ポケモン 不思議のダンジョン 〜光の煌き 闇の誘い〜 - *第二章*One step to a dream
第十二話*虚言 と 真実
「ふぎゃっ!!?」

「よっと」

かなりの高さにある丸太に飛び乗ろうとして失敗し奇声を上げるクローネを尻目に、運動神経の高いシェリルは壁を利用し上手く丸太に飛び乗り、仕掛けを作動させる。
仕掛けの下では襲ってきたクルミルに嶺緒が電光石火を仕掛け、倒している。
仕掛けを発動させ、華麗に降りてきたシェリルに嶺緒は声をかける。

「上手いもんだな。特訓か何かの成果か?」

「慣れだよ、こんなの」

シェリルは肩をすくめる。実際その言葉以上の機敏さなのだが、シェリルは自慢するタイプではない。

「それに比べて…」

嶺緒はクローネを横目でチラリと見やる。

「うぇぇ…痛い…」

「…はぁ」

その本人、クローネは頭を掻きながら起き上がる。
それを見てシェリルは大きく溜め息をつく。

「あ、シェリル、嶺緒!ごめんね、失敗しちゃった」

「たとえ瞬発力に合わせジャンプ力のあるピカチュウだとしても真正面から突撃するのはバカのすることだよね?」

シェリルの鋭いツッコミに、クローネはえへへと苦笑いを見せる。
嶺緒は思わず、こんなので大丈夫なのかと心配になった。
恐らくこの中で一番レベルが高いのは嶺緒だろう。
シェリルは、そのレベルの差に対抗できる程の運動神経と冷静な判断力を兼ね備えているし、視線にも一番敏感なので敵ポケモンの視線にも敏感に反応するが、独断で動き自由気まま、つまりマイペースに行動する。
一方のクローネは、一番レベルは低いだろうし、いきなりわけのわからない行動を取ったりするが、技の威力などは相当のものだ。こちらはシェリルに比べて団体行動はとれるが、やはりマイペースである。

「よくやってきたよな、この真逆コンビで…」

「なにその真逆コンビって…無性に腹立つんだけど」

「真逆かぁ…確かにボクとシェリルって考え方とか全然違うし、なんかすっごくその呼び方合ってるよね!」

「僕は他人と一括りにされるの大っ嫌いなんだよ」

笑顔のクローネと、思い切り顔を歪めるシェリル。
どうやらシェリルは相当お気に召さなかったようだ。

「あ、シェリル!見て、もう一つ丸太があったよ!押しに行こうよ!」

「さっきみたいに激突したいんだったら行ってもいいんじゃない?」

「大丈夫!今度の丸太は低いから!」

「ってちょっと待て!その下にタブンネがいるっ…」

「行ってくるね!」

「おいぃぃっ!?」

「…うるさいんだけど」

嶺緒が止めたが時すでに遅し。クローネはタブンネに気づかず、そのまま激突する。
シェリルは気にも留めずにタブンネをクローネに任せ丸太の方へと歩いていく。

「うわっ!?で、電気ショック!」

「噛みつく!」

慌てて電気ショックを放つクローネ。
追い打ちをかけるように嶺緒が噛みつく。

「ってか、シェリルはどこ行った!?」

「あそこで仕掛け押してるよ」

シェリルはクローネたちの近くにある仕掛けではなく、遠くにある仕掛けを押している。

「あんの独断行動魔ぁぁぁぁぁぁ!!」

いったんタブンネから離れると、嶺緒は電光石火を仕掛ける。
タブンネが倒れた瞬間、嶺緒は思わず叫んだ。

「あぁぁぁぁっもう!!少しは団体行動をとれぇぇぇぇぇ!!!」

「やだ」

「え、やってるつもりなんだけど…」

「おいっ!?っていうかクローネ!?お前これでやってるつもりだったのか!?」

「え?うん」

きょとんとしながら真顔で答えるクローネに、嶺緒は呆れ顔となり、説得を諦めたようだ。

すると、シンとした空気の中、ガコンッという音が響き渡る。
どうやらシェリルが仕掛けを押したらしい。

「さっさと行くよ。エトルに逃げられてまた追いかけなくちゃいけなくなるなんて面倒くさいこと、僕は御免だからね」

「あ、うん!ごめんね!」

「はぁ…」

シェリルが仕掛けを押したことにより、別の場所の丸太が上がってきた。
三つの丸太が上がり、階段のようになっている。

「お前らさ、本当に大丈夫なのか…ダンジョン攻略とか」

「僕は別に余裕だけど」

「大丈夫!生きてれば問題ない!!」

「「だめだこいつ」」

無駄に元気に言い張るクローネを見て、シェリルと嶺緒は溜め息をついたのだった。











「電光石火!」

嶺緒が目の前に出てきたウパーを電光石火で倒す。

「はぁ…にしても無駄に敵が多い…」

「…ねぇ」

「あ?……え?」

嶺緒が多少イラつきながら振り向き、変な声を上げてしまうほど、声をかけたシェリルのオーラはどす黒かった。

「僕の目の前に立つのやめてくれない?すっごい邪魔なんだけど」

「いや、しかし敵ポケモンがだな…」

「なに?今倒れたウパーの代わりにあんたが僕の蔓のムチ喰らってくれるの?」

「誰もそんなこと言ってねぇよ!?」

「じゃあ退いてよ。進むのにも邪魔だろ」

嶺緒は押しのけてサッサと歩いていくシェリルを見て溜め息をつく。
クローネが近づいてきて、嶺緒に耳打ちする。

「あのね嶺緒、ウパーは相性的にシェリルの技が一番効果的だから、技の消耗ばっかしてないで少しは僕にもやらせろって言いたいんだと思うよ」

「よくわかるなお前…」

「え?勘だよ?」

「いやもう…それでもすげーわ…俺、シェリルわかりにくくて苦手かも」

「あはは!慣れれば大丈夫だよ!」

クローネの笑顔に、嶺緒も溜め息交じりの苦笑を漏らす。

「なんか…似てるんだよな」

「え?何が?」

「お前が」

「ボク?」

クローネは何故自分のことを言われるのかよくわからず首を傾げる。

「え?え?誰に似てるの?まさかシェリル?」

「それは絶対ない」

「じゃあ、誰?」

「俺の姉貴に」

「嶺緒のお姉さん?」

クローネが再度首を傾げると、嶺緒は苦笑しながら頷く。

「ねぇ、あんたの姉貴の話とかするのは勝手だけど、さっさと来ないとおいてくよ」

シェリルの呼びかけに、クローネと嶺緒も走っていく。


しばらくすると、光が見えてくる。
光の正体――つまり出口に着き、外に出る。
時刻はすでに夕暮れ時である。
シェリルがぼそりと「黄昏時だね、だいぶ時間が経ったな」と呟く。

「…あ」

「何?…あ」

「…あっ!」

嶺緒がある方向を向き、最初に声を上げる。
続いてシェリルが怪訝そうにその方向を見て、少し間を開けて声を発する。
2匹が声を上げたことに疑問を抱いたクローネが驚いたような表情になる。
その方向には、クローネとぶつかったズルッグ、エトルがいた。

「話を聞きに行くか」

「うん!」

嶺緒の提案に、クローネが頷きエトルの方へと走り出そうとした。
…が、その瞬間シェリルが蔓のムチでクローネと嶺緒を抱え、横にあった大きな岩の影へと隠れる。

「ちょ、何すんのっ…む〜っ!!?」

「静かにしな、埋めるよ」

シェリルの真剣な気迫に、クローネは黙る。
只事ではないと気付きいち早く黙り込んだ嶺緒は小声でシェリルに話しかける。

「(どうした?)」

「(誰か後ろから来てた。敵か味方かはわからないけど…ともかく、隠れた方がいいと思ったんだよ)」

「(それなら早く言ってくれればいいのに〜…)」

「(うるさい黙れ)」

「(おい、シェリル。バレないように覗けるか?)」

「(まぁ…3匹ならギリギリってとこだね)」

3匹はそっと影から様子を窺う。
足音が段々と近づいてくるのが、いち早く気付いたシェリルだけでなく、嶺緒やクローネでもわかる程となる。
出口から出てきたポケモンを見て、クローネは驚愕に満ち溢れた表情となる。

「(…え?な、なんで…!?)」

「(やっぱり来たね…ガレット)」

「(え?)」

シェリルの言葉に驚くクローネ。
出口から出てきたのは紛れもなくガレットだった。
が、シェリルはそれを予測していたかのような台詞を口にした。

「(シェリル…!?い、いったいどういう…)」

「(静かに。あと、もう少し縮こまれ、バレるよ)」

シェリルに言われ、慌てて縮こまるクローネ。
ガレットはこちらに気づかず、エトルのもとへと歩いていく。
そして次の言葉に、クローネは怪訝そうな表情となった。

「待たせたな」

「(え…)」

シェリルと嶺緒は、顔色一つ変えずにジッと様子を見ている。
ガレットの言葉に、振り返ったエトルはわざとらしく顔を顰め、肩をすくめる。

「遅かったじゃねぇか。オレは早いところ売っぱらいたいんだよ」

「まぁそう慌てるな。こっちだってつけられてるかもしれねぇんだ。
足がつかねぇように慎重にやらなきゃな」

会話の内容に、クローネは動揺を隠せない。
一方のシェリルは顔色一つ変えず、一切の反応を見せない。嶺緒は表情だけは変わらないがその表情は少し曇っているようにも見える。

「しかし、さすがだな。相変わらず鮮やかな仕事ぶりだ。…それで、礼は?」

「あぁ、約束通り用意してるぜ。…しかし、お前もがめついなぁ」

エトルの言葉に、ガレットは表情一つ変えずに鼻をならす。

「フンッ、がめついのはどっちよ?あの水色の石は西の地方で売ればけっこうな金になる。
それに比べて、オレに払う金なんかたいしたことねぇだろうが」

「ククッ、まあな。
まぁ、自分で【石の洞窟】に行って取ってきてもいいんだが…ちょっとあそこは手強くてな。
こうしてあんたに協力してもらった方が、オレにとっては手っ取り早いからな」

シェリルは「やっぱりね。ついに化けの皮がはがれたか」と肩をすくめ、嶺緒はクローネが明らかに動揺しているのを悟って「落ち着け」と小声で声をかける。


「奴らにはまた取りに行かせるからよ。そしたらまた、礼の方はよろしく頼むぜ?」


その言葉に、ピクリとクローネが反応する。
いや、クローネだけではなく、シェリルもだった。
が、クローネが思いつめたような表情なのに対して、シェリルは反応を見せたにもかかわらず、相変わらずの無表情だ。
そこに、エトルのわざとらしい声が響く。

「へ?また行かせるのかよ!?奴らに!?」

「あぁ。あいつら…とはいってもクローネだけだがな、オレが家を建てる約束を守るって信じてるからな。
このまま騙し続ければ、ずっと水色の石を取ってきてくれるぜ」

「クローネって、あのピカチュウの方か。確かにあっちのツタージャは鋭そうだが…」

にしても、とエトルは顔を思いっきり顰めた。

「ホントかよ、おい!?マイホームを建てるのが奴らの夢なんだろ?叶わぬ夢を信じて…奴らはこの先もずっと石を拾い続けるのかい?
うぅ…泣ける、泣けるじゃねぇか、おい」

同情したように涙をポロポロと流すエトル。
それを見て、クローネはグッと堪える。おそらく、苛立ちを我慢しているのだろう。
嶺緒は顔を顰める。シェリルはエトルの涙を演技だと見透かしているのだろう、鼻でエトルを嘲る。

「おいおい、泣くかぁ?この程度で?
西ではもっと悪どい事をしているエトルさんがよぉ」

その言葉に、先ほどまでの涙と同情したような表情はどこへやら、ニヤリと笑うエトル。

「ちげぇねぇ。ズケケケケケケケケケッ!!」

「ドゥワ…ドゥワ…ドゥワッハッハッハッハ!!」

「ボクもう我慢できない…!お前達!!」

驚いて声のした方を向くエトルとガレット。
そこには岩の影から出てきたクローネが立っていた。
よほど腹が立っているのだろう、頬の電気袋がバチバチと放電している。

「潮時だよ、チビ。出るよ」

「へいへい……ってかチビって言うな」

シェリルは肩をすくめると、スッと岩の影から出てくる。
嶺緒も溜め息をつくと、岩の影から姿を現す。

ガレットは驚きに目を丸くする。

「お、オメェら!?どうしてここに!?」

「どうして、だって?その質問に対しては心当たりはじゅうぶん過ぎるほどあると思うけど?」

シェリルの嘲るような台詞に、ピクリと反応するガレット。
クローネが憤りを隠せないといったように声を荒げる。

「エトルの後を追ってきたんだ!!ガレット、よくもボク達を騙したな!!」

鋭い眼差しでガレットとエトルを睨みつけるクローネ。
そのいつものクローネからは考えられないような鋭い眼光に、一瞬たじろぐガレットだが、すぐに言い返す。

「フ、フン。今の世の中、正直者はバカを見るだけだ。夢なんか見るから逆にダメになる。
騙される奴が悪いのさ!」

その言葉にさらに表情を険しくさせるクローネ。
嶺緒はその状況をジッと見つめている。

「オ、オレがつけられてたとはな…」

ガレットの隣に並び、驚いたと言わんばかりの声色で呟くエトルの表情には一瞬だが焦燥が浮かぶ。
がそれも一瞬のことで、すぐにその焦燥は消え去り、逆に興味深そうな表情へと変わる。

「つまりはオレのテクニックを見破ったってことかい?恐れ入ったぜ」

「…わーなんかウザい」

シェリルの完全な棒読みの呟きにピクリと青筋を浮かべかけたものの、どうにか堪えるエトル。
しかし、と言葉を続ける。

「それでどうするつもりよ?やるのか?オレ達と」

「いや、やらないんだったら最初からここにいねぇよ」

嶺緒がもはや疲れたというような声でツッコむ。
そのわかりきったことをいちいち聞くなといったような仕草に、今度こそ青筋を浮かべるエトル。

「フンッ、言っておくがオレはヤバい橋をずっと渡り歩いてきた。
貴様らとは修羅場をくぐり抜けてきた数が違う。ここは素直に帰った方がいいぜ?」

その言葉と睨まれたときの威圧に思わずクローネはたじろぐが、グッと堪えて逆にエトルを睨み返す。

「ぜ、絶対に嫌だ!!」

「…やれやれ。せっかくの忠告も聞かんとは…」

「とことん賢くないらしいな」

呆れたように目を細めるエトルと、バカにしたような目で睨みつけるガレット。
2匹とも共通して、戦闘態勢に入っている。
クローネも対抗するように戦闘態勢をとる。

「…どいつもこいつも」

刹那、スッと空気が凍りついたように鋭くなった。

嶺緒は思わずシェリルを見た。そして驚愕に目を見開いた。
緋色と深緑の瞳が殺気にギラギラと輝き、鋭利な刃物のように鋭く、抑えられているのだろうが殺気と憎悪が漏れだしている。
まるでオーラを纏ったかのように殺気に煌めく瞳を見て、嶺緒の頬を思わず冷や汗が流れる。

「……っ…(マジかよ…シェリル、キレた…のか?)」

シェリルは無愛想で他人のことなど興味なしといったタイプで、冷静に物事を判断する。
そのシェリルがここまで激昂すると誰が予測できただろうが。
何にキレたのかは定かではないが、とにかく今は好都合だと嶺緒は判断する。

クローネが不安そうにシェリルを見ているのを悟った嶺緒は、クローネに小声で大丈夫だ、と告げる。

シェリルのその瞳に、シェリルや嶺緒より一歩手前にいるクローネを睨みつけていたため、おそらくは気付いていないであろうエトルが高々と叫ぶ。

「いいだろう。お前らの選択肢がいかに間違ったものだったか教えてやる。…行くぞっ!!」


その声を合図に、全員が戦闘を開始した。



■筆者メッセージ
データが消えたりしていろいろと手間がかかりましたが、なんとか更新しました。
なんか…このままいくとシェリルが無駄に強くなる気が…←
ただ、シェリルは普通の視点で見るとめちゃくちゃ嫌な奴ですね。まぁこの点に関してはシェリル自身の内面に関係しているので、自然とこうなりますが←

次は戦闘シーンですね…どちらかというと苦手分野ですね。
動きの表現が苦手なもので…

できるかぎり更新速度を早くできるよう努力します。
ただ、クオリティは低いかもです(え
レイン ( 2014/03/11(火) 21:23 )