第五話*でこぼこ山 東の穴
「はー…やっと洞穴から抜け出せたねぇ…」
「……」
あの後、技の練習をしながら洞穴を抜けたシェリルとクローネ。
クローネは爽やかな笑顔を見せているが、シェリルに至っては燃え尽きている。
技の練習は思ったよりハードだったらしい。
出口から出てくると、そこはさきほどの洞穴の上にあった崖の部分だった。
「…あれ?おかしいな」
隣の崖に渡れる道がないのだ。道がなければ、ここまで来た意味もない。
「ふぇ〜…せっかくここまで来たのに…」
「……何の騒ぎ?」
「え!?」
(今更だが)燃え尽きていたシェリルが復活早々放った言葉に、シェリルが状況を理解していなかったことに気づき驚くクローネ。
「と、とりあえずこの崖を渡らなきゃいけないんだ!」
「道ないじゃん」
「だから悩んでるんだって!?」
「うん、知ってる」
「ぅ〜…」
シェリルは周りを見回すと、一本の木に目を止める。
先の方の枝は折れ、葉をつける様子もないことから、どうやら枯れているらしいその木はちょうど崖の端に生えていた。
(へぇ…これ使えるんじゃない?)
シェリルの見立てでは、うまくいけばこの木が橋代わりになりそうだった。
「こういうところでは、地形と自然を利用するのが一番だね」
「え?」
シェリルは木に向かって勢いよく体当たりをする。
やはり枯れていたようで、木はメリメリと音を立てながら割とすんなりと倒れていく。
木の先は反対側にかかり、シェリルの思惑通りうまい具合に橋代わりとなった。
「わぁ!!すごいや!」
瞳をキラキラと輝かせるクローネ。どうやら本気で感動したらしい。
一方のシェリルは完全なる無表情を決め込んでいたが。
「シェリル、すごいね!!」
「…そうか?」
首を傾げるシェリル。
「うん!さっきまで技が使えないみたいだったから本当に大丈夫かボクすっごく心配だったんだけど、さすがだね!!」
「…それ、嫌味?」
眉をひそめるシェリル。
「っていうか、考え方と技が使えないのは関係ないだろ」
「あ、そっか!」
「はぁ…」
シェリルは溜め息をつくと、さっさと橋を渡っていく。
「あ、待ってよ!!」
クローネは慎重に橋を渡っていく。
シェリルは運動神経が良いので、クローネを尻目にさっさと渡り切ってしまう。
「…早くしなよ」
「ま、待ってよ!!」
(…ヘタレだ)
何を思ったか、何故かそんなことを考えるシェリル。
ようやく渡り切ったクローネは、
「さ、行こっか」
と笑顔で言う。こういうのを無邪気というのだろう。
「だめ」
「なんで!?」
「キミが先に行ったら迷うだろ」
「ぅ…」
不満そうな表情になるクローネ。
「僕が先に行けばいいだけだろ」
「うん!じゃあ早く行こう!」
「はいはい…」
肩をすくめながら歩くシェリルとにこやかな笑顔でその隣を歩くクローネは、やはり異色の組み合わせに見えるのだった――
【でこぼこ山 東の穴】
先ほど通った西の穴と逆の位置にある洞穴、東の穴。
その洞穴の中にまたもやシェリルのツッコミがとぶ。
「ここはゴチムの巣窟かっ」
そういえば西の穴でも同じツッコミをしたような…と心のどこかでそんなことを考えながらシェリルはツッコむ。
西の穴では何故かチラーミィしか出なかったが、こちらの東の穴ではやはり何故かゴチムばかりが出てくる。
「まあまあシェリル、落ち着いて…ね?」
「僕はこれ以上ないほど落ち着いてるけど」
落ち着いているからこそツッコみたくなるのがシェリルである。
「蔓のムチ!」
先ほど覚えたばかりの技でゴチムを吹っ飛ばし、倒す。
もう技を習得したようだ。
「シェリル、さっきまで燃え尽きてたのにすごいねぇ…」
「…キミ、僕のことバカにしてるの?」
「え、なんで?」
「…はぁ」
疲れたような様子で溜め息をつきながら蔓のムチでクローネの後ろのゴチムを倒す。
なかなか器用である。
「気を抜くなよ、出口あそこだけど」
「う、うん!気を付ける!って、え!?」
シェリルがすでに出口を見つけていたので、本気で驚くクローネ。
シェリルは怪訝そうな表情でクローネを見ると、さっさと歩き出す。
それを見てクローネがこっそりと、シェリルは集団行動苦手そうだよなぁ…と思っていたのはここだけの話。
洞穴から出ると、横には壊れた橋があった。
「無事…なのか?まぁとにかく渡れたね」
「うん、そうだね!よかったよかった」
「僕は疲れたけどね」
シェリルは肩をすくめる。
「とりあえず、これで進めるね♪」
「急いでるんだろ?さっさと行った方がいいんじゃないか?」
「あ!!」
「…忘れてたな」
(こんなんで本当に大丈夫なのか、こいつ…?)
訝しげな表情になるシェリル。
「い、急がなきゃ!待ち合わせはすぐこの先なんだ!行こう!」
「はいはい…」
シェリルは何とも言えないような声で返事を返すと、クローネと共に急いで走り出した――