ポケモン 不思議のダンジョン 〜光の煌き 闇の誘い〜 - *第一章*Encounter of light and darkness
第一話*不思議な夢
真っ暗な空間に、人間はいた。

どこを見渡しても何も見えない。

手を伸ばしても掴むのは虚空ばかり。

まるで自分の心のようだ、その人間は思った。

何も感じず、何も掴めない。

「…ここは」

不思議と自分の声は聞こえた。
その人間は特に何も考えず、ただ何かに惹かれるかのように歩き出す。
歩いていくうちに、風景は真っ暗な空間からやがて明るくふわふわとした空間へと変わっていった。

「…なんだ、ここ?」

見覚えのない空間。
嫌な感じはしなかった。
が、好き好んでいる場所ではないとも思えた。

「僕は…確か寝たんだよね?普通に、いつも通り」

あ、と人間は思った。
外に出た覚えもなく、寝た記憶で途絶えているのなら、ここは夢の中なのではないのかと。

「…え?」

微かに声がしたような気がした。
自分以外の声、しかも聞き覚えのないような。

「なんだ、今の…」

人間は耳をすます。
すると、今度はもう少し鮮明に聞こえてきた。

《あなた……今この声を聞いているあなた…もしかしてあなたは…人間でしょうか?》

少しずつ鮮明に聞こえてくる声に、人間は眉根を寄せた。

(僕が人間か、だって?心外だな、見ればわかるじゃないか)

とはいえ、姿を見せない相手に怒るわけにもいかない。

「そうさ、僕は人間だよ」

《…だとしたらお願いです。私たちの世界を…ポケモンの世界を助けてほしい》

「ポケモンの世界、だって?」

(僕の世界にもポケモンはいるが…へぇ、そんな世界もあるのか。確かに次元は何種類もあるというが…)

人間はそこまで驚かなかった。反応が緩い気もするが。
しかし、一つだけどうにも腑に落ちない点があった。

「なぜ、僕が…」

が、謎の声はその質問に答えている余裕はなかったのか、それとも人間の声は届かなかったのか。
何にしろ、その声は続きを言うことはなかった。

《ポケモンのせか…》

声はそこで途切れた。

「え?何?何なのさ?」

途切れた声に若干の苛立ちを感じたのか、声を少し大きめに張り上げてみるが、返事はない。

次の瞬間だった。


《助けてっ!!!》

強く響いた声に首を傾げる人間。
次の瞬間流れてきた映像。

一匹の桃色のポケモンが必死になって走っている。
それを追いかけている三つの龍のような頭を持った大きなポケモン。
三つの頭を持ったポケモンが雄たけびを上げた瞬間、そのポケモンは桃色のポケモンに襲いかかった。

そこで、映像は途切れた。


「…え」

驚いた様子の人間。

(今のは…なんだ?)

すると目の前にもやが生まれ始めた。
もやのはずなのだが、なんとなく中々にはっきりと自分の姿を映している。

漆黒の長髪に、緋色(ひいろ)の右目と深緑(しんりょく)の左目。
羽織ったローブが真っ黒なため、際立っている真っ白な肌。
耳に付けられた銀のピアスに、新緑の宝石と真紅の宝石があしらわれたロケットの首飾り。

「…僕だ」

そう呟いたのが合図だったのか。
もやの中の人間の形がどんどん変わっていく。
いや、変わっていっているのは自分なのだ。
気付いた時には自分の姿は完全に変わった後だった。

「ちょ、え…?な、なんで?」

慌てて自分の姿を見た時には、緑色とクリーム色の姿。
後ろを見ると、葉っぱのような形をした尻尾までついている。

もやは晴れて、妙に美しい青白い鏡のような地面に自分の姿が映った。それを利用して自分の姿を見ると…

「これって…!?」

ツタージャ、と呼ばれるポケモンの姿となっていた。

「えぇ…なんで…!?」

さすがに驚きを隠せない人間。

「あ…」

しかし、一つだけ通常とは違うことに気が付いた。
それは、瞳だった。
通常のツタージャの茶色の瞳とは違い、人間だったツタージャの瞳はいつもと変わらず緋色(ひいろ)の右目と深緑(しんりょく)の左目だった。

「…にしても、どういうこと?」

するともやが集まっていたところは晴れ、泉のような場所に立っていることにツタージャは気付いた。

「………」

すると、泉の中心から光の球体のようなものが現れた。
ただの直感にすぎなかったが、ツタージャにはその球体のある場所から「助けて」という声が聞こえた気がした。

「なんなんだよ…」

ぶつぶつと言いながらその光の球体に手を伸ばした瞬間――

「うわっ!?」

いきなり光の球体の中に引き込まれそうになる。
慌てて反抗するが、その力は強い。

「っ!?くそっ…!!」

が、次の瞬間足が浮き上がるかのような浮遊感に襲われ、引き込まれてしまった。
今まで感じたことのないような感覚に襲われ、思わず目を瞑る。

「うっ…!?」

その感覚が消えたと思った瞬間、今度は浮遊感と強い風を感じた。
しかも、下から。
目を開けると、下には真っ白な雲が見えた。

(ここは空…?ってことは…)

「あ、落ちてる」

意外と冷静な声が出たのはここまでだった。

「…………え」

思わず素っ頓狂な声が口から漏れ出た。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!?」

珍しく大声を出したなー、なんて、頭の中では冷静に考えながら元人間のツタージャは落ちていった。


これが、最初の奇跡――

■筆者メッセージ
…まとめられなくて、長くなってる…
すいません…

主人公の性別はいずれ明かします。
その前にわかった方は、素晴らしい!!(え
レイン ( 2014/01/05(日) 21:57 )