ポケモン 不思議のダンジョン 〜光の煌き 闇の誘い〜






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*第三章*The first request and a new friend
第三十一話*意外なプレゼント
「な、なんでここにエトルが…!?」

クローネも嶺緒も驚きを隠せない。
あの時シェリルが追い詰めたが逃げ出し、シェリルが面倒くさいとの理由から追わなくていいと判断し、そのままだった。それ以来思い出すことのなかったエトルだが、クローネ達はしっかり覚えている。
それこそ嫌な目に合わされたのだから。

すると、シェリルがおもむろに口を開いた。

「…あのガラの悪い、いかにも頭の悪そうな奴は……誰だっけ」

「いやなんで忘れてんだよ!?」

「僕の中で他人って全員存在感が薄いから?」

「扱い酷ぇな、おい」

シェリルの言葉に呆れたようにツッコむ嶺緒。そういう言い方は良くないという注意ともとれる発言だったがシェリルは全く気にしていない。というより、どうでもいいようである。
クローネが表情を微妙にひきつらせながらシュロに尋ねた。

「ねぇ…もしかしてプレゼントって……」

「そうだぬ、エトルのことだぬ。やっぱりびっくりしただぬか」

「いや何楽しそうに言ってんすか!?なんであんな奴…!?」

「あの顔見てたら何でかわかんないけど腹立つ、シバいてきていい?」

「お前もお前でサラリと黒いこと言ってんじゃねぇよ!?」

「は?どこが黒いことなんだよ。普通だろ」

「普通じゃねぇからツッコんでるんだっつーの」

「それはあんたが変人だからだろ」

「まだそのネタ引きずってんの!?」

シュロにツッコんでいた筈なのだが、いつの間にかシェリルにツッコむ羽目になる嶺緒。それを見て何とも言えない表情をするエルム、ルト、セシリア。
賑やかすぎるせいか、エトルも此方に気づいて視線を向けた。そして同時に顔色が真っ青になった。
シェリルはエトルが此方を見ているのに気づき、エトルの方へと近寄った。そしてこの上なく不機嫌な表情で話しかけた。

「……あんた誰だっけ。どっかで会った?」

「…へ?」

シェリルの思いがけない言葉にエトルは素っ頓狂な声を上げた。まさか忘れられているとは思わなかったのだ。しかし、シェリルの瞳は鋭い光を放っており、恐ろしいものである。殺気などはないのであの戦闘の時ほど恐ろしいとは思わないが、それでも一抹の恐怖は拭えない。
しかも、一度は完膚なきまでに叩きのめされた。隙を見て逃げ出したはいいものの、あのまま戦闘を続けていたら、いとも簡単に叩きのめされて負けていたことは間違いないだろう。そんな相手に対してまた名を名乗るのは自殺行為に等しい。しかし答えないのもまた自殺行為に等しいだろう。どちらにしろ状況はエトルにとって全くよろしくないのである。

「…早く答えろ。十秒以内に、二十文字以内で答えろ」

「いやなんで!?」

「あと十五文字」

「どうしてそうなる!?」

エトルを脅し――いや、説得しているシェリルは放っておき、クローネは首を傾げ訝しげな表情を見せながら、シュロに尋ねた。

「なんでエトルがプレゼントなの?大丈夫なのかなぁ」

「それは大丈夫だぬ。エトルはもう悪さはしないだぬ」

「いや、ボクが言いたかったのはエトルがシェリルにやられそうだから大丈夫かなってことなんだけど…まぁいいや。
…でも、なんで悪さしないって言い切れるの?」

「ワシが懲らしめたからだぬ」

その瞬間、嶺緒の顔がスッと青ざめた。

「シュ、シュロさん直々に……?うわ、最悪だな……」

最初は嫌悪感を表したようにエトルを見ていたのに、この言葉を聞いた瞬間に同情の目を向ける嶺緒。その表情は青ざめているばかりか少しばかりの恐怖も窺える。
妙な空気に気づいたのか、シェリルも戻ってくる。
シュロは気付いているのかいないのかは定かではないが、そのまま表情一つ変えずに続ける。

「ワシ悪者は許さんだぬ。ゴリゴリお仕置きだぬ。そして迷惑をかけたクローネ達の為に、これからはサポートすることを約束させただぬ」

「さすがね」

セシリアは関心したように呟いた。嶺緒は苦笑している。もっとも、あまり顔色がいいとは言えず、表情も心なしか引きつっている。
セシリアと嶺緒、シュロ以外は首を傾げたり訝しげな表情をしたりしている。セシリアの言葉の意味が分からず、嶺緒が何故ここまで引きつった苦笑いを浮かべているのかも謎だからだ。
セシリアは周りを気にせず、話を続けた。

「かつては自ら悪者を懲らしめ、そして悪者を懲らしめるための組織も作り、その運営に飛び回ったと言われた……風の噂に聞く“GOD(ジーオーディー)シュロ”の名は伊達じゃないってことね」

「じ、GODだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

ルトが驚愕の表情を浮かべ、大声を上げた。ルトだけではなく、ほとんどのメンバーが驚愕の表情を浮かべている。

「な、なんかよく分かんないけど得体の知れない凄みを感じるぞ…!!」

「知ってて叫んだんじゃないのかよ」

「GODって何かなぁ?何かの略?何かカッコいいねぇ!美味しいのかな?」

「異名の話をしてんのに何で美味い云々の話になるんだよ」

「え?何となく!!」

「ハハハハハ……もう俺はツッコまねぇぞ…絶対にツッコまねぇぞ…!」

「GODって…つまり、神だとでも言いたいのか…?ん?でもこの異国語はこの世界には無い筈……
どっちにしろ、得体の知れない奴だったってことか……」

ルトの言葉に嶺緒はツッコむが、続けて放たれたクローネの天然発言にツッコんで返された返答に、乾いた笑い声を立てる。その表情は完全に引きつっており、笑い声を上げているのに顔は全く笑えていなかった。

シェリルもブツブツと何かを呟いているが、あまりにも小さい声だったためか気づいた者はいなかった。
クローネがシュロに視線を向けて尋ねる。

「シュロって…実はすごいポケモンだったりするの?」

「いやいや、昔とった杵柄だぬ。まぁ、昔はワシもその業界では有名だったぬ。
……あ、ちょっと自慢話………ぽっ」

「「 今なんで頬を赤らめた 」」

照れたように頬を赤らめたシュロにツッコむシェリルと嶺緒。返事は返ってこなかったが。
シュロは照れたような表情を引っこめると、いつものぬぼーっとした表情に戻る。

「…とかやってる場合じゃないだぬ。これから説明するだぬからよく聞くだぬよ。
これからはチームの中から出撃するメンバーを編成してダンジョンに行くことになるだぬ。出撃メンバーは多くて四匹だぬ。それ以上は行けないだぬ」

「そっか。ボク達は今六匹だから……」

「誰かが余ることになるわ」

シュロの説明に納得したように呟いたクローネの言葉を引き継いで、セシリアが言った。

「余ったポケモンは留守番することになるだぬ。また、余ったポケモンでもう一つ依頼を受けるのも可能だぬ」

「そっかぁ!それなら効率がいいね!」

シュロの説明にクローネが嬉しそうに声を上げる。

その時、エルムが「あ」と声を上げた。エルムの視線の先に全員が目を向けると、ペリッパーが此方へと飛んできていた。ペリッパーは着地することなくおもむろに持っていた箱を落とし、そのまま飛び去っていった。

「あれは…?」

ルトが訝しげな表情を見せ、首を傾げる。
クローネはいち早く箱に近づき、確認する。その表情はキラキラと輝いていた。

「わくわく冒険協会≠ゥらだ。ボク達『アストラル』宛てになってる!!」

「やっぱり仕事が早いな……」

何とも言えない表情でぼそりと呟く嶺緒。
クローネはキラキラと瞳を輝かせながら、躊躇することなく箱を開く。中には一通の手紙とチームバッグ、そして幾つかのチームバッジが入っていた。
クローネはまず手紙を開くと、声を出して読み上げていく。

「手紙を読んでみるよ。えーっと…「チーム『アストラル』様へ。貴方達のチームを此処に認め、その証であるチームバッジをお送りします。ぜひ冒険に役立ててください。 ―わくわく冒険協会―」だってさ!」

「わぁっ……!」

「オレ達チームとしてもう認められたのか!」

「さすがはわくわく冒険協会≠セぬ!仕事が早いだぬ〜」

「早すぎっすけどね……」

キラキラと目を輝かせるエルムとクローネとルト、そしてその様子を見て表情を綻ばせるセシリア。シュロも満足そうに頷いている。シェリルは全く表情を変えずにそれを見ている。嶺緒だけはツッコんだらいいのか無視したらいいのかわからずに微妙な顔つきである。
シュロは嶺緒の微妙な表情に気づかず、話を続ける。

「チームバッジについて説明するだぬ。チームバッジはチームの仲間全員に配られる物だぬ」

「あれ?なんかいっぱい入ってるけど……ボク達のチームは六匹だからこんなにいらないんじゃないかな?」

「余ったバッジは新しい仲間ができた時に渡せばいいだぬ。チームバッジは皆で持つことで効果があるだぬ。その一つが技の成長だぬ」

「技の成長……?」

エルムは思わず首を傾げ、復唱して聞き返した。聞きなれない言葉だったからだろう。ルトやクローネ、シェリルも同じように首を傾げている。
シュロは「そうだぬな…」と呟き、頭の中で良い例を探しているようだ。
そして口を開いた。

「例えば「あわ」という技があるだぬが、この技を使い続けると「あわU」「あわV」というように技がより強いものに成長していくんだぬ。
しかも技の成長は同じチームバッジを持っている者…つまり、チーム全体で共有されるんだぬ」

「チームで共有……?」

エルムがよくわからない説明に首を傾げると、嶺緒が補足を入れた。

「例えばセシリアが「電光石火」っていう技を使い続けて「電光石火U」に成長させたとするだろ。そうすると、「電光石火U」は、チームで電光石火の技を使える奴全員が使用できるんだ。つまり、「電光石火」の技が使えるクローネとルト、俺は「電光石火」を自分で成長させなくても「電光石火U」をいきなり使えるようになるんだ。これがチームでの共有だ」

「フ…フン!オレは別にセシリアなんかと共有なんかしたくないけどなっ!!」

「ルトうるさい黙れ」

「その口閉じないと今すぐ埋めるよ」

苛立った表情で、セシリアに喧嘩を売るかのように言葉を発するルトだが、嶺緒とシェリルにばっさりと切られ、不満気ながらもこれ以上は何も言わなかった。
シュロはそんなことなど気にしていないかのように話を続ける。

「技についてはあそこにいるエトルが詳しく説明してくれるだぬ。また、エトルは技を忘れさせたり思い出させたりすることもやってくれると思うだぬから、気軽にあの店を利用するといいだぬ」

「…うーん…まぁ、気が向いたら行くね」

クローネは微妙な表情である。いくら他人を信じやすいクローネでも、さすがに裏切られた者をすぐに信用しろという方が無理だろう。
シェリルはエトルのことを何故か自主的に記憶から排除しているし、嶺緒も微妙な表情である。
シュロは「気が向いたらでいいだぬよ」と返答し、説明を続けた。

「あと、チームの共有で大きいのは…チームスキルだぬ。細かいことは省くだぬが、とにかく覚えておくと冒険の役に立つスキルがたくさんあるだぬ。これも技の成長と同じく、チームで共有して覚えていくだぬ。
それと、バッジを使うと、救助依頼を出した者やダンジョンで捕まえたお尋ね者をここに送ることができるだぬ。
だいたいそんなとこだぬな。まだまだわからないことがあると思うだぬが、とりあえず依頼の仕事をこなしていけばわかると思うだぬ」

シュロはそう言って説明を締めくくった。クローネは感動したように瞳をキラキラと輝かせている。

「親切すぎて言葉がないよ…!何から何まで本当にいろいろとありがとう、シュロ!」

「………ぽっ」

「「 おいだから何で頬を赤らめた 」」

見事に声を重ねてツッコむシェリルと嶺緒の問いは、シュロは答えることなくスルーしている。
クローネは仲間達の方へと振り返り、にっこりと笑顔を見せた。

「とにかく皆!今日からボク達は一つのチーム、『アストラル』になったんだ!皆で力を合わせて頑張ろうね!!」

「はい!」

「おう!」

「えぇ、そうね」

「あぁ」

「チッ」

「そこ舌打ちするところじゃねーだろ」

最終的に舌打ちをしたシェリルにツッコむ嶺緒。とはいっても、実際全員がシェリルの反応をだいたい予測していたりする。

「僕は力を合わせて、とか嫌だから」

「大丈夫!チームのメンバーだからいつかはできるよ!」

「何が大丈夫なのかさっぱりわからないんだけど」

クローネがにっこりと笑顔でシェリルにかけた言葉は、顰めっ面のシェリルによってばっさりと切り捨てられた。

早くも波乱万丈な予感のする冒険チーム『アストラル』であった。


■筆者メッセージ
ゲームでは経験値の制度があると助かりますけど、小説とかだと違和感覚えるので入れませんでした。出かけてないのに経験値が増えるとかどうなんだ←
レイン ( 2014/04/28(月) 05:13 )