*第十二話*不思議な眩暈と謎の声
朝の誓いを斉唱した後、シモンに連れられゼロ達が向かった看板は、昨日の掲示板とは逆の方向にあった。
「あれ?」とリーフは首を傾げ、シモンに尋ねる。
「昨日はあっちの掲示板じゃなかったっけ?」
「そのとおり♪」
シモンは妙に良い笑顔で答える。
「よく見てみろ♪」
シモンに言われた通り、ゼロとリーフは掲示板に近づく。
昨日の掲示板とは違い、いろいろなポケモンの似顔絵が貼ってあるのが特徴だった。
最も、まともに足形文字の読めないゼロは首を捻るばかりだったが。
「ねぇ、シモン。彼らは何なの?」
「この掲示板に貼ってある奴らは、皆 お尋ね者だ。悪事を働いて、指名手配されてる奴らばっかりだ」
「えぇ!?お、お尋ね者!?」
リーフの表情は驚きに満ちている。
それと同時に、ある疑問がリーフの中で渦巻く。
「え……?ま、まさか私達、お尋ね者を捕まえなきゃいけないの?」
驚きに満ちた震え声に、何となくゼロがチラリとリーフを見ると…リーフは震えていた。
(コイツどんだけ怖がりなんだよ………)
ゼロは肩をすくめ、思わず溜め息が出た。
何がどうしてそんなにお尋ね者が怖いのか、ゼロは理解していない。
彼の場合、お尋ね者など倒せばいい、という思っているである。
「そう、そのまさかだ。お尋ね者ゆえに、彼らには賞金がかけられている。だから捕まえれば賞金がもらえるんだけど……
でも、凶悪な奴らが多いからねぇ…皆、手を焼いているんだよ」
「そ、それを私達で捕まえろっていうの!?そんなの絶対無理だよぉ!」
泣きそうになりながら本気で反論するリーフ。その表情には何か鬼気迫る必死さが見られる。
それを見て少し笑っているシモン。
(……なるほど?狙い通りってことか)
どうやら、シモンの考えていることを見抜いたらしい、ゼロ。
それとは真逆に、シモンの企みに完全に引っ掛かっているリーフ。
「はははははっ♪冗談だよ、冗談。
悪党って言っても、いろいろといるからね。
世紀の極悪ポケモンもいれば、ちょっとしたコソドロもいるし、本当ピンキリさ。
いきなり新入りにSランクの世紀の極悪ポケモンを捕まえてこい!!なんて言う訳ないじゃないか♪はははっ♪
まあ、この中からてきとうに弱そうなのを選んで、捕まえてきてくれ♪」
「そ、そんなこと言っても、悪い奴らには変わりないんだよね?ってことは……!!
そんなポケモン達と戦うなんて、私、嫌だよ…怖いし…」
ブルブルと震えるリーフ。どうやら本気で嫌らしく、もはや涙目になっている。
「まあ、お尋ね者と戦うんならそれなりの準備は必要だな。おーい、クレファ!!」
シモンが呼びかけると、地下二階から、梯子を使って上がってくる者がいた。ビッパのクレファである。
「は〜い、何でゲスか?」
「クレファ、こいつらのことは知っているな?
新しく入った新入りだ。こいつらをトレジャーに案内してやれ♪」
「了解でゲス!!」
シモンが去ると、いきなりクレファが震えだした。
突然のことにリーフは驚いてどうしたの、と尋ねる。
「うぅ、嬉しいでゲス……」
「はい?」
「…は?」
ほとんど同時に素っ頓狂な声を発し、自分の耳を疑う2匹。
何を言っているんだ、という疑問が表情に表れているリーフ。それとは対称的に、表情に全く表れないゼロ。
「キミ達が入る前は自分が一番の新入りだったんでゲス。だから、後輩ができてすごくうれしいんでゲス……」
つまりは、始めて後輩ができたことに感動して泣いているというわけだ。
(あ、そういうことか。意味がわからなかった……)
ゼロは意味がわかって呆れたような目でクレファを見る。どうしてそんなことで泣けるのがゼロにとっては全く解せないのだ。
「よ〜し!それじゃ、案内するでゲス!!」
リーフは「はーい!」と笑顔だが、ゼロはなぜか少し引いていた。
表情には全く出さないが。というより、表情には出ないのである。
(俺、こういうノリ、苦手なんだが………)
【トレジャータウン】
「ついたでゲス!ここがトレジャータウンでゲス!」
「…ここが、トレジャータウンか」
ゼロは少し興味があるのか辺りを見回している。
明るい雰囲気のこの町は、個性のある建物が建っており、いろいろなポケモンが往来している。
物珍しげにトレジャータウンを眺めるゼロ。
リーフは何が楽しいのかニコニコとご機嫌である。
「トレジャータウンなら私も知ってるよ!」
リーフは楽しそうに話す。建物を指差しながら説明し始める。
「まずあそこはヨマワル銀行。ポケ…つまり、お金を預けられるんだよ。
あそこはエレキブルれんけつ店。技のれんけつが出来るんだ。今日はエレキブルはいないみたいだけどね。
あそこはカクレオン商店。道具を買ったり売ったりできるよ。
で、その奥にあるのが、ガルーラの倉庫だよ。道具を預けることができるし絶対失くならないから、大事なものは預けておいた方がいいよ♪」
大体こんな感じかな、と説明を締めくくるリーフ。
ゼロは、リーフの説明が全て理解できたわけではなく、所々によくわからない単語が潜んでいたりしたが、だいたいは理解できたのだろう、質問はしない。
「なんだ、よく知ってるでゲスね。それならあっしがいなくても大丈夫そうでゲスね。
じゃあ、あっしは先に戻って地下一階で待ってるでゲスから、一通り準備ができたら声かけるでゲス。そしたらあっしも、お尋ね者を選ぶのを手伝うでゲスよ」
「本当!?ありがとう!クレファって優しいね♪(ゼロとは大違いだ…)」
「そ、そんな…照れるでゲスよ…ぽ…」
リーフが満面の笑顔で礼を述べる。
そして何故かそれを聞いて照れたように頬を染めるクレファを見て、首を傾げるゼロ。
去っていったクレファの後ろ姿が見えなくなると、リーフは行こう、とゼロに声をかける。
「…どこに?」
「うーん…とりあえず、私はカクレオン商店に行きたいな」
「…俺はわからないからお前についてく」
「りょーかい!」
リーフの希望で2匹はカクレオン商店へと向かう。
2匹のカクレオンと呼ばれるポケモンが店を営んでいる。
「こんにちは!ラウロさん、エウロさん!」
「おぉ!リーフちゃん、いらっしゃい!」
口調からして知り合いらしいカクレオンとリーフは笑顔で会話を続ける。
「おや?後ろの子は見ない顔だねぇ?もしかして、彼氏?」
「ふぇ!?ち、違うよ!ただの探検隊仲間!!」
緑色のカクレオン、ラウロのからかいにわたわたと慌てながら否定するリーフ。内容が理解できていないゼロは首を傾げている。
「ゼロ。えっとね、この2匹はカクレオン商店を経営している双子のカクレオンさんだよ。緑色のカクレオンさんがラウロ・ヒドゥンさん。色違いの紫色のカクレオンさんがエウロ・ヒドゥンさんだよ」
リーフが紹介すると、ゼロは少し納得したように頷いた。
リーフは今度はラウロとエウロにゼロを紹介する。
無口なゼロは自己紹介をしてくれない気がしたためだったりする。
「ラウロさん、エウロさん。こっちは私の探検隊の仲間で、ゼロ・エルサレア!ちょっと無愛想で無口だけど良いポケモンだよ」
「ゼロさんですねぇ。よろしくお願いしますね!」
「買い物なら是非!カクレオン商店を!」
「…あ、あぁ」
慣れないのか、少し引き気味のゼロ。
この双子のカクレオンのテンションについていくのはゼロにとっては難しいようだ。
「リーフちゃん、ついに探検隊になったんだねぇ〜。こっちに来たのは4年前で、探検隊になるためにギルドに入ろうとしてたのは3年前だから…だいぶかかったね」
「う…それ言わないで…恥ずかしいから」
「…何、お前3年もあそこでオロオロしてたのか?」
「う〜…傷口を抉らないで、お願いだから…」
呆れきった目でリーフを見るゼロ。3年もあの足形の場所でオロオロしている奴がいたとは。目と表情がそう言っている。
それより、とリーフの窮地を察してか話題を変えるラウロ。
「今日は何か買ってくれるのかい?」
「あ、そうだった。えっと、何買おうかな…
とりあえず、リンゴ2個とオレンの実ください」
ラウロがリンゴを2個とオレンの実を1個持ってきて、リーフは支払いを済ませ購入する。
しばらく談笑していると、不意に元気な子供の声が聞こえた。
「「ラウロさーん、エウロさーん!」」
声のした方へ視線を向けると、2匹のポケモンが走り寄ってくる。
マリルとルリリと呼ばれるポケモンである。
声色などからして、まだ幼い子供のようだ。
「おぉ〜!アルトくんにメロディちゃん!いらっしゃ〜い」
「ラウロさん、エウロさん。リンゴください!」
メロディと呼ばれたルリリが笑顔で言った。
それに対して、カクレオンはにっこりと笑い返す。
「はいはい♪いつも大変だねぇ。どうぞ♪」
「ありがとう、ラウロさん!」
先ほどアルトと呼ばれていたマリルが礼を述べる。
リンゴを購入すると、二匹はすぐに去っていった。
リーフは微笑みながらラウロに尋ねる。
「かわいいね。あの二匹は?私、会ったことないや」
「ああ、あの二匹は兄妹なんですがね。最近お母さんの具合が悪いらしくて、こうして代わりに買い物に来ているんですよ」
「へえ〜……まだ小さい子なのに偉いね」
ラウロとエウロ、リーフが談笑していると、アルトとメロディが慌てて戻ってきた。
「ラウロさーん!!!」
「おや、どうした?そんなに慌てて…」
「リンゴが一つ多いです!」
「僕達こんなに多く買ってないです」
どうやら買った個数よりリンゴが多く、慌てて返しにきたようである。
「ああ、それは私達からのおまけだよ」
「二匹で仲良く食べるんだよ♪」
「本当ですか!?」
「わ〜い!ありがとう、カクレオンさん!」
「いやいや。気をつけて帰るんだよ〜♪」
メロディが嬉しそうに礼を述べる。可愛らしい笑顔だった。
「ありがとうございます!メロディ、行こう!」
「うん、お兄ちゃん!」
アルトに呼ばれ、メロディも立ち去ろうとした。
「きゃっ!」
しかし、その時メロディは石につまずいて転んでしまった。すると、メロディの持っていたリンゴがコロコロとゼロの方に転がってきた。
ゼロはカクレオン商店の柱に寄りかかっており、リンゴが転がってくるとスッと拾った。
一通り汚れを落とすと、転んだメロディに近づきリンゴを差し出す。
「……ほら。気をつけろ」
「あ、ありがとうございます!」
メロディは嬉しそうにリンゴを受け取る。
が。
メロディに手渡した次の瞬間だった。
突如、強い眩暈がゼロを襲った。立っているのが精一杯である。
グラグラと揺れる視界。フラフラとおぼつかなくなる足。
メロディを心配して声をかけるリーフの声も、心配そうにメロディに尋ねるラウロやエウロの声も、それに答えるメロディの声も耳に入らず、まるで遠い世界での会話のように、聞こえない。
(う…ぐっ…!?)
必死に踏ん張り、立っているのが精一杯である。
(くそ……な、なんなんだ…)
次第に視界が暗くなり、刹那ゼロの目の前は真っ暗になる。耳鳴りと共に自分の周りで繰り広げられているだろう音も聞こえなくなる。
突如、頭の中を何かが突き抜けたように、ゼロは不思議な感覚に囚われた。
――― キイィィィイン ――――
____『た、助けてっ!!』____
(っ!?)
突如聞こえてきた幼い、謎の声。
恐怖と不安から生まれただろうその謎の声に、ゼロは驚きを隠せない。
と、その声が聞こえた後、眩暈も止まった。
「__ロ?…ゼロ?大丈夫?聞こえてる?」
「……え」
「だ、大丈夫ですか?」
メロディとリーフが話しかけてきたのでとりあえず「…平気だ」と答える。
先ほどの音も光もない状態とは真逆の、明るい町並み。ゼロは思わず拍子抜けしてしまう。
「お〜い、メロディ!早く〜!」
「あ、うん!ありがとうございました!それじゃ」
メロディはゼロに礼を述べると、兄の所へ走っていく。
「なんだか可愛いね、あの二匹♪」
「…………」
ゼロはリーフの話をほとんど聞いておらず、考え込んでいた。
(さっきの眩暈は…まぁ、放っておいて。問題は…眩暈の最中に聞こえた声)
その声は、眩暈が起こる寸前に聞いていた声。間違えようがない。
(あれは…メロディの声だった)
そんな考えが頭をよぎる。
何故出会ったばかりのメロディの声が眩暈と共に聞こえ、そして何故、あのような恐怖に怯えたような声だったのか。
深く考えれば考えるほど謎に包まれていく。
「ゼロ〜?行こうよ!」
そんな思考をぶち壊すかの様に明るい声でゼロを呼ぶリーフ。
「…おまえ、少しはゆっくり行動しろよ…」
そんな愚痴がカクレオン商店の前から聞こえてきた。
その後、二匹はガルーラの倉庫へと向かう。
ガルーラの倉庫に預けたものは、絶対に無くならないと、とても有名だ。
「こんにちは、アルシーさん」
「あら、こんにちは!リーフちゃん」
どうやら、アルシーと呼ばれたガルーラとも知り合いらしいリーフ。
意外に顔が広いようである。
「あら?それ、探検隊バッジね?
やっと探検隊になれたのね!おめでとう!」
「うん!ありがとう!」
「…で?その子は?見ない顔だけど?」
「同じ探検隊を組んだ、ゼロだよ。ゼロ、このガルーラさんはアルシーさんだよ」
にっこりと挨拶するアルシーに、ゼロも若干顎を引いて挨拶する。
「この…タウリンとリゾチウム、ブロムヘキシンを預けたいんだけど」
アルシーに、昨日バネブーからもらった補強栄養剤を預ける。アルシーはそれを倉庫にしまう。
「預けたものはおばちゃんがしっかり守るから、安心して冒険してきなさい♪」
「ありがとう!それじゃ!」
「………助かる」
リーフは笑顔で礼を述べ、ゼロも短く言葉を発する。
帰りがけに「可愛い探検隊さん達〜、頑張るんだよ〜♪」とアルシーに言われるとゼロが少しムッとしている。どうやら『かわいい』と言われるのが嫌らしい。
「あれ?」
広場を通ると、先ほどの兄妹、アルトとメロディと、黄色い鼻の長いスリープと呼ばれるポケモンが話していた。
リーフが声をかける。
「あれ?アルトくんにメロディちゃん?どうしたの?」
「あ、さっきの…えと」
言葉に詰まったアルトを見て、そういえば、と自己紹介していなかったことを思いだすゼロ。
何故言葉に詰まっているのかわかっていないリーフに「…名前」と耳打ちする。
「あ、そっか!私はリーフだよ!」
「…ゼロ」
で、どうしたの?と話の先を促すリーフ。
「えっとですね。僕達、この前大切なものを無くしちゃって…ずっと探していたんです。そしたら!」
そこまで言うと、近くに立っているスリープの方を向いた。
「このレギンさんが、その落し物なら見た事があるかもしれないって!」
「しかも一緒に探してくれるって言ってくれたの!」
アルトの説明を引き継ぎ、メロディが嬉しそうに話す。
それを見ていたゼロはレギンの目をジッと見据える。
レギンはアルトとメロディに、にこりと笑いかける。
「いえいえ、君達の様な幼い子達が困っていたら、助けるのは当然ですよ」
ゼロは薄々、レギンに疑問を抱いていた。
優しい言葉をかけ、いかにも善人のようなこのスリープは、その瞳の中に何かしらの野望を隠し持っている。
そんな印象だった。
「さあ、行きましょうか」
「「はい!」」
アルトとメロディが2匹一緒に返事をする。
「それじゃあ、僕達はこれで」
「うん!道中気をつけてね!」
リーフは笑顔で見送る。
アルトとメロディに続こうとレギンも歩きだした。
が、途中でゼロとぶつかった。
「おっと失礼」
「…いや」
そんな軽いやり取りをした後、レギンは2匹と共に歩いて行った。
だが、次の瞬間…
――――キイィィィイン――――
(ま、た…眩暈…!?)
強い眩暈と共に、視界はだんだんと暗くなり、耳鳴りがする。
隣で感心したように何かを話すリーフの声も聞こえなくなり、見えなくなる。
刹那、再び不可思議な感覚に囚われたゼロの頭の中に、今度は映像が視えてきた。
先が尖った、山のような場所に立っているレギンとメロディ。
アルトはどこへ行ったのか、その場にはいない。
ガタガタと恐怖に怯え、震えるメロディをレギンがジリジリと追い詰めている。
先ほどまでの優しい微笑みはその表情には一欠片もない。そこにはただ、悪人のようにニヤリと笑うレギンがいた。
――
『言うことを聞かないと、痛い目に遭うぞ!』
『た、助けてっ!!』
――
そこで映像はプツンと途切れた。
だが、それだけでも驚きの光景である。
「…メロディがっ…」
「へ?メロディちゃんがどうかした?」
今まで黙っていたゼロの突然の言葉に、リーフは素っ頓狂な声を上げた。
ゼロは全てを説明した。
眩暈と共に聞こえたメロディの声、レギンとぶつかった後に眩暈と共に視えた光景を。
メロディがレギンに襲われ、このままいけばメロディが危ないということも。
全てを聞き終えたリーフは、しばらく口を閉ざして考え込んでいたが、やがて首を傾げる。
「うーん…ゼロのこと、信用してないわけじゃないんだけど…でも、レギンは悪いポケモンには見えなかったよ?すごく親切そうだったし。
ゼロ、多分疲れてるんじゃない?それで、なんか悪い夢でも見たんじゃないかな?」
リーフの言葉に、今度はゼロが口を閉ざした。
確かに、夢なんて曖昧なもので見た映像は、どんなにお人好しなポケモンだったとしても信用するのは難しいだろう。
疲れている自覚はないが、リーフの言う通り悪い夢だったのかもしれない。
だが、ゼロはレギンの目の奥に隠された欲望を感じ取っていた。
あれは、親切なポケモンには絶対にあり得ないであろうものだった。
それを抜きにしても、ゼロは何かモヤモヤした感情が湧いていた。
「ゼロ?」
「わかった。さっさとギルドに戻るぞ」
(…信じてもらえないのは何となくわかってた。夢なんて曖昧なものだしな)
「…どうした?行かないのか」
「へ…あ、ごめん!今行く!」
さっさとギルドに向かおうとしていたゼロは怪訝そうに首を傾げる。
リーフはぼーっとしていたが、やがてハッと我に返ると、慌ててゼロの後を追った。
戻ってきたゼロとリーフを見て、クレファは「お!」と笑顔で迎える。
「来たでゲスね。それじゃ、早速お尋ね者を選ぶでゲス」
「え〜っと…どれを選べばいいんだろ…」
「コホン。じゃ、ここは先輩として一つ、あっしが選んであげるでゲス」
「あんまり怖そうなの選ばないでね!」
「わかってるでゲスよ。ええっと…どれにしようかな…」
その時だった。
『情報を更新します!危ないので下がってください!』
刹那、サイレンが鳴り響き、聞き覚えのある声と共に掲示板がバタンッと音を立てて回転した。
「ふぎゃっ!?」
「………」
とんでもなく驚きを見せるリーフと、全く動じることのないゼロ。
クレファも動じることなくジッとその光景を見ている。
「な、なに!?何が起こってるの!?」
「あぁ、これは情報の入れ換えでゲスよ」
「情報の…入れ換え?」
「お尋ね者ポスターや掲示板は、こんな風に壁が回転式になってるんでゲス。それで、壁をひっくり返している間にアルバが情報を書き換えてるんでゲス。情報を新しくするのはアルバの役割なんでゲス。一見地味な仕事に思えるかもしれないけど、とっても重要な仕事なんでゲス。
だから、アルバもこの仕事に誇りを持ってるんでゲス」
「へぇ〜…そうなんだ!」
『更新終了!危ないので下がってください!』
「あ、終わったみたいだよ」
リーフはキラキラと目を輝かせながら楽しそうに言う。この仕組みに興味を持ったらしい。
「さ、情報が新しくなったでゲス。お尋ね者も新しくなったんで、もう一回選び直すでゲスよ」
「もう一回言うけど、あんまり怖いの選ばないでね!!」
「わかってるでゲスよ」
ビッパが選んでいるのを余所に、ゼロは何気なくお尋ね者ポスターを見た。
そして、ふと目に入ってきたとあるポケモンのポスター。
「………!」
ふとゼロは、普通ならそのまま無視してしまいそうな場所に貼られた一枚のポスターに目がいった。しかし今のゼロにとっては、最も強く印象に残っていたポケモンだった。見逃すはずがなかった。
「ゼロ………」
リーフは首を傾げ、ゼロの視線の先を追う。
そして、驚愕に目を見開いた。
〈お尋ね者:レギン・アーブル〉
「え…!?レ、レギンがお尋ね者!?」
「…行くぞ」
「へ…あ、うんっ!!」
ゼロは途轍もないスピードで走り去る。
それをリーフも慌てたように追いかけようとする。
……一人驚いているクレファを除いて。
「ちょ、ちょっとぉ!?ど、どこ行くんでゲスかぁ!?」
「ご、ごめんねクレファ!!」
とりあえず謝って、そのままゼロの後を追うリーフ。
クレファは何が何だかわからないといったような表情のまま、2匹を見送っていた。
リーフが交差点まで走ってくると、そこにはオロオロとしているアルトと、冷静に状況を聞き出そうとしているゼロがいた。
「…で?…気がついたらメロディもレギンもいなくなってたんだな?」
「は、はい!」
「どこへ行ったか、わかるか?」
「は、はい!こっちです!」
案内をするために走り出したアルト。
ゼロは、追いついたリーフを見て、「…行けるか?」と尋ねる。
「うん!大丈夫!」
「…行くぞ」
「うん!」
走っているアルトの後を追いながら、ゼロが不意に頭に浮かんだ予想。
(もしかしたら…あの、夢の通りになっているかもしれないな)
だとしたら最悪の事態になる前に止めなければ。ゼロはそう決意しながら走るスピードを速めたのだった。