*第十三話*お尋ね者
「はっけい」
「葉っぱカッター!」
踵落としを決め、その瞬間はっけいでイトマルを倒すゼロ。
一方で葉っぱカッターでイシツブテを倒すリーフ。
「う〜ん…急ぎたいのに、なかなか着かない…」
「文句を言わずにさっさと行くぞ」
既に中腹まで来ており、頂上まではあと少しだったが、二匹にとって苦手なタイプもいたので、苦戦を強いられすぐには着かない状態である。
「いつになったら着くかな?」
「…もう少しじゃないのか?」
そんな簡単なやり取りを繰り返しながら、どんどんと登っていく。
その頃―――
頂上には丁度着いたらしい、メロディとレギンがいた。
「あれ?レギンさん、ここ、行き止まりだよ?落し物はどこにあるの?」
メロディはキョロキョロとあたりを見渡している。
だが、周りに落し物らしきものはなく、首を傾げる。
「いや、落し物は……ここにはないんだ」
「…え?」
後ろを向くと、レギンのニヤついた顔が見てとれた。
驚き、泣きだしそうになるのを堪える。何故だか急にレギンが恐ろしく見えたのだ。
メロディは恐る恐るレギンに聞いてみる。
「お、お兄ちゃんは?後から来るんでしょ?」
そんなメロディを更に追い詰めるかのように、レギンはニヤリとした笑みを浮かべながら口を開いた。
「いや、お兄ちゃんも来ないんだ。実はお前のことを、ずっと騙してたのさ」
ガタガタと震えるメロディに、レギンは自分の企みを話し始めた。
そして、メロディの後ろにある小さめの穴を指差した。
「そこに小さな穴があるだろ?実はその穴には、ある盗賊団がすごいお宝を隠したっていう噂があるんだ。ただ…俺じゃ大きすぎて入れない。だから、小さなお前をここに連れてきたって訳さ。
大丈夫、お宝さえ取ってきてくれれば、ちゃんと逃がしてやるよ」
レギンはメロディにどうしてほしいのか説明をしていたが、その場に耐えきれなかったメロディはレギンの横を通り、逃げ出そうとする。
しかし逃げられると思い、焦ったレギンの方が早く、メロディの前に立ちはだかる。
「おい、おとなしくしろ!!言うことを聞かないと……痛い目にあわせるぞ!!」
「た、助けてっ!!」
その時だった。
綺麗なソプラノの声がその場に響いた。
「そこまでだよ、お尋ね者レギン!!」
そこには、丁度山頂まで来た『スカイ』がいた。
「…間に合ったな」
「私達は探検隊『スカイ』!お前を逮捕する!!」
「お、お前らはトレジャータウンで…!!し、しかし、どうしてここが!?」
(…コイツ、二流か三流ぐらいだな)
ゼロの直感はこう告げていた。
あながち外れてはいなかったりするのだが。
レギンは、始めはゼロの妙に冷徹な瞳を見てかなり焦っていたが、リーフの方を向くと、急に落ち着いた。
いや、落ち着いた、というよりは何か不思議なものを見た、キョトンとした顔をしていた。
ゼロもチラッとリーフの方を向き――誰にもわからないぐらいの、小さな溜息をついた。
――そう、あれほど啖呵を切っておいて、リーフは震えていた。
「あ、あれ?お前、もしかして震えてるの?」
レギンに言われ、更に小さくなるリーフ。
「ふん、どうやら、お前達は新米のようだな。特にそこのチコリータ!めちゃくちゃビビってるじゃねえかよ!」
レギンに指定され、ビクッとするリーフ。
「はははっ、こんな弱そうな探検隊は始めて見たよ!」
笑い飛ばすレギンに、普通なら言い返すのはリーフだろう。
しかし、以外にも言い返したのはゼロだった。
「黙れ…お前に口出しされる筋合いなど無い」
「なっ…!?」
いきなりゼロに悪態を突かれ、驚くレギン。と、同時に鋭い視線を感じ、ビクッとする。
ゼロの目からは今まで感じたことが無いような殺気が立ち上っていた。
「お前みたいな奴が何故探検隊を語れる?外道に落ちたお尋ね者のくせに威張るな。
こいつが探検隊に相応しいかどうかなんて、お前に教えられる必要はない」
「な、何だと!?」
ゼロの言葉に怒りすぎて、他に言葉が出てこないレギン。
言い返す言葉を必死に探していたリーフや、恐怖に怯えていたメロディですら唖然とした。
「……おい、あんなふざけた奴に手加減する必要などない」
「え……あ、うん」
「テメェ……そこまで言いやがったんだから、覚悟は出来てんだろうな?」
「…当たり前だ。…行くぞ」
「……うん!」
「…はっけい」
ゼロはレギンにはっけいで攻撃しようとする。
しかし、レギンは当たる前に避けてしまう。その動作に少し不信感を覚えるゼロ。
「葉っぱカッター!!」
リーフもゼロが気を引いているうちに攻撃しようとする。
「念力!」
しかし、レギンの念力により、撃ち落とされてしまう。
その隙にゼロが電光石火を決め、レギンを吹っ飛ばす。
「これでやっと一発きまったか…」
「攻撃が…ほとんど届かないよ……」
レギンに攻撃が届かないことに対し、悔しそうにリーフが言う。
(何かがおかしい………………)
ゼロの直感はそう感じていた。
その直感を確かめるかのようにゼロは攻撃を繰り出す。
「……シャドークロー」
ゼロの種族は鋭敏な動きが可能なリオル。
それに加え、元々ゼロは身体能力が高い。
そんなゼロの攻撃を、普通ならレギンがかわせる可能性は限りなく低い。
だが、そのしなやかな動きの攻撃を、レギンは楽々とかわす。
まるで、最初からそこへ攻撃を仕掛けてくるのがわかっていたかのように。
しかし、シャドークローの次に繰り出したはっけいは驚くほどすんなり直撃した。
「もー!なんで私の攻撃は当たらないの!!?」
そんな時、ゼロがリーフの傍に来た。
「…おい、攻撃を読む能力ってポケモンの特性にあるか?」
「攻撃を読む能力?えっと……エスパータイプが持ってる特性なら確か…“予知夢”って言うのならあったけど…って、もしかしてそれ?」
リーフの問いかけに、ゼロは無言でうなずく。
「…多分それだと思う。…おい、そこのバク!お前の能力って予知夢か?」
そこのバク、というのはもちろんレギンのことである。
「バ、バクゥ!?テ、テメェ…!!」
と、一度はキレかけたレギン。だがコホン、と咳払いをするとにやりと笑って言ってのける。
「そうさ。俺の特性は“予知夢”。だから、お前らの攻撃は届かないって訳さ。さっさと諦めな!!」
と得意そうに説明する。
「…バカだ」
「うん…さすがにこれは…ねぇ」
ゼロはおろか、リーフですら呆れていた。
それに腹を立てたレギンは青筋を浮かべる。
「な、なんだよ!?」
「…いや、あまりにもすんなり自分の特性教えるとか、バカだろって思った」
「…あ」
「…天性のバカだったのか」
ゼロは本気で溜め息をつく。さすが三流だ、と心の中でバカにする。
レギンは諦めろと言った。
しかし、その時にはゼロにはもう既に勝つ方法が浮かんでいた。
ゼロはリーフにこっそりと耳打ちする。
リーフはこくりと頷くと、
「いくよ!マジカルリーフ!」
リーフの打ちだした七色の葉っぱは、必ず当たると言われている技、マジカルリーフだ。
この技はリーフの必殺技と言ってもいいほどの威力を誇っている。
当然、避けようとしても無駄、しかし避けないと危ない。だからだろう、レギンは念力で撃ち落としていく。
しかし、そんなことをしている間に、レギンの後ろに陣取った者がいた。
紛れもなく、ゼロだった。念力を出している間は、避けることはまず無理だと考えたのだ。
つまり、リーフは囮なのだ。
「…行け…波動弾」
ゼロも、自分の切り札であり、さらに必ず当たるとも言われている波動弾をレギンに撃ち込む。
当然避けられるはずもなく、レギンはまともに波動弾を喰らい、気絶してしまった。
いとも簡単にやられてしまったことから、やはりゼロの三流との見立ては正しかったのだろう。
「メロディちゃん!大丈夫?怪我とかしてない?」
「は、はい…大丈夫です」
どうやら怯えていただけのようだ。リーフはほっと胸をなでおろした。
「行こうか」
そして、ゼロとリーフはメロディを連れ、レギンを捕まえると探検隊バッジで帰っていった。
「エー、私ハ、アギル・トニトルス。コノアタリノ保安官デス。今回、コノオ尋ネ者レギンヲ捕マエテイタダキ、有難ウゴザイマシタ」
バッジの能力で呼び出し、やってきたポケモンはジバコイルというポケモンだった。
「レギンハ私達ガ連行シマス。賞金ノホウハ、ギルドニ送ッテオキマスノデ。ゴ協力感謝シマス」
「いえいえ!お、お疲れ様です!」
リーフは礼を述べられ、慌ててぺこりと頭を下げる。
アギルはお尋ね者をバッジで送る方法を教えてくれると、レギンを連れて去っていった。
その後慌てたように走ってきたのは、アルトだった。
「メロディ!」
「あ!お、お兄ちゃ〜ん!」
大好きな兄の存在に気づいたメロディはアルトに抱きつき、大声で泣き始めた。
アルトの方も、涙を流し、妹の無事を喜んでいた。
「これもみんな、『スカイ』さんのおかげです!
本当に…本当にありがとうございました!この御恩は一生忘れません!ほら、メロディも」
「うん…助けてくれて、ありがとうございました!」
「いいよ、探検隊として、当たり前のことをしただけなんだから。ね?」
今のリーフには、自信が満ち溢れている。
やはりメロディを助けられたことが大きく自信をつけさせたようだ。
「…帰るぞ」
面倒くさがりのゼロは3匹を急かす。
ゼロとリーフはアルトとメロディを連れ、一緒にトレジャータウンへと帰っていった。
ギルドに帰ると、シモンが賞金を持って『スカイ』の帰りを待っていた。
お尋ね者の賞金ということもあり、金額は高めの3000ポケであったが、例の如く、シモンに9割を没収され、ゼロが夕食の時間までシモンのことを罵り続けていたことは、また別の話。
その日の夜は珍しく嵐だった。
朝には止みそうだったが、やはり嵐ということもあり、すごい勢いだった。
リーフは窓の外をずっと見ているし、ゼロは本を読みつつ考え事をしているらしかった。
「…すごい嵐だね……風はうるさいし、雨はすごい勢いだし…」
「……それも空の表情だ」
「え?」
「……何でもない」
その時、リーフはふと思い出したらしく、ゼロの方に向き直り、話しかけた。
「そういえば、ゼロ。ゼロに出会う前の日も嵐だったんだ。何か思い出せないかな?」
「……嵐、か…」
ゼロは目を閉じ、記憶を探る。しかし、特に思い出すことはなかった。
無理か、と思い、考えるのを止めリーフに向かって首を横に振る。
「そっか……うん、明日も早いし、早く寝よう!」
わからなかったのは残念だが、くよくよしても仕方が無い、と考え早めに寝ようとリーフは床に就いた。
ゼロも同じように床に就き、二匹は眠りこんだ。