*第十話*ギルドメンバー
ゼロは、夢の中にいた。誰もいない空間の中、ゼロは二人の男の声を聞いた。
「______もうす……変わ……。俺達…望ん…世……」
男の一人が少し嬉しそうに話す。聞いたことのない声だった。
しかし、言葉が聞き取りづらいため、何を話しているかあまり聞こえない。
「___……わかって…。でも………は……しま…けどな」
「_____それで…!…はこの…を……しても……んだ!」
「____……そんな………ってる。俺だ……やって…だからな…」
今度の声には少し驚いた。
この声は、間違いなく自分の声だったのだ。
(もう少し……)
もっとよく聞こうとしようとした途端、無駄にバカでかい声が響いてきた。
「起きろおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!朝だぞおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
「っ!?」
「ぴぎゃああああぁぁぁ!?」
昨日聞いたアスラルのハイパーボイスに勝るとも劣らない大声が部屋中に響き渡る。
大声の張本人、ドゴームはフン、と鼻を鳴らした。
「耳が…耳がぁ…」
「寝ぼけてんじゃねーーーーーーー!!!」
「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
だいぶやられているらしい、リーフはフラフラとしながらも何とか起き上がる。
「おい、新入り!何してやがる!さっさと起きないと、朝会に遅れるぞ!
もしもあの、親方様の…親方様の『たああぁぁぁーーーーーー!!!!』を食らった日にゃ…!!
ああ、恐ろしい!とにかく!さっさと朝礼に来い!遅れたらただじゃすまねーからな!!」
一匹でぶつぶつと何やら呟くと、ドゴームは部屋を出て行った。
この次の日から、ゼロが早起きを始めたことは、また別の話。
「ふえぇぇ……まだ耳が痛いよぉ…
そういえば、朝礼がどうとかって言ってたような…?」
「…そりゃそうだ。俺達、ギルドに弟子入りしたんだからな」
頭を掻きながら何気なく答えるゼロの言葉に、リーフは固まる。
「………」
「…………」
『……………』
「そ、そうだった!…ってことは…まずい、寝坊だよ!早く行こう!!」
「……引っ張るなって」
二匹の考えた通り、広場に行くと、既にほかの弟子ポケモンは集まっていた。
「遅いぞ、新入り!」
と、先ほどのドゴームが怒り、大声を出すが、
「お黙り、ウェルク!お前の声はでかすぎるんだよ!」
シモンに言い返されてしまった。
「うー………」と、少し落ち込むウェルクと呼ばれたドゴーム。
「さあさあ、新入り、こっちに来て自己紹介しな♪」
2匹は前に出ると順番に挨拶した。
「え、えっと、わ、私は、リーフ・ヴィーテと言います。
よ、よろしくお願いします!」
「……ゼロ・エルサレア」
がちがちに緊張するリーフとは対象に、ゼロは極めて簡潔に自己紹介を済ませる。
初めてのポケモンからしたら、ゼロの態度はかなり生意気に感じるかもしれないが。
「はい、次♪お前達、簡潔に挨拶しな」
シモンが呼びかけたのはギルドの面々。
ギルドの先輩にあたる弟子達も自己紹介をするらしい。
「まずは私からですわ!私、アーシャ・ミルティヴィですわ!」
無駄にテンションの高いキマワリが笑顔で名乗る。
「僕、アルディ・グルーベです。見張り番を担当しています。…覚えてます?」
「アハハ…覚エテマス…」
何度も何度も乗っては飛び退くを繰り返していたリーフは返事が片言になっている。
確かに見張り番がアルディと呼ばれていたな、とゼロは頭の片隅で思い出す。
「あ、あっしはクレファ・ディクレートでゲス!よろしくでゲス!」
特徴的な喋り方をするビッパが少し緊張気味に自己紹介する。
「私はアルバ・グルーベ。アルディの父親だ」
「ウェルク・シュラークだ!!お前達、朝はちゃんと起きろよっ!!」
「シャラ・レルファです♪よろしくお願いしますね」
「ヘイヘイ!オイラはハバル・スパーリングだぜ!よろしくな、ヘイヘイ!」
「ルゼット・ベノムートだ。グヘヘ」
上から順に、ダグトリオ、ドゴーム、チリーン、ヘイガニ、グレッグルである。
リーフは忘れないよう一生懸命覚えようと頭をフル回転させ、ゼロは覚えたのか覚えていないのかは定かではないが、さっさと列に戻っていく。
「え〜、では自己紹介も終わったことだし。親方様!最後に朝の一言をお願いします」
シモンが呼びかけると、扉が開きアスラルが出てきた。
どんな事を話すのか、とリーフは興味を示しているし、ゼロに至っては欠伸をしていた。
そんな時、かすかに聞こえてきた声。それは…
「…ぐぅ……」
途端に弟子たちがヒソヒソと話し合う。
ちなみに声を潜めている割には話し声が筒抜けである。
「…………(やっぱ、親方はすげーよな)」
「……………(ええ、朝はああやって起きているように見えて…)」
「………………(実は、立ったままで寝てるんだもんな)」
その話を聞いたゼロは呆れると同時に疑問に思った。
このギルド、よくこんな感じで保っていられるな……と。
そんな弟子たちの話は無視し、シモンは親方に対し、
「ありがたいお言葉、ありがとうございました♪ さあ、皆!親方様の忠告を肝に銘じるんだよ!
最後に、朝の誓いの言葉、始めっ♪」
シモンが声をかけると、皆は声を合わせ、斉唱する。
「「「「「「「「ひとーつ!!仕事は絶対さぼらない!!
ふたーつ!!脱走したらお仕置きだ!!
みーっつ!!皆笑顔で明るいギルド!!」」」」」」」」
他の弟子と一緒に、昨日看板に書いてあった探検隊10か条だと気づいたリーフも一緒に斉唱している。
此処にいる弟子の中で斉唱していない者がいるとすれば、ゼロだ。一匹、欠伸をしている。理由は簡単、面倒くさいからである。
「さあ、皆!!仕事に掛かるよっ♪」
「「「「「「「「おおーーーーー!!!」」」」」」」」
「……で、俺たちはどうすればいいんだ?」
朝礼が終わったところで、ゼロはシモンに聞いてみた。
「ああ、それなら。ワタシについてきな♪」
そういうと、シモンはさっさと地下一階に上がっていった。
「……行くか」
「そうだね」
「ほら、こっちだよ♪」
地下一階に行くと、シモンは既に、ある看板の前で待っていた。
「お前たちは初心者だからね。まずはこの仕事をやってもらおうか♪」
シモンの前にある看板には貼り紙が何枚も貼ってあった。
ゼロが気になった点 ……それは、ほとんどの貼り紙に『SOS』または『助けてください』などの単語が書いてあることだった。
「これは掲示板。各地にいるポケモン達からの依頼が貼られているんだ。最近、悪事を働くポケモンが増えていることは知っているか?」
「もちろん知っているよ。なんでも、時間が狂い始めた影響で悪いポケモンが増えてるって話だよね」
(時が……狂う……?時が狂った影響で悪いポケモンが増えてる…?どういうことだ……?意味がわからん……)
ゼロが会話に追いつくため頭をフル回転させている間にもシモンとリーフの会話は続いている。
「そう、その通りだ。そのせいなのか、最近はこの掲示板の依頼もどんどん増えてきている。
で、お前達にはどれをやってもらおうかな……?」
シモンは依頼をザッと眺め、1枚の紙を取る。
「……うん、これがいいかな」
ペラップが選んだ貼り紙をリーフが受け取り、読みだす。
「え〜っと、なになに……
『はじめまして、私バネブーと申します。ある日、私の大切な真珠が何者かに盗まれてしまったのです!
真珠は私にとって命。真珠が頭の上に無いと、もう落ち着かなくて………
しかし最近、私の真珠が見つかったとの情報が!
どうやら岩場に捨てられていたらしいのですが……そこはとても危険な場所らしく、私、そんな所恐ろしくて行けません!
なので、私の真珠を、取ってきてください!探検隊の皆さん、お願いします!』
って…えぇ!?ただ、落し物を拾ってくるだけなの!!?」
「お黙り!!新入りは下積みが大切なんだよ!我慢しな!」
シモンに怒られ、しゅんとするリーフ。本当は探検がしたかったのだが、そう言われては文句を言うわけにもいかない。
仕方なしに了承の返事を返す。
「うぅ……わかったよ」
「………」
そしてゼロとリーフはギルドを後にし、【湿った岩場】へと向かっていった。