第三話*考え方の相違
「…え?」
「…だから。僕は別世界から来たの。その入り口が空にあって僕は飛ぶ術がないわけだ。だから落ちた」
「……」
「で、別世界では僕は人間だったわけだ。聞いたことのない変な声に呼ばれた…のかな、それでいろいろあってこの世界に引き込まれた。で、この世界に来るときに、なぜかツタージャになった。以上、説明完了」
「………」
唖然とした表情のままかたまっているクローネに、シェリルは怪訝そうな表情を向ける。
「…おい」
「……」
「…おーい」
「………」
クローネの目の前でヒラヒラと手を振ってみるがやはり返事はない。
(……やっぱり…信用するわけない…か。わかってはいたけど)
「…うわぁ!!シェリルってすごいんだね!」
(ほらやっぱり、信用するわけな…い…って)
「えっ!?」
「?どしたの?」
「どーしたもこーしたもない!あんた、こんな途方もないバカげた話信じるっていうのか!?」
シェリルが軽い混乱状態に陥っている中、クローネはきょとんとした表情で首を傾げる。
「え?だって本当の話なんでしょ?」
「そ、そりゃそうだけどさ…」
(なんなんだこいつ!?あっさり信じたよ!?)
何とも言えないといったような表情を見せるシェリル。
「…あんたさ、騙されやすいって言われない?」
「ふぇ?」
「………もういいや、疲れるだけだし」
疲れた表情を見せるシェリル。
「…あんた、僕の話あっさり受け入れてたけど、なんで?あんたの最初の反応見た限りじゃ、普通じゃありえないような話なんだろ?」
「うん、そうだね。だいたい、『ニンゲン』っておとぎ話の中でしか存在しないと思ってたから」
「…この世界には、人間がいないってことだね」
(夢の中で聞こえたあの声も、『ポケモンの世界』と言っていたし。おそらくクローネの言動からして、この世界には人間はいないか、あるいはその存在を認知されていないんだろうな)
「多分ね。それに、別世界があるなんて話も聞いたことなかったし」
「…じゃあなんで僕の話を信じたのさ?」
クローネはにっこりと笑った。
「確かにシェリルの話は不思議なことだらけだよ。おとぎ話の中でしか知らなかった人間が存在してたこととか。その人間がポケモンになって空から降ってくるなんてありえないって思うし、信じがたいよ」
「…じゃあ、なぜ?」
怪訝そうな表情のシェリル、対してにっこりと笑顔を見せるクローネ。
「ボク思うんだ。世の中にはまだまだ不思議なことがたくさんある…でも、それは本当は不思議でもなんでもなくて、ボク自身が知らないから不思議だと感じるだけなんじゃないかって…」
「……!」
シェリルはジッとクローネの瞳を見据える。
シェリルの闇を湛えた瞳と、クローネの澄んだ光を湛えた瞳の視線が交差する。
「それにね、シェリル」
「……」
「ボクたちが信じてる常識が全てなんだとはボクは思わない。どんなに偉いポケモンでも、この世の全てを知ってるわけじゃない。常識なんてボクたちが勝手に決めつけてるだけかもしれないんだ。だから、ボクはどんなに不思議なことでも、ありえないって決めつけちゃだめだと思うんだ」
「……(嘘は…ついてないな)」
ふぅ…と小さく溜め息をつき、腕を組むシェリル。
(…前言撤回。こいつ、素直で考えがやわらかいんだな)
「…面白い考え方してるな、クローネは」
「そうかなぁ?」
「…ホント、世界の皆がクローネみたいな考え方も持ち合わせてくれてたら…よかったのにね」
「え…?」
そのときフッと見せたシェリルの儚い表情に、クローネは驚いた。
しかし、そんな表情を見せたのは一瞬だけだった。
「キミはその考えをもって、何がしたい?」
「ボクはね、もっといろんなことを知りたいし、見てみたいんだ!今まで見たこともない幻のポケモンにも会ってみたいし、遺跡や洞窟も探検したい!いろんなところを探検したい!」
「……探検…」
「そう!ボクは冒険家になりたいんだ!!冒険家になって、沢山のところを見て、沢山のポケモンに出会ってみたいんだ!」
キラキラとした瞳で熱く語るクローネ。
「そのためにボクは旅をしてここまで……」
いきなり黙り込んだクローネに怪訝そうな表情を向けるシェリル。
「…ここまで、なに?」
「…あーーーーーーーーー!!!!」
「うるさい黙れっ」
慌てたように声を張り上げるクローネに少し苛立ったような声でツッコむシェリル。
「そうだった!大事な用があるんだったぁ!!」
慌てていきなり駆け出そうとするクローネだったが、今度はいきなり立ち止まった。
「ど、どうしよっ…あぁでもっ…うぁぁ…」
「…なんなんだよ」
立ち止まって頭を抱えているクローネを、シェリルは怪訝そうに見る。
(用があるならさっさと行けばいいじゃないか)
「シェ、シェリルぅ…」
「…なに」
「ボクこの先に大事な用があって…ってあぁもう!あとで説明するからとりあえず来てっ!!」
「ちょ、おい!?」
反抗する前にぐいぐいと引っ張られ、事情が上手く飲み込めないながらも、クローネに引っ張られながらシェリルはついていった――