ポケモン 不思議のダンジョン 〜光の煌き 闇の誘い〜






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*第一章*Encounter of light and darkness
第四話*何事も最初は上手くいかない
「ねぇ…」

不満そうに声を上げるシェリル。

「なに?」

ビクッとするクローネ。

「…いつまで歩くんだよ」

「え!?え、えっとぉ…」

「迷ったんだろ」

ギクリとするクローネに、シェリルは溜め息をつく。

「…迷ったんだな」

「そ、そそそそんなことないよっ!?」

「ここ、さっきも通ったけど」

「えぇ!?あ…」

「…迷ってるんだな、はっきり言えよ」

「う…」

はぁ…と溜め息をつくシェリル。

「ごめんね…ボク、ちょっと方向音痴で…」

「どーでもいいよ、もう。さっさとこの森を抜けることだけ考えなよ」

「…うん…」

シェリルの言葉にしょぼんとするクローネ。

「…っ…なんでそんなに落ち込むんだよ」

「だって、勝手に連れてきておきながら、ボク迷っちゃって…迷惑だったかなぁって…」

「…まぁ、迷ったのは迷惑だけど」

「……」

「っ…あーもう!」

イライラとしているシェリルにクローネは申し訳なさそうな表情を見せる。
だが、シェリル自身はモヤモヤしているだけである。
背を向け、一本の木を見つけると、よじ登り始める。

「え…シェリル?」

シェリルは高いところまで登りきると、ジッと広がる光景を見回す。
そしてスルスルと降りてくると、クローネに背を向け、小さく

「…悪かったよ」

と言った。

「え?」

「僕のこういう言い方、癖だから。言い過ぎだって、よく一緒にいた奴にも言われてた」

「シェリル…」

「…勘違いしないでよ、あんたみたいな反応されたこと、ないんだ。ただそれだけ」

一瞬押し黙ると、

「…多分、向こうが出口だろ。森が途切れてたから」

シェリルはクローネに向き直ると、口を開く。

「さっさと行くよ」

「…うん!」

考えを読ませないシェリルの、一面を見れた気がしたクローネは、先ほどとは打って変わり笑顔を見せながらシェリルを引っ張って歩き出した。


「…どうでもいいけど、あんたが先に歩いたらまた道に迷わない?」

「…あ」

「はぁ……」




















クローネが急いでいるとのことで、走り出して数分――
森を抜け、滝やら川やらが流れているところまで走ってきたシェリルとクローネ。


「あー!?どうしよう、橋が!?」

クローネが渡ろうと思っていた、谷を渡るための橋はなんと壊れていた。

「う゛あぁぁぁぁぁぁ…どーしよう!?なんでこんな時に限って橋が壊れてるんだよぉ…!!」

頭を抱えるクローネは、ふとシェリルがそばにいないことに気が付く。

「あれ?シェリル、どこ?」

シェリルは少し離れたところで川の水をすくっては眺めていた。

「すごいな…!川が凍ってない、それに水ってこんなに透き通ってるものなのか…!太陽の光でこんなにキラキラ光るものなのか…!」

瞳をキラキラさせながら水を眺めているシェリル。

「えーっと…シェリル?」

「…な…!」

我に返ったらしいシェリルは、わざとらしく咳払いを一つすると、クローネを見据えた。(正確には睨んでいた)

「な、なんだよ…なんか用?」

「えっと…あの…?」

「さっさと用件だけ言えよ、早くしろっ」

先ほど子供っぽい一面を見られたせいだろうか、照れ隠しのつもりなのか少し声を荒げるシェリル。

「う、うん!あの、この先に渡るための橋が壊れてて…向こう側に行けないんだ」

「……」

シェリルは橋を見る。

道の先にかけられていた橋は途中から壊れており、とてもじゃないが渡ることは無理だろう。
シェリルは特に慌てた様子もなく、周囲を見回す。
と、少し離れた場所に洞穴があるのが見えた。
ジッと地形を把握するかのように周りを見ると、クローネに視線を戻す。

「…あそこ。あそこに洞穴がある。あそこを通っていけば、もしかしたら向こう側に渡れるかもしれないよ」

バッと洞穴の方向を見つめるクローネ。
曇っていたその表情がパアァァァァァァと輝きだす。

「ナイスだよ、すごいよシェリル!!」

シェリルにギュウッと抱きつくクローネ。

「うわっ!?やめろっ僕はベタベタ引っ付いてくる奴は大っ嫌いなんだよっ!!」

「へ?あ、ごめん。つい…」

「つい、で済ませるなボケッ!!」

苦笑するクローネに少々(?)苛立った様子でツッコミをかますシェリル。

「はぁ…とにかく、さっさと行くよ」

「ラジャー!!」


肩をすくめるシェリルと、元気よく声を出すクローネは、洞穴の中へと入っていった。












【でこぼこ山 西の穴】



「あーーー…」

あーーー… ―――

あーーー… ―――

「ほらシェリル!洞穴だから、音が反響してるよ!!」

「…それが?」

「すごいよねぇ、これやまびこみたいで面白いね!」

「遊んでる暇あるのか、キミは…?」

一匹ではしゃぐクローネを、何とも言えないような目つきで見るシェリル。
この二匹、傍から見ればかなりの異色の組み合わせである。

「さっさと行くよ」

「あ、待ってよ!!」

面倒くさくなったのか、さっさと歩き出すシェリルを、クローネは慌てて追いかける。
曲がり角をまがったそのとき、シェリルは何かとぶつかった。

「いったた…」

シェリルはぶつかった何かを見る。
次の瞬間シェリルの口から出た言葉がコレである。

「あ、ヤベ」

シェリルがぶつかったものは、ポケモン。
しかもかなりご立腹の様子のチラーミィである。

「あー…」

いかにもやってしまった、といったような表情をするシェリルに、チラーミィが襲いかかる。
そのとき、シェリルを押しのけクローネが前に出た。

「電気ショック!」

クローネの赤い電気袋から電気がほとばしり、チラーミィに直撃する。

かなりの威力だったためか、チラーミィは倒れた。

「シェリル、大丈夫!?」

「…僕、別に庇ってもらわなくても平気だったんだけど」

プイと顔を背け、ボソッと呟くシェリル。

「ごめんごめん、でも危なかったように見えたからさ」

「まぁ、助けてもらったことに変わりはないけどさ」

溜め息をついたシェリルがふと目を向けた先に、チラーミィが飛び出してきた。

「…ここはチラーミィの巣窟かっ!」

思わずツッコむシェリル。ツッコミの素質があるかもしれない。

「ったく…」

シェリルはサッとチラーミィの後ろに回り込むと、ツタージャになったので体は小さくなっているため、回し蹴りの要領でチラーミィを尻尾で叩きつける。

「チッ…(…ツタージャの体じゃやりにくいな…尻尾あってよかった)」

実際は足が短くなっているのを一瞬忘れていたようだ。

「シェリル!技!技を使って!」

「使えたら苦労しないってのドアホがっ!」

「えぇっ!?も、もしかしてシェリル、技使えないの!?」

「僕は人間だったって言っただろーが!人間が技の使い方知ってると思うのかあんたはっ!!」

「あー…」

シェリルはイライラしつつもチラーミィの攻撃を避ける。

「電気ショック!」

刹那、チラーミィに電撃が走る。電気ショックを放ったのはもちろんクローネだ。
シェリルは倒れたチラーミィを一睨みすると、腰に手をあて、ズイッとクローネに顔を近づけた。
無愛想な表情のままで。

「…僕、庇ってもらわなくても平気だって言ったよね?」

「でもシェリル、技使えないんだよね?」

「うっ…まぁ、それはそうだけど…」

何ともいえない表情で言葉を詰まらせるシェリル。

「まぁ大丈夫だよ!何事も練習 練習♪」

「…あんたはずいぶん楽観的だね」

呆れたような目線を送るシェリル、その視線はとても痛々しかったりする。

「ほら、ここで進みながら練習したらいいんだよ!」

「はぁ…僕、練習とか嫌いなんだけど」

憎まれ口をたたきつつも腕をグルグルと回している様子からやる気はあるようだ。

「よし…それじゃあ行くか」

「ラジャー!」



レイン ( 2014/01/10(金) 21:41 )