名文ならぬ
なげつける
「何故、“なげつける”は悪タイプのわざなのだろうな?」
「はぁ……」
 課長の問いを、平社員の自分は曖昧に返した。書類を提出しに来て、とりあえず「まあOK」という微妙な評価を貰って安心していたところにこの問いであった。
 答えてから、はっとした。これは自分を試しているのではないか。
 なげつける。そのわざの名前に何か、特別な意味を込めているのかもしれない。いや、何らかのアイロニーか? アナグラムで何か特別なメッセージを伝えようとした? それとも……いや……。
「どうしていきなりそんなことを?」
 正直考えるのが面倒になったので、直截に聞いてみた。いや、考えるのが面倒になったというのも言い訳である。書類の作成の為に昨日日付が変わるまで残業させられていたのだ、脳の働きが鈍って当然である。
「いや、なに」課長が勿体ぶって言う。「“はたく”や“ひっかく”だって、人間が人間に行えば警察にしょっ引かれるだろう。しかし、物を投げつけることだけは、相手がきのみで回復しようが『悪』タイプのわざなのだ。これは何か示唆的ではないかね?」
「はぁ……そうですか」正直、ポケモンバトルのことなど殆ど知らない自分にとっては、どうでもいいことだった。
 なので、口が滑った。

「ま、困った問題を“さきおくり”して、気に入らない人間を“ふくろだたき”にして追い出して、“イカサマ”で昇進して“つけあがる”課長には分かんないっすよね」


 激昂した課長の手から放たれたホチキスの、針を抜くための尖ったところが自分のおでこのど真ん中に突き刺さった。


 痛みに仰け反りながら、思う。
 ああ、こりゃ確かに悪タイプのわざだわ。タイプ一致で威力が上がってるもの。
 同時に思う。
 こんなパワハラ上司がいる会社なんか、絶対に辞めてやる!

■筆者メッセージ
Q. これパワハラなん?
A. 正直ハラスメントの定義が不明なんでなんとも……
ポリゴ糖 ( 2020/01/21(火) 22:58 )