ポケモン 不思議のダンジョン 〜光の煌き 闇の誘い〜






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*第二章*One step to a dream
第十八話*妙に悟ってしまうと苦労する
「やっぱり手芸は楽しいね!」

「…僕、あんまり好きじゃない…飽きてきそう」

先程のどんちゃん騒ぎから一転、シェリルとクローネは家を建造中の場所より離れた場所でチクチクと裁縫中である。

嶺緒やガレットがインテリアなどを準備する時間をくれたためだ。
布団やら、テーブルクロスやらを、もらった布を使ってチクチクと縫っていく。
なんだかんだ言っているシェリルだが、裁縫の腕は悪くない。むしろ上手い方だ。
一方のクローネは楽しいと言っているだけあり、素晴らしい出来栄えである。

初めは本気で渋っていたシェリルだが、「家賃代わりに」とクローネが説得すると渋々了承した。
ちなみに嶺緒が説得しようとした瞬間「絶対にやだ」と即答した。嶺緒に対しては絶対に折れたくないらしい。何故張り合っているのかは謎だが。

「あーあ…日課してる方が楽しかった」

「あ、じゃあ歌いながら裁縫したらどうかな!」

「どんだけ難易度高いと思ってんの、それ」

「じゃあちょっとだけ歌ってよ!」

「なんでだよ」

「聞きたいから!」

「一番シンプルで面倒くさい理由だな」

シェリルのバッサリとした言い方でも、クローネは屈しない。

「えー…でもさ、前の世界では日課になるくらい歌ってたんでしょ?」

「まぁ…好きだし。暇つぶしにもなるし、っていうか他にやることとかなかったし」

「じゃあちょっとだけでもいいから!」

「僕、他人には基本聞かせない」

「お願いー!!」

シェリルが渋ってもクローネは食い下がる。そのしつこさは、さすがと言わざるを得ない。
シェリルにものを頼むときは本気で食い下がらければならないということを無意識のうちにこなしているクローネはある意味すごいといえる。
今回はシェリルが折れた。

「あーもう!!ちょっとだけだからね!今回だけ!あとはもう絶対やらないからな!」

「やったーー!ありがとう!
あ、じゃあ嶺緒も呼んでーー」

「それだけはやめろ」

苦虫を噛み潰したような表情を見せるシェリル。嶺緒に聞かれるのがよほど嫌らしい。

シェリルは裁縫道具を置くと、立ち上がる。
スゥ…と息を吸うと、そのまま流れるように綺麗な凛とした声で歌を紡ぎ出す。

粛々とした空気の中を、シェリルの凛とした、しかしどこが儚げな歌声が響き渡っていく。
民族調の音楽を美しい詩編が彩ったその歌は、心に何かを伝えようとするかの如くクローネの中に響き渡る。


シェリルは歌い終わるとさっさと座り直し、裁縫道具を手に持ち、裁縫を始める。表情は、渋面のままだ。
しばらく唖然としていたクローネは、瞳をキラキラと輝かせる。

「すっごいねぇシェリル!歌上手いね!!」

「一日の半分以上歌ってれば少しは上達するだろ。むしろしなかったらびっくりだね」

「そんなに歌ってたら喉痛めそう…」

「歌い方にもよるんだよ。上手な歌い方をすればあまり喉を痛めずに済むんだ。常識だろ」

「へぇー!そうなんだ!」

「…もうその話題やめろ。なんか泣けてくる」

「えぇ!?シェリル、大丈夫?涙出そうなの!?ご、ごめんね!!」

「…泣けてくるってのは比喩だから実際涙が出ることはないけど。
本当、その話題二度とするな…自分の黒歴史明かしたみたいな気分になる」

はぁ、と重々しい溜め息をつくと、再び作業に戻る。
クローネは首を傾げながらも裁縫の手を休めることはない。
静かな空間がそんなに好きではないため、喋り続けてはいるのだが。

「ボクはね、手芸とか絵を描くこととか…あ、あとは冒険するのも好きだよ!…まぁ、道に迷っちゃうんだけどね」

「冒険っていうより迷子だよね、それ」

えへへ、と苦笑いするクローネをじと目で見るシェリル。が、結局は天然であるクローネへのツッコミは無駄だと悟り、諦めることとなったのだった。
クローネはふと思いついたことをシェリルに尋ねてみる。

「シェリルは、冒険とかしなかったの?」

「僕の家の所有地は無駄に広かったから散歩とかはしたけど…そこより外に出ることはなかったな」

「なんで?」

「他人が嫌いだから」

「あぁ…なんだかシェリルらしいや」

「なんだよそれ」

不機嫌そうに表情を歪めるシェリル。

「結局皆自分や自分の大切なものがかわいくて仕方がない。だからそれを守るためなら他人なんて平気で利用して切り捨てる。そんなもんだろ」

その瞳には、シェリルの静かな怒りが確かに宿っていた。
クローネが、何か言葉をかけようと思案しているその時だった。

「おい、終わったか」

「あ、嶺緒!えっとね、だいぶ進んだよ!」

「チッ…また余計なのが来たか」

「余計なのってなんだよ」

クローネの素直な言葉より、シェリルのバカにしたような言葉に思わず喰いつく嶺緒。
案の定、睨み合いに発展している。

「余計なのって何、だって?その言葉通りじゃないか、バカじゃないの」

「なんで余計なもの扱いされてんだよ俺!?っていうかお前にバカ扱いされるほど俺はバカじゃねえよ!」

「だってあんたが来ると変に干渉しなきゃいけないじゃないか。面倒くさいんだよ」

「それお前が余計な言葉を言わなきゃ済む話だと思うんだが」

「あんたが話に乗ってくるのが悪い。そこは聞き流すべきだろ、そしたら干渉しなくて済む」

「いや自分に対しての悪口を聞き流せってなんだよ!?っていうか、お前が俺の言葉に対していちいち余計な反応するからじゃないのか!?」

「あんたにだけは負けたくない」

「いやなんだよそれ!?」

いつも通り言い合いが続く。それを友情からくる戯れ合いだと思って温かく見守っているクローネもどうかとは思うが。まあそこまで仲が悪そうには見えないということなのだろう。

「二匹って本当に仲良いよね」

「「違う!!」」

声が重なったことによりシェリルと嶺緒の双方の間で火花が散っている。
それを見ていたクローネは「あ!」と短く声を発し、思いついたように手をポンと打った。

「ねぇ!いいこと思いついたよ!」

「何」

「なんだよ」

次の瞬間、クローネは嘘偽りない笑顔でこう言い切った。

「嶺緒を仲間にしようよ!」

「「…………」」

二匹は揃って動きを止め、クローネを見ながら思わず唖然としていた。
睨み合った体制のまま、クローネの方に顔を向けて止まっている二匹を見て、爆弾発言を投下した当の本人はキョトンとしていた。

「「…はぁ!?」」

次の瞬間何言ってるんだこいつは、とでも言いたげな声が二匹同時に放たれる。
もはや声が被ったことにすら気づいていないのか火花を散らすこともない。
シェリルと嶺緒がそんな驚愕の目と何とも言えないような表情がこちらを凝視しているのにおそらくは気づいていないのだろう、クローネは笑顔で続ける。

「ずっと考えてたんだ!嶺緒がいなくなっちゃうのは寂しいし、シェリルも寂しいかなって。
それで、どうしたら嶺緒と一緒にいられるかなって。
今思いついたんだ!嶺緒が仲間になったら心強いし、ボク達はこれからどんどん仲間を増やしていくつもりなんだ!何よりシェリルと仲が良いんだもん!仲間になってくれたら本当に助かるよ!!
ね、お願い!」

「ちょ、ちょっと待て!なんだよそれ、なんか無駄にツッコミどころが多いがとりあえず俺とシェリルは仲良くねぇぞ!?」

「当たり前だろ、なんで僕がこんな奴と仲良くなくちゃいけないんだよ」

「こんなこと言ってるけど、別に嫌がってはいないと思うよ!」

「え、どうしてそうなった」

クローネの笑顔での返答に、シェリルは顔を顰め、嶺緒は思わずツッコんだ。
そのツッコミにきょとんとした表情を見せるクローネ。

「だってシェリル、たとえ警戒してたとしても嶺緒ほど話してるポケモン他にいないよ?だから、本当に仲がいいな〜って思って」

「いろいろと勘違いしてるみたいだから訂正しとくけど、僕別にこいつと仲が良いわけじゃない。それに話してるのは単純にこいつに口げんかで負けたくないからだ」

「だからその時点で意味が分かんねぇっつの。なんで俺がお前と張り合ってることになってんだよ」

「さあね。とにかくあんたにだけは絶対に負けたと思いたくない」

再び火花を散らす二匹をクローネはやんわりと止める。

「まあまあ落ち着いて、ね?とりあえず嶺緒、仲間になってよ!」

「とりあえず、って…」

「僕、嫌だ」

「いやお前の意見は聞いてねぇけど!?」

うーん…と唸りながら頭を掻く嶺緒。予想外のことだったためか、何とも言えない表情を見せながら悩んでいる。
クローネはその様子を見て心配になったせいか、もしかして…と切り出す。

「嶺緒…仲間になるの、嫌?」

「いや。まぁ…シェリルははっきり言って偏屈だし、クローネも正直思考が緩すぎてこの先心配ってのはあるんだが…
やっぱり俺、旅人だし…」

「もしかして、大切な旅なの?」

「うーん…そうでもないんだけどな…正直、微妙なとこなんだ。あてはないけど、一応目的はあるし…
…それに」

「それに?」

クローネが聞き返すと、嶺緒は複雑な表情を浮かべ「…いや、なんでもない」と答えた。

「うーん…どうしたもんか」

「ねぇお願いだよ、嶺緒!嶺緒が仲間になってくれたら本当に心強いんだ!」

嶺緒は目の前のクローネとシェリルを見やった。
正直なんだかんだと悩みつつも、この二匹だけということには心配なのだ。
ほとんど真逆であるこの二匹は、一見チームとしては考え方が真逆すぎて二匹でいることは向いていないようにも見える。
しかし、逆に考え方がほとんど真逆であるがゆえに成り立っているともいえる。シェリルに欠落した他人を信じるということは無意識にクローネが補い、クローネに足りない他人を疑うということはこちらも無意識だろうがシェリルが補っている。
が、ここに仲裁役がいればいい、とも思える。いつかはこの二匹も反発しあう気がするからだ。ならば、不本意だがこの二匹を知っている自分が適役かもしれないとも感じていた。

もう一つ言っておくと、クローネの何かを訴えるような視線とシェリルのジト目の視線が痛い。

「…はぁ。わかったわかった。なればいいんだろ、仲間に」

「ほんと!?やったーー!ありがと嶺緒!!!」

勢いよく抱き着いてくるクローネとシェリルの痛々しい視線に挟まれ、嶺緒は密かに「これから俺、苦労しそうだな…」と思ったとか。

■筆者メッセージ
歌詞のレベルがあまりに低いので修正させていただきました。
すみません、もっと自分に自信をつけてせめて出しても恥ずかしくないレベルになってから載せてみたいと思っています……

今回の題名は嶺緒のことですね(どうでもいい
クローネの性格が逆に書きにくいです。どちらかというとシェリルの方が書きやすいですね、私と性格が似てる気がするので←
シェリルと嶺緒の会話は書いてて楽しいですが同時に難しいです。ギャグってどうしたら上手く書けるんだろう…←
レイン ( 2014/03/31(月) 20:47 )