*第二章*能力と依頼と初探検
*第十六話*初探検
ゼロ達は調査を任された滝の前に来ていた。

「ここがシモンの言ってた滝かぁ……」

「思ってたより大きい滝ね……」

ゼロは目を瞑っている。
決して寝ているわけではない、五感の一つに力を集中させているのだ。
ゼロが研ぎ澄ませている感覚とは……

(…やはり、他の滝と音が違う。何処かに空洞があるかのような……)

どうやら聴覚を使用しているらしい。
と、リーフが滝に近づき、触れた瞬間、

バシィッ!!

と大きな音を残して弾かれた。

「リーフ、大丈夫?」

シオンが心配そうに尋ねる。

それに対し、笑顔で「うん、大丈夫だよ」と答えると、

「水の勢いが強すぎるから、弾かれたんだと思うよ」

と説明する。

「シオンも行く?」

「え…私はむやみに水に当たりたくないからやめておくわ……」

元人間なので、人間の時はおそらく水は平気だった筈なのだが、炎タイプになってから苦い思い出でもあるのか、かなり表情を歪ませ拒んでいる。
幸い、リーフは素直で優しかったので無理に進める事はしなかった。

「ゼロは?どうするの?」

「…俺は無闇に行動しない」

つまりは、あまり近づく気はないとのことだろう。

「でも、何かわかるかも」

「…下手に行動して面倒なことになったらそれこそ厄介なことに__のわっ!?」

ゼロが溜め息をついてリーフに答えている途中、不意にシオンがゼロの後ろに回り込み、思いっきり背中を押した。
思いのほか素っ頓狂な声が出たゼロに、思わずリーフもシオンもふきだす。
転ぶことは回避したゼロはなんとも言えない表情でシオンを見据える。ちなみに、目は途轍もなく恨みがましくシオンを睨んでいた。
一方のシオンは清々しい程の素知らぬ顔である。

ゼロは溜め息をつき、滝の目の前に立つと、右手で滝に触れた。

バシィィィィッ!!!

激しい音が響く。
その音が続いているのは、ゼロが滝に触れ続けているせいだろう。

「ゼロ、触れ続けて大丈夫なの?」

リーフが尋ねる。
シオンも怪訝そうな表情で見つめている。

「……っ!」

さすがのゼロも勢いよく落ちる滝に弾かれる。
弾かれた瞬間、ゼロは洗練された動きでとんぼ返りをした。

一回転……二回転……

そのしなやかな動きにはまるで無駄がない。
そしてリーフ達の横に綺麗に着地した。

「どう、ゼロ?無駄に綺麗なとんぼ返りきめてたけど、何かわかった?」

「……何処かに空洞がある」

シオンの若干毒のある問いに、ゼロは簡潔に述べる。
リーフは滝の近くにまた近づき、弾かれぬように滝の周りを見回す。
シオンは、リーフよりも滝から離れて何かないか探している。
ゼロも滝に近づこうとした、その時だった。


――――キイィィィイン――――


(…っ…!?これは……)

次の瞬間、いつもの強い眩暈と不可思議な感覚に囚われ、刹那何かが突き抜けるような感覚と共にゼロの頭の中に映像が流れてきた。



―――― 一匹のポケモンがゼロと同じように立っていた。
滝の周りをキョロキョロと見回す。
刹那、そのポケモンは滝に突っ込んでいった。全く躊躇せず、まっすぐに。
ポケモンが滝にぶつかり………

次の瞬間、ポケモンは滝の内側にある空洞に飛び出していた。
そのままコロコロと転がり、頭でもぶつけたのか、痛そうに頭をおさえると、また辺りをキョロキョロと見回す。
そして、奥にあった入り口のようなものを見つけると、その奥に進んでいった ――――



そこで映像は途切れた。
ゼロは映像が途切れると共に、滝に近づいていった。
ジッと目を凝らすと、真ん中だけ他の場所と色が違うようにも見えた。

「…ゼロ?何かわかったの?」

リーフの問いには答えず、後ろに下がって助走の準備をする。

「ちょっと待って!何する気なの!?」

「……さっき、いつもの眩暈がした。で、視えた映像からすると、あそこに空洞がありその奥は洞窟に通じている」

実に簡潔に述べる。

「本当に!?」

リーフはすぐに驚きの表情となる。一方のシオンは意味がわからないらしく首を傾げている。

「……ちょっと待って。何よ、その眩暈とか映像とかって」

怪訝そうなシオンの問いに、リーフはハッとなる。シオンはまだゼロの能力を知らないのだ。

「えぇっとね、ゼロは時々眩暈に襲われたかと思ったら急に映像が見えることがあるんだ。で、その映像は嘘とか夢とかじゃなくて全部本当のことなんだ」

リーフは拙いながらも一生懸命説明しようとする。シオンはまだ首を傾げていたが、リーフの言いたいことは察したらしい。

「変な能力ね。予知夢は……多分違うわね。デジャヴとかそういう類ではないの?」

「……違う。もっと鮮明なもので、デジャヴのような感覚を感じることもなかった」

「ふーん……ま、それについては後で詳しく聞かせてもらうわ。詳 し く、ね?」

シオンのやたら黒い笑顔と念の押しように、ゼロは面倒になりそうだと思いつつ肩をすくめた。

「で……それより、結局何する気なの?」

シオンの問いにゼロは首を傾げつつ答える。

「…見ての通り、あそこに突っ込むつもりだが」

「えぇ!?」「はぁ!?」

実に素っ気なく答える。
ちなみに表情は、何当たり前のこと言ってんだ、こいつ?と嫌でも分かるくらい物語っている。
しかし、これにはリーフとシオンも驚いた。

「……本気なの?」

「…ああ」

これまた素っ気なく答える。だが、彼が本気である事はわかった。

「……うん、私はゼロを信じるよ!私も行くよ!!」

「……そうか」

ゼロはチラリとリーフを見て実に簡潔な言葉を述べる。
シオンは重々しくはぁ……と溜息をつくと、ゼロやリーフのように助走の準備をする。
ゼロがチラリと見て、リーフが驚いた表情をしているのを見ると、

「置いていかれるなんて嫌じゃない。しかし、ほんっと無茶苦茶ね…『スカイ』ってチームは…成功する確率なんていろんな障害を含めたら5%くらいよ……」

シオンの言葉にリーフはニコリと笑う。

「5%あるなら大丈夫!それに…今はその無茶苦茶な『スカイ』のメンバーだよ、シオンも!」

「あー…確かにそうね。まぁ、私も無茶苦茶な事は嫌い…ではないし、別にいいんだけどね」

「……準備はいいか」

ゼロが尋ねると、

「もちろん!」

「はいはい…もういつでもいいわ」

と、返事が返ってきた。シオンは途轍もなく投げやりだが。

リーフは2匹の顔を見ると、

「…じゃあ、3・2・1で行くよ。…3・2・1!」

リーフの掛け声と共に、三匹は勢いよく滝に突撃した。
滝の勢いは強く、鋭い痛みが伴った。




「いたっ!?」



リーフは地面に激突した。


「きゃっ!?」

この声からして、おそらくシオンも地面に激突したのだろう。
顔を上げると、ゼロのみが綺麗に着地している。
ちなみに全員びしょ濡れである。

シオンはプルプルと首を振ると、

「あーもう、水に飛び込むのはこれが最後になるといいけど……」

「……俺だって嫌だ」

普段あまり出さない不満を含んだ声で文句を言いながらゼロも首を振って水滴を払う。

「あはは……あれ?」

苦笑いしながら辺りを見回すと、奥の方に洞窟らしきものがある。

「……行くか?」

唐突に尋ねたゼロに、

「うん。何があるのか気になるし」

「楽しそうね〜♪」

シオンも少し楽しそうである。

「……これは俺の勘だが」

そんなシオンに、意味ありげな声色で言うゼロ。
怪訝そうにゼロを見るシオン。リーフはその様子を見て首を傾げる。

「……この中、水タイプが多いと思う」

「いやーーーーーー!!!」

途端に叫び出す。
ゼロはフン、と鼻を鳴らした。
どうやら先ほどシオンに突き飛ばされたことへの仕返しらしい。

「…行こうよ、シオン」

リーフが声を掛けたが、まだ何やらぶつぶつ言っている。
はぁ……とゼロは溜息をつき、喚くシオンを抱えて歩き出した。
その横をリーフが苦笑いしながら歩いていく。







「“葉っぱカッター”!」

葉っぱカッターを撃ちこみ、襲ってきたコダックを倒すリーフ。
ゼロの言った通り、この場――【滝壺の洞窟】は水タイプが多い。
その為、リーフがタイプ的には有利なので、進んで戦いに挑んでいる。
そして何故か、ゼロはシオンに近づいてきたポケモンを倒している。

「……ったく。なんで俺が……」

ゼロはブツブツと文句を言っている。

「黙りなさいよ。私は炎タイプなんだから水が苦手なのよ!?
あんたは格闘タイプなんだから水タイプは効果抜群じゃないでしょ!だったら、私を守るのは当たり前でしょ!」

「……理論としては合ってないこともないが、お前にこき使われていることが理解できん…」

シオンが簡潔に説明するが、ゼロはまだ文句を言っている。
面倒くさそうに、襲いかかってきたハスボーにはっけいを撃ち込むゼロ。いくらやる気がないとはいえ、攻撃のみは的確に急所に当てていく。

「2匹とも喧嘩してないで、さっさと行こうよ」

既に近くにいるポケモンを倒し、リーフが近づいてくる。

「…フン」

「コイツを黙らせたら行くわ」

などと言いつつ、ゼロに対し、火の粉を撃ったり、攻撃を仕掛けているシオン。

しかし、ゼロは全ての攻撃を軽く避ける。
だんだん当たらないことに苛立ち、シオンの攻撃は激しくなっていく。

「シ、シオン〜!?止めて〜!?」

炎技が苦手なリーフが一番全力で逃げているのだった。









「や、やっと着いた……」

「はあ…」

「……………」


既にリーフとシオンは疲れている様子だ。
なぜなら、シオンが全力でゼロに攻撃し、ゼロが避けた攻撃を、リーフが当たらないように全力で逃げていたからだ。
本来なら、ゼロが一番辛いはずなのだが、当の本人は欠伸などしている始末である。
ちなみに敵ポケモンが何回か出てきたが(修羅場に出てこようと思っただけでもすごいものである)シオンのやたらめったらの攻撃やら避けたゼロにきめられた回し蹴りやら避けるのに必死だったリーフに邪魔者扱いされて吹っ飛ばされるやら、最終的には1匹も出てこなくなった。


「……!」

「うわあ〜!」

「綺麗…」

そこには、一面の宝石が広がっていた。至る所に宝石が埋まっている。

「な、なんかすごいわね…持って帰ったら、ギルドの皆も凄い喜ぶんじゃない?」

シオンは辺りを見渡しながら言う。その瞳は、キラキラと輝いている。
ゼロはしゃがみ込んで何かをしている。
リーフが気にしていたのは、一番奥にある真っ赤な宝石。
ルビーか、あるいは別の宝石か…

とにかく、その赤い宝石は途方もなく大きいのだ。
その大きさは、おそらくゼロの身長をも超えているほどの大きさである。

「これ、持って帰ろうよ!」

言うが早いが、宝石を引っ張り始めるリーフ。

「う〜〜〜〜ん!う〜〜〜〜ん!!」

リーフは顔を真っ赤にして引っ張るが、宝石はビクともしない。
どれだけ引っ張っても、宝石が取れる気配は一向にない。

「はぁ…はぁ…ゼ、ゼロ…か、変わって…」

「……無理な気がする」

とは言いつつ、抜きにかかるゼロ。

「………(なんだこの硬さ…でも、はっけいとかで抜こうとしたら絶対壊れるよな…それは危ないな)」

ゼロは宝石から手を離し、首を振る。
お手上げ、という意味だろう。

「う〜ん…ゼロでも駄目か…」

「あんた、本気で抜こうとしたの?その割には顔色全然変わって無かったけど?」

溜息をつくリーフと、疑うシオン。

「……表情が変わりにくいのは元からだ。
…一応本気で抜いた(…つもりだ)」

勿論、かっこの中は心の中で言ったので、シオンは知らない。
「一応って何よ…」と愚痴を漏らしてはいるが。

「う〜ん…じゃあ、シオン。やってみてくれないかな?」

「そんなの解ってるわよ。よ〜し…」

早速シオンは抜こうとする。

(しかし…あんな固い物をよく抜こうとか考えるよな…俺だったら、即諦めるが…)

そんなことを考えながら一生懸命抜こうとするシオンと、それを応援するリーフを眺めているゼロ。

しかし……………



――――キイィィィイン――――


(…っ眩暈…!?ってことは…)


次の瞬間、例の不可思議な感覚と共にゼロの頭の中には映像が浮かんでくる。



―――― 視えた映像には、先ほどのシルエットのポケモンがいた。
そのポケモンは、宝石を見つけると、早速引き抜こうとする。
しかし、そんなことで抜けるものではないらしく、そのポケモンがいくら引っ張っても抜けない。
そのポケモンはしばらく宝石の周りをウロウロしていたが、急に何かを思い立ったらしく、宝石を押してみる。
今度は、カチッ!という音が響く。すると、突然地響きが起こり、同時に大きな津波が襲ってきた。
そのポケモンは慌てて逃げようとするが間に合わず、津波に呑まれて流されていった。  ――――



と、映像はそこで途切れる。


(今のは…?とりあえず、あの宝石を押さなければいいみたいだな。そうだ。あいつ等にも教えなきゃな…)

その時、今のゼロにとって最悪な言葉が聞こえてくる。

「そうだ!リーフ!これ、押したらどうかしら?」

「そっか!早速やってみる!」

(……やってみる?って、おい!?やばいぞ!?)


しかし、ゼロが止める前に、リーフが宝石を押し、カチッ!という音が奥地に響く。


「面倒事増やしやがって…2匹共逃げるぞ!!」

「は?何言ってんの?」

「そうよ。何を言って……っ!?」

シオンがゼロに聞こうとした時、地響きが起こる。
それと同時に、津波が三匹に襲い掛かってくる。


「ぐっ!?」

「「きゃあああぁぁぁぁ!?」」


当然逃げきれず、三匹は津波に呑まれ、流されていった。










「………?」

ゼロは、妙に体が温かかった。
しかも、体が浮いている気がする。

「……くっ…」

起き上がってみると、下には水が張ってあり、温かいことからお湯が溜まっているということを推測する。
周りを見渡すと、すぐ傍にはリーフとシオンがプカプカと浮いており、周りを三匹のポケモンが囲んでいる。ヒメグマ、リングマ、オコリザルだ。

「ちょっと、貴方達大丈夫?急に上から降ってくるから、もうビックリしたわよ!」

トレジャータウンでいつも見かけるヒメグマが話しかけてきた。

「……此処は?」

ゼロが聞くと、ヒメグマの後ろの方から声がした。

「此処は温泉じゃよ」

「…温泉?」

ヒメグマの後ろには、コータスと呼ばれるポケモンが立っていた。

「この温泉は、肩凝りや疲労に良く効くので、沢山のポケモン達が訪れるんじゃよ」

「……なるほど」

そこで、ゼロはリーフとシオンを起こそうとして、「…起きろ」と声を掛けるが、依然として起きない2匹。
暫く黙った後、ゼロはお湯を掬い、躊躇など一切せず2匹の顔に思いっきり掛ける。

「きゃうっ!?」

「きゃああ!!?」

2匹揃って目を覚ました。

「…此処の場所を教えてもらえるか」

「あぁ、構わんよ。地図はあるかの?」

コータスの返答に頷き、ゼロは濡れないよう、岩場の上に地図を置く。

「ほれ、此処が温泉じゃよ」

「……俺達は此処から流されたから…随分と流されたな」

「なんと!?お主達そんな所から此処まで流されてきたのか!?それは大変じゃったろう。まぁ、ゆっくりしていきなされ」

「うん!」

「そうするわ」

「…………」


本当なら、すぐにギルドに帰ってシモンに報告をしなければいけないのだが、少しならいいだろう、と、ゼロも許した。リーフとシオンは楽しそうに談笑を始め、ゼロはのんびりと空を見ながら温泉に浸かるのだった。

レイン ( 2014/03/24(月) 05:56 )