*第二十話*セカイイチ
「「「「「「「「みーっつ!!皆笑顔で明るいギルド!!」」」」」」」」
「さあ、皆!今日も仕事に掛かるよっ♪」
「「「「「「「「おおーーーーー!!!」」」」」」」」
斉唱を終えると、皆自分の仕事場へ走っていく。
ちなみに、シオンはゼロに踏まれて起こされた事により、かなりイラついているらしく、何やらブツブツと言っている。
その口元から火が吹き出されそうに見えるのは気のせいだろうか。そして、何やら物騒な言葉が聞こえるのは気のせいだろうか。
「おーい、『スカイ』!!ちょっとこっちに来い!!」
シモンに呼ばれ、慌てて走っていくリーフとまだブツブツ言っているシオン、欠伸をしながら歩いていくゼロ。
やはり性格が顕著に表れているらしく、三匹とも行動がバラバラである。
この3匹が同じように行動する日は来るのだろうか。
「おい、お前達。今日はちょっと食料を調達してきてほしい」
シモンの言葉にきょとんとするシオンとリーフ。
何故食料なのだろう。ギルドの食料は基本的に尽きることがないように管理されているはずなのだが。
「食料…ですか?」
実は彼女、本当はお尋ね者を倒しに行きたかったのだが、そんな考えを見抜かせないような表情をしている。
相手に意図を読ませにくいという点ではゼロもシオンも似ている。さらに、言動すら意図を読ませぬという点ではシオンの方が上手である。
「そうだ、食料だ」
「あの…でしたら【カクレオン商店】に行けばいいんじゃ…?」
カクレオン商店には、木の実やらリンゴやらグミやら、食料は基本なんでも揃っている。
わざわざとってくる必要はないのではないか。シオンはそう言いたいのだろう。
「いや、それが普通の食料ではないのだ。お前達には『セカイイチ』を取ってきて貰いたい」
「セカイイチ?」
リーフはきょとんとして首を傾げる。聞き覚えのない物らしい。
ゼロもシオンも首を傾げている。とすると、あまり周りには出回ってはいないものなのだろうか。
「とても甘く、とても大きいリンゴだ。そして…親方様の大好物でもある」
「ふうん…アスラルの好物ってことは、食堂にいる時に頭の上で回してるあのリンゴ?」
「そうだ。鋭いな、リーフ」
食事中、アスラルは嬉しそうにいつも頭の上でクルクルと大きなリンゴを回していた。
器用なものだ、と見ていたことがあるので覚えていたのだ。
ゼロもリーフもシオンも納得したような表情を見せた。
「何処にあるんですか?」
目上の人に対しては一応敬語を使い分けるシオン。
ゼロが広げた地図で、場所を指し示すシモン。
「この場所だ。【リンゴの森】と呼ばれている。ここの奥地にセカイイチの木があるから、それを取ってきてくれ」
「…普通のリンゴとの見分け方は?」
「普通のリンゴより、大きい。特大サイズのリンゴだし、何より奥地の大きい木にしかなっていないから、すぐわかるはずだ」
そこまで話すと、シモンは急に真剣な表情となる。
「くれぐれも…くれぐれも失敗のないようにな」
「う、うん」
妙に真剣な表情に、リーフは少し押され気味である。
「もし失敗なんかしたら…親方様は…親方様は…!」
「…アスラルが…何だ?」
「親方様は…………なのだ」
「「へ?」」
「…さっぱりわからないんだが」
ぽかんとするリーフとシオン、そして呆れたような声を出すゼロ。
肝心なところでシモンは全く聞こえないほど声をすぼめたからだ。
「とにかく!大変なことになるんだよ!絶対に失敗のないようにな!」
何度も何度も念を押すシモンの鬼気迫る迫力に押されたリーフは思わず頷いた。シモンはほっと胸を撫で下ろし、去っていく。
それを何とも言えない表情で見送るゼロ達であった。
【交差点】
「あれ?」
最初に疑問の声をあげたのはリーフである。その声に、シオンは訝しげにリーフの方へと視線を向け、ゼロは表情一つ変えずに振り向く。
「あんなところに…」
リーフが指差した場所には、看板が立ち、地下への入り口がある。
その地下への入り口のすぐ傍にはソーナノとソーナンスが立っている。
「……あんな建物、あったかしら?」
「…知らん」
「見覚えがないなぁ……」
興味の湧いた『スカイ』が近くまで寄ると、ソーナノはパッと表情を輝かせ、グイッと近寄って勢いよく話しかける。
「ついに!夢と浪漫の店『パッチールのカフェ』がオープンナノ!!」
ソーナノの言葉に3匹は首を傾げた。
「カフェ?」
「いつの間に…」
「…夢と浪漫?」
上から順にリーフ、シオン、ゼロである。3匹共気になっていることが別々である。
「……シオン」
「何よ?」
「…ロマンって、なんだ?」
三匹の間に、微妙な空気が流れた。その発言をした当の本人は、首を傾げているが。
「…何で知らないのよ」
「忘れた。……記憶喪失だからか?」
「便利な記憶喪失ね」
呆れたような表情のシオン。リーフは苦笑いしかできなかった。
「感情的、理想的に物事をとらえること。夢や冒険などへの強いあこがれをもつこと。それが浪漫の意味よ」
「ふぇ〜…シオンは物知りだねぇ〜…」
「まぁ、読書好きだしね」
「なるほどな……」
「むしろ知らなかったことに驚きだわ」
溜め息をつくシオン。シオンが溜め息をつきている理由がわからないらしいゼロは、首を傾げている。
「あんた、聞き覚えないわけ?常識でしょ……」
「興味ないからな」
「そういうところで即答しないでもらえるかしら」
もはや呆れた表情しかできないシオンは、溜め息が自然と出てしまうのであった。
ゼロは、首を傾げると、シオンに尋ねた。
「…なぁ、リーフは?」
「え?」
シオンが辺りを見回すが、リーフの姿は見えない。いったいどこへ行ってしまったのだろうか。
すると、入り口に立っていたソーナノが二匹に声をかけた。
「チコリータさんなら、さっきお店の中に入っていったノ!」
シオンは頭を抱えたくなった。なぜこんな妙な店に入っていってしまうのだ。
そうツッコみたくて仕方がないようだ。
一方のゼロは「そうか」と短く呟くと、中へと入っていった。
「え、ちょっとゼロまで!?」
慌てて止めようとするが、間に合わず。すでにゼロは中に入っていってしまった。
「……あーもう!どうなっても知らないんだから!!」
シオンはそう怒鳴って(いきなり怒鳴ったため入り口近くにいたソーナノはびっくりしていたがシオンは気にしていない)、中へと入っていった。