第二十八話*強さも戦闘も人それぞれ
最初に動きを見せたのはシェリルだった。
持ち前のスピードで一気にコマタナに詰め寄り、体当たりを仕掛ける。続いて嶺緒も電光石火でもう一匹のコマタナに攻撃を仕掛ける。
「セシリアは虫タイプの攻撃に弱いから、ガレット達とデンチュラ達を倒していって!ルトとエルムはフシデ達をお願い!ボクとシェリルと嶺緒はコマタナ達を倒そう!」
クローネは先に指示を出して皆が頷いたのを確認すると、シェリルや嶺緒と共にコマタナ達に向き直る。
少なくともチームプレイができそうな組み分けにしたのだ。ルトはセシリアを敵視しているし、エルムもあんなことがあった後ではセシリアとは一緒に戦いづらいだろうと考慮してのことだった。
もしどちらかが敵を倒せば援護に回れるだろうし、何より避けたいのは敵がチームプレイに長けていた場合だ。
「とりあえずクローネとシェリルは一緒に戦っとけ。俺が一匹倒すから、そっちはもう一匹を頼んだぞ」
「命令するなって何度も言ってるだろ」
「うん、わかった!!」
相変わらずの素直さの欠片もないシェリルと素直すぎるクローネの返答に苦笑を漏らしつつも、嶺緒はコマタナと向き直る。引き離すのが難しいと思われたコマタナ兄弟だが、シェリルが一匹を蔓のムチで別方向の離れた場所に吹っ飛ばしたことにより、意外とあっさり引き離すことができた。
嶺緒は表情一つ変えずに淡々とコマタナに話しかける。
「まぁ…相手よろしくってことで」
「チッ…なめてんじゃねーぞ!!」
コマタナはれんぞくぎりを仕掛けるが、嶺緒は最小限の動きでいとも簡単に避けていく。
避けながらも、周りを見ながら状況確認することも忘れない。クローネに言われた通り、セシリアにガレット、ルシアとアサザはデンチュラ二匹の相手をしている。ルトとエルムも上手く陣形を組んでフシデの相手をしている。あの様子ならばあの六匹が勝利するだろう。
向こう側では呆れたような表情のシェリルと、頑張って戦っているクローネの姿がある。
(セシリアは強いし、ルトもまぁ何とかいけるだろう。シェリルも戦闘戦センスは抜群だし大丈夫だろう。とりあえずこいつを倒すことに集中するべきってことか)
ったく、面倒くせぇ。
そんなことをぽつりと考えてしまう嶺緒。効果抜群の技さえあればすぐに倒せるの自信があるのだが、あいにくそんな技は持ち合わせていない。
れんぞくぎりを全て避けると、嶺緒はシャドーボールを放つ。
「当たるか!」
しかしコマタナは自身の刃で切り伏せ、攻撃を防ぐ。
しかし、先程嶺緒がいた場所にはもうその姿は見えなかった。
「なっ…どこにいった!?」
「上だ。シャドーボール」
「ぐっ!?」
コマタナが最初のシャドーボールに気を取られているうちに跳躍した嶺緒は、速攻でシャドーボールを作り出す。放たれたシャドーボールはコマタナに直撃した。そして落下を利用して嶺緒はアイアンテールを仕掛けた。そこまで予測できていなかったコマタナは諸にアイアンテールを喰らった。
「詰めが甘いぞ、お前。戦闘センスがいまいちだな」
「うるせぇ!!だましうち!」
「無駄だっつの。電光石火」
電光石火で軽々と攻撃を避けると、その勢いでコマタナの横を通り過ぎる。通り過ぎる際に目つぶしとして地面の砂を目に投げつけることを忘れずに。
「うわっ!?何しやがるっ!?」
目をおさえるコマタナに素早く近づいた嶺緒は、噛みつくを繰り出す。何とか目を開いたコマタナは嶺緒に攻撃を仕掛けるがほんの少し掠めた程度で避けられてしまう。
そのままれんぞくぎりを仕掛けるが軽々と避けられてしまう。しかし、最後の一撃が掠めたことにコマタナはにやりと笑う。攻撃を受けた当の本人は表情一つ変えていないが。
「ふん、貴様こそ体力がそろそろ限界だったりするんじゃないのか!?」
「それは気のせいだろうな。俺はまだ余裕だし、少しぐらい攻撃が掠めたくらいで喜んでるんじゃまだまだだな」
再びれんぞくぎりを仕掛けたコマタナの攻撃を避けると、嶺緒はコマタナの口に何かを投げ入れた。
突然のことに、コマタナはそれが何かを確認する間もなく飲み込んでしまう。
「な、何をしやがった!?」
「なんだと思う?それくらい自分で考えな」
電光石火で後ろに回り込むと、アイアンテールを繰り出す。先程までのアイアンテールとはさして変わりのない筈だった。
しかし喰らった瞬間コマタナが感じたことは、明らかに威力が違うことだ。
「ぐぅっ!?」
「電光石火」
容赦なく続けられる嶺緒の攻撃は、全て先程とは比べ物にならないくらいの威力だった。
先程まででも中々に威力は高かったのに、この異常なまでの急激な威力の上昇は何なのだ。コマタナは必死に考えるが思い浮かばない。
「終わりだ、シャドーボール」
嶺緒が放ったシャドーボールが直撃し、コマタナはあっけなく倒された。
嶺緒は溜め息をつくと、呆れたような表情を見せた。
「バカだな…食わせた物が「不幸の種」だってことに気づいてなかったのか」
拍子抜けしたように冷めた瞳でコマタナを見下す嶺緒は、呆れたようにそう呟くのだった。
嶺緒が戦っている頃、シェリルとクローネも同じようにコマタナと戦っていた。
「電磁波!!」
「追い打ち」
クローネの放った電磁波を軽く避けるコマタナに、シェリルが連続で攻撃を仕掛ける。
それに気付いたコマタナはギリギリで攻撃をかわす。
「うーん…当たらないなぁ」
「下手だからじゃない?」
「え!?そ、そうだったの!?」
「僕に聞くな」
謎の会話を繰り広げながらの戦い。コマタナは何となくバカにされているんじゃないかという気がしてきた。もちろん二匹にはそんなつもりは毛頭ないが、会話しながら戦うという余裕ぶった戦い方は段々とコマタナの怒りのボルテージを上げていっている。
「よーし!電光石火――ふぎゃっ!?」
電光石火を使用しようとした瞬間、足元の石に躓くクローネ。ドジである。
「ったく…理解できないんだけど。なんであんたはそんなにドジなわけ?そんなに何回も何回も転ぶ奴初めて見たんだけど。っていうか方向音痴もそうだけどドジなのは、あんたの目指す冒険家には致命傷だろ、何とか直さないといつか痛い目見るよ」
「そっか〜…アドバイスありがとう、シェリル!」
「僕別にアドバイスしたつもりなんてないんだけど。そうやって毎回毎回斜め上の方向に持っていくの止めてくれないかな、面倒くさいから」
「うん、わかった!気を付けるね!」
もはや戦闘そっちのけで会話しているシェリルとクローネに、ついにコマタナが怒鳴った。
「おいっ!!戦闘中に何俺のこと無視して会話してやがるんだ!!バカにしてんのか!?」
「「…あ」」
「あ、じゃねぇ!ふざけてんじゃねぇぞ、れんぞくぎり!!」
れんぞくぎりを仕掛けてくるコマタナの攻撃を軽々と避けるシェリルだったが、クローネの方は避けきれずに吹っ飛ばされた。
ニヤリと笑うコマタナ。
「どうだ?大切なお仲間は吹っ飛ばされちまったぜ?」
「はぁ?」
「…は?」
わけが分からないといったような表情を見せたシェリルの予想外の反応に、今度はコマタナが素っ頓狂な声を上げる。
「あんた、何言ってんの?クローネは別に仲間でも友達でもないよ」
「は、はぁ!?」
「クローネには確かに家に住ませてもらってるし、僕の目的が果たされるまでは一緒にいるって約束したけど、ただそれだけ。僕には友達も仲間もいない。そしてこれからも、必要ないっ!!マジカルリーフ!!」
不意を突いて回避不能の技を撃ち込むシェリル。技は全てコマタナに直撃した。コマタナは立ち上がったが、わけが分からないといったように首を傾げている。シェリルの説明がいまいちよくわからなかったらしい。確かに、一緒に行動しているのに仲間でもなんでもないというシェリルの説明は違和感があったのだろう。
シェリルはそんなことはお構いなしといったように攻撃を続けている。
「蔓のムチ」
「チッ…れんぞくぎり!」
攻撃をしては、相手の攻撃をかわすといった攻防戦が繰り広げられている。最初はシェリルに負けまいと攻撃をしていたコマタナだが、その表情には段々と焦りが募っていく。
普通なら体力の消耗と共にスピードが落ちてくるはずだ。それなのにシェリルはむしろどんどんスピードを増している。正確には、時間が経つことにコマタナの動きを読んでいっているというのが正しいのだろうが。シェリルのほぼ底無しの体力と運動神経があってこその芸当と言える。
シェリルはれんぞくぎりを仕掛けようとしたコマタナの腕を蔓のムチで止めた。
「ふん!俺を止めたとしてもこの距離からじゃ攻撃は仕掛けられないだろう!」
「僕は正直言って無理だね。マジカルリーフを撃ってもいいけど僕の蔓に当たるかもだし。まぁ…僕は、の話だけどね」
「!」
シェリルの言葉に、嫌な予感がしたコマタナは焦ったように周りを見回す。すると、バチバチと帯電音がその場に響く。クローネである。
「ボクだってただやられてたわけじゃないんだぞ!!」
「さっきまでただやられてただけだったけどね」
「あぅ…それ言わないでよぉ…」
もう、と頬を膨らませるクローネ。それはシェリルに余計に痛々しい視線を向けさせたのみで、さしたる効果はなかったりする。
「とりあえず…いっけぇーー!電気ショック!!!」
電気を溜めておいたおかげらしくクローネの放った電気ショックは普段の何倍もの威力でコマタナに襲いかかる。その威力は、十万ボルトに匹敵するのではないかという程である。
唖然としているコマタナ。しかもシェリルに動きを止められているゆえに逃げる術がないのだ。
と、ギリギリのところでシェリルは蔓のムチを離した。が、コマタナが逃げようと身を翻す直前にどこからともなくシャドーボールが飛んできてコマタナに直撃し、動きを鈍らせた。そして電気ショックは避ける間もなくコマタナに直撃した。
呆気なく倒されるコマタナ。
シェリルは終わったと同時に腕を組む。
クローネが嶺緒の方に視線を向けた。するとばっちり視線があった。肩をすくめてみせる嶺緒。どうやら先ほどのシャドーボールを放ったのは彼のようだ。
あのタイミングでコマタナを逃がさないためにシャドーボールを放ったことにクローネは驚きつつも、心の中で賞賛を送る。しかもシェリルはそのことをわかっていた上で、電気ショックを受けずにシャドーボールが丁度よくあの瞬間にコマタナに当たるタイミングを図っていた。
さすがに仲が良いもの同士のチームプレーはすごい、などとクローネはまたも斜め上の方向に誤解しているのであった。
次にエルム達の方へと視線を向けるクローネ。エルムもルトも無傷とは言い難かったが、二匹ともフシデ達を倒したようだ。
セシリア達の方は、確認するまでもなく余裕だったようだ。セシリアが今まで培ってきた実力は、タイプ相性などでは覆せなかったようだ。セシリアは先ほどと同じように凛と立っているし、ガレット達も余裕そうだ。
不意にコマタナの手下達が起き上がった。
彼らはコマタナ達が倒されているのを見てびくりと体を震わせる。
「ひっ……ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
「「「に、逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」」」
一匹が怯えたように逃げ出すと、残りの三匹も慌てて風のように去る。
その声に、コマタナ達はびくりとして急いで起き上がった。周りには、手下が一匹もいない状態である。顔を青ざめさせるコマタナ達。
一歩、また一歩と後ずさる。その瞬間、シェリルがコマタナ兄弟をギロリと睨みつける。それはもう、技の睨みつけるよりも数段恐ろしい睨みを効かせて。
コマタナ達の顔色は余計に悪くなった。
「お、俺達を置いていくんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!」
何とも情けない声を上げながら手下達が逃げた方向と同じ方へ、これまた何とも情けなく逃げていった。
その様子を見てシェリルが密かに「ざまあみろ」とか思っていたのはここだけの話である。