第四十四話 記憶
やっとの思いで沿岸の岩場とツノ山を越えてきたショウ達はとうとうベースキャンプ地の濃霧の森の入口に到着したのだった。
「お前達! 何をしていたんだい!? ずいぶんおそかったじゃないか! …まあいい。早く荷物を置いているきてくれ。作戦会議を行うからな。場所はガルーラ像の近く___濃霧の森の入り口付近だ。」
ツノ山を下山してベースキャンプに着くなりいきなりトリルに怒鳴られてしまった。だが、今のオレにはそんなことどうでもよかった。オレはこの場所を________知っている? この場所に来たことがあるのか? 記憶を失う前の自分自身の過去と関係があるのだろうか? オレがそう感じるということはもしかしたらカケルもそう感じているのかもしれない…。
「どうしたん? またトリルに怒鳴られてまうよ?」
「ああ…わかった。今行くよ」
まあ、このことは寝る時になったらフーコに言おう。
「えー…というわけで、みんな無事にベースキャンプまで来れたようだし…これから明日の探索の予定を言うよ? 見ての通りここは深い森にに覆われている。そして、この森のどこかに霧の湖があるらしいのだが…今のところ噂でしかない。これまで色々な探検家達が挑戦してきたがまだ発見されていないのだ。」
「ヘイヘイヘーイ! 本当にあるのかい? 霧の湖ってさ?」
「あら? ヘイン。それを言ってはあまりにも夢がないですわ!」
「今更そんなこと言ってどーするよ!」
「ヘイヘーイ…」
ヘインのこの言葉にヒナとボイムが咎めた。
そんな中、リンが控えめに声を上げた。
「あのー…」
「なんだ?」
「私、ここまで来る途中にある伝説を聞いたんですが…」
「伝説?」
「はい。霧の湖にまつわる伝説です。なんでも霧の湖にはユクシーという…とても珍しいポケモンが住んでいるそうです。そして、そのユクシーには目を合わせた者の記憶を消してしまう能力があるそうなんです。」
記憶を消す____そのことでみんなは大騒ぎしはじめた。
「記憶を消してしまう力…!? 」
「はい。なのでもし、霧の湖に訪れた者がいたとしてもユクシーによって記憶を消されてしまうので……湖の存在を伝えることができない。ユクシーはそうやって霧の湖を守っている。そういう伝説が残っているそうなんです。」
ギルドの面々はざわめいたがオレはそれどころではなかった。
記憶を消す力か…オレもここに来て記憶を消された…とは考えられないだろうか。
「ちょっとおっかない話でゲスね…」
「ワシ……記憶を消されたらどうしよう…」
「あら? あなたなら心配ないですわ。ただでさえ物忘れが激しいじゃない。」
「こほん…」
トリルが咳払いをするとボイムとヒナは言い合いをやめた。
「まあ、こういった場所にはたいていこういう言い伝えや伝説が残っているものだ。我がギルドはこれまでもそういう困難を乗り越えて探検してきたのだ♪」
トリルが胸を張って言った。
「その通りですわ!」
「それこそが親方様のギルドが一流とされる所以だからな。」
ヒナ、それにいつも掲示板の更新をサボっているダリスもそう言った。
「フフフ…心配はいらない。きっと大丈夫だよ。今回の冒険も成功を信じて…がんばろ♪ がんばろ♪」
フリルの声にみんなは少し安心したようだ。親方の言うことには安心感がある。
トリルが気を取り直してまた話し始める。
「それで今回の作戦だが…とりあえず今日休む。明日は私と親方様はここに残りみんなからの情報を集める。そして、みんなは各自自由に森を探索してくれ。ただし、この森は奥に進むと靄 (もや) がかかっていて非常にわかりにくい。たぶん霧の湖はこの靄のせいで発見しにくいのではないかと考えられる。もしかしたらこの靄をとる方法があるのかもしれない。なので、もし探索中に霧の湖を見つけるか、もしくは、この靄をとる方法を見つけたら…ベースキャンプに戻って私か親方様のどちらかに伝えて欲しい。以上だ。
それではみんなっ、今日のところは休むで明日に向けて頑張るよ! 解散!」
「おおーーーっ!!」
解散後も弟子たちははしゃいでいる。しかし、ドクローズの面々は不満そうな顔をしていた。早く探索に出て先に宝を取りたいのだろう。
「頑張っていきましょう!」
「見つかるといいでゲスね」
「見つかりますわ絶対に!」
「最初に見つけるのはワシだからな!」
「そんなに興奮したら寝れなくなるわよ?」
ボイムにルルが冷静に注意する。たが、ボイムは聞こえなかったのかはしゃぎ続けている、
「夜食作るから食いたいやつは来いよ」
「食おうぜ!」
ハープの一声でみんなは夜食を食べに彼の元へ集まる。
オレもハープの作る料理を食べて今日は寝るか…。
ハープの作った夜食は木の実スープだった。マトマの実とオレン、オボンの実を使っていて疲れた身体にはピッタリなのだ。マトマの実には身体を温める辛さがある。夏とはいえ、ここは霧に覆われていて太陽の光が届きにくいため少し肌寒い。それを食べて身体を温めた後、寝ようとテントへ向かった。
オレと同じテントのメンバーはフーコ、グレイ、カレハにシュエルだ。
トリルに聞くと教えてくれた。
テントに入ると既に4人とも寝ていた。シュエルとフーコは一緒に毛布に包まりねている。毛布をかけ仰向けに寝ているカレハのお腹を枕にグレイは寝ている。すやすやと眠る4人を見ているうちに眠くなってきたから寝よう…。
ここに来てから感じたことを言うのはまた今度でいいか…。おやすみ。
オレは毛布を引っ張り出し、それを頭から被って眠りにつくのだった。