第五十六話 昇格戦
時代を越えて 56 2部リーグ
前回のあらすじ
「ここからここがあなた方の控え室です。」
「うわ…汚い。」
「汚いのが嫌なら1日でも早く一部リーグに上がれるように精進なさい。まぁ…死なない程度に頑張りなさい。」
前回のお話はこんな感じだったかな。
そして今回初めての試合になる。オレとフーコ、それとボタンを勝手に押したマル。それと是非出たいとのことでカイが出ることになった。ホルンは控え室でお留守番だ。『僕はボドローとグリムから闘技場について色々聞いてみます。もしかしたら失踪した探検家達のことも何かわかるかもしれませんし。ショウは試合に集中してください。』と言っていたしスターストーンと探検家の情報収集は彼に任せておこう。
一回戦の相手は初代ゴサンケーズだ。
「今回は〜!! チームライトニングはアイテムを使ってはいけませんー! ゴサンケーズは先攻です!」
「なにそれ理不尽。」
でもまあそんな感じな戦いを乗り切ってなんとか1部リーグ昇格まであと一歩のところまでは上り詰めた。ちょくちょくマルが危なっかしくて大変な目に遭った。どんな目に遭ったかというと……。
「わ〜! ここから音がする!!」
理不尽なルールの試合にも慣れてきた頃、マルはそう言って鍵がかかっている関係者以外立ち入り禁止の部屋の扉をがたがたと揺らした。
「なにやっとんねん!」
「いった〜……い」
フーコが拳骨をマルに食らわせ、マルは頭を抱えてしゃがみこんだ。よほど痛かったんだろ……。
「電気は点いてるのかなあ?」
扉の下から中を覗き込む。そのためにしゃがんだのかい! オレも呆れてマルを見た。
side マル
フーコ殴られてもボクはこの扉の先が気になって仕方がなかった。ホルンからこっそり聞いた情報によるとこの闘技場には色々と不可思議な現象が起きているらしい。それを頭の中に箇条書きしてある。
1.今まで活躍していたファイターが忽然と姿を消す。
2.2階は無いのに上から物音とうめき声が聞こえる。
3.誰もいないリングに入った者は誰一人として戻ってこない。
こんな感じだ。1についてアホなふりをしながら情報を集めて、先代チャンピオンが行方不明になった事を掴んだ。ファイター名はプリンス・スマッシュとかいうキノガッサだったか。
2についてはここの部屋から物音がすると、スタッフがシランに言っていたのを盗み聞きしたのでここが怪しい事が分かった。
3については、入ってみたくなったがなんとか踏みとどまった。その日にボドローが行方不明になった。ということは…だ。
そんなことを考えているとフーコがうるさく叩いてきて僕に拳骨を喰らわせた。
「いった〜い!」
フーコの拳骨に負け、しゃがみこむけどそこからドアの下を覗きこみ灯りがついているかを見る。どうやらうっすらとついているようだ。ショウたちのいない時によく調べよう。フーコの視線が痛い。だからそろそろ控え室に戻ろう。僕はスタスタと歩いて控え室に戻った。
控え室に戻るとグリムが迎えてくれた。この部屋も人が少ない。僕らの順位は11位。そろそろ一部リーグに上がれそうだ。ショウに試合は任せて僕はあの扉の先を見たい。なんとか都合をつけなきゃ。
「どうした、マル。」
「なんでもないよ。」
「そう…ウチらは試合行ってくるからな。」
フーコ達の後ろ姿を見送った後、探検隊バッジに不安定な音が入った。
「どうしたの?」
カイが探検隊バッジを覗き込む。
「通信機能の不具合かな? 変な音が聞こえるんだ。」
「んー…変なノイズに混じって誰かの声が聞こえる気がする。『街のはずれ……電話ボックス……鍵…』そんな風に聞こえるけど。」
カイと一緒に町外れの電話ボックスを探した。それを見つけて中にある鍵を手に入れると、僕は闘技場に戻り、カイと例の扉の前に立ち鍵を差し込んだ。
side ショウ
「こーの試合はチョー重要!! ライトニング昇格戦だあああああ!!! 相手は……!!! 鋼鉄ブラザーズだ!!!」
セコムはマイクを4本の手で4つ持ち叫ぶ。正直うるさくて頭が痛い。相手はボスゴドラとハガネールだ。
オレたちはでんき、ほのお、くさタイプで出場いるから多少は部が悪い。
「俺たちは鋼の兄弟!」
「鉄壁の防御をどう打ち破るのかな?」
ボスゴドラとハガネールとが交互に叫ぶ。その時、セコムはゴングを鳴らした。
「ファイト!!!!! 試合開始!」
ゴングの音とセコムの声が頭の中でわんわんとこだまする。
「来るよ! ショウ! フーコ!」
ホルンが叫んではっぱカッターを繰り出す。
「「ダブルステルスロック!」」
ボスゴドラとハガネールは声をそろえて岩をステージの周りにばら撒いた。
「「ダブルストーンエッジ!」」
小さな岩が一斉にオレ達に向かって飛んでくる。オレとフーコの前にホルンが飛び出した。
「まもる!」
「甘めぇよ!」
ボスゴドラが叫ぶ。するとステルスロックとして浮かんでいた岩が高速で飛んでくる。すかさずオレは飛び跳ねて避ける。だけどフーコは反応が遅れた。
「フーコ!」
ホルンが後ろを振り向き、叫ぶ。
「きゃああああ…!」
岩がフーコの身体に当たり彼女は宙に舞い地面にどさりと落ちた。その瞬間観客席全体がどよめく。
「キツネの嬢ちゃんはこれで終いだなあ……」
「いいぞー! やれやれ!」
「デカブツに負けんじゃねぇぞー!」
「頑張れちっこいの!」
喧騒に混ざって声が聞こえてくる。
「スパーク!!」
「アイアンヘッド!」
鋼鉄の身体にいとも簡単に跳ね返される。身体中が痛い。諦めるか? いや、否!
オレが立ち上がるとそれを待っていたかのようにハガネールとボスゴドラはニヤリと笑い口を開いた。
「これで終わらせるぞ! アイガン! メガシンカ!」
「おう! ガンサイ! メガシンカ!」
ガンサイと呼ばれたハガネールとアイガンと呼ばれたボスゴドラが白い光に包まれて姿を変えた。
「おお〜っとおおお!!! メガシンカだー!!! これは勝ち目がなーい!!」
わざとらしいセコムの声と態度にイラッとしたけどここは落ち着け……。どうやって対処する?
その時セコムが一瞬ニヤリと笑い、また口を開いた。
「ライトニングに救いの手を差し伸べる強者はいないのかああああ!?!?」
すると観客席のどこかから微かに呟く声が聞こえた。
「ちっ…うるせえカイリキーだ。」
舞台の上に黄色いポケモンすっと宙返りで上がってきた。そのポケモンは頭の上にメガネを乗せたピカチュウだった。
「わーーー!!!」
「俺は……ヨ…だ。よろしくな。」
「おおーー!!!」
観客の歓声で彼の声がかき消されて名前はよく聞こえなかった。けどオレ達を助けてくれるみたいだ。
「オレはショウ…よろしく!」
「ライトニングに救いの手! ピカチュウが乱入だあああ!!」
相変わらずセコムの声がうるさいけど気にしてはいけない。
「お前さん。」
「僕?」
ピカチュウがホルンに何か耳打ちした。
「いけそうか?」
「うん。だけどどうやって……」
「頼んだぞ!」
ピカチュウに言われてホルンは頷いて無数の葉っぱを浮かべた。その間にピカチュウは倒れているフーコの側で何かを囁いていた。
「はっぱカッター!」
ホルンは葉っぱの刃を飛ばした。すると…。
「マジカル…フレイム…!」
フーコが床を這って尻尾に挿していた枝を抜き、そこから炎を飛ばした。
葉っぱに火がついて飛んでいく。それは2人の身体に当たった。
「な、なんだあ!? あちちちち!!!」
「あついいいいい!!!」
ピカチュウがオレのところに戻ってくる。
「行くぞ! ショウ! あの投げ輪を頼むよ!」
「は、はい!」
電気の投げ輪は二つ。
「サンダーリング!」
輪投げの要領でアイガンに頭から通した。腕と胴を締めた。もう一つはガンサイの口元を縦に締める。
「気合いだー!!」
どこかの燃える闘魂みたいなことを言ってピカチュウがボコボコにアイガンとガンサイを殴り飛ばした。
「このォ…ネズミがああああ…!!!」
「やられてたまるかああ!!」
サンダーリングが壊れて身動きが取れるようになったアイガンとガンサイがゆっくり起き上がろうとする。
「そこまでだ。試合終了だろ? セコムさんよ。」
指をパチンと鳴らしてピカチュウがそう言うとアイガンとガンサイのメガシンカが解けて、起き上がろうとした二人は地に伏した。
「試合終了おお!! なんと助っ人が強すぎたぞおおおお!! 一部リーグへ昇格!!! ライトニングの奇跡の勝利だ!!」
とどめを刺したのは確かにピカチュウだけど助っ人だけが強いみたいに言っていて気にくわない。気にしても仕方ないしフーコの手当てをしないとね。
フーコとホルンを伴ってピカチュウと一緒に控え室に戻るとそこには見慣れない人影が(____いやポケ影といったほうがいいかな?)があった。
大きな種を背負ったポケモン。確かフシギダネだ。
「あんたはまた無茶なことを……」
と、呆れた声でピカチュウに言った。すると彼は笑いながら言った。
「ラウン、そう言うなって! 久しぶりにバトルしたかったんだよ〜!」
「救助しに行く時いつもバトルしてるでしょうが! ああ、テールナーさん。酷い怪我ですね。横になってください。薬を塗りますから……ナエトルさんも手伝ってください。」
ラウンと呼ばれたフシギダネはバッグから木の実をいくつか取り出してすり潰し始めた。よく見ると背中、腕、腿に傷を負っている。フーコは言われた通りにベッドに横になり、ホルンはラウンを手伝い始めた。
「やれやれ、酷い相手だったね。改めて自己紹介しようか。俺はイザヨイ、救助隊だ。そんでアイツはメンバーのグラウンド。あだ名はラウンだ。」
「オレはショウ。テールナーはフーコ、ナエトルはホルンだ。」
イザヨイと名乗ったピカチュウはオレたちの名前を聞いて頷いた。
「なにやら嗅ぎまわってるみたいだけど程々にしろよな。」
「えっ…?」
なんで知ってるんだ? と思ったのが顔に出ていたのかイザヨイが言った。
「俺らのチームにはあと2人メンバーがいるんだ。そいつらから聞いたんだよ。ポッチャマが何やら嗅ぎまわってるってな。」
「たっだいまあ〜!!!」
そんな時に暢気に帰ってきたのは嗅ぎまわってる張本人、ポッチャマ……マルだ。
「ショウ、例の扉開けてみたよ!」
「お、お前…!」
「そしたらね〜! なんと…ってこの人誰?」
「オマエらもあの扉の調査してたのか。」
「オマエらって…もしかして…」
「俺らが受けた救助依頼…この中でいなくなったファイターを救助せよってやつだ。」
「オレたちはそれにお宝を奪還しろってのがあるよ」
「やはりか。それなら…」
「そうだね。」
言いたいことはわかった。オレとイザヨイは同時に頷き、手を出した。
「「ここからよろしく頼む!」」
オレとイザヨイの声が重なった。ひょんなことから救助隊と合同で依頼をこなすことになったんだ。