*第三話*【海岸の洞窟】
洞窟の中へと進んで暫くした頃……
暫く、二匹は洞窟を黙って歩いていたのだが……
「…ねえ……ねえってば!」
先程は意気込んでいたのに、いざ洞窟に入ると怖がって一方的に話しかけてるリーフ。
「ねぇ、ゼロ!」
「………」
しかし、どちらかと言うと無口であるゼロが答えるはずがない。
結局、リーフは諦めて話すのをやめた。
「うぅ……」
なるべくゼロの側を離れないように歩く。
この洞窟は光苔が生えている為、真っ暗闇とは言い難いが、リーフにとってはあまり好ましい環境とはいえないのだ。
「うー……」
「…いいかげんに唸るのをやめろ」
洞窟に入ってから一言も話すことのなかったゼロがボソッと言った。
「あぅ…だ、だって怖いんだもん…」
「……何が」
「この洞窟!暗いし、何か出てきそうだし……」
「……訳がわからん」
全く理解してもらえなかった。
「ねぇ、ゼロ……」
「………」
「ねぇ…」
「………」
「ねぇ、なんで無視するの?」
「……答える必要がないと思ったから」
さらりと言葉で返された。
その言葉に頬を膨らませるリーフ。
「ゼロってば!ひどいよ、それ!」
「…あまり騒ぐな、他のポケモンが近寄ってくるぞ」
「わかってるけど……じゃあ、この洞窟、少し暗いから、何か明かりを広げる技とかない?」
「……そういう事は俺じゃなく炎タイプに話すべきだな」
要するに、無理だということだ。
「……ねぇ、もしかしてゼロって、20歳越えてる?」
「…俺はそんな風に見えるか」
実際はまだ少年のように見えるが、性格がこれなので、リーフはちょっとした思いつきで聞いてみたのだ。
「ううん、聞いてみただけ」
「………」
「私はね、16歳なんだ。ゼロは?」
これで年下だったら面白いのに、とリーフはふと思った。
ゼロは答えることなく歩き続ける。
おかげで、また沈黙が戻ってきた。
と、少ししてからだ。
ふいに、
「……17」
と、声がした。
「え?」
「……俺は17歳」
「あ、じゃあ私より年上だったんだ。でも、思ってたより歳が近いんだね!」
そっかぁ、などと、一人納得するリーフをよそに、ゼロはまた前を向いて歩き出した。
ゼロにとって、この手の会話は「胡散臭い」「面倒くさい」の部類に入るらしい。
と、洞窟に住むポケモン達がぞろぞろとやってきた。
その数は、なんと9匹。
「……俺が6匹やる。お前が残りをやれ」
とてもポケモンになったばかりの言葉ではない。
彼は近くにいる6匹を倒すつもりらしい。
「ゼロ、大丈夫?だって確か…」
ポケモンになっちゃったばかりなんだよね?という疑問は言わずともなんとなくゼロに伝わったようである。
「…多分平気。リオルだから。俺、人間だったってことは格闘技くらいは使える、はずだ」
やたらと曖昧な台詞が多いが、声だけは何故か自信が感じられる。何故自信が持てるのかは謎だが。
自然に背中合わせになった。
リーフは背中合わせの状態になった瞬間、ゼロの気配が離れたのを感じた。
(…早い!)
ゼロの機敏さを感じ取り、その後ハッとして目の前の敵に集中する。
目の前にいる敵は、カラナクシが2匹と、アノプスが1匹だった。
(集中して…落ち着いて…!)
自分に言い聞かせているリーフに、しびれを切らしたらしくカラナクシが襲ってきた。
「葉っぱカッター!!」
使い慣れた技をカラナクシにぶつけた。
タイプ相性的には効果抜群の技を使ったことと、リーフが思った以上に敵が弱かったらしく、カラナクシはあっけなく倒れた。
だが刹那、横からもう1匹のカラナクシが襲ってきた。
どうやらこのカラナクシ二匹はチームワークは良かったようだ。
しかし、襲ってくることはなんとなく予想していたリーフは、体当たりで攻撃した。
「あ、あれ?」
ここらのポケモン達は、リーフが思っていたほど強くはなく、体当たりだけであっさりとカラナクシを倒せた。
残りはアノプスだけになった。
(アノプス……そう、防御力が高いポケモンだったよね……)
アノプスはあっけなくカラナクシ二匹を倒したリーフを警戒してか、中々襲ってこない。
(だから体当たりは効かないと思うし、その考えからいくと…葉っぱカッターがいいかな…?でも、倒せるかな?)
などと、いろいろ考えていると、先手必勝とばかりにアノプスが体当たりをしかけてきた。
「蔓のムチ!」
突然、蔓のムチに捕まって投げられ、壁にぶつかったアノプスはひっくり返ってしまった。
そこをチャンスとばかりに、葉っぱカッターを撃ち、アノプスを倒した。
思っていた以上にあっけなかった。
「ふう…」
(疲れたな…久しぶりの戦闘だったし)
リーフはそこでハッとした。
彼のことをすっかり忘れていたのだ。
(そうだ、ゼロ…!)
「ゼロ、こっちは終わったんだけどそっちは……」
途中で言葉が止まってしまった。
なぜなら、ゼロは退屈そうに欠伸をしながら側にあった石に座り、こちら側をじぃっと見ていたのだった。
「………遅かったな」
予想外の言葉に、リーフは唖然としてしまった。
倒すポケモンの数がゼロより少なかったし、相手もだいぶ弱かったのでリーフは自分の方が早く終わったと思っていた。
「…い、いつから見てたの?」
「……んー……お前が二匹目のカラナクシを倒したあたりから…か?」
「え……」
(うそ…!ポケモンに成りたてとは思えない速さだ……!格闘技ができるとは言ってたけど…こんなに早く終わるなんて…)
リーフは驚きの表情でゼロを見つめる。
ゼロは視線に気付くと、無表情だが少し訝しそうに「……何だ?」と尋ねる。
何でもない、と答えつつ、リーフは少し後悔した。
(やっぱり一緒に戦ってどれぐらいなのか見ておけばよかったなぁ…)
「……ほら、行くぞ」
「えっ、あ、うん」
さっさと奥地へ進もうとするゼロに、リーフは慌ててついて行った。