雷雨の行方
雷雨の行方
雷雨の行方
「よし!やっと見つけた!お前がライコウか」
欲望に端正な顔を歪ませて笑う人間。そいつの放つ空気は殺伐としており、私に不快感だけを与える。今までも、似たような連中ばかり見てきた。付き従う
青い竜も本来の高貴さを失い、淀んだ気配を漂わせている。野生であれば美しく、高潔な存在でいられるというのに。全く嘆かわしい。このような連中は、美しさを汚すことしかできないのだろうか。

互いに関与せず、敬意を払いながら共存する。それが先人たちから与えられた知恵だろう。
それを軽んじる者には、罰を与える。覚悟するがよい。愚か者よ。

「ハクリュー、竜の息吹!」
こんな人間に従うなど愚か者のすることだ。ギラギラとした光を瞳に宿す竜を
諭すが、彼は全く聞きいれようとしない。攻撃を避けつつ、もう一度繰り返す。
すると人間はしびれを切らしたらしく、何かを投げつけてくる。仕方ない。痛い目に逢うしかこの人間は分からないのだろう。飛びかかってくる竜をかわし、私は愚か者を睨みつける。さて、これで逃げるほどの小物であればいいのだが。

しかし、目の前の者は私を見上げたまま、動かない。恐怖に体が動かないのか。竜は勢いよく岩にぶつかったらしく、動かない。さて、罰を受けてもらおう。空が急に暗くなり、雷が落ちた。


その後、ジョウト新聞の片隅に記事が載った。落雷による負傷者1名。重症ポケモン一匹。負傷者は、38番道路に出現した伝説のポケモン、ライコウによって落とされた雷が原因と答えていた模様。負傷者を発見したトレーナーは、そのような形跡は全くなかった。もし、彼の話が本当ならば、何か残っているはずと否定している。



それから数日がたち、私はいつものように丘の上で、休息をとっていた。谷間から吹いてくる風は冷たく、昔から変わっていない。春の訪れを感じさせる、花の香り。ウバメの森を抜け、山を下るときに見つけたここは、まだ誰にも穢されていないようだった。人間もここまでは追ってこれまい。昔はよく、スイクンやエンテイをここに連れてきたものだが。今では、彼らも人と共にある。
よくあのスイクンを従えたものだ。エンテイならともかく、あの我儘な奴をどうやって従えたのだろうか。久しぶりに、同胞に会いたくなった。

そんな時、風にかすかながらも人の匂いが紛れ込んだ。同時に懐かしい同胞の匂いもしてくる。私は警戒しながらも、どこか興味を覚えながら立ちあがる。
しばらくすると、軽やかな足音とともに空色の同胞が現れた。スイクンから飛び降りようとする少年の姿もある。その少年を見つめると同時に、私はあることを思い出した。

あの時、塔にやってきた連中の一人だった。年のわりに、しっかりとした意思を持つ少年。あどけなさを残す外見に似合わず、達観した物の見方をしていた。スイクンがやけに嬉しそうだったのが、思い出される。
あれからもう三年も経ったのか。初めに見た時よりも背が伸び、あどけなかった表情も大人びて、精悍な顔立ちをしている。自分をしっかり持った良い人間だと思った。何にも流されない良き者となるだろう。

<あまり変化はないようだな、ライコウ。ようやくヒビキの時間が取れて会いに行けることになったので、来てやった。相変わらず主も決めず、フラフラしているらしいな。エンテイから聞いたぞ>

こちらも相変わらず容赦ない。スイクンは、ヒビキがバクフーンと戯れるのを見つめ、尾を揺らしている。しばらくそうしていたが、私の方を向く。

<いい加減、人に寄り添ってみたらどうだ?昔からお前だけ、一匹だったではないか。もう何百年になると思う、何時までそのつまらない意地を張り続けるつもりか>
スイクンは、呆れたように言った。私はただ黙って、少年を見つめ続けた。
今まで何人の主を見送ってきたのだろうか。別れがあると知りながら、どうしてまた、人と過ごすことを選ぶのか。私には分からなかった。


悠久の時を生きるものとそうでないもの。生きる長さに限りがあるか否か、それだけの違いだというのに。私にスイクンのような考えは出来なかった。
親密になればなるほど、その違いが痛みにつながる。
ならば、近づかなければいい。追い払ってしまえばいい。
一匹のほうが楽でいいではないか。そう思っている私は、スイクンに問うことにした。

<確かにそのような考えもあるが、私は同じ時間を短くとも過ごしたいと思う。ライコウには、まだそのように思えるだけの相手が現れていないだけなのだろう>
そういって彼らは去って行った。

数日がたち、私は血の匂いを嗅ぎ取り、丘の上へ向かっていた。
丘の上には、見慣れない衣服を身に纏った少女がいた。髪が長く、白い肌はあちこち赤黒い血痕に彩られている。先ほどから、全く微動だにしない。
氷の化身を思わせる生物が、主人の周りでオロオロとしているのが見える。
そして、少女を容赦なく攻撃する、藍色に漆黒の翼を持ち、三つ首の竜。
その横には、以前私を襲った連中と同じ眼をした男。止めなければ、欲望に負け、悪しきことに手を染め続ける者。
何よりもここで少女を死なせたくなかった。見過ごせば消えてしまうかもしれない炎。そんなのを見過ごせるほど、私は冷酷ではなかった。

「ランセを統一したとはいえ、意外と弱いんですね。紫音様。あなたは甘すぎる、ノブナガを倒したら争いが無くなるとでも思ったんですか?だから、私のいうことを聞いて、ブショ―リーダ―達を討っておくべきだったのに。全く、呆れましたよ」
男は、以前のように少女に話しかける。答えられる状況ではないことを楽しみながら。
「安心してください。ランセ統一なら、私がしておきますから」
「・・・そ・・んなこと・・さ・・せ・・ない・・・!」
かすかな返事が返って来て、男は眉をあげる。

だが、少しずつ小さくなっていく呼吸は、少女が危険な状況にあることを伝えている。グレイシアの慌てぶりを見つめ、男は自分の勝利を確信していた。

しかし、物事はそううまくいかないものだ。

いきなり落ちてきた雷に男はうろたえ、指示を出し忘れてしまう。
次の瞬間、ひときわ大きな稲妻が走ったかと思うと、雷がサザンドラを貫いてしまう。
「何!?サ、サザンドラ!しっかりしろ!」
驚きながら相棒の様子を確認するが、グッタリとして反応がない。
私はゆっくりと男の背後に忍び寄る。唸り声をあげて、飛びかかる。喉の奥で低い声を出し続けていれば、男を焦り逃げ出そうとした。悪いが気絶してもらおう。
軽く額に爪を乗せると、男は伸びてしまった。
私は男を適当にウバメの森に放りだすと、コガネへと向かった。
少女の具合は悪く、グレイシアと名乗ったポケモンの案内を受けて、ポケモンセンターという場所を目指した。少女を運んできたとき、血相を変えてジョーイが彼女を連れていった。グレイシア曰く、病院に運ぶらしい。そこは、ポケモンが入れないところで、私たちはポケモンセンターのお世話になると言っていた。

「人間の世話にならなくていいのではないか?」
と問えば、彼女は、意味が分からないとでも言いたげな顔をした。
逆に、
「何でわざわざ苦労しなきゃいけないの?」
と返してきた。
私はただ、今までずっとそうしてきたのだし、追われたこともあるのだから、油断できないと説明した。

すると、グレイシアは笑いながら、
「大丈夫よ。そんなこと起きないように、ジョーイさんが世話してくれるから」

と答える。

今まで感じていた疑問をぶつけると、グレイシアは困ったように言った。
「あなた、あんまりこの地方のこと知らないのね。あたしも、ランセから紫音に付いてきただけだから、良く知らないけど」

人間からもらったものを口にするのは抵抗があったが、グレイシアが平気で食べているのを見つめ恐る恐る、口にした。味は、木の実のほうがいいと思った。

目が覚めると、グレイシアは起きていた。昨日と比べ、少し落ち着いているようだったが、やはりどこか憔悴した様子だった。

私は酷かとは思ったが、昨日の事を尋ねることにした。彼女は、寂しそうに承諾してくれた。



グレイシアの主ー紫音(しおん)は、ランセ地方の出身だという。
ランセは昔から争いが絶えず、17の国に分かれて覇権をとろうとしている。
そのもととなっているのが、伝説にある一節。
17の城を集めれば、幻のポケモンが願いを叶えてくれるというそれ。
1年前に、争いの絶えないランセを滅ぼそうとした者がおり、紫音はその者を破り、平和を取り戻した。
しかし、もとのブショ―リーダー、城主に国を返したため、現在、イクサ(バトル)を挑まれていた。
彼女はイクサを拒み続けていたらしい。以前のような状況に陥りたくなかった故の決断だったが、それに不満を持つ者が増え、頼りない彼女の代わりに、覇権を握ろうとしていた。
そして、どんなに言っても聞かない彼女に愛想をつかし、一部の配下が彼女に手をかけたらしい。


聞いていて呆れるほどの簡単な理由。もし、その少女が命を失えば、どれだけの人が悲しむと思っているのか。呆れて言葉が出なかった。
グレイシアは、私の考えを見抜いたのか、悲しそうに笑った。
私は、必死で反論した少女を守りたいと純粋に思った。

それから数年がたってー。
私は人と歩むことを選んだ。













スイクン&ヒビキへ

頼りなくも優しい少女を主に持つのは、考えたよりも大変で心配は絶えないが、一匹でいたころとは比べ物にならないくらい、いいものだな。
紫音に近づく害虫を駆除するのも、少々、骨が折れるが。
グレイシアじゃなかった、ミゾレと一緒に、これからもこの少女を支えていくつもりだ。
追伸
スイクン、ヒビキと一緒に一度、ランセへ来てみたらどうだ?
いろいろと不便だが、楽しいと思うぞ。
ハジメの国で待っている。
             ライコウ改めlightより

























































































































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■筆者メッセージ
ところどころ可笑しいかもしれませんが、読んでいただけると嬉しいです。
rin ( 2012/04/09(月) 18:43 )