ポケモン 不思議のダンジョン 〜光の煌き 闇の誘い〜






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*第四章*Resumption of accidental encounter and fate
第三十六話*首飾り
「「「…………」」」

「〜♪」

【林の森】からバッジの能力を使ってポケモンパラダイス≠ヨと戻ってきた『アストラル』と真珠、そして真珠によって捕まえられているスバメのラクシャとパチリスのラシア。
二匹は完全に目を回しており、戦闘不能である。
それを何とも言えない表情で見ているシェリル、苦笑しているクローネ、もはや完全に表情から血の気の失せた、乾いた笑みを浮かべている嶺緒。そして、清々しいほど良い笑顔を浮かべている真珠。


……何が起こった。

エルムとルト、セシリアにシュロはそうツッコミを入れたくなると同時に、この状況が呑み込めず首を傾げた。

「あ、セシリーだぁ!おかえり〜!」

「え、えぇ……」

「あー……あのよ、いったい何があったんだ……?」

「なんだか状況がよくわからないんだけど……」

「……あぁ…まぁ、いろいろとな」

ルトとエルムが遠慮がちに尋ねると、嶺緒が乾いた笑みのまま此方に視線を向け、短く応答した。

「姉さんの首飾りを盗ったのがこの二匹でな……まぁ、姉さんが粛清程度の気持ちでギガインパクトで攻撃してな、二匹ともこの有り様だ」

「「「「…………」」」」

何故粛清程度の気持ちで、ポケモンの技ではトップクラスの威力を誇るギガインパクトを使用したのだろう。おそらくこの場にいる真珠以外の全員がツッコみたくなっただろう。

「攻撃した理由がアホくさい」

「真珠って本当に強かったんだね……」

シェリルは枝でラクシャとラシアをツンツンとつつきながらさらりと酷いことを言い、クローネは苦笑しながら、鼻歌を歌いながら取り返した首飾りを大事そうに抱えている真珠を見て呟く。

「まぁ、見た感じそんな風には見えないからな……」

「真珠は強いわよ。私と互角以上に戦えるレベルだもの」

「あぁ、ついでに俺より強いからな」

「はぁっ!?マ、マジかよ……」

チーム『アストラル』の中で強いと名を挙げるとすれば、真っ先に思い浮かぶのがセシリアと嶺緒だ。二匹とも長く旅を続けてきたためか、並以上の実力であることは確かだ。その二匹が自身より強いと認める真珠。
その真珠は今、首飾りを太陽に翳し、その光を見てへにゃりとした笑みを浮かべている。確かに嶺緒の言う通り、傍から見ていれば強そうとは言えないだろう。ルト達が疑心を持つのも仕方がない。
もっとも、シェリルとクローネは真珠の恐ろしさを少しだが目の当たりにしたので、もはや疑心を持つことなどなかったが。

「わぁい!間違いなく本物っ!本当に取り返せたねぇ〜!」

頬を緩ませながらそんなことを無邪気に言っている真珠からは、やはりそんな連想を抱くのは難しいのだろう。エルムとルトは怪訝そうな表情をしている。


「う〜っ………」

そんな時、意識を取り戻したのはラクシャだった。ふらふらと千鳥足ながらも、どうにか起き上がった。

そして、周りをぼんやりと見つめたあと、ふと視線が真珠を捉えた瞬間ラクシャはガタガタと震え出した。
どうやら真珠のギガインパクトはラクシャの心にかなりの精神的ダメージを与えたようである。

「あわわわっ………!?」

「ん〜?あ、起きたんだぁ〜」

にっこりと邪気の欠片も感じられないような笑顔で話しかける真珠に、余計に怯えているラクシャ。
ラクシャは慌てて隣でまだ気を失っているラシアを起こそうとする。

「ラ、ラシア…!おい起きろ……!
起きろって〜…!お願いだから起きてくれぇ〜……!!」

ガクガクと震え、顔を青ざめさせながらラシアを思いっきり揺らしている。
すると、ラシアの頬の電気袋からパチリと電気が軽くほとばしった。瞬間、元々青ざめていたラクシャの顔がまさに顔面蒼白という言葉が相応しいほどに変わる。

「…るせぇ」

刹那、電撃をラクシャに向かって放つ。
その声は、彼が気絶する前に聞いた少し低めの少年らしいものではなく、とても低い声だった。そのことからしても、顰められた表情からしても、今彼が途轍もなく不機嫌だということが窺える。

「いって〜!!何すんだよ!?」

「うるせぇっつってんのが聞こえねぇのか。お前の声は響くんだから少しぐらい静かにしろっていつも言ってんだろーが、さっさと直せ大バカが」

「いや毎度のことながら思いっきり威圧的なんだけど!?しかも電撃毎回喰らうし!お前こそその低血圧直せよ、起こした時に毎度毎度ビビる羽目になってんだろーが!」

「無理」

「即答かよ!?」

先程までの怯えた様子はどこへやら、ラシアと言い争いを続けるラクシャ。
それを見て、ポカンとしている『アストラル』の面々。

いつまで経っても言い争いを止めない二匹に、嶺緒は呆れたように溜め息をつき、声をかけた。

「……おい、お前ら」

「っ!?」

いきなり話しかけられ、ビクリと肩を揺らすラクシャ。
怯えた目で此方を警戒している様子から、どうやら真珠の攻撃が相当なトラウマになっていたらしいことが窺えた。

「おい…そんなにビビんなくても姉さんは多分もう攻撃はしないと思うぞ」

「ね、ねねね姉さんッ!?お、お前あの超怖い奴の弟かよッ!?」

「だからビビんなって。別にお前らを取って食おうってわけじゃねぇんだからよ」

「ヒィィィィィィィィッ!?」

「……なぁ、俺の話聞いてる?」

嶺緒が呆れたような表情で尋ねるが、ガタガタと震えて未だに悲鳴を上げ続けている様子から、どうやら聞いていないものと推測される。

と、いきなりラシアが電撃をラクシャに向かって浴びせた。突然の攻撃に、「ぴぎゃっ」という奇声を上げ倒れ込むラクシャ。
ラシアは顔色一つ変えずに嶺緒達に向き直ると、頭を下げた。

「すいませんでした。こいつ、見栄張ることが多いんですけど、根は小心者なんでビビりなんです」

頭を上げると、今度は真珠に向かって頭を下げた。

「貴方ですよね、ラクシャが首飾りを盗った相手は。本当にすみませんでした」

「ん〜?あぁ、いいのいいのっ!コレさえ戻ってくれば、別にいいんだよねぇ〜!」

無邪気な笑顔をラシアに向け、愛おしそうに首飾りを見つめる。その仕草のみで、いかに彼女がこの首飾りを大切にしているのかが窺えた。

ラシアはもう一度深く頭を下げた。真珠は優しげな笑顔を向けると、ラシアに頭を上げるよう促す。頭を上げたラシアは少し悲しげな表情をしていた。

「本当にすみませんでした。……でも、ラクシャも本気で悪気があったわけじゃないんです。俺のせいなんです」

その言葉に反応したのは、珍しくもシェリルだった。

「へぇ、訳ありなんだ。もっとも、人の寝込みを狙うような盗人に同情する気なんてこれっぽっちもないけど」

相変わらずの冷たい対応に、嶺緒は「空気を読め」と顔を顰め、クローネは苦笑する。
しかし、ラシアはそんなシェリルの態度にも表情を動かすことはなかった。むしろその通りだと言わんばかりだった。

「…まぁ、こいつはいつもこんな感じだから放っておいてくれ。
えっと…ラシア、で合ってるか?」

「はい、そうです。俺はラシア・セルデ。種族はパチリスです。
こっちの、のびてるスバメはラクシャ・カフィアです」

「ラシアとラクシャ、だな。
……とりあえず、その訳とやらを聞かせてもらえるか?」

嶺緒の言葉に、ラシアは「はい」と肯定の意を示し、頷く。

「…俺達は旅をしてます。基本はダンジョンとかで木の実を拾ったり売れそうな物やお金を探したりして、その日しのぎで何とか生き延びてるんです。
……でも、ここのところ何も収穫が得られなくなってきてたんです。ダンジョンに行っても極々僅かの木の実しか拾えなかったり、酷い時には何も拾えなかったりして、生活が厳しくなってきてるんです。それでも俺達はまだ持ち合わせがあったし、数日は余裕で過ごせるぐらいだったんです」

「しかし?」

そこで黙り込んだラシアに、続きを求めたのはシェリルだ。

「…何故、続ける言葉が「しかし」なんですか?」

「そうじゃないと事の転結がおかしいだろ。常識」

「………」

ラシアはその表情に苦笑を浮かべる。
嶺緒はシェリルの意見にこそ賛成なものの、変わりもしないドライな口ぶりに呆れた表情を隠さずにはいられない。
クローネと真珠に至っては、何故それが常識だとシェリルが言っているのかが理解できていない。
ルトも嶺緒と同じように呆れたような表情を浮かべ、エルムは真剣な表情を崩さずにラシアの話に耳を傾け、セシリアは表情一つ変えずに傍観している。

「そうですね、確かに「しかし」から話を続けるのが妥当ですね。
……しかし、ある日ラクシャがお金を全てだまし取られてしまったんです。ラクシャが青ざめながら帰ってきた時は正直俺も驚いたし、話を聞いて焦りましたが。相手を問い詰めようにも既に逃げられた後でした。 ラクシャはその事で酷く自分を責めました。俺は気にしなくていいと言ったんですがね、聞く耳を持ちませんでしたよ。
それからしばらくはダンジョンを攻略しながら何とかギリギリの生活をなんとか続けていました。一日一食でもありつけたなら幸せな方でした。
でも、さすがに俺達も限界が来ました。俺が耐えられなくて、倒れたんです。別に命に関わるほどではありませんが。
そんなある日、ラクシャが持ってきたものは一日宿で泊まれる程度のお金だったんです」

「……つまり、盗ってきたってわけだね」

「………えぇ。「相手にはバレてない。こんな事してでも飯を食わなきゃオレ達が死んじまう。オレのせいでこんなことになったんだから、せめてお前だけでも」……と。
俺はその時……ラクシャを責められなかった」

俯くラシア。その表情には後悔と悲痛が見てとれた。

「確かにお金を取られたのはラクシャのせいかもしれない。でも、そのことでラクシャをそこまで追い込んでしまったのは……多分、俺だから。俺がいたからこそ、ラクシャはずっとこの事で悩み続け、俺が倒れたことでその思いがさらに強くなったのだ、と。
だから、俺にラクシャを責める資格なんてない。そう思うと、何も言えなかったんです」

唇を噛み締めるラシア。
誰も、何も言わなかった。

「俺はラクシャを止められなかった。だから、ラクシャはまた他人の物を盗んだんだと思います。そこの方の、首飾りを。それ、高そうだし、ラクシャはキラキラした物が好きだから。
……すみません。本当は親友なら最初に止めるべきだった。今回は、ラクシャとちゃんと話し合い、その首飾りは返しに行くつもりだったんです」

「知ってるよ。だってあんたらの会話を聞いちゃってたわけだし」

肩をすくめるシェリル。
真珠がキレたあの時、ラシアが言いかけていた言葉。



『つーか俺達はこの首飾りを返しに来たんだろ。何そのまま売ろうとしてんだ』



クローネも嶺緒も真珠に気を取られすぎて気づかなかったその言葉は、聞いていたシェリルがこんな調子なのでスルーされていたのだ。
つまり、その時点でもうシェリルとしては彼らは倒すべき対象ではなく、ただの他人へと成り下がったわけである。

「僕としては別に返しにくるなら余計な干渉しなくて済むと思ったんだけど。何だかよくわからない展開に入っちゃったし」

「えー…それならそうと教えてくれればよかったのに……」

「あんたらが聞いてないのがわるい。僕のせいにしないでよね」

むぅ、と頬を膨らませるクローネにもいつものように冷たい対応しか返さないシェリル。
いつものような雰囲気に戻り、嶺緒はほっとすべきなのか呆れるべきなのかわからず、ただ苦笑するのみだった。

ラシアはラクシャに視線をやり、未だに目を回している様子を見て、呆れたように溜め息をついた。
そして、頬の電気袋から電気をほとばしらせると、次の瞬間ラクシャに向かって電撃を浴びせた。

「ぐぎゃぁぁぁぁぁあッ!?」

妙な奇声を上げるラクシャ。電撃を喰らったせいか、目は覚めたようだ。
そして電撃を浴びせた張本人であるラシアを、涙目ながらもキッと睨みつけた。
しかし、睨まれたラシア自身は表情一つ変えずにぽつりと呟いた。

「……よし、蘇生完了」

「…って、勝手に人を死んだことにしてんじゃねえよ!?つーかさっき俺を気絶させたのテメェだろーが!なんで気絶させるだけの電撃撃ってんだよ!?」

「うるさいのが三割、ムシャクシャしてやったのが七割だな」

「うわ超理不尽――って痛ぇ!?叩くなよ!!」

ラシアはラクシャを無視すると、真珠へと向きなおり、口を開いた。

「あの…えぇっと」

「ん〜?どしたの〜?」

「………姉さん、名前」

「……あぁ!そうだったねぇ〜!私の名前は月影 真珠!よろしくねぇ〜!」

「あ、はい。それであの、真珠さんに聞きたいんですが」

ラシアの言葉にきょとんとして首を傾げる真珠。何を尋ねられるのか見当もつかないようだった。

「その首飾り、そんなに大事な物だったんですか?」

「へ?」

素っ頓狂な声を上げる真珠。まさかそんな問いだとは思わなかったらしい。
その問いは嶺緒も尋ねてみたかったものだった。
見たことがあるような、無いようなその首飾り。真珠の性格上、大切な物は肌身離さず持っているはず。
なのに首飾りの記憶が曖昧なのは何故なのか、嶺緒は考えていたのだ。

真珠は少しの間きょとんとしていたが、やがてにっこりとあの無邪気な笑顔を向けた。

「コレはね……琥珀兄(こはくにぃ)と嶺緒に貰ったんだよ」

「え?」

素っ頓狂な声を上げたのは他でもない嶺緒だった。
彼としては首飾りについての記憶が曖昧だったためにその質問に耳を傾けていたのだ。しかし、自分が送ったものならもっと記憶に残っていてもおかしくはないとだろう。

「やっぱり覚えてなかったかぁ〜……最初に首飾りのこと話した時、忘れてたっぽいからそうかなぁ〜とは思ってたんだけどね〜」

ケラケラと笑う真珠。忘れていたことに対してはさして何とも思っていないようだった。

「私の誕生日プレゼントに、嶺緒がわざわざ遠くまでアクアマリンを探しに行ってくれたんだよね。しかもこのアンバーは、私達兄弟とは絶対に慣れ合おうとしなかった琥珀兄がくれた初めてのプレゼントだった。琥珀兄を前へと進めてくれたのは、他でもない嶺緒。これは私にそれを初めて実感させてくれた、大切な宝物なんだよ〜」

嶺緒は何も言わなかった。しかし、思い出していた。
あの首飾りは、自分が初めて外に出て探しに行ったアクアマリンを使って作られたものだった。家の規則を破り、遠くまで探しに行ったアクアマリン。
途中ダンジョンで野生のポケモンが襲ってきた時、嶺緒を探し、守るために家の規則を破ってまでわざわざ助けに来てくれた琥珀。さらに、どうせなら、と自分が大切にしていたアンバーまでくれたのだ。
大切な思い出であるとともに、上の兄弟達にこっぴどく叱られ(琥珀は叱られても飄々としていたし、しっかりドライな口調を見せつけていたが)しばらくは家から出ることすら許されなかったという、酷く苦々しい思い出でもあるのだ。忘れていたのは、おそらくそのトラウマがあるからだろう。

ラクシャはばつが悪そうに表情を歪め、しかしはっきりと態度に示してきた。頭を下げ、謝ったのである。
これには全員が驚いた。いきなりのことに、親友であるラシアですら驚いている。

「わるかった。そんな大切な物だって知らなかったんだ。でも、盗んだことに変わりはねぇ。オレは、ちゃんと罪を償う」

一言一言、しっかりと自分の心に刻み込むように謝るラクシャ。
真珠は謝られたことにきょとんとしていたが、いつものようににっこりと笑顔を見せる。

「別にいいよ〜、私はコレが戻ってくれば別によかったんだしね〜!」

それでも頭を上げようとしないラクシャに、どうしたもんかといったような表情になった後、少ししてからハッと表情を輝かせた。何か思いついたようである。

「そうだっ!どうせなら、クローネのポケモンパラダイス≠フ夢を手伝ってあげてよ!!」

「「「はぁっ!?」」」

「えっ……」

突然の真珠の提案に、素っ頓狂な声を上げたのはシェリルと嶺緒、そしてルトだ。
ちなみにシェリルが素っ頓狂な声を上げたのは、いきなりすぎる提案だったからということもあるが、一番大きいのはまた新しい関係者が増えるかもしれないという事実に対しての不満だろう。

クローネも驚いた声を上げてはいるが、それ以外にも、真珠に依頼を受けたその日の夜にふと何気なく口にしただけの自分の夢の話を、真珠が覚えてくれていたということに歓喜していたのもある。

「ポケモンパラダイス=c…?なんだ、それ?」

ようやく頭を上げたラクシャは訝しげに尋ねる。ラシアも怪訝そうな表情を見せている。

「えっとね……仲間達といろんな冒険をして、皆で力を合わせて暮らせる、まるで楽園のような場所をボクはつくりたいんだ!それがポケモンパラダイス≠セよ!!」

「へぇ〜……」

「随分と規模の大きい夢なんだな」

「そのせいで他人が増えすぎてとっても迷惑なんだけどね」

「そんなにメンバーいねぇだろうが。
……姉さん、いいのか?そんな簡単に許しても。クローネもこいつらを仲間として引き入れていいのか?そして何より、ラクシャとラシア、お前らはどうしたいんだ?」

これ以上ほったらかしにすると、また話が勝手にややこしい方向へと進んでしまうと察した嶺緒は、さっさと話をまとめる。

「私はいいよ〜!提案したの、私だし〜!」

「ボクもいいよ!仲間が増えるのは大歓迎だよ!!」

「オレ達は……正直、行くあてがねぇしな……」

「あぁ。ラクシャ、お前が決めろ。俺はついてくから」

ラシアの言葉にラクシャはこくりと頷くと、真剣な表情でクローネに向きなおり、口を開いた。

「もしよければ、オレ達をポケモンパラダイス≠入れてくれ。
……ただし、オレ達ははっきり言って戦闘が苦手だ。だから、戦闘要員以外で頼めるか?」

「うん!もちろんだよ!!よろしくね、ラクシャ!ラシア!」

クローネの笑顔につられて、ようやく二匹は笑顔を見せたのだった――































その日の夜だった。

ラクシャとラシアはシュロの手伝いとして働くことになり、しばらくは宿に泊まり、テアの店で働いて勉強することとなった。

エルム達は帰り、ラクシャ達は宿へと向かい、シェリル達は既に寝静まっている。

そして静まり返った十字路を歩いていく者がいた。
静かに歩いていくその者の足取りはひどく厳かで、そして決意あるものだった。
ふと、彼女は歩みを止めた。それと同時に、彼女に降りかかってくる言葉。

「……もう行くのか」

低めの少年のような声色。声変わりしてしまったのだろう、聞き慣れた高めの声ではなくなってしまったが、それでもどこか変わらない優しくて芯の強いまっすぐな、独特の響きを持つ声。
それは紛れもなく、彼女にとって大切な弟である嶺緒の声だった。

「……うん、とりあえず嶺緒の無事も確認できたし、首飾りも取り返せたしね〜。それに、私はもっとあの人達の情報が欲しいし」

「……そうか」

真珠の声はいつもの能天気さを含みながらもどこか淡々としており、嶺緒もまた淡々と言葉を紡いでいる。

「……嶺緒には、本当に助けてもらってばっかりだねぇ。昔も、今日も………あの事件の日も」

「………………」

「それに比べて私は……怖くて、動けなくて……情けなかった。
でも…今度は、何もできなかった私が皆を助けたい。また皆で……笑い合いたいから。
だから私は……旅を続けるの」

「……そうか。姉さんが決めたことなら、俺は止めない。
……でも、何かあったら少しは俺に頼ってくれよ」

「………ありがとう、嶺緒」

真珠はにっこりと笑って今度こそ嶺緒に背を向けた。そしてそのまま去っていく。
それを見ながら、嶺緒の頭の中にはとある記憶が巡っていた。
放浪癖があり、よくふらふらと出かけていく姉の背中を見送った日々。家の規則に縛られず、勝手に出かけては遠い地方へと足を向け、いつの間にか帰ってくる、そんな姉の背中を見て育った嶺緒は、いつも外の世界へと憧れていた。
初めて外に出てダンジョンに挑んだ時、モンスターハウスに入ってしまって絶体絶命に陥った時、改めて姉の凄さを思い知った。こんな恐怖や強い敵達と戦い、笑顔で帰ってこられる姉を、ただただ凄いと思った。

琥珀に助けられた時もそうだった。嶺緒を助けに現れたとともに、いとも簡単に倒した琥珀。顔色一つ変えずにモンスターハウスのポケモンを全滅させてしまった。

姉や、兄のように強くなりたい。

小さな頃の、大きな願い。
それは今、バカげた夢だと笑われるかもしれない。
それでも。

「兄さんや姉さんのように、他者を護る力を、俺は手に入れたい」

そんな願いを口にすれば、言葉は不意に吹いた風にのって消えていった。

■筆者メッセージ
最後何が言いたいのかわからなくなった(待て
なんだかんだで真珠編が終わりましたね。
まだまだオリスト突っ込んでいきたいと思ってます(((

来週は懇談週間なので頑張って進めます←
レイン ( 2014/06/08(日) 00:57 )