ポケモン 不思議のダンジョン 〜光の煌き 闇の誘い〜






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*第四章*Resumption of accidental encounter and fate
第三十三話*真珠 と 嶺緒
* Side:嶺緒 *



俺は今、途轍もなく驚いている。
理由は単純明快なものだ、目の前にいるとあるニンフィア――つまり、俺の姉貴のせいなんだがな。

月影 真珠。

上から数えて四番目のきょうだいであり、長女でもある。
俺の呼び方は真珠姉さん。まあまあ歳の離れた姉弟なんだが、俺はこの姉に毎度毎度苦労させられた記憶しかない。

…しかし、まさかこんな所で会えるとは思わなかった。

「「「 えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 」」」

「えっ……!?」

「……マジか」

俺の言葉におそらく今このニンフィアが俺の姉だということを知ったのだろう、クローネとエルムとルトは大声を上げ、セシリアは驚きを隠せずに短い声を上げてる。
シェリルに至っては、多分だが俺に同情の目を向けている。…あ、なんか悲しくなってきた。

ちなみに、俺がクローネに似ていると言っていたのは紛れもなく真珠姉さんのことだ。あの天然ぶりを見てりゃわかると思う。

真珠姉さんは驚きに満ちていた表情を元通りの笑顔に戻すと、俺に言葉をかけた。

「…懐かしいねぇ、嶺緒。もう何年も会ってなかったからね〜」

「……じゃねぇよ!?なんで姉さんがここにいるんだよ!?」

俺の言葉に動じるような姉さんじゃない。ケラケラと笑いながら答える。…つか、なんで笑ってんだ。あ、いつものことか。

「え、依頼を出したからだよぉ?クリスタルを持ってきてくれっていうね〜」

「はぁ!?何でそんな依頼出してんだよ!?」

「このクリスタルには夢と希望と願いが――」

「ンなわけあるかボケッ!!」

「え〜本当なんだよ?」

「いや普通に考えてあり得ないだろ!?つーか姉さんの発言の90%以上がファンタジック過ぎんだよ!!」

そうだ。姉さんの「本当」は信用ならない。ファンタジックな脳内妄想癖があるのだろうか、姉さんはいつだってわけのわからないことを言って(しかも本人は全部本気で言ってやがる)兄弟全員(主に俺だけど)を困らせてきた。ちなみに本人に変なことを言っている自覚はこれっぽっちもない。

「このクリスタルがあれば私の願い事も――!!」

「いや叶わねぇだろ」

なんて無茶振りをクリスタルに要求してんだ。っていうか姉さんの頭の中って何なんだ、花畑なのか。
……あぁ…シェリルにセシリア、そしてルト、その哀れんだような目をやめてくれ。

「っていうか」と不意にシェリルが口を開いた。毎度のことながら空気を読まない奴だな……

「あんたら姉弟だったんだ」

「ん?あぁ、まあな。……まぁ俺がまだ家にいた頃、姉さんは酷いくらいの放浪癖があるし、俺は逆にあまり外に出ないタイプだったから、帰ってきた時に会うくらいだったんだけどな。そのせいで見たこともない進化をして帰ってきたわけだが。
……まぁいろいろあって俺が旅に出てからは一度も会ってない」

「…まぁ、どうでもいいけど。ってことはあんたの名前は『月影 真珠』っていうわけ?」

シェリルの疑問に、あることを悟った俺はジトッと姉さんを睨む。

「……姉さん、ちゃんと名乗らなかったのか」

「えへ、忘れてた〜」

「謝る気皆無だろ」

何が楽しくてそんな笑みを浮かべてんだあんたは。
そこは素直に謝れよ……まぁ、常識の通じない相手だから元々期待はしてないんだが。

「またまた改めまして、月影 真珠だよ〜!よろしくねぇ!」

「いいかげんにしてくれ姉さん…」

「何だろ…今だけならあんたに同情できる気がする」

「ははっ…全然嬉しくねぇ」

あ、ヤバい。これだいぶ虚しいぞ。

とにかくそれは置いといて。話してたら長くなる。

「にしても、まさかこうしてまた出会うとはな……」

「うん、そうだね〜。はっきり言って私もけっこうびっくりしてるよ〜」

「クリスタルが欲しくて依頼を出すなんて、姉さんらしくないな」

「む、それはどういう意味だよ〜」

頬を膨らませ抗議する姉さん。
クローネ以上に表情が緩いせいか、全くもって怖くない。
そしてその質問はそのまんまの意味だよ、間違いなくな。

「昔の姉さんならどんな危険なとこでも笑顔のまま自分で取りに行く奴だったから」

「…………」

黙っているあたり、何気に自覚はあったんだな、意外だ。
俺は自分の勘で姉さんの考えを推測し、それを言うため口を開いた。

「どうせ、あの人達の噂でも集めてたんだろ。そのためにこうやって時々依頼を出して、何か噂がないか調べてる。違うか?」

「……うぅ、嶺緒は毎度のことながら鋭いねぇ…でも、今回は半分正解だよ〜」

「半分……?」

「そう。半分は実力のある冒険家を探してたの。どうしても、どうしても取り返してほしい物があるんだ〜…」

真面目な声色で呟く。珍しい。
姉さんが真面目な声色なのも珍しいが、真面目な表情なのも珍しい。……いや、傍から見れば表情が緩すぎるため全くもって真剣な表情になど見えないのだが。

「取り返して、って……なんかあったのか?」

「この前、盗まれちゃったの〜…大切なアンバーとアクアマリンを使った首飾りがね」

「アンバーとアクアマリンの…?姉さん、そんな物持ってたっけか?」

俺が覚えている限りでは、そんなものを持っていた記憶は無いはずなんだが……と、その前に俺はアンバーもアクアマリンもどんな宝石なのかすら知らなかったりする。
こういう時は専門家に尋ねるのが一番だ。
何でかきょとんとしている姉さんは放っておき、腕を組んで此方を傍観しているやたらと宝石に詳しい奴に話しかけた。

「なぁシェリル」

「何、さっさと言わないと吊るすよ」

「何でそうなる!?」

つーかどこに吊るす気だ!!?……じゃなくて!!

「アンバーとアクアマリンってどんな宝石なんだ?」

…つーかその呆れたような目はなんだ。
そして仕方ない、みたいな感じで溜め息をつくな。

「仕方ないな、チビのために軽く説明してやるか」

「チビっていうな」

いいかげんにしろ、オレは種族の割には小さくないし、お前からすればそりゃ小さいかもしれんがそれは種族上なんだ……!!
俺の言葉を無視してシェリルは宝石の説明を始めた。

「まず、アンバー。和名は琥珀。硬度は2〜2.5ぐらい。水、太陽、乾燥、熱、汗、塩、砂・土が弱点だね。色は黄色、オレンジ、茶色で、宝石言葉は抱擁、大きな愛、誰よりも優しく、家族の繁栄・長寿、家長の威厳、帝王だよ。
約3千万年前の松柏科の樹脂が化石化したもの。摩擦すると電気を発し、温めると溶けて芳香を放つ。燃やすとアンバーグリス…つまり龍涎香のような香りを放つね。
アンバーは精神を安定させる効果があると伝えられていて、予言やテレパシス能力の開発など、霊的向上を促すパワーが秘められている。
また、感情が高ぶってしまった時に指で軽く擦ると、心を静め落ち着かせてくれるらしい。太陽のエネルギーを含み、元気のない時に身につけると生命力が高まり、気力が沸いてくる。また、過去の恐怖心や罪意識を楽にしてくれ、不安や絶望感を追い払い、生きる喜びを与える。
アンバーをこすると静電気を帯びる帯電効果があることから良い気を引き付けるとされ、金運、仕事運、人気運が良くなると言われるよ。
アンバーの代表的な色である黄色はコミュニケーションの色と言われ、内気な性格を防ぐとも言われてるし、邪気を払う効果もあるとされ、アンバーを子供が持つと悪霊や災、病気から守り、大人が持てば健康と長寿につながるとされているね。
とある異国では、アンバーをプレゼントする事は「幸運を贈る」という意味を持ち、積年の愛が花咲くと言われ、別の異国では結婚10年目にアンバーを贈る「琥珀婚」という風習があるよ。東洋では古くから薬として使用されているね。あぁ、あとシルバーとの相性は良くないよ」

お、おう………いつもながらものすごい長い説明だ。とにかく、アンバーの色は黄色とかが多いんだな。説明があまりに詳しいことに加え長ったらしいので、理解できた部分が短いんだが。
シェリルのこんな一面を知らなかったエルムとルト、セシリアは驚いている。
黙っていると、シェリルは次にアクアマリンの説明を始めた。

「次にアクアマリン。和名は藍玉。色は水色で宝石言葉は幸福をもたらす、富、健康、幸福。
幸せな結婚をさせる力があると伝えられている。 裕福で穏やかな生活をもたらす石であり、恋の邪魔を排除し、夫婦の愛情を甦らせる愛の石だって。 恋愛においては亀裂の入った愛を修復してくれる。恋人同士・夫婦喧嘩の仲直りにオススメ。
精神を鎮めて穏やかで平和な気持ちに導く。 内面の優しさを引き出し、精神的安定へと導く。
アクアマリンは船乗りたちの間では航海安全や豊漁のお守りとして大切にされてきた。
ネックレスとして使用するのがオススメ。
弱点は熱、衝撃、油脂で、硬度は7.5〜8ぐらい」

……うん、なんかシェリルって宝石のことになると妙なくらい饒舌だな。これを聞いていて思ったことだ。なんとなく表情がいきいきとしている気がする。…普段あんなに話すのを面倒くさがってるくせにな。

とりあえず、アクアマリンは水色の宝石っていうことだな。
すると姉さんは呆けた表情で「ほぇ〜」と妙な声を上げた。そしてにっこりと笑顔でいつもの間延びした話し方でシェリルに話しかけた。

「シェリル、だっけ〜?すごいねぇ、宝石博士だね〜!」

「何その称号。アホくさ」

「えぇ〜カッコいいじゃん〜!キラキラでドッカーン!って感じがしてすごいよ〜!!」

「わけわかんないんだけど」

それは同感だ、シェリル。同じ血を分けた姉弟のはずなのに、俺でもわかんねぇんだよ。
多分、姉さんの思考回路を理解してる奴は俺の知る限りいねぇだろうな。
とりあえず、シェリルが段々苛立ってきているようなので、助け舟を出しておくか。

「わかった、とりあえず俺がその依頼を受けてやる。それだったら特に心配事はないだろ?」

「いいの?」

パァァァッと表情を輝かせる姉さん。つーか、いいから依頼を受けたんだろーが。
とりあえず、クローネの方にも許可を取っとかなきゃな。

「明日はオレはチームの方の仕事は抜ける。いいか?クローネ」

「え、あ、うん!!」

すると、何故かぼ〜っとしていたクローネはハッと我に返り、慌てて返事を返す。……大丈夫か?
すると、クローネは意外な提案をしてきた。

「そうだ!なんなら明日首飾りを取り返すのをボク達も手伝うよ!ね、シェリル!」

「興味ない」

「ありがとう!!」

「相変わらず会話がおかしいぞお前ら」

意外な提案に驚いている俺の代わりにルトがツッコむ。ツッコめるようになったあたり、ルトもこの二匹の異質なやり取りに慣れたらしい。最初はおかしいとしか思えないらしく、ずっと唖然としていた。

とにかく、セシリアが代わりにクローネに尋ねてくれた。…なんか助かる。

「クローネ、それは『アストラル』として正式にこの依頼を受けるということでいいのかしら?」

「うん!せっかく出会えたんだし、それに困ってるポケモンを見過ごすわけにはいかないよ!嶺緒、いいよね?」

「…つーか、俺が受けた依頼だし」

…やっぱりクローネは良い奴だな。素直で、他人に優しい。疑うことが欠けているから、少し騙されやすいが。
隣でシェリルが「理解に苦しむね」とかなんとか小さく呟いているのは気にしない。こいつの場合、気にしたら負けだ。
そもそもどうしてこんなに他人が嫌いなんだ?俺も多少だが人見知りな節はあるし、他人はだいぶ警戒する面もあるが、シェリルほどじゃない。ある意味こいつの他人嫌いは異常だ。何が起きたらここまで他人嫌いになるんだ……理解できねぇな。

俺が思考を巡らせていると、唐突に姉さんが声をかけた。

「あのね〜」

「ん?どうしたの真珠?」

すると姉さんは驚愕の提案をしてきた。

「私も一緒に取り返しに行きたい〜!」

「はぁっ!?」

おっと無駄に大きな声が出てしまった。

「何だって急にそんなこと――!?」

「だって、自分の過失は自分でなんとかしなきゃ、でしょ〜?それに、久しぶりに嶺緒と探検したいからさ〜!」

本当に唐突な発言するよな、姉さんは。だが、そんなことは俺一匹じゃ決められない。とにかくリーダーであるクローネに視線を向け、問いかける。

「…だそうだ。一応、姉さんの実力だけは保証するが、どうする?」

姉さんは強い。それこそ、俺より強いだろう。あんな奔放な性格をしてはいるが、俺が幼い頃から各地を放浪していたし、未開の地を何度も開拓したことだってある。挙句、未踏の地に足を踏み込んで、誰も見たことのない進化を遂げて帰ってきたほどの実力者だ。
……だけ、と言ったのは、姉さんの自由奔放な性格のせいだ。

クローネは少し考えた様子を見せたが、やがて大きく頷いた。

「うん!嶺緒が保証するってことは相当の実力者ってことだよね!だったら大丈夫そうだし、いいよ!一緒に行こう!!」

「本当〜!?ありがと〜!!」

パァァァァァッとと効果音の付きそうなほどにっこりと笑う姉さん。……そんなに嬉しかったのか?

「じゃあ、とりあえず明日はボクとシェリル、嶺緒と真珠で行こうか!」

「おぉ〜〜〜〜!!」

「……はぁ、まぁ頑張るか」

「チッ」

……シェリルが舌打ちしたのは聞こえなかったことにしよう。その方が楽だ、ツッコまなくていいから。

とにもかくにも明日は波乱万丈になるな……間違いなく真珠姉さんのせいで、確実に。


■筆者メッセージ
オリストを書くのはやはり難しいですね。
今回は嶺緒視点にしてみました。主人公より捻くれていなかったので若干書きやすかったという←
レイン ( 2014/05/06(火) 22:12 )