とある二人の科学者
「なあ、見たかよ?」
「いきなり何だ……何のことだ?」
「知らないのかよ? あの有名科学雑誌『Poke Science(ポケサイエンス)』の今日刊行分の最新号だよ!」
「いや、まだ読んでいないが。お前がそこまで興味を持つなんて珍しいな」
「それがな、聞いて驚け見て騒げ。今まで進化しないって言われてきたポケモンが、進化したっていうんだよ。ほらこの記事だ」
「……ほう、ボーゲン博士、か。聞かない名前だが」
「読んだ限りじゃ、カロス地方に研究所を構えてるらしいぞ? まあカロスって言うとあのプラターヌ博士の名前が有名すぎるんだもんな。霞んでも仕方ないんじゃないか?」
「そうかもしれんな。5年間もかけてこれだけのデータを残してるんだ。これは本当にあり得るかもしれん」
「だろ? んでさ、ここからが重要な話。この論文のボーゲン博士なんだが、体調不良を理由にして研究所を閉めちまったらしいんだ。それでな、『この研究はまだまだ未完であるから、未来の研究分野を担う若者たちに私の意志を継いでほしい』ってあとがきにかいてあるんだよ!」
「ほう……お前の言いたいことは分かった。この研究を進めたいんだな?」
「さっすが相棒! 話が分かる!」
「器具類はここにもので十分なようだが……問題はこのポケモンがなかなか手に入らない貴重なポケモンだということだな」
「よっしゃ、まずはそのポケモンを手に入れることからだ」
〜1週間後〜
「何とか手に入れたな……。まさかああまで貴重なポケモンだったとは思わなかった」
「たったの1週間で手に入れられたことはまさに僥倖だろうな。進化の石をこうまで大量に集めることになるとは思いもしなかったが」
「ほとんどはみずのいしだけどな。砕いて圧縮して成分を抜き取ったエキスを飲ませるらしい」
「なるほどな。みずのいしのエキスに他の進化の石のエキスを少しずつ混ぜるのか」
「そうだな。よし、まずは雑誌に書いてあった手順を踏んでやってみようぜ」
「構わんが……こういうときはそのボーゲン博士に連絡して色々教えてもらうべきなんじゃないか」
「それがな、メールを送ったんだが未だに返信が無いんだよ。まずは博士の協力を要さないところまで自力でやってみたほうが時間の無駄にならないと思うぞ?」
「そうだな。こうしている間にも、他の研究者が同じ研究を既に進めているのかもしれん。それを考えると、少しでも動いておいた方がいいか」
「そうそう。向こうもてんやわんやなのかもしれないし、そっちは気長に待とうぜ。よし、それじゃ、実験開始だ」
〜さらに1週間後〜
「全然うまくいかないな……。1匹しか手に入らなかったから大事に扱う必要があるし、これじゃ研究が進まねーよー」
「これだけの実験データの集積があるんだ。信憑性は高いとみていいはずなんだが。……今は回復装置の処置待ちか?」
「うん、こう何回も実験に使ってると、ほんとに正しいデータが得られてんのか不安になるんだけどな。罪悪感もあるし」
「仕方ないだろう、無いものねだりしても。たまたまタマゴから孵したトレーナーがたまたま無償で提供してくれたんだ。二度同じ幸運は起こらないさ」
「うー、そうは言ってもなあ……」
「嫌なら止めるか? 結局のところ他の道具も効果なしなら、やはり博士のやり方である進化の石を使う方法に頼るしかないわけだが」
「いや、まだ続けようぜ。ここで折れるのは研究者の名折れってもんだ。成功するまで貫きとおしてやんよ!」
〜もう1週間後〜
「……なあ、どうしてこんなにうまくいかないんだ」
「……さあな」
「……俺たちに才能がないのかな」
「……さあな」
「はあ。仕方ない。もう1回。次は上手くいってくれ……!」
「あくまでも続けるつもりなんだな」
「そりゃそうだ。成功させて発表すれば俺たちの名前は一躍有名になるに決まってる。一攫千金も狙えるしな!」
「後半の方が本命でないことを願うだけだ……。さて、少しだけ条件を変えるか。ひかりのいしのエキスを少しずつ増やして実験するか」
「そうだな」
〜またまた1週間後〜
「ダメか」
「ダメだな」
「こいつも相当弱ってる気がするぜ……。精神的なもんだろうな」
「ずっと研究室に閉じ込められて、ずっと妙なものを飲まされ続ければそりゃあ疲弊するものだろう」
「ぐう……1回中断するか。しかし、よくこんな研究を成功させたな。結局メールも返ってこないし、何やってるんだろうな、ボーゲン博士」
「……」
「……どうしたんだ、読み直してるのか? ボーゲン博士の論文」
「……ああ。そして今重要なことに気付いてしまった」
「え? 何だ? 俺たちのやり方に不備があったのか! あー、そりゃあ成功するはずもないわな。無駄な実験に付き合わせて、こいつに悪いことしちまった」
「いや、それ以前の問題だ」
「……どゆこと?」
「この号の発刊日……4月1日だ。俺たちはエイプリルフールの嘘に、まんまと嵌められたわけだ。所詮、フィオネをマナフィに進化させることなんて、無理な話だったんだな」