第五十二話 出発の朝
そして出発の日。
「さて、出発……」
「…あの……ショウさん。」
「ルース、それにルナも!」
「お久しぶりです。」
朝早くギルドの前にいたのはルリリとマリルの兄弟だった。
「ボク達探し物をしているんですけど、昨日、探し物を海岸で見たっていう人がいたんで行ってみたんですけどそこにこんな書き置きが……」
「見せて。」
フーコがルースから紙切れを受け取って読み始めた。
「『海岸にあった水のフロートは俺たちが預かった。返して欲しければエレキ平原に来い。まあ、弱いお前たちじゃ無理だろうがな。ククククッ。その時は頼もしい仲間にでも頼むんだな。』ってこれ! 脅迫状だよ!? 早くなんとかせんと……。」
一通り読み終わるとフーコは言った。
「水のフロートは大切な物なんです。だからボク一人で取り返そうと思ったんですけど……あそこは電気タイプが多いからやられてばかり……。弱いボクが悔しくて悔しくて……。」
「ルナも一緒に行くっていったんだよ!」
「ルナ……お前を危険な目に遭わせたくないんだ。」
涙目になるルースとルナ、よほど大切な物だろうしオレたちが取り返してやらなきゃ……。でも……。
「ショウ。」
「ん? どうしたカケル。」
「天空都市に向かうチームとエレキ平原に向かうチームに分かれよう。ボクがエレキ平原に行くチームのリーダーになる。だからショウは天空都市へ行って。」
「わかった。オレはフーコとマルとホルン、それにカイを連れて行くよ。頼んだよ。」
「留守は任せて。水のフロートの件は僕とチコ、ヒノ、フィン、ジーナス、シュエルでなんとかするから。」
「ショウさん?」
ルースがオレの方を向いた。少したじろいでいるとカケルがこう言った。
「僕が絶対に取り返すよ。水のフロートを!」
「カケルさん!」
ルースとルナの喜びの声を聞きながらオレたちはカケルたちにルースの依頼を託して天空都市へと向かうことにした。まずは……パイラタウンへ。
side カケル
「水のフロートのことは任せて。絶対に取り返してみせるから。」
「ありがとうございます…!」
「泣いたり笑ったり顔がくしゃくしゃよ。」
「僕たちに任せて。」
僕たちがそう言うとルースとルナは微笑んで頷いた。この笑顔を守るためにも取り返さなきゃ……水のフロートを。
まずはトレジャータウンで準備をしてギルドでエレキ平原の位置を確かめておこう。
「カケル……。」
「フィン、どうしたの? 目をつぶってしゃがみこんで……。」
フィンの苦しそうにうめく声を聞いて僕が振り向くと彼女は手で頭を抑え目を閉じてしゃがみこんでいる。
「目が痛くて……」
「僕に任せてください。カケル。」
「ヒノ、シュエル……お願いするよ?」
フィンはヒノとシュエルに任せて僕らは買い物を済ませないとね。フィン…大丈夫かな。振り返るとギルドの中に彼女とヒノとシュエルが入っていくところが見えた。彼女の尻尾は力なく垂れ下がっていた。
〜〜〜
「いらっしゃ〜い!」
「おや、あなたがたはプクリンのギルドの……。」
「僕たちは探検隊ルーチェ・デル・ソーレのカケル。よろしくね。」
「あたしはチコです。」
「俺はジーナスです。」
「レイクです。よろしくお願いします。」
レイクは僕たちに微笑んだ。(と、いってもヨノワールの表情は読み取りにくいけれども。)
「ところでレイクさんはどうしてここに?」
「私たちが呼び止めたんです。レイクさん物知りですから。」
僕が聞くとカクレオンは嬉々として答えた。よほどレイクとお話ししたかったんだろうね。
「カケルさんは何か買いに?」
「うん。リンゴを3個。」
「まいどあり!」
「さあ、行こう!」
「うん!」
「頑張ってくださいね!」
お代を払いリンゴを受け取るとギルドへと急いで戻った。休んでなんかいられない。カクレオン兄弟とレイクの声を背にギルドへの道をぐんぐんとスピードを上げて走っていった。
買い物も済んだし、食堂のテーブルを借りてエレキ平原の場所を確かめることにした。僕が地図を広げるとチコとジーナスが覗き込んだ。
「エレキ平原はどこかな…っと。」
「ここだな。」
ジーナスが先程まで疾走していたにも関わらず呼吸を乱さずに地図の一点を指す。光の泉のある森の北。ここがエレキ平原……。
「行こうぜ! カケル!」
「うん!」
「ま、待ってよぉ〜! 置いてかないでぇ!」
僕らはこうしてエレキ平原へと向かうのだった。奥地でどうなるかも知らずに。
その頃、トレジャータウンでは……。
マリルのルースとルリリのルナがカクレオンのお店の前にいた。
「そっか〜! カケルさんたちなら安心だね。」
「はい! ルナも助けていただきましたし、本当に感謝してます。」
どうやらルースが水のフロート奪還の件をカクレオンに話しているようだ。
そこにレイクが通りかかった。
「あっ、レイクさん!」
「実はね…」
「はいはい……。」
カクレオンがルースたちがカケルに依頼した件を詳しく話した。
「なるほど……。それは心強いですね。」
「でしょう?」
「ところで彼らはどこへ?」
「エレキ平原です。」
ルースのその答えにレイクは顔面蒼白となった。
「エレキ平原は……この時期は……。」
彼は小さく呟き、慌てて続けた。
「このままだと彼らが危ないッ! 私、今からエレキ平原に行ってきます!」
「ちょっ、ちょっとぉ〜!?」
カクレオンの言葉にも答えずレイクの影はどんどん遠くなっていった。