ポケモン 不思議のダンジョン 〜光の煌き 闇の誘い〜






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*第四章*Resumption of accidental encounter and fate
第三十九話*もう一度
「いやお前ソレ投げる気!?ヤバいだろ軽傷だけで済まないぞおい!?」

「僕としては好都合……だっ」

「いや何が!?」


朝御飯を片付けた後、支度をしていたシェリルと嶺緒はいつもながらの言い争いをしていたのだが、今日のシェリルは機嫌が悪いらしくだんだんと表情を歪ませていき、ついには物を投げようとまでしていた。
しかも投げようとしているのは、まさかのテーブルである。更に言うのであれば、残念ながら持ち上げて数秒で限界が来たらしく、テーブルを持ち上げている蔓のムチが重さに必死に耐えているのかプルプルと震えている。
それでも声はほとんど平静そのものであるのが何とも不可思議である。

さすがに嶺緒を見かねたクローネが、シェリルに一言述べた。

「シェリル、そろそろ支度を終わらせてねー。依頼探しに早く行こう?」

「……チッ。命拾いしたな、銀色スーパーロイヤルグレート大バカチビ」

「だぁぁぁぁぁぁぁ!!その呼び方やめろぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

容赦ない辛辣な呼び方に、もはや叫んでいる嶺緒。
シェリルはフンッと鼻を鳴らし、テーブルを元の場所に戻すと、さっさと家を出る。クローネは嶺緒に「あ、ボク先に行ってるね!」と声をかけるとその後を慌てて追いかける。

嶺緒は頭を掻き、終わっていなかった支度を再開し始める。ふと手を止め、深い溜め息をついた。

「なんか、日に日に俺の扱いが酷くなってってねぇか……?」

残念ながら、気のせいではないだろう。



























「シェリル!待って〜!!」

「なんで僕が待たなくちゃいけないのさ」

「え?ん〜……わかんない!」

「呆れるぐらい清々しい笑顔で言う内容じゃないと思うんだけど」

とても爽やかな笑顔のままのクローネを見て、溜め息が自然と洩れるシェリル。
呆れた表情のままのシェリルとニコニコと笑顔を崩さないクローネが、掲示板の前へとやってきた時だった。

「ドテッコーーーーーーーーーーーーツッ!!!」

不意に聞こえてきた聞き覚えのある叫び、というよりは咆哮だろうか。
その声の大きさにシェリルは露骨に顔を顰め、クローネはそれこそ最初は驚いた表情を隠せなかったが、少しして落ち着くと首を傾げた。
目の前にやってきたのは大工であるガレット。そして弟子であるルシアとアサザもその後ろから姿を見せる。

「あれ?ガレット、どうしたの?」

「朝っぱら大声出すとか鬱陶しいし僕の迷惑になるから止めろ」

「決めたんだ」

「え……?何を?」

「鬱陶しい」

決意のこもったガレットの言葉に、クローネは首を傾げ、シェリルはぼそりと悪口を投下する。
気にしていないのか聞こえていなかったのかは定かではないが、ガレットはそのまま続けた。

「今日からオレもここで店を開くことにしたぜ!」


「……え?」

「はぁ?」

突然のガレットの発言に、唖然とするクローネ。いきなりすぎて話をすぐに呑み込めなかったようだ。
それとは対称的にあからさまに顔を顰めるシェリル。また周りに他者が増えることが相当嫌なようだ。

「もう一度、大工の仕事をちゃんとやってみてぇと思ったんだ!あと、どうせならオメェらの役にも立ちたいから、店もすぐ傍に構えた方がいいと思ったんだ!」

ガレットの言葉にキラキラと目を輝かせるクローネ。感動したようだ。
一方のシェリルは、これまた疑い深い視線を向けている。

「とかなんとか言っちゃって、本当は他に目的とかあったりしてね」

「あ、やっぱりシェリル分かっちゃうか?兄貴はああ言ってるけど、実際は口実で……」

「実はセシリアちゃんの近くにいたいというのが本音らしいですよ」

「フン……やっぱり裏があるんじゃないか」

疑っているような態度のシェリルにルシアとアサザがあっさりと裏話らしきものを告げてしまい、ガレットはぎくりと肩を揺らし、焦ったような表情で弟子たちに向き直る。その表情に、弟子二匹は「マズい」と悟った。

「オ、オメェらッ!!余計なことをッ!!」

「余計なこと?なんだ、否定しないってことは事実なんだ。………引くわー」

「なっ……ちょ、シェリル!?待て、誤解だ、誤解なんだッ……!!」

「フン、まともに反論一つできないくせによく誤解だとか言えるよね。
どーせ好きな奴の傍にできるだけいたくて、何かあった時に助けて自分の株を上げようとかそんな魂胆だったんだろ。分かりやす過ぎなんだけど」

「うぐっ……!」

ぎくりと肩を揺らし、言葉に詰まるガレット。図星だったのか言い返せないようだ。弟子二匹は既に離れた場所へ逃げていってしまったため、ある意味周りに味方がいない状態である。

「ったく。それってただ単に僕達のこと利用してるよね。クローネ、こんな面倒くさい奴放置して今日の依頼さっさと終わらせたいんだけど」

「シェリル、ガレット可哀想だよ?」

「興味ない、ほっとけばいい」

せっかくのクローネの言葉にもシェリルは冷たく返すのみである。
その場が妙な空気になりかけた、その時だった。

「おい、ガレットじゃねぇか!!」

少し離れたところから聞こえた、覚えのある声にガレットは思わず振り返った。
少し離れた場所にいる、見覚えのあるポケモン。それを見て、ガレットは目を丸くした。

「エトル!?」

「ガレット、お前いつの間にこいつらと仲良く…?なったんだ?」

途中若干疑問形になったのは、おそらくシェリルとガレットの先程の会話のせいだろう。案の定シェリルはギロッとエトルを睨みつけた。

「おい、誰 が 「コレ」 と 仲 が 良 い っ て……?もう一回言ってみなよ……?」

一字一句強調しながら鋭く睨みつけるシェリルの気迫に完全に押されているエトル。今のシェリルを一言で表すなら、怖い。いろんな意味で、怖い。

「い、いえ……!な、何でもございません……!!」

「っていうか…何気に今、俺のこと「コレ」って呼んでたよな……」

「あ゛ぁ?」

「シェリル、ガラ悪いよ?」

「黙れ天然大ボケ電気ネズミ」

さらりと悪態をつくと、何故かじーっとガレットを睨み続けるシェリル。その視線の鋭さに危機感を覚えたガレットは慌ててエトルに話を振った。

「エ、エトルこそなんで此処にいるんだよ!?」

「そ……それは………!」

チラリと視線を動かすエトル。その方向には、いつも通りぬぼーっとしながら、今日はテアの店の手伝いがないためにここで働いているラクシャとラシアに指示を出しているシュロの姿。
と、シュロの視線が此方へと向きそうになったのを察して慌てて目を逸らす。

「し、仕方ねぇんだよ!!じ、事情ってもんがあってよぅ……!オレだって……オレだってこんなとこいたくねぇんだよう!!
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!!」

そう言って、号泣。しかも嘘泣きではなく、本気で泣いている。遠目に見ているラクシャとラシアは、その表情から間違いなくドン引きしている。相変わらずシュロはぬぼーっとしている、つまり気にした様子など微塵もない。

「………何か知らんが、深い訳がありそうだな」

何を悟ったか、同情の声色でそう呟くガレット。これ以上詮索しない方がいいと考えたようである。
クローネはオロオロとしているし、シェリルは何故かバカにしたような表情を浮かべている。そしてついでに「ざまあみろ」とまで口にしている。性格が悪いと言われようが、これがシェリルなのである。

その時、支度を終えた嶺緒がやってきた。この状況を見て、心なしか表情が呆れているように見える。

「……なんだ、このカオスな状況」

「あ、嶺緒!えっとね、ガレットが店になってよろしくって!」

「おい待てなんだその意味不明な説明」

「…筋肉セシリア好き変態バカが此処で店を開きたいんだってさ」

「その呼び方やめてくれねぇか……」

クローネのわけのわからない説明に嶺緒はツッコみ、次に説明したシェリルのガレットの呼び方の酷さに、ガレットは精神的にダメージを受けたようである。
どちらにしろ仲間の酷い説明の仕方に、嶺緒は呆れたように溜め息をつく。

「……で?結局どういうことなんだ?ガレット」

「あぁ…とりあえず此処で店を開きたいっていう話をしてたんだ。
それで……今日からオレも此処で店を開きてぇんだが、いいか?」

「とかなんとか言ってきながら、実はもうすでに店を建ててたりするんだろ?当たってほしくない勘だけど」

「おう、よくわかったな!実はもう建ててあるんだ」

「…………」

黙り込んだシェリルの視線は実に鋭いものである。その睨みに、顔を引きつらせ冷や汗が止まらないガレット。

「ねぇ、何処にあるの?そのお店!」

蛇に睨まれた蛙のようにすくんでいたガレットをある意味救ったクローネの一言。ガレットは内心(助かった…)と思いながら後ろを振り向いた。
ガレットの指差した建物は、四角いシンプルなコンクリートの建物に、柱の形や建物の上にガレットのいつも持ち歩いている赤い角材と同じものが使われていた。
ガレットはフッと口の端を吊り上げ、少し胸を張った。

「どうだ!アレがオレの店、ドテッコツ組だ!!どうだ、カッコいいだろ!!」

「わぁ……すごい!カッコいいねぇ!!」

キラキラと目を輝かせながらクローネが言う。その反応に、ガレットは「だろ!!」と胸を張って言う。
嶺緒はクローネの大袈裟な反応に肩をすくめつつも表情を変えずに呟く。

「まぁ…出来栄えはすげぇと思う」

「コメント不可」

「おいシェリル、そのコメント不可ってなんだ」

「僕の趣味じゃないしもう正直ドテッコツって感じアホらしいくらい丸出しだけど、まぁ僕の家じゃないし興味ないし個性に溢れてていいんじゃないかなと思いました、まる」

「作文!?」

「さすがシェリル、すごい棒読みだね!!」

「クローネ、そこ感動するところじゃない」

ツッコミを繰り返す嶺緒に、ガレットは同情の目を向ける。

「ってなわけで、今日からよろしくな」

「うん!ガレットがやる気になってくれたならボクも嬉しいよ!」

にっこりと笑顔で歓迎するクローネに、「セシリアと共にいたいから」という不純な動機もあったガレットは背徳感を覚えつつも受け入れてくれたクローネに「ありがとな」と礼を述べる。

「ただ……やっぱり、だいぶブランクがあるからまだ自信がなくてな」

先程までの勢いはどこへやら、自信なさげに俯くガレット。やはり腕が落ちているのを切実に理解しているだけあって、すぐさま自信を取り戻すのは難しいようだ。
クローネはこの言葉に、首を横に振って真剣な表情で力説した。

「そんなことないって!だってボク達の家だってちゃんと建ててくれたじゃないか!」

「そうなんだが……ただ商売するのならもう少し腕を上げたいところなんだ。それにオレ自身、まだまだ商売することを納得できる腕前じゃねぇと思ってんだ。せめてもう少し腕を上げなくちゃ納得できねぇ。
ここのところ、毎日大工の技を磨くようにはしてるんだが……なかなか難しくてよ。せめて“じょうぶなツタ”さえあればなぁ……練習もできるし、大工としての勘も取り戻せそうなんだが……」

「食べ物?」

「アホか。少し空気読めば、電気ネズミ」

「普段空気を読まないお前が言うな」

クローネのボケにツッコむシェリル。そしてそのシェリルの一言にツッコむ嶺緒。
クローネは何故ツッコみの連鎖が起きたのか理解できずに首を傾げたが、ガレットに向き直ると唐突に尋ねた。

「とりあえず、“じょうぶなツタ”があればいいんだよね?」

「お、おう」

「なら任せて!ボク達がその“じょうぶなツタ”を取ってくるよ!!」

「えっ……!?い、いいのか……!?」

クローネの発言に驚きを隠せないガレット。クローネは笑顔で「うん!」と頷き、シェリルは「また面倒なことを……」と何気に舌打ちしている。嶺緒はそれを見て溜め息をつき、肩をすくめる。

「……まぁ、お前は練習に専念したいだろうし、それぐらいのことなら俺達に任せとけ」

「嶺緒……!あ、あぁ……助かるぜ!!」

「で?面倒事はさっさと終わらせたいし単刀直入に聞くけど、入手方法はもちろん知ってるんだよね?というか、知らなかったら殴るけど。何かで」

「知ってるから殴らないでくれるか……
“じょうぶなツタ”は依頼のお礼でもらえる。依頼のお礼が“じょうぶなツタ”になっている依頼を選んでクリアすれば貰えるはずだ」

「わかった!じゃあ依頼をクリアして“じょうぶなツタ”を手に入れたらガレットに渡しに行くね!!」

「あぁ、助かるぜ。ありがとな」

「ううん、任せてよ!」

「まぁ、困った時はお互い様だ。気にすんな」

「これで腕が上がらなかったらフルボッコね」

「やめてくれ……」

シェリルは一瞥するとさっさと掲示板に向かって歩いていく。クローネはガレットに「じゃあ頑張ってね!」と笑顔を向けるとシェリルの後を追う。嶺緒は肩をすくめると「まぁ頑張ってな」と言い、シェリル達の方へと歩いていく。
ガレットも「あぁ」と応答すると、自分の店へと戻っていった。

そして、先に店に戻っていたルシアとアサザを余計なことを言った罰としてガレットがボコボコにしていたのは、ここだけの話である。

レイン ( 2014/07/08(火) 23:08 )