第五十話 記憶の手がかり
ユクシーについていくと湖に着いた。
「ここは霧の湖です。」
「わあ…いつの間に暗く…」
「もう夜なんですね…」
「綺麗だね…」
そこには広い湖とそこから伸びる青緑色の光と空に舞う黄色い光、それに上を見上げると星が瞬いている。
「もう夜なので少し見づらいですが…ご覧ください。ここが霧の湖です。」
「わあ〜〜っ!!」
みんなが感嘆の声を上げる。
「す、凄い!」
「こんな高台にこんなにも大きな湖があるなんて……。」
「ええ…バルビートとイルミーゼが飛んでいてなんとも言い表せないほど綺麗ですね。」
「なんて…綺麗なの……」
バルビートとイルミーゼの蛍火が夜空に浮かぶ星の光と合わさってとても綺麗な光景。それを見てレインやラクサスやモカやソウカが驚き、うっとりとした顔をしている。
「グレイ! 大丈夫だった!?」
「大丈夫よ。ありがと、フーコ」
熱水の洞窟の攻略途中から倒れたグレイを心配してフーコが言うとグレイは元気そうに応えた。
「ここは地下から水が絶えず湧き出ることで…大きな湖になっているのです。」
ユクシーはそういうと湖の真ん中で光るものを指さして続けた。
「湖の中央に光っているものが見えますでしょうか?」
「うん。見えるよ。」
「湖の底から伸びている青緑色の光のことだね?」
「前に行ってよ〜く見てください。」
ユクシーにそう言われて前に出る。
なんだろう…あれは。わからないけどあれを見てると…何故かドキドキする…!
もしかして…恋?
…って! そんなわけないに決まってるし。なんだろうこの胸騒ぎは…。なんでこんなにドキドキするんだろう…。
「わあ…! 凄く綺麗! やけど…なんやろう…あれ…」
「なんか不思議な感じがするな…」
みんな青緑色の光を放つものを見ている。歯車のような形をしているそのものを。
「あれは…時の歯車です。」
「えっ? ええっ!? あれが……時の歯車!?」
「そうです。あそこにある時の歯車を護るために私はここにいるのです。」
そして、ユクシーはまたオレたちの方に向き直って言った。
「これまでにもここに侵入してきた者がいましたが…その度にグラードンの幻影で追い払ってきたのです。」
「グラードン? あの大きなサンドのこと? あれは一体なんだったのー?」
「あれは私の念力で生み出したものです。このように…」
ユクシーが指を鳴らすグラードンの幻影が現れた。
「うわああああああ!!!!」
「きゃっ!」
マルは驚き飛び跳ね、フーコとチコが小さく悲鳴を上げた。
「驚くことはありません。先程も申しましたが、これは私が作り出した幻なのです。あなたたちは幻と戦闘していたのです。そして…あなたたちのようにグラードンの幻影に打ち勝ち…ここに到達する者もいましたが……そういった者たちには…今度は私が記憶を消すことにより…私はここを護り続けてきたのです。」
「記憶を消す…そうだ! 思い出した! ユクシーに聞きたいことがあるんやけど…」
「?? なんでしょう?」
そう言うとユクシーは湖を見ているレイン達と間をとった。
「ここにいるコリンクとゴンベ_____ショウとカケルは元々は人間なんやって。」
「えっ? 人間?」
人間と聞いてユクシーの頬がピクリと動いた。他のみんなはそれにきづかず湖に魅入っている。
「うん。でも人間だった頃の記憶はなくなってしまってるんよ。そやか
ら…もしかしたら以前にユクシーに出会って記憶を消されたんやないかと思ったんやけどさ…どう? そんな人間がここに来たこととかユクシーは覚えてない?」
「……いえ。ここに人間が来たことは一度もないです。それに…私が記憶を消すのは霧の湖にきた記憶のみです。全ての記憶を消す力は私にはありません。ですので、ショウさんとカケルさんが記憶をなくされ…ポケモンになってしまったのは、また別の原因ではないでしょうか。」
「そっか…どうやらここには来てなかったみたいやね。ユクシーに聞けば何かわかると思ったんだけど…うーん…。」
ユクシーがそういい終わった後、フーコは悩んでいるように頭を抱えた。
「時の歯車かあ♪ 残念♪」
その声と共に現れたのは親方のフリルだった。
「時の歯車は流石に持って帰っちゃダメだもンね♪」
「ふ、フリル!」
そんななか、お構いなしにフリルは湖の前に立つ。
「わあ〜♪ すごーい♪」
「この方は? ……。」
「僕たちのギルドの親方ですよ。」
「はじめまして〜♪ 友達♪ 友達〜♪」
ユクシーもフリルのテンションに辟易そうにしている。
「わ〜い♪ キミ凄いね♪ はじめまして〜♪ 友達♪ 友達〜♪」
なんとグラードンの幻影にまで友達と言う始末である。
「それにしても素晴らしい景色だよね〜♪ 来てよかったよ〜♪ ルンルン♪」
その頃、ギルドの他のメンバーは…なんとかグラードンと戦った場所まで来ていた。
「やっと着いたですわ……」
「一息ついてなんかいられないぞ。急ぐのだ。」
「ヘイ! あっちに誰かいるみたいだぜ!」
「行ってみよう!」
そして合流。
ユクシーが出していたグラードンの幻影を見るなりトリルは叫んだ。
「ぎょええええ〜〜〜〜〜っ!?」
「グ…グ…グ…グウウウ…」
「はっきり言ってよ! グラードンってぇ!!」
「きゃーーーー!!」
「ヘ、ヘイ! おいら、食べてもまずいぞ! 食わないでくれ〜〜〜っ!!」
ヘインがそう言った時、お前がいちばん美味しそうだろと思ったのはオレの中だけの秘密だ。
「やぁ、みんな♪ どうしたの?」
「お、お、親方様〜〜!」
「そんなことよりみんな見てごらんよ♪ 今ちょうど吹き出しはじめたんだ♪ 凄く綺麗だよ♪」
「……へっ?」
親方のその言葉にギルドの他のメンバーはかたまった。
「うわ〜綺麗……。」
「綺麗でゲスねぇ〜…。」
「泳ぎたいな…」
「だめだよ、ルル」
「この湖は時間によって間欠泉が吹き出すんです。まるで噴水のように。そして水中からは時の歯車が……また、空中からはイルミーゼとバルビートたちが噴水をライトアップして……あのような美しい光景になるのです。」
「きっと…霧の湖のお宝って……この景色のことだったんだね♪」
「……ショウ、見てる? ほんと綺麗だよね…ショウとカケルの過去がわからなかったのは残念だったけど……でも、ウチここにこれてよかったわ。みんなと一緒にこんな綺麗なものを見れて…嬉しいよ、ほんとに。」
「うん。本当に来てよかった。確かにオレとカケルが何者かはわからなかったんだけど…。」
ユクシーは自分のことを知らないと言っていた。でも、それなら何故自分はここを知っているんだ? そして…あの…時の歯車……時の歯車をみると…なんで自分はこんなにドキドキするんだろう。この胸騒ぎは…一体なんなんだろうか…?
それからしばらく経ったあと…。
「色々とお騒がせしました♪ そしてほんとに楽しかったよ♪ ありがと〜♪ 友達♪ 友達〜♪」
「私はあなたたちの記憶は消しません。あなたたちを信頼しているからです。ですので、ここでのことは秘密にしていただけないでしょうか?」
ユクシーがそう言うとフリルは快く頷いた。
「うん。ありがとう! わかってるよ♪ 最近、時の歯車が盗まれる事件もあって物騒だしね。このことは絶対誰にも言わないよ♪ プクリンのギルドの名にかけて。」
「よろしくお願いします。」
「それじゃ。僕達はそろそろお暇するね♪」
それからトリルの方に向き言った。
「トリル!」
「はい! 親方様〜! それではみんなっ♪ ギルドへ帰るよーーーーっ♪」
「おおーーーーーっ!!」
こうしてオレ達の長い遠征が終わりを告げて、ギルドのメンバーは無事にギルドへと帰りついた。また、次の日から修行の毎日の再開だ。