間章2
暗黒の中で
ヒョウガたちがシオンに橙色の宝玉を授けられていたその頃……。空に現れた黒い穴、その中心にある城内に謁見の間と呼ばれる場所があり、そこに2つの影があった。

「消滅の穴が広がっていく……でも世界を終わらせるためにはまだまだか。」
「……勇者達はトワイライトランドの宝玉を手に入れた模様。これで二つ目です。」
「そうか……。そこにアルソを遣っていたがどうなったんだ?」


薄暗い城内に低い声が響く。どうやら消滅の穴を作り出した張本人の男の声。女性の声がそれに調和する。


「アルソは負けそうだったところを近くにいたディルに助けられたそうです。」


淡々と女性の声は報告する。


「そうか。さて、そろそろみんな来るだろうから会議を始めようか。」
「はい。」


わらわらと人がたくさん入ってきて席に着く。開口一番、低い声の主はアルソを労った。


「アルソ…トワイライトランドではご苦労だったな。」
「お許しください!」
「よいよい、気にするな。勇者の力量を測れなかったのは残念だが……とりあえず座れ。」
「ははっ。」


アルソは立ち上がり深々と頭を下げ、席に着いた。


「ブレイズも失敗してたから勇者とその仲間達は結構実力あるんじゃあないのかな〜」
「うるさいぞディル! 私は戦略的撤退をしただけだ! 負けてはいない!」
「んっふっふ〜、ごめんねぇ〜」



ディルが揶揄するように言うとブレイズは体毛を炎のように逆立てて怒鳴り散らした。ディルはちょっと小馬鹿にした声で返す。


「今回は私が行きましょうか?」
「ミキは引っ込んでろ! トワイライトランドでのリベンジを……!」
「次の宝玉は……確か黄泉の国_____死者の国だ。」
「…………。」


ミキと呼ばれた冷たく美しいソプラノボイスの声の主が言う。アルソが負けじと声と虚勢を張るが死者の国だと知ると黙り込んでしまった。ミキは薄ら笑いを浮かべてアルソを小馬鹿にして見つめる。それを抑えるように低い男の主が命じた。


「クルド、ノーザ。」
「御意……。」
「え〜……僕も〜? クルドだけで充分じゃん〜……。」



男の声が低い声で言うとクルドと呼ばれた影とはわかっているというように静かに答えたが、ノーザと呼ばれた影は…おそらく仏頂面になっているのだろう……抗議をしている。


「行ってくるよ。」
「あ、待ってよ〜」


クルドがいそいそと謁見の間から去っていく。それをノーザが急いで追いかける。
2人が謁見の間から去った後、しばらくして集まった中の1人が声を出した。

「ムヨウ様……あいつらだけで平気でしょうか……?」
「ノーザと影喰らいのクルドなら心配ないと思うが……それなら…ドンボー、お前も行ってくるがいい。サポートをしてこい。」
「了解です。」

ドンボーと呼ばれた影も動き広間から出て行った。ドンボーが出て行った後に、集まった影達の中の1人が不満げに漏らす。



「私の出番は〜!?」


黒紫の瞳を爛々と光らせて小さな影はムヨウに尋ねた。


「お前にはちょっと別のことを頼もうと思ってな。もう少し待ってくれ。」
「は〜い…」


しょぼんと目線を下げると席から離れて出て行ってしまった。


「ムヨウ様……」
「ヒエン、心配するな。ミキ、お前もそのうち出す。みんな、会議はこれで終いだ。また招集する。」
「はっ。」


謁見の間からヒエンを含め影が下がるとあっという間にそこは静まり返った。


「ツルギ、いるか?」
「なんでござろう?」



どこからともなく影が一つ現れて声を発した。


「お前に頼みがある。」
「なんなりと。」


ムヨウがツルギに小さく耳打ちすると彼は頷いた。


「承知した。直ちに支度をし、向かう。」



久しぶりにいたぶることができそうだ。と、呟きツルギも去った。ムヨウは謁見の間に1人残り、呟いた。


「もうこの世界に未練などない。」


ムヨウの手には黒い本が握り締められていた。

■筆者メッセージ
久々の更新です。しばらく閑話休題です。
緑のヨッシー ( 2017/05/12(金) 13:08 )