*第七話*夢と宝とお願い
あの後、二匹は海岸まで戻ってきていた。
ゼロが倒れていた場所まで来ると、リーフとゼロは向き直る。
「さっきはありがとう!」
「……………!?」
リーフが笑顔で礼を述べると、ゼロはあきらかに動揺しているのが見てとれた。
「?ゼロ、どうしたの?」
「…………いや、あまり礼を言ってもらった事など無くてな…」
「あれ?ちょっと思い出した?」
「……!…そういえば、確かにそうだな」
リーフは「良かったね♪」と笑顔を見せる。
とりあえず、先程取り返した物をゼロに見せる。
「これ、『遺跡の欠片』…って私は呼んでる。ここの海岸で拾ったんだ」
「……欠片、というのは形からわかるが、なんで遺跡をつけるんだ?」
何故かネーミングセンスにつっこまれた。
ゼロからすれば、単純な疑問なのだが。
「ここに、ほら!不思議な模様があるでしょ?何かの遺跡と関係あるんじゃないか、と思って!」
「…なるほどな」
それにさ!と、リーフは楽しそうに語る。
「この模様!こんな模様、見たことないでしょ?」
「………(確かに……こんな模様はみたことがない………)」
小さく頷いたゼロに、リーフはニッコリと笑うと、
「私ね、小さい頃からずっと、お宝や秘境の地……そんなものに憧れてたの。そのことを考える度に、ドキドキしたり、ワクワクしたり……私自身も探検したいなって考えたりしてたの」
リーフは、まるで小さな子供が大きな夢を語るかの様に瞳をキラキラと輝かせている。
「それで、さっきもギルドに入門しようとしてたんだけどね……私、いくじなしで……結局、入門できなくって………」
また泣きそうになるのを懸命に堪えている。
こういう時、どうしてもリーフは自分のいくじのなさを呪ってしまう。
リーフは結構な泣き虫なのかもしれない、とゼロはなんとなく思った。
リーフは話をいったん終えると、話をゼロに振った。
「それで……ゼロはこれからどうするの?」
「……」
この質問に黙り込むゼロ。
正直に言って、考えていなかったのだ。
目が覚めたら記憶喪失になっていて、その時出会ったチコリータのリーフの宝物がその場で盗られ、何かを考える間もなく取り返しに行ったのだ。
つまり、全く考える時間がなかったのだ。
「記憶が無いってことだし……それで、その……えっとね……」
「………何が言いたいのか、はっきりしろ」
「あっ、うん。…あのね、私と一緒に探検隊やらない?」
「…俺と?」
少し驚いたかの様な表情を見せる。
やはり、彼が表情を変えると、やけに新鮮に感じる。
ゼロがずっと無表情であるせいなのだろうが。
「うん。ゼロと一緒なら私、探検隊出来そうな気がするの……ねぇ、お願い!」
「…別に構わないが」
突然のリーフの頼みに対し、意外にもあっさりと承諾するゼロ。
あまりにもあっさりと承諾されたため逆に唖然としてしまうリーフ。
「え…ほ、本当にいいの!?」
「……ああ、少しばかりデメリットはあるが、この後行くあてもないし、探検をしていれば俺の記憶が戻るかもしれないしな。それに……」
「それに?」
ゼロはそこで話を止め、自分が倒れていた場所に行き、しゃがんで何かを拾う。
「…これが何か、という事もわかるかもしれない」
ゼロが見せたのは変わった十字架の形をしたペンダントだった。
かなり硬くキラキラとしているので、多分宝石でできているのだろう。
見たことのない透明な宝石だった。
「何、そのペンダント?」
「……今落ちていたのを見つけたんだが…見てみろ」
ゼロがペンダントを裏側にすると、そこにはリーフの見た事がない字で何かが刻んであった。
「……えっと、何て書いてあるの?」
「……『ゼロ』と刻んである」
「……って事は、これ、ゼロの?」
「……多分な。これが俺の記憶のカギという事になるんだろうな」
ゼロは十字架のペンダントを首に掛けてみる。
ゼロは何故か、不思議と落ち着く気がした。
まるで、いつも付けていたかのような……
「……一つ、尋ねる」
「え?なに?」
「……本当に、俺と探険隊を組んでもいいのか?」
「……え?」
唐突な質問に、リーフはうろたえる。
いきなり何を言い出すんだ、と。
ゼロは淡々と話を続ける。
「……言った通りの意味だ。本当に俺とでいいのか?」
「どういう……事なの?」
「……俺みたいな、感情を出さない無口な奴でいいのか?」
あ、自覚してるんだ…とリーフが思わず思ってしまったのはここだけの話。
「俺は……正直、自分が弱いと思う」
「えぇ!!?あんなに強いのに!?」
心から驚くリーフ。
これについては驚くしかないのだろう。リーフからすれば、あそこまで戦闘能力の高いゼロが弱いと言っても信憑性に欠けるのだ。
「……まぁ、強さの事は後でいい。強さにもいろいろあるからな。
……で、質問に答えろ」
「私は寧ろ嬉しいよ!ゼロ、絶対に断ると思ってたし……」
「……それだけか」
リーフは、ゼロの言葉に首を横に振ると、「それだけじゃないよ」と言った。
「……じゃあ何故だ?」
「だってゼロ、優しいもん」
「!?」
この言葉に、瞳を見開くゼロ。どうやら本気で驚いたらしい。
「……俺は優しくなどない」
「でも、私はそう感じたの。ゼロは、優しいポケモン…っていうか、優しい人間だって」
ゼロは、意味が分からない、という様な表情を少し見せると、
「……お前の勘違いだ」
と、はっきり言った。
リーフは小さな微笑みを見せると、
「……うん、じゃあ私の勘違いって事にしておくね」
と言った。
意味を含んだその言葉に怪訝そうな表情を見せるゼロ。
何が言いたいのか、そんな疑問が顔に浮かんでいる。
そんなゼロに、リーフは満面の笑みを見せた。
「ゼロ、これからよろしくね!」
「……!」
「ね?」
「……ああ」
ゼロは肩をすくめ、短く肯定の返答を返す。
リーフはニッコリと笑顔を見せる。
そしてゼロとリーフは、リーフのいうギルドのある方へと向かっていった。