることもあり、五匹はよく宿場町で顔を合わせるのだ。シェリルは喋りたくないらしく避けているが。

「あれ、イベリスさんにシュニーじゃないか?どうしたんだい?」

ルトが、ハハコモリのイベリスとヨーテリーのシュニーに声をかける。イベリスとシュニーの表情は険しく、焦ったような表情だった。イベリスが慌てた様子で口を開く。

「すみません!お願いです! 私の子供を……アルカを探してほしいんです!」

イベリスの子供、と聞いて五匹は思考を巡らせる。
確かいつもシュニーと一緒に遊んでいるクルマユだったはずだ。

「アルカを……? って、もしかしていなくなっちゃったのか!?」

ルトが驚いて焦ったように問うと、涙ぐみながらイベリスは「はい……」と頷き、口を開く。

「私が朝起きたら既に出かけていて……
多分何処かに遊びに行ったと思うんですが、お友達のシュニーに聞いてみたら一緒じゃないって言うんです……」

「おばさんから話を聞いて、僕も近所の遊び場所を探してみたんだけど…何処を探しても見当たらないんだ」

落ち込んだ様子を見せながらもシュニーはイベリスの説明を次いで状況を話す。イベリスもシュニーも心配を隠しきれないのだろう、声が上ずっている。
そして早口で説明を続ける。

「普段でしたらそんなに心配することもないんですが……最近、怪しいポケモンが此処らへんをうろついているって話でしょう? だからもういてもたってもいられなくって……!」

「あ…そうだった…!」

怪しいポケモンが付近で目撃されていたことを思い出した四匹(シェリルを除く)は今度こそ顔を青ざめさせた。そんな状況下で勝手にいなくなっては、過剰でも心配してしまう。怪しいポケモンの素性が知れないこととアルカからの連絡がない今、最悪の可能性も考えられるからだ。
クローネは何か考えていたようだが、すぐに決心したような表情になり、口を開いた。

「わかった、ボクも探すよ!皆もいいよね?」

「あぁ、アルカが心配だしな」

「僕興味ないんだけど…子供嫌いだし…」

「シェリルも手伝ってくれるって!!」

「どうしてそうなるんだよ」

「あ、ありがとうございます! よろしくお願いします!! 私達も引き続き探しますので……!」

イベリスは何度も何度も頭を下げる。クローネは安心させるように笑顔を見せ、嶺緒は「それで…」と切り出し、イベリスとシュニーに問う。

「アルカが行きそうな場所で、他に探してないところとかあるか?」

イベリスは少し考え込んだ後、シュニーの方に視線を向ける。シュニーの方が一緒に遊んだりする場所や行きそうな場所になどに詳しいからだろう。
シュニーは首をひねり記憶を辿りながら口を開いた。

「う〜んと……
あと探してない場所は……【スズカゼ草原】と……あとは【シキサイの森】かなぁ……」

【シキサイの森】といった瞬間、嶺緒とエルムとルト、そしてイベリスは驚愕の表情となった。その表情には驚きと焦りが見られた。

「はぁ!?」

「えぇっ!? 【シキサイの森】!?」

「マジかよ!?」

「まあ!貴方たちあんな危ない所まで遊び場にしてたの!?」

四匹の気迫と言葉にシュニーは慌てて謝り、俯きオロオロしながらも弁明する。

「ご、ごめんなさい! だってあそこ、色々珍しい物が手に入るし…だから、その……」

「それにしたって、なんで危ないってわかっているのに…!!」

「ちょ、イベリスさんストップ。今は怒ってる場合じゃないっすよ」

「うん、怒るのはアルカが帰ってきてからだよ!」

怒った表情で今にも説教を始めそうなイベリスに嶺緒が制止をかけ、クローネも頷く。イベリスも二匹の言葉でハッと我に返り、頷く。

「【シキサイの森】の方が危険だし、そっちは俺らが探しますんで、イベリスさん達は【スズカゼ草原】の方を頼めますか?」

「わかったわ、嶺緒くん。皆さん、すみませんがよろしくお願いします」

イベリスは深々と頭を下げると、シュニーと共に駆け足で去っていく。
もしもアルカが危険な目にあっていたら。そう考えるだけでいてもたってもいられないのだろう。
クローネはその姿を見送ると、テキパキと指示を出していく。

「…とりあえず【シキサイの森】にはボク、シェリル、嶺緒で行くよ。ルトは上空からアルカを探してもらえるかな?エルムはセシリアとか宿場町のポケモン…あ、あと宿に『昴』がいたはずだから協力してくれるよう頼んでくれるかな?その後は捜索にまわって」

「は、はい!分かりました!」

「あぁ、任せとけ!」

クローネの指示に、エルムとルトはすぐに駆け出していく。エルムとルトは宿場町付近に住むポケモンだ。アルカとも仲が良く、だからこそ心配なのだろう。
クローネはそれを見送ると、シェリルと嶺緒に視線を向ける。

「ボク達も行こう!!」

「だから僕行く気ないんだけど」

「さぁ早く!急ごう!!」

「あんたもはや僕の言葉聞く気ないでしょ…」

「さっさと探しに行くぞ」

「うっさい銀色チビ。
はぁ……面倒くさい、なんで僕が…」

ダッシュで駆け出していくクローネと、その後を追う嶺緒。シェリルは顔を顰め面倒くさそうにぶつぶつと文句を言いつつも、やがてその後を追うのだった。






レイン ( 2016/01/08(金) 19:05 )