ポケモン 不思議のダンジョン 時空と闇のストーリー - *第一章* 黄昏時の出会い
*第五話*負けない
「ふん、ずいぶんと呆気なかったな」



ドガースは勝利を確信しつつも、おかしい、と感じたことがいくつかあった。

そのうちの一つは、ゼロの“余裕さ”だった。
普通のポケモンは基本、本能的に相手が自分より強いか、あるいは弱いかがわかる。
相手が強ければ、後ずさりをしたり、「来るな」という意味で威嚇をしたりする。
しかし、相手が弱ければ、余裕を見せたりする者が多い。
その理論を信じるとするならば、ゼロはドガースを“弱い”と認識したことになる。

それが、罠珠で仕掛けたトラップのみで倒せるとは思わなかったのだ。
それでも、スピードは並み外れて速く、避けている可能性もあり、少しの間、反撃の可能性も考えて警戒態勢は解かなかったのだが、ゼロが襲ってくることは一向になく、ドガースはフッと緊張を解く。

「…まあ、考えるだけ無駄か。どうせあのリオルは吹っ飛んでやられたしな……」

「……で?誰が吹っ飛んでやられたんだ?」

ドガースの独り言に質問する者がいた。
特に考えずにドガースは答える。
仲間であるズバットが戻ってきて自分に尋ねているものだと思ったのだ。

「状況を見れば分かるだろ?」

「…さあな。よく分からないが」

「だから!あの俺が吹っ飛ばしたリオル、だって……」

相手がズバットだと勘違いしていたドガースは、振り返って思いっきり言い返そうと思った。
しかし、ドガースの後ろに立っていた者は、仲間であるズバットなどではなかった。
むしろ、勝利を確信したのに、余裕そうに立っているとは想像もつかなかった相手である。

「……誰が、吹っ飛んでやられたって?」

ドガースの後ろに立っていたのは、先ほど罠にかかり、吹っ飛んだはずのゼロだった。

「な………!?」

既に倒れたと思っていた者が自分の後ろにいた為(しかも無表情で腕組み付きで)ドガースは開いた口が塞がらなかった。

「……あの程度の罠で俺が吹っ飛ぶとでも?」

(な…なんなんだ…この悪寒は…!)

ドガースは、先ほど感じていたゼロの“気”と、今感じるゼロの“気”がはっきりと変わったのを感じた。

先程の“気”を深い青で例えるなら、今ははっきりとした真っ赤な色で例えられるだろう。
           
(今このリオルと戦ったら、俺は……確実にここで終わる!!)

いままで、ドガースは、このような言葉を考えたことは無かった。
どんなに強い相手と戦っていても、こんな言葉が頭の中に浮かんだ事などなかった。
この時、ドガースははっきりと、ゼロと自分の実力の差を悟った。
そして、直感で感じた。

この男には、勝てないと。

「………お前らみたいな奴は、俺は許さない…絶対にだ!」

ゼロから恐ろしい程の殺気を感じるドガース。
何時の間にか身体が震えている。
と、ドガースはゼロと目が合った。

鋭く、深い闇を持つ深紅の瞳。
そして、相手と目が合えば、そのプレッシャーと殺気でその相手を捉える瞳。

「………喰らえ…波動弾!」

ゼロは自身の波動を、凝縮して円形にしながら集める。
波動弾は自らの波動の色になると言われている。
ゼロは青色の波動弾を一気にドガースに打ち込んだ。
ドガースが気絶する前に最後に見たのは、果てしなく深い、深海のような青色で構成された波動弾。
今まで見た事がある波動弾とは違い、波動弾の内側でうねっている波動は、月の様に美しく輝く銀色と、何処までも深い漆黒が入り混じっていた。

ゼロの素早い動きに対応できなかったドガースは波動弾をまともに喰らい、洞窟の壁にめり込んでしまった。
動かなくなったところを見ると、どうやら気絶したらしい。

「…俺がお前なんかに負けるか。っていうか、めちゃくちゃ弱いぞ…あんた」

戦闘不能となったドガースを見下ろすゼロの瞳はどこまでも冷ややかで、呆れが混じっている。

「…さて、あのチコリータは…どうせまだ戦ってるだろうな」

失礼な言葉をさらりと言ってのける。
ゼロはリーフの戦っている、離れたところを見る。

その瞬間、走り出した。

レイン ( 2014/03/20(木) 18:12 )