*第十七話*予想外の真実
温泉から帰ってきた後、ゼロ達はシモンに報告をした。
「フムフム…つまり、お前達の報告をまとめると、あの滝の裏には洞窟があって、そこの奥地には大きな宝石があった。
更に、その宝石を押すと仕掛けが動き罠が作動して……ここの温泉まで流された………ということ!?」
「うん…残念だけど宝石は取ってこれなかったよ…」
リーフは少し落ち込み気味だ。やはり、持ち帰りたかったのだろう。
「いやいやいやいやいやいや!!そんな事はないよ!!これは凄い大発見だよ!!」
「本当に!?」
「ホント?」
「………」
「ああ♪だって、あそこの滝の裏に洞窟があったなんて、今まで誰も知らなかったんだからな♪」
「そっかあ!大発見かあ!」
「やったわね、リーフ!!」
「うん!」
リーフ、シオン、シモンが楽しそうに談笑している中、ゼロだけは、考え事をしていた。
(あの時……夢で視たシルエット…間違いない。あれは…)
アスラルだ。
「……おい、シモン」
「ん?なんだ、ゼロ」
いつも無口なゼロが、珍しくも自分に質問してきたのでシモンは少しだけ戸惑った様子を見せたが、いつも通りに振る舞う。
「……多分、アスラルはあの洞窟に行った事があると思うんだ。…聞いてきてくれ」
「「「…………」」」
沈黙がその場を包む。
次の瞬間、3匹は思いっきり大声を出した。それこそ、ゼロが思いっきり顔をしかめるほどの。
「えええぇぇぇぇ!?」
「ちょっとどういうことよ!?」
「いやいやいや!!だったら、親方様はあそこを調べてこいなんて言わないはずだよ!!」
「……聞いてくれば解ることだ」
ゼロの妙に自信たっぷりな言葉に、シモンは首を傾げる。
「う〜ん…そこまで言うなら聞いてくるが…」
アスラルの部屋に入る際、呟いていた言葉は、しっかりと三匹の耳に入っていた。
「しっかし…折角の手柄を台無しにするようなことをするなんて…また、変わった奴を弟子入りさせてしまったな…」
そんな言葉を呟きながら、アスラルの部屋に入っていった。
自声が大きいので聞こえてるということには、全く気付かずに。
「で?どういうことなの?」
「説明しなさいよ」
リーフとシオンに問い詰められ、ゼロは面倒くさそうに口を開く。
「…俺は変な夢を視る能力があるだろ?」
「うん」
「確かにそうね。って…」
シオンはリーフよりも先に気がつく。
リーフもすぐに解ったらしい。
まさか、という思いと、でも親方ならありそうだな、という思いが交差して、顔が引きつっている。
シオンに至っては完全に呆れ顔である。
「……アスラルが俺達と同じ事になってんのが視えたんだよ」
「「……はぁ」」
ゼロがリーフ達に説明し終わった瞬間のことだった。
ガシャーン、という音がアスラルの部屋から響き渡る。それと共に、ちょっとした地響きも。
それから少し経つと、シモンが出てきた。
「…で?どうだった?」
「親方様に聞いたところ」
シモンは小さく溜め息をついた。
「『思い出♪思い出♪たあーーーーーーー!!!』とかやって、『ああ!よく考えたら僕行ったことあるかも!』とおっしゃった」
「ノリが軽いわね…」
シオンが小さくツッコミを入れる。
ちなみに、全員が思っていることを何気にその言葉が代弁していたりする。
「まぁ、そういうことだ」
シモンはさっさと上に上がって行ってしまった。
顔が引きつり、この上なく疲れた表情をしていたのは、ここだけの話。
この報告を受け、リーフとシオンは目に見えてガッカリした。
「残念だね…」
「まあ、こういうこともあるわ」
「諦めろ」
「言い方直球!?」
その後は、リーフとシオンのお腹が揃って音を出し、三匹は夕食を食べに行った。
例のごとくゼロは食べきれなかったので、シャラに今度から少なめにしてもらうよう、頼んでいたとか。
「はあ…それにしても、本当に残念だったなぁ。折角ならあそこの別の宝石取ってくればよかったな」
リーフは部屋に戻ってもまだ言っていた。
「まあまあ。終わってしまったことはしょうがないでしょ」
そんなリーフをシオンが宥めている。
ゼロは自分のテリトリーと称している場所でゴソゴソと何かをしている。
ちなみにそのテリトリーの中に入るとゼロが思いっきり睨んでくるので、リーフもシオンも入ろうとはしない。
「そういえばゼロは何してるの?」
「さぁ?」
リーフとシオンはヒソヒソと囁いている。
そんな二匹を余所に、ゼロは小さく「……できた」と呟く。
「なになに?」
シオンはつまらなさそうにそっぽを向いているが、リーフは気になるようでゼロに近づいていく。
「…ん」
ゼロは右手をリーフの方に突きだし、握っていた物をリーフに手渡す。
リーフがゼロに渡された物を見てみると――――
「わああ〜…!綺麗〜♪」
ゼロに渡されたものは、ペリドットで作られたペンダントだった。
ゼロはシオンの方にも近づき、今度は左手を突きだす。
「?な、何よ?」
「……ほらよ」
ゼロがシオンに軽く放り投げて渡した物はルビーで作られたペンダントだった。
「え……?」
リーフとシオンはビックリしていた。
「ゼロ?あんた、これどこから取ってきたの?」
「…滝壺の洞窟の奥地」
「え!?」
あの時、ゼロは地面に埋まっていた宝石を取っていたらしい。
ゼロも自分用に作った、紫水晶のペンダントを首から下げている。
それにしても、と2匹は思う。
((無駄に器用だ…))
2匹共にこの時思っていることがシンクロしていたりする。
2匹もそれぞれのペンダントを首から下げる。
「ゼロ、ありがとう!」
「ま、お礼は言っとくわ」
「…………」
ゼロは何も言わずに自分のテリトリーに戻っていく。
とても反応が薄い、というより何も反応を示さないというのが正しい。
「そういえば、ゼロ」
シオンが唐突に切り出した。
「ゼロの夢?っていうか眩暈、だっけ?かな。もしかしていつも何かに触れた後に起こってるんじゃない?話を聞いた限りだと」
ゼロもリーフも指摘されて気付く。
メロディの時――リンゴに触れ、その後にレギンとぶつかった。
今回の滝壺の洞窟の時――滝に触れ、その後 宝石に触れた。
「確かにそうだね…何かに触れる度に、ゼロはその出来事と関係するものが視えてるよね」
リーフも相槌を打つ。
ゼロも何かを考えついたらしい。
「……考えてみれば。メロディの時は未来が視えた…だが今回は…アスラルが滝へ行ったという過去が視えた」
「もしかして!ゼロは、何かに触れることで、それに関係することの過去や未来が視える……そういう能力を持っているんじゃない!?」
「ちょっと、それって凄いことじゃない!この先、困っているポケモンを助けたり、探検にも役立つ能力でしょ!凄いわね、ゼロって!」
リーフだけではなく、普段は少し大人っぽいシオンでさえ、テンションが高い。
ゼロ自身はあまり嬉しそうではないが。むしろ苦々しい表情をしているようにすら見える。
その時、シモンが部屋に入ってきた。
「おい、『スカイ』。親方様がお呼びだ。来なさい」
「あ、はい!」
「…おい。俺は後から行く」
「…?…うん、わかった」
リーフはすぐに頷き、走っていく。
シオンもその後を追う。
2匹が行くと、ゼロは重々しい溜め息をつく。
しかし……
溜め息をついた後のゼロは、何処かゼロらしくなかった。
いつもの冷静で無口、少し生意気なゼロの面影はどこにも見当たらず、不安や心配で、今にも押し潰されそうなゼロしかいなかった。
「……俺は凄い…か」
誰も聞くことの無い、ゼロの独り言。
ゼロの今の顔は、今まで誰も見たことがないような、悲しみに包まれた、ゼロ自身の裏の顔だった。
「俺だって…不安はある…」
(あの夢…いつでも視れるという訳ではない。見れたら凄いとは思うが、あまり期待しないでくれ。
それ以前に…俺自身、何者なのか不安になる……
俺は、善人だったのか…それとも…悪人か?)
ゼロは深く溜め息をついた。
(俺は……力は強かったとしても、精神的には弱い。
力を求めた理由は…おそらく、何かを守るため?
でも…俺は…)
ゼロは心の中の不安を、ずっとぶつけずにいた。
弱弱しく呟き、一人呟く。
「…俺は…完璧じゃない……本当は凄くなんかない。むしろ……この世界にいなかったほうがよかったような奴だ……」
ゼロの無意識に発せられたその悲しみに満ちた言葉は、誰にも聞かれること無く部屋の中に消えていった…………
ゼロは立ち上がり、アスラルの部屋に向かった。
その時のゼロは、さっきまでのゼロを思わせない、いつものゼロに戻っていた。
「…入るぞ」
アスラルの部屋のドアをノックしてから、部屋の中に入る。
突如、リーフが飛びついてきた。
サッとリーフをかわすゼロ。そのため、顔からべしゃっと飛び込んでしまう。
「あ、ゼロ!やったよ!」
避けられて顔から床にぶつかったにも関わらず、リーフが顔を上げ嬉しそうに言う。
「……?」
まるで意味がわかっていないゼロ。
「私達、遠征に行けるんですって!!」
シオンは嬉しそうに説明をする。
だが……
「…遠征ってなんだ?」
ゼロは遠征の意味すら知らなかった。
シモンが、説明を始める。
「ギルドをあげて遠くの方まで探検に行くのだ。当然だが、付近を探検するのとは訳が違うので、それなりに準備をしていくがな。で、ギルドの中からメンバーを選抜し、行くという訳だ」
シモンの後に、アスラルが続く。
「いつもなら新入りを候補に入れたりしないんだけど、君達、かなり活躍しているからね♪特別に選抜メンバーの候補に入れることにしたんだ♪」
「ほ〜……」
今回の例は過去のギルドの歴史をみても、特に異例の中の異例だという。
「ね!すごいでしょ!!」
盛り上がっているリーフ達に対し、シモンは釘を刺すように突っ込む。
「おい、お前達!!まだメンバーに入れるとはいってないからな!!それに遠征までにはまだ時間がある。それまでにいい働きをしなければ、メンバーには選ばれないと思え」
アスラルはニコニコしながら話す。
「僕は君達なら大丈夫だと思っているよ♪だから、頑張ってね♪」
「「はい!」」
「…ああ」
楽しそうに返事をして(もちろんゼロの声には感情がほとんどこもってない)ゼロ達はプクリンの部屋を後にした。
部屋に帰っても、リーフとシオンは興奮気味だった。
「遠征かあ!!やったね!!」
「ええ!まさか、候補に入るとは思わなかったわ!」
同じ事をずっと楽しそうに話しているリーフ達に、ゼロは話しかける。
「…お前ら、さっさと寝ないと明日本当に踏みつけるぞ」
これを聞いた二匹は慌てて布団に就き、眠りに就いた。
案外単純だな、とゼロが思ったのはここだけの話。