*第八話*プクリンのギルド
「着いたよ。ここが私が入門しようと思っている【プクリンのギルド】だよ」
あの後、リーフの案内で崖の上を登っていくと、一つの建物があった。
何故かプクリンの形をしている。
そのせいか、あまり好んで来る場所ではない、というイメージがある。
しかも、今は夕暮れ時。建物に影が差し、不気味さが増している。
「やっぱりちょっと不気味だよね……」
「……俺はちょっとじゃないと思う」
「…だよね〜……」
苦笑するリーフに、ゼロは怪訝そうに尋ねる。
「ここのギルド、大丈夫か…?」
「あはは…た、多分大丈夫だと思うよ!なんだかんだで評判は良いから!!」
「余計心配になってきた…」
建物の前には、穴が開いており、乗っても大丈夫なように格子がつけてある。
「……よし。じゃ、じゃあ乗るよ」
穴の前にそろそろと近寄っていくリーフ。
そんなゆっくりな行動に段々イライラしてきたのか、ゼロは思いっきりリーフを突き飛ばした。
「ふえぇぇっ!?」
思いっきり顔面を地面にぶつけるリーフ。
『ポケモン発見!ポケモン発見!』
『誰の足形?誰の足形?』
『この足形は…!?こんな足形見たことない!!』
『はあ!?』
『だって、こんな足形見たことないんだもん……』
『なんだそりゃ?』
「あの〜……君が足形だと思ってるの、私の顔……」
自身の鞭で、ついた汚れを払いながら軽くツッコむリーフ。
『なんだ……じゃ、気を取り直して…ポケモン発見!ポケモン発見!』
『誰の足形?誰の足形?』
『足形はチコリータ!足形はチコリータ!』
「きゃうっ!!?」
種族名を言われた瞬間、即座に飛び降りようとしたリーフだが、かろうじて堪える。
「う…落ち着かなきゃ。今度はゼロもいるんだから……」
ブツブツと呟き、自分を落ち着かせようとしている。
「……何も…起きないね…」
リーフは格子に乗ったままキョロキョロと周りを見回す。
『……よし。そばにもう一匹いるな。お前も乗れ』
「…………………」
無言で格子に乗るゼロ。
『ポケモン発見!ポケモン発見!』
『誰の足形?誰の足形?』
『足形は…………足形は…えーっと……』
『ん!?どうした!?見張り番?おい、見張り番のアルディ!?応答しろ!!』
『この足形は……多分リオル!多分リオル!』
『なんだ多分って!?』
『だって〜…ここら辺じゃ見かけない足形なんだもん〜…』
『あのな〜…足形でポケモンを見分けるのが、アルディ!お前の仕事だろ!!』
『そんなこと言われても〜…わからないものはわからないよ〜……』
「……俺はいつまで乗ってればいいんだ…」
「さ、さあ……」
そんな見張り番同士の掛け合いに、少し困惑顔のゼロと、苦笑いしているリーフ。
『よし。どうやら怪しいものじゃなさそうだな。確かにここら辺ではリオルは見かけないからな、仕方がないだろう。お前ら、通っていいぞ』
そして目の前にあったビクともしなさそうだった鉄格子が、いきなりゴゴゴゴッ!!と音を立て、開いた。
「あっ!!中に梯子があるよ!行ってみよう!!」
「……わかったからムチで俺を引きずるのはやめろ」
中に入ると、建物のッ下の階に降りるための梯子と、その隣にやけに目立つ看板があった。
ギルド10か条と書かれるその看板をジッと眺める。
リーフに静止をかけると、ゼロは棒読みで音読する。
「『ひとーつ! 仕事は絶対サボらなーい!
ふたーつ! 脱走したらお仕置きだ!
みっつー! 皆笑顔で明るい笑顔!
よっつー! 依頼は『受ける』をした後『実行』を忘れずに!
いつつー! 探検に行く前には道具をチェック!!
むっつー! 探検に行く前にはれんけつ技もチェック!!』
ななつー! 探検中は慌てず騒がず冷静に!
やっつー! 困っているポケモンを助けるのも探検隊の大事なつとめ!
ここのつー! 依頼を沢山こなして目指せ憧れゴールドランク!
とおー! 稼いだ賞金はギルドで分けるよ!
皆、友達!友達〜〜〜!』」
「ゼロが棒読みでそれ言うとなんか怖いよ?」
「…そう言われてもな。…さっさと行くぞ」
「はーい」
ゼロとリーフは、建物の中にある梯子を使い、下へ降りていった。
「うわああ〜!!すごいよ!これがギルドの中なんだぁ…!!」
地下一階に行くと、いろいろなポケモン達が集い、明るい雰囲気に包まれていた。
リーフは目をキラキラと輝かせ、周りをキョロキョロと見回している。
「おい!お前ら、さっきギルドに入ってきた奴らか?」
声をかけられ、ゼロとリーフが振り向くと一匹のポケモンがこちらに向かってきていた。
「あ、はい!」
「私はシモン・クレッフィだ♪ここのギルドの情報屋だ。勧誘やアンケートならお断りだよ。さあ、帰った帰った!」
「えぇ!?」
「………」
いきなりの発言にゼロは呆れたような目を向け、リーフはうろたえる。
「ち、違うよ!?私達、ここに弟子入りしようと思って来たんだ!」
「な、なんだってえぇぇぇぇぇぇ!?」
「………?」
シモンの叫び声で周りが静かになり、視線がこちらに注目しはじめた。
そんな視線を受けていることに気づいているのか、それとも気づいていないのかはわからないが、シモンは後ろを向き、しきりに独り言を言っている。
「まったく、今時珍しい子だねぇ…あんな厳しい修行は耐えられないって脱走する弟子さえいるってのに………」
本人は小声で独り言を言っているつもりだろうが、はっきり言って、全部丸聞こえである。
少し心配になったのか、不安な顔をしてリーフはシモンに質問する。
「あ、あの…?探検隊の修行ってそんなに厳しいんですか?」
リーフの不安そうな表情を見て、探険隊になるのを諦めるつもりなのだ、とななめの方向に勘違いしたシモンは、
「へっ!?え、あ、い、いや、そ、そんなことはないよ〜!探検隊の修行はとっっても楽だよ〜♪(折角来た弟子をこのまま逃がしてたまるか!)」
「…お前、なんか企んでないか?」
ゼロの疑いの眼差しに、更にシモンはしどろもどろになる。
ジーッと効果音が付きそうなほど疑いの目をゼロに向けられ、ダラダラと冷や汗が出ている。
「い、いいいいいいや、そそそ、そんなことはないよ〜♪(コイツ、鋭い!?)
そっか〜♪探検隊になりたいなら早く言ってくれなくちゃ〜♪
フッフッフッフッフ♪」
「な、なんか急に態度変わったね………」
「…キャラが変わり過ぎてて気持ち悪い」
既に顔が苦笑いになっているリーフ。
ゼロはその鋭い瞳でシモンを睨んでいる。…とても疑い深い眼差しで。
シモンはシモンで、内心で考えていることをゼロに読まれないよう、必死だった。
「さ、さあ!チーム登録をするからこっちに来て。ホラ、早く早く♪」
シモンに急かされ、ゼロとリーフは顔を見合わせると、地下二階へと梯子を使って降りていった。