ちょうおんぱ
「とりあえず、ズバットをボールに戻しなさい」
お兄ちゃんの言葉に従い、ボールを翳す。何が起きたのかすらよく判っていないズバットが、やっぱりどうすればいいのか分からないといった声を上げながら、赤い光となって吸い込まれていく。
窓ガラスのなくなった部屋に、私とお兄ちゃんとの二人きりになった。
どうしよう、と思う。
今回の件についてはどう考えても私が悪い。
「怒らないから、どうしてポケモンの技を部屋の中で使ったのか、言ってみなさい」
お兄ちゃんの声色は特に怒っている様子はない。いつも通りという調子だった。冷静で感情を表に出さず、親身になってくれるというわけでもないのだけれど、頭ごなしに叱ったりはしてこないお兄ちゃんのことだ、本当に怒るつもりはないのだろう、けれど、困惑が先に来ていて怒るどころではないのかもしれなくて、正直に、そうするべきだと思った理由を喋って、「馬鹿じゃないのか」と怒鳴られるんじゃないかと、恐怖していたのだ。
そんなことを考える私の内面を察したか、お兄ちゃんは言葉を続けた。
「窓ガラスもそうだし、俺のメガネもそうだ。大して高いものじゃない、すぐに買い直せる。けれど、正直、お前がいきなりこんな行動をした理由が、どうしても分からない、それだけだ」
「……本当に怒らない?」
「怒っても直るわけじゃないからな、このメガネも」
レンズの木っ端みじんになってフレームだけになったメガネをつまみあげ、こちらを見据える。俯くしかなかった私も、ついに観念した。
すう、と息を吸って、その理由を吐き出した。
「だって……テレビのCMで、『超音波をかけてメガネのレンズを綺麗にしよう』って、それ用の機械の宣伝してたから、もしかしたら、ズバットの“ちょうおんぱ”でもできるかなって……」