何が悪いのかといえば運が悪かったのだ
ふはははは愚かなる人間よ! 我が炎の前にひれ伏すが良い!
いやはや、シロガネやまの奥の奥にずーっと引きこもっているのもあまりにもあまりに退屈で、遠方の島になど足を伸ばして羽を伸ばしてみようかと思い立って飛んで来てみれば、我の炎にも負けぬ晴天の太陽! 心地よいさざ波の音を奏でる大海原! 我の威容にも劣らぬ大自然! そして何だかぼんやりした人間!
いや最後のは美しくもなんともないが、というかむしろ我のヴァカンスの邪魔なのだが、久々に我の前に出てきた人間だ。我がにらみつけるだけで驚き怯えて慄いて、脚はがくがく眼はしょぼしょぼおしっこちょろちょろする無様な姿を見せて欲しいものだ!
む、しかしこの人間、あまりにも冷静すぎやしないか。我の方からずっと目を離さずに見つめてくるのだが……。戦い慣れしたように体勢も整えているが、いや、これはきっと我の威厳に頭の中が真っ白になっているに違いあるまい、そうだろう? いいだろう目の前も真っ白にしてやろう!
「……やっべぇ。とりあえず、いけジュナイパー」
ほう、ポケモンを出してくるか。抗うか、この我に! ふはは、不利なのは承知の上だろうが、勇気だけはあるようだな! しかし顰めた顔は隠しきれていないぞ!
まあいい、相手をしてやろう。ジョウトの梟のでかいのが頭巾を被ったような奴だが、見たことはない奴だな。しかし水を飛ばしてくるような奴には見えん。
トリあえずねっぷうで焼いておくか! 鳥だけにな!
普段から羽ばたきで周囲に撒き散らしている熱気を集めて、一方向に吹き付けるだけで人間どもにとっては十分に脅威になるのだから、人間とはか弱きものよな。
はい、ドーーーーン!
上手に焼けましたー!
ふっはははは、独特なBGMを流す間もなかったな! いやー、つらいわー。伝説の力をもってすれば一瞬で終わってしま
「うーん……まあこんなもんか」
……え? 何で立ってんの? 時間が短すぎた? でも生焼けくらいにはなっててもおかしくなくない? 無傷じゃん。
何か透明な膜みたいなので守られてるんだが? 何アレ?
いや待てそういえば。シンオウの木にぶら下がってるやつとかイッシュの森に住んでるやつとか、そういえばこんな膜みたいなの出してたわ。
でもその梟、普通には覚えなくない? いや知らんけど。ようは人間が覚えさせたってことでしょ? え、ずるくない?
……オホン。人間め、小癪な真似をしてくれるわ。しかし炎の威力は充分伝わったであろう。もはや目障りだ、ぼうふうを起こして吹き飛ばしてくれよう! 食ら
「うちおとす」
ちょ、ちょっと待ってまだこっちの準備が
痛ッッッ!!!???
ぐへっ!!!???
あ、地面さんこんにちわ。お久しぶりです。あなたひんやりしてますね……じゃない!
なに今の!? 小石投げつけられたんだが!? 投げつけられたっていうか撃たれた! 撃たれて地面に落とされた! 超絶痛いんだが!? 骨折れた、絶対翼の骨折れた! ……いや一応ちゃんと動くな。
……こ、この伝説の火の鳥を地に落とすとは、人間、それにそのジュナイパーとやらも、なかなかやるではないか。ここは我は寛大に、見逃してやるとしよう。これまで我が出会って来た人間の中でも特に力量のある者たちなのだろう。そんな者たちを、ここで死なせてしまうのはあまりにも惜しい。我は人間が憎いわけではないからな。ではさらばだ。……あーばよー! とっつぁ
「かげぬい」
ぐはっ!!!!??
また撃たれた! いや今度は小石でもない、尖った羽根だ。撃ち落とされたわけじゃない、特に逃げるに支障はない! このまま逃げ……逃げ……。
上にも前にも全然進まないんですけどー!!!???
どれだけ羽ばたいても空が遠いんだが! かなしみのない自由な空に翼はためかせて行きたいのに行けないんだが! チクショーさっきの羽根のせいか! ガスの亡霊が目玉でやるような芸当しやがって!
っていうか、よく考えれば動きが止まってる今って、よく考えなくても隙だらけじゃ
「ブレイブバード」
ちょ、やめーーーー!! 突っ込んでくるのやめっ――
ぐわーーーーッ!!!
*
「結局、なんでここにファイヤーがいたんだろう」
ファイヤーを捕まえたボールを拾いながら、トレーナーは首を傾げる。ファイヤーが現れたとき正直焦った――やっべえ倒ちゃったらどうしようと思ったものだが、最終的にはこうして捕まえることもできた。とはいえ、やはりいきなり目の前にカントーの伝説ポケモンが現れた理由は、捕まえてみても分からないままだった。
ジュナイパーも――チャンピオンとなったこの少年トレーナーと幾度もの防衛戦を戦ってきた相棒も、やはり同じように首を傾げていた。