呑兵衛
※うわなにコイツムカつく!! っていうノリで読み進めていただけると良いと思います
俺はなァ、ポケモンマスターになる男なんだよ……ヒック。
なんだァ? だったら何でポケモン協会の事務局の使いっ走りなんざやらされてるんだ、って? まあしゃーねえだろ、人間にはな、潜伏期間っつーのが必要なんだよ、分かるか? バタフリーになるにはコクーンの時期が要る……いやトランセルだったか……チェッ! いやンなことはどうでもいい。要はな、若い頃にやんちゃして、たまたま上手くいったからって、それで鼻高々になるようじゃいけねえ。そんな奴らは大抵、自惚れて自滅する羽目になるんだからよ。その先の人生は地獄だぜ? 一時の栄光にずっと縋ったまま、ずっと惨めに生きていかなきゃなんねえ人生が待ってるんだからよ。
俺は機を窺ってるのさ。ほら、故事にもあるだろ、「大器晩成」ってやつだ。それが賢い奴の生き方なのさ。何、賢いっつーのは学校のお勉強ができるかどうかじゃねえんだ。ようはキレだ、キレ。頭の良い人間っつーのはよう、チャンスを掴んだときにビビッとそれを感じ取って、すぐにパッと行動に移せる人間さ。要はフットワークさ、フットワーク。やれ「ジムを攻略するんだ」だの、やれ「チャンピオンになるんだ」だのよォ、そんなみみっちい小さい目標ばっかり追いかける奴は大概、地べたばかっかり見てやがんだ。それじゃいけねえよ。
何の話だったか……ああそうそう、フットワークな。そんなよォ、子供のころからの夢だとか、ンな甘っちょろいこだわりなんざ、後生大事に持ち続けたって意味がねえんだ。オボンよりオレンの実が役に立つみたいに、自分の才能が役に立つような場所に、サッと移れるだけの器量が要る。んあ、例えが上手くねえが……とにかくだ、俺はその気になりゃ一気に駆け上がるぜ。近いうちに、だ。
なにより、トレーナー以外の経験っつーのは絶対に必要になるだろうと思ってる。10歳で旅立ってはいジムバッジ8つ取りました、そっから先はエリートトレーナーとして生きていきます……なんて、実のない生活してるようじゃ、人間的に駄目なままになっちまうだろ。色々と経験を積んで、酸いも甘いも嚙み分けられるような人間にこそ、強いポケモンを率いる資格があるってもんだ。
近頃のチャンピオンはよォ、皆若い奴ばかりだから、俺みたいな40過ぎたオヤジが出てくるのに、嫌な顔の一つもするかもしれんが……若い奴はいいよなァ! 失敗しても、未熟だからっつってお目こぼしいただいてよ、酷いときにはチャラだぜチャラ。俺くらいの年齢になってみろよ、全部責任押し付けて来やがるんだから、やってられねえっつーの。昨日の通知の件だって……チェッ! ンな辛気臭い話はいいんだよ。だいたいなァ、非難するばっかりが取り柄の野郎どもは、やれ適任でないだの、身の程知らずだの、そんなことばっかり言うもんなんだよ。根拠もなしにそう言って、ようはあいつら、出る杭を打ってストレス発散したいだけなのさ。つまらん嫉妬なんだよ。嫉妬されるってことは、才能のあることの証だぜ。
だいたいどいつもこいつも若すぎるんだよ、最近のジムリーダーだのチャンピオンだのはよ。
特にチャンピオンだ! 責任感っつーのをちゃんと教育しなきゃ駄目だろうがよ。本当に最近のトレーナーズスクールはよ! 俺の頃はな……チェッ! 俺の話はともかくだ、あっちへフラフラこっちへフラフラ、締まりがねえ。酔っぱらったオドリドリじゃねえんだから、ちゃんとリーグに腰据えてちゃんと挑戦者を待ち構えてねえと駄目だろ。しかもどこの地方のチャンピオンもことごとく最近田舎町から出てきた10歳とかそこらに倒されてんじゃねえか。不甲斐ないったらありゃしねえ。俺ならそんなヘマはしねえさ。泣かせねえ程度にいいバトルを演出した後、大人の実力ってのを見せつけてやるさ。
そうさ、レッドが出てきてから色々おかしくなってんじゃねえか。今までンなことそうそうなかったのによ。チャンピオンになった瞬間にシロガネ山に引きこもってるっつーんだろ? グリーンもトキワジムのジムリーダーなんぞに落ち着いてるんじゃなくって、さっさと再挑戦したらどうなんだ。ワタルなんざ一捻りできると思うんだがなァ。
フラフラしてると言ってもシロナはまだマシなほうさ。まあパーティのバランスはとれてるが、トリトドンとミロカロスで水タイプが被ってるじゃねえか。ダメダメ、そんなんじゃ環境に付いていけるわけねえだろ。
その点で言えばダイゴなんざ駄目駄目だ! なんだあの趣味のパーティは! 弱点くらい散らせってんだ。何より大企業の御曹司だってところが気に食わん! 高慢ちきで見る人間全部見下すようなどうしようもない輩に違いねえ。
アデク? ああ、いたなそんな爺さん。歳食って落ち着くかと思えば地方じゅうを徘徊してたって話だろ? さっさと引退して然るべき人間に跡を継がせるべきだな。職務放棄する奴が信用できるかよ。
カルネ……あァ? 女優だろ? ……ああそうだそうだはいはいはい、そうだったそうだった! いや女優業に専念すりゃいいのにって前々から思ってたんだがなあ……チェッ!
いい、いい。もういい。どいつもこいつも、って言いたかっただけだよ俺ァ。アローラのことなんざ知らねえ。
あ? 俺のポケモン? ズバットが1匹、それだけだが?
なに心配することはねえんだよ、そんなにバトルさせるわけでもねえが、こいつはやる奴だ。こないだも野生のコラッタに……チェッ! やめだやめ。ああそうだ、知り合いにバトルを齧ってるやつがいてよ、そいつにこいつの才能を目利きして見せたら、「最高ではないが、いい方ではある」ってよ。しめたもんだと思ったよ、こいつはチャンピオンなんざすっ飛ばして、世界で戦えるだけの力を持ってるに等しいんだ。
何、最高じゃなくたって構わねえんだ! バトルっつーのはよォ、いいか? ポケモンの良し悪しじゃねえ、トレーナーの腕一つなんだよ。例えば、伝説や神話に出てくるようなポケモンだとかを従えたところで、ずーっとにらみつけるばっかりやってる奴が勝てるわけねえだろう? その点、こいつがクロバットに進化すればよォ、誰だって追いつけねえスピードで攻撃できるんだぞ? 勝てねえわけねえじゃねえか? なに、なつかないと進化しないだって、そ、そりゃあ知ってたさ、それに今だって別段なついてないわけじゃねえんだから、これから実戦を積んでいくうちに進化するまでにはなるだろ、心配いらねえよ。
まあ、一応他の5匹もすぐに準備するさ。万が一こいつが倒されることになっちゃ困るし、タイプ相性で不利な相手もどうにかしなきゃなんねえしなァ。いやその辺も心配ねえ。これは秘密の話なんだが……今はまだ極秘で頼むぞ? 俺はなぁ、一度タマムシの大学教授と顔を合わせたことがあってな、書類を渡しに行ったときだったんだが。俺の顔も覚えてくれてるはずだ。なんてったって、将来ポケモンマスターになる男だぞ? 忘れるはずねえじゃねえか? その教授に頼めば、どこか育成施設かどっかから強いポケモンの1匹や2匹、渡してくれるだろ。名誉なことじゃねえか! 「あの時彼に渡したポケモンが、彼と一緒に栄光を勝ち取れたことを嬉しく思う」って、堅っ苦しい文句をカメラの前で並べ立てる教授の姿が見えるようだぜ。ポケモンマスターのおこぼれ、っつうと言い方は悪いが、とにかく便乗できるっつーんだから、これ以上の話はねえだろォ。
それ以前によォ、いいかァ? 俺が本気を出せばなァ、ジム8つなんて一捻りなんだよォ。だがよォ、今頃のジムリーダーってのは、若い奴も多いからじゃねえかァ。めっためたに打ち倒して泣かせるっつーのも、大人げねえ話だろォ? 今は敢えて挑まねえようにしてるんだよ。それにな、風の速さで一気にクリアするほうが、歴史に名を残すポケモンマスターらしいじゃねえか! ああいうのはな、総じて破天荒なんだよ。芸術家だ芸術家。コイキングだと思ってたやつが、次の日にはギャラドスに進化してはかいこうせんをぶっ放してるから、どいつもこいつも驚くんだろォ? 普通に育ったって驚きゃしねえし、驚かれねえってことは、名前も残らねえんだよ。驚かせた者勝ちなのさァ、人生ってのはよォ。
そうさ必要なのは肩書じゃねえ、ポテンシャルだ、ポテンシャル! 能あるウォーグルは爪を隠すもんだァ。準備期間が終わったらよォ、俺は止まらねえぜェ? いやァ、自分のポテンシャルが怖えなァ〜!
将来はよォ、おい、聞いてるかァ〜? バトルの強さこそ正義、のこの世界のよォ、上流階級まで行くのさァ。なんてったってよォ、ポケモンマスターだぞォ〜、ポケモンマスター! その辺で何してんのか分かんねえくせによォ、高慢ちきで人を見下したようなエリートトレーナーなんざ、おしなべて凡人になっちまう世界なのさァ〜! あんなぼろっちい宿舎出てって、高層マンションの最上階とかに住んでよォ〜、高いところから凡人どもがひいこら言ってるのをよォ〜、皆々見下してやるぞ俺ァ〜! なんてったってよォ〜、ポケモンマスターだからなァ〜〜! ハッハァ! 若い嫁さん貰って毎晩高級な酒飲んで過ごすのさァ……こんな安い焼酎なんざ、二度と呑んだりするもんかァ〜〜! 何なら世界一周旅行で世界中の高い酒を飲みつくしてやるさァ〜〜〜!!
いやァ、飲んで、喋って、気分が良いなァ〜〜!
あ〜あァ〜〜あ〜こが〜れェェ〜のォ〜〜、ヒック、ポケモンン〜マスタァ〜にィ〜〜……。
…………グゥ…………。