花と嘘
始まりは、一輪の向日葵だった。出かけた先で親切な人から偶然一輪もらったのだ。
家に帰って一輪ざしに挿してみたら、彼女が反応した。草タイプであるチュリネにとって、やはり花に対して何か思うところがあるのだろうか。
日課の水やりは、気がついたら彼女がするようになっていた。時折一方的に花に話しかけたりしていた。その姿は花を愛でるというより、共に日々を過ごしているようだった。
そんな向日葵はあっけなく最期の日を迎えた。
しょげている彼女を片目に見ながら、枯れた向日葵をゴミ箱に捨ててしまうのは忍びなかった。
向日葵が去ってから、彼女はすっかり元気をなくしてしまった。
彼女がふさぎ込んだ姿を見るのがあまりにも辛かったので、僕は嘘をついた。
彼女のために新たに買ってきたのは、作り物の花。
紙で出来た偽物だということを知らない彼女は元気を取り戻した。
この枯れない花のように、彼女の笑顔が枯れなければいい。そう思っていた。
しかし、僕は彼女に優しい嘘をついたことを後悔することとなる。
彼女は花に水をやりつづけたのだ。かつて本物の向日葵にそうし続けたように。
僕がこっそり水を捨てても彼女は水がないことにすぐに気づき、水をやっていた。
紙で出来た花は水を吸い、枯れないはずの花はどんどんやつれていった。
彼女は造花が弱っているという不自然な状況には何も気づかず、かつて生きた向日葵に与えたそれと同じように、ちょっと悲しそうな瞳をしながら、それでも水をやり続けた。
ふと、昔テレビで観た物語を思い出した。
親がこの世を去ってしまったことを言いだせず、優しい嘘をついた兄。親が戻ってこないことを知らず、帰らぬ親を思い続けた妹。
ああ、優しい嘘は、何も事態を解決しやしないんだ。
僕はもう限界が来ていた美しかった紙を捨て、新たな命を購入し、花瓶に挿した。
今度は命の終わりをきちんと彼女に語ろうと心に決めて。
時が過ぎ、そんな彼女も今はドレディアになった。自らもいずれ枯れるのだということを理解しながら、そしてその時が近づきながらも、今でも花に水をやり続ける日々だ。
そして僕も、いずれ枯れる日が来るまで、彼女が花と共に生きるように、彼女と共に生き続けよう。