三つ目の扉の先は
ヒョウガたちは宿屋を後にして狭間の塔まで来ていた。黄色い扉が出現しており、その前にヌルが立っていた。ヌルがヒョウガたちを認めると
「おお! お前たちやっと来たか。」
と朗らかに笑った。
「古文書の一部分が読み解けたのでな。伝えておこうと思ってな。」
「どんな内容なんだ?」
セハルが胡散臭そうな顔をして聞いた。
「『深き深き地の底で黄色の宝玉は主人と共に待っている。』3人目の勇者もそこにいるらしい。」
そう言い終わるとヌルはため息をつき、睨む。
「『それだけかよ?』という顔をしとるな?」
「いやしてないし!」
「さっさと行かんかい!」
セハルは弁解したが、ヌルは聞き入れず10まんボルトをくりだした。ヌルに気圧されるようにヒョウガたちは急いで扉をくぐった。
3つ目の宝玉を求めて黄色の扉をくぐったヒョウガたち。その先には薄暗く黄昏ている空間が広がっています
「まるであの世みたいだなあ……。」
クロはそう言って先頭をスタスタ歩きます
「気味が悪いわ……。」
「ほんとにね……。」
モモとカガミは不安そうに顔を歪めます。
「さっ、行こうぜヒョウガ。」
セハルはそう言うとヒョウガを引っ張って行くのでした。
扉の先は木々が生い茂り、薄暗い空間が広がっている。どんよりとした空にはボーダーシティと同じ穴が口を開けている。
「水の音が聞こえる。」
クロが立ち止まってある一点を見つめた。そこには小舟が泊まっており、そこに誰かが立っている。
「とりあえず、あの人に話を聞いてみようか」
と、セハルは歩き始めた。
「おい、大丈夫か?」
「……。」
「どうしたの?」
小舟の側に立っていたのは大きい兜をかぶったポケモン、ダイケンキ、その隣には頬のプラスマークが特徴的な、プラスルが倒れていた。
「あ、お嬢ちゃんたち、こいつが倒れててな……」
「ここはどこなの?」
とりあえずこのダイケンキにヒョウガたちは話を聞くことにした。
「俺は三途の川の船頭をしてるんだが、今ここにきて見たらこのプラスルが倒れてたってわけよ。」
「三途の川……?」
「おお、悪い悪い、場所を言ってなかったな。ここは地獄だ。」
そう言い放つと、ダイケンキの船頭はかっかっか、と笑った。
「まあ、地獄っていうのは言い過ぎか。死者の国さ、ここはな。あんたらも死んだのか?」
「いや、死んでないよ。」
「おろ? この黄泉の国は死者以外は基本入ってこれんはずなんだがな?」
ダイケンキは訝しげな顔でヒョウガをじっと見つめる。そして
「まーいーか。とりあえずこのプラスルを運ぶとすっかね。あんたらは生きてこの国にきたんだ、よかったら黄泉の国の観光でもしてくのはどうだ?」
「実は……」
ヒョウガはかくかくしかじか……と宝玉を集めていることとその理由を話した。
「なるほどなあ〜……消滅の穴を消すためになあ……ま、とりあえず乗りなよ。」
「ありがとうございます。」
「落ちないようにきーつけな。」
ヒョウガ達が乗ると船はゆらりと揺れ、「ううーん」と、言う声とともにプラスルが目を覚ました。
「あれ……? ここは?」
「なんだ、目を覚ましたか。ここは黄泉の国。お前は死んだのさ」
「そうなのか……ここが黄泉の国。死んだんだ、自分は。」
あっけらかんとダイケンキがプラスルに伝えると、彼はため息をついて、そうぼやいた。
「ほんじゃ、出航すんぞ〜。揺れっからな、落ちないようにな。」
ダイケンキがオールを漕ぎ始めると船はゆっくりと進み始めた。
「お、そういや、自己紹介がまだだったな。」
にかっと笑ってダイケンキがばつが悪そうに頭を掻いた。
「俺は三途大河(サンズタイガ)だ。ここの河の船頭をしている。しっかし、生者を乗せることがあるなんてなあ。長生きはするもんだなあ」
「僕はフォース・アドーム。ひょんなことで死んだただのプラスルだよ。」
船上でそれぞれ自己紹介をしていると水面が揺れ、小波が船を襲った。ヒョウガが空を見ると、ちょうど黒い穴が少し大きくなった。
「あの穴……最近現れてな。それからこの黄泉の国もなんかおかしいんだ。」
空に口を開いた消滅の穴。
それから続いて黄泉の国についてタイガは説明を始めた。
黄泉の国はおとぎ話として語られてきていた。おとぎ話の話はみんな本当だとは誰も信じない。けれど、昔にこの国に生きた者がやって来て、死んだ妹を生き返らせてくれと頼んだそうだ。この国の王は滅多に来ない生きた者にチャンスを与えた。後ろを振り向かずにこの国から現世まで帰れたら妹を生き返らせてやろう、と。そして、振り向かずに帰れた彼は、妹と再会を喜んだ。そしてこの話を語り継いでいるそうな。しかし、昔には振り向いて大切な人を取り戻せなかった人もいるそうだ。と。
「もう一度会いたいという想いが強ければ強いほど振り向いてしまうかもしれない。しかし、振り向いたらもう会えない。相手を思う心を試されたんだ。ドラグーン……ギラティナ様はね。」
「と、言うことは僕も生き返れたりするの?」
「ああ…。冥府にいるギラティナ様に頼るしかないな。あの方は……生命を奪ったり与えたりする能力があるからな。」
「それなら……まだチャンスはあるんだね。」
フォースは静かに言った。
「まあ、そう簡単にはいかんだろうがな。」
タイガは険しい顔を崩さず答えると
「最近あの穴が空いたんだ。そのせいで不安がるやつらも増えている。困ったもんだ。」
と続けた。
眉をひそめて腕を組み、タイガは語った。「取り締まりが面倒だ」とぼやきながら。
「そういえば」、と彼は言って話し始めた。
「そういやこの世……まあ、あの世でもあるここ、冥府で能力のある役人が能力を奪われる事件が発生している。それに紅い災いがここを走り回っているらしい。だから……気をつけろよ!」
「能力を奪うって……?」
「ああ。冥府は明るかったり暗かったりするんだが、一段と暗くて人通りが少ない通りがあるんだ。そこを通るとギラティナ様がいるところへが近道できるからな。そんで、そこを通ったばかりに何者かに能力を奪われたらしい。とりあえず闇が濃いところに近づかないことだ。ああ、それと紅い災いだけどこれは紅毛のアブソルのことだと思う。あまり気にする必要はないと思うが……まあ一応警戒はしておいて損はないぞ。」
波に揺られながら船は少しずつ向こう岸へと進んでいる。クロは船べりから顔を出して苦しそうにしている。
「……酔った…。」
「わーった! 急いで向こう岸に連れてったるわ!」
タイガはオールで水を勢いよく掻き、素早く間に向こう岸の船着き場に泊めた。川沿いには木がまばらに生えており、その向こうにある街には淡い光が集まっている。
「あの光の中心がギラティナ様のおわしますところだよ。」
タイガは淡い光の中心を指差した。
「ここからちょっと歩くと黄泉の都の中心だ。」
枯葉が舞っているいる川沿いの道の先に光が集まっている。その景色はどこか色が無くて、やはりこの世のものではないのだと感じさせるようで。
「さあ、行こうぜ?」
セハルはそんな中でも笑顔を見せ、ヒョウガの手を掴んで走り出す。
「ちょっ! 」
モモたちも慌ててヒョウガとセハルを追いかけた。
「暗い通りには絶対行くんじゃねーぞ!」
タイガの叫び声を背にヒョウガたちはギラティナのいる宮殿へ向かうのであった。