はみ出し者は自分だけ(ポケモン不思議のダンジョン空)








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霧の湖には
第七十四話 燃えないはずがない
 紺色がかった体色。スリムな体形で身長は俺より少し高め。手の甲と胸にはツノが生えており、頭からとがった耳がツンと立っている。しかし奴はその凛々しい風貌を顔の表情ですべて台無しにしていた。普通なら鋭いはずの目つきが異様に垂れ下がり、きゅっと閉められているべき口元は横に大きく開いて鋭い歯を見せびらかしている。
 ___ルカリオというポケモンには、こんな顔ができたのか。
 珍しいポケモンだ。あまり見たことはないが、それでもルカリオがどのような顔をしているのかぐらいは知っている。到底、こんな顔などしないであろうということも。
 
 「……君と……私はおそらく初対面……かなぁ?」

 青い光に照らされながら、ルカリオが道化じみた声色を響かせる。

 「……そんな顔、一度会ったら忘れられないだろうな……それよりも」

 「んー?……どうしたのかなぁ?」

 「ユクシーから離れろ」

 腕の葉を光らせて、ルカリオに向ける。彼は足元のユクシーを見て首をかしげた。

「何をそんなに怒っているんだい。君も、私が居なければ同じことをするつもりだったんじゃあない……かなぁ?」

 「………」

 物知り顔で笑いながらも、ルカリオはユクシーから離れた。距離が空き、一足では踏み込めない間合いになる。それでもなお、緑の刃を向け続ける俺を無視し、奴は背後の光に目をやった。
 青白い光の中心にあるのは、独特な模様が刻まれた歯車だった。それは水の中のようにゆっくりと回転し、周囲に光の輪を展開していた。その神秘的な光に手を伸ばし、ルカリオは続ける。

「___『時の歯車』。……この目で見るのはさぁ?実のところ今が初めてだからさぁ」
 
おどけた調子でそう言って、彼は垂れ下がった目をこちらに向けて微笑んだ。

「自己紹介……とかしたほうがいい……のかなぁ?」

「……そうだな。お前は誰で、何が目的でここにいるのか詳しく教えてもらおうか」

「結構要求するねぇ」

オーバーに頭を後ろに揺らしてみせるルカリオ。俺は変わらず攻撃の構えを解かずに彼の次の言葉を待つ。無言を貫く相手に対し、ルカリオは続けた。

「私の名前はトーサ。目的は……そうだね、君と同じかなぁ」

「___なら、攻撃されても文句は言えないな」

「血気盛んだねぇ。早とちりはよろしくないからさぁ」

 トーサと名乗ったそのルカリオは、軽くステップして俺からさらに距離をとった。つまりそれは、後方にある「時の歯車」に近づいたということでもある。気を抜けば奪われかねない位置関係にまですでに来ていた。すかさず一歩二歩と俺も距離を詰める。「おおっと、こわいこわい」などとつぶやきながらも、トーサは挑発するように歯車の前で手をひらつかせた。

「お前たちの計画はなんだ」

「それはさっき言ったよねぇ。君と同じだって」

「その先の話だ」

「………」

 食い気味に投げた言葉に、トーサは口を閉じた。近づいたことで歯車の逆光が強くなり、表情が影に包まれている。
 素性はいっさい不明。話ははぐらかされるばかり。結局こいつのことはほとんど知れていないのも同然と言っていい。しかし、今ここで自分と相対している。ましてや時の歯車を目前にした状況で。ここまで揃っていて、こいつが何の関係もないポケモンのはずはない。十中八九、こいつが異変の鍵をにぎるポケモンの一匹であり、かつ自分と敵対する陣営と見ていい。
 早計かもしれないが、少なくとも今の自分がすべきことは………

「言わないなら、力づくで聞きだすまでだ」

「この状況を前にして、ずいぶんと強気な物言いだねぇ。私の後ろにあるものが見えないの……かなぁ?」

「取らせなければいい」

「おぉー?」

 トーサは煽るような声を上げて手を頬によせた。背後で光が揺れる。

「まぁまぁ。私も別に話したくないわけじゃないさぁ。話すって言っても色々複雑でねぇ。……もっと詳しく聞いてくれたらやりようがある……かなぁ」

 影の奥で、奴の瞳が赤く光った。
 罠だ。詳しく聞くこと、それは現時点でこちらが持つ情報を教えることにつながる。うかつに口走れば不利になるだけだ。
 ……どうする。なんと切り出すのが正解だ?何を言えばこいつの意表をつける……?
 いっそこのままこいつをここに繋ぎとめて、チコの合流を待つか?……だめだ、そうなれば他のやつらもここに来てしまう。その場合、最も不利なのは顔が割れてる俺だ。……それに、あのピカチュウのことも……。


 ……。……そうか、聞くとするなら。

 「ピカチュウ……シンといったか。あいつが…お前たちのリーダーなのか?」

 



 「……んん?」

 ____答えは、戸惑いだった。
 ある意味で、意表はつけたと言っていい。影に隠れて表情は見えないが、首をかしげた奴の様子に先ほどまでの煽ろうとする気配はない。かといって、まずいことを聞かれたというわけでもないだろう。それはおそらく彼の意識の外にあった質問。つまりは……

「……誰だい?そいつ」

「……とぼけるのか?」

「信じてくれないのは寂しいなぁ」

 頭をかき、肩をすくめるトーサ。動作自体はわざとらしくて信用できない。しかし、これ以上ピカチュウについて問い詰めても進展はなさそうだ。
 ……質問を間違えた。やはり、こういう腹芸は自分には向いていない。ジュエリやドーナは得意だろうが、自分でやってみるとわけが分からなくなってくる。どうする。もう一つ質問を……いや、これ以上あいつにこちらの情報を悟らせるのはまずい。……ならば…いっそのこと…ここで…


 「あぁ。なるほど」

 一瞬、別のポケモンの存在を疑った。今まで聞いていた相手の声とは明らかに違う調子だったからだ。しかし、目の前にいるのは依然としてルカリオただ一匹のみ。
 先ほどまでとは、様子の打って変わった。

 すでに道化じみた気配はない。鋭く赤い瞳を光らせるポケモンがそこにいた。

 「どうやら、君より私の方が察しがいいらしい」

 その言葉を言い終わるが早いか、トーサは振り返ると同時にものすごいスピードで歯車に接近。そのまま時の歯車を____


 「取らせないといったはずだ」

 ___間一髪。“リーフブレード”を間に割り込ませた。


 「そう来るなら好都合だ。俺も決断を迷わなくてすむ」




***

 破壊の音は、既に俺たちの耳にまでかすかにだが聞こえつつあった。すでに、おそらく最後であろう階段も登ってしまっている。ポケモン達の気配もほとんどない。おそらく、このまま進めば頂上に着くだろう。
 霧の湖は洞窟の外部から見ることができた。この熱水の洞窟が霧の湖に続いているなら、外への出口があるはずだ。しかしそこから流れ込んでくるであろう夜風は全く感じられず、むしろ暑さは増す一方。
 赤い岩肌に囲まれた景色が変わることはなく、戦闘音だけが激しさを増してくる。先にあるのはただ「危険」だけなのではないだろうか。その考えが脳裏を横切ったのか、ふとメアリーの足が止まった。

 「……メアリー、どう?」

 「…ん…。ずっと奥のほうでまだ誰かが戦ってて……その音が大きすぎて、分かりにくいんだけど…それでも、かすかに風の音も…」

その声に自信はなかった。聴覚以外の感覚がその言葉を否定しているからだろう。

「戦ってるやつがほのおタイプのポケモンだとしたら、この暑さにも説明がつくんじゃないか?」

なにもちょっとしたフォローのつもりで言ったわけではない。まあそれも二割程度あるが、実際は奥で戦っているであろうポケモンにある程度の予測がついていたからだ。ガルーラ像の場所で遭遇したあの緑色のポケモンと、もう一匹は………まてよ、そいつはたしか「じめん」タイプだけだったか。

「シンくんの言うとおりね。外から見上げた高さや、今まで登った距離からしてもこれ以上さらに奥があるとは考えにくい。少なくとも、暑いのは何か他の要因が関係してるのよ。それでいて、メアリーに風の音が聞こえているなら、やっぱり出口はその先にある。……まぁ、一筋縄ではいかないでしょうけどね」

 俺の意見を肯定したというよりは、メアリー自身を全肯定したかのようなコメントだったが、おおむねチコの考えは俺と一致しているらしい。

「……けどよ、ここまで熱気が届いてくるポケモンってことは、そいつは相当なヤツだぜ。到底あの腰抜けが長く戦えるとは思えねぇけどな」

 そこで、珍しくイブゼルが冷静に反論をあげた。てっきり手放しでメアリーを肯定するかと思ったがそうでもないらしい。彼の言葉を受けて、メアリーがうつむきながらこぼした。

「んー……。やっぱり、あたしの聞き間違いなのかなぁ」

「いーやいやいや!別にそんなつもりで言ったわけじゃないぜ?俺だって、この暑さの原因についてはあの女の意見に賛成だ。……癪だがよ。メアリーちゃんの耳も完璧に信頼してるさ。でも俺が言いたいのは、そうじゃなくて……」

「癪って何」

「まぁまぁ」

イブゼルは一言多い。完全に油断してたのか、いつもなら無視する軽口に反応したチコのツルが伸びる。隣にいた俺がすかさずなだめることでなんとか惨事は回避できた。そんな背後で繰り広げられていたやりとりに当の本人はまったく気づいていないが。

「……そいつは、俺たちを待ち構えているんじゃねぇかってことだよ」

「戦ってるポケモンとは別で……か?」

「ああ」

「どうしてそう思うの?」

 チコが質問する。いつも彼に向けるとげとげしい物言いではなく、単純に疑問からくる問いだ。察したのかイブゼルも暴言を返すことなく、「んー」とうなった後、

「……なんつーか、うまく口では言えねぇな…。ま、勘みたいなもんだ」

彼なりには根拠のある予想なのだろうが、説明できないらしく「勘」だとしめくくる。なんとも言えない返答を受けたチコは、しかし、ゆっくりと頷いて言った。

「イブゼルの意見をとって進むのがよさそうね。結局、最悪な可能性を想定するってだけの話だけど」

「え?」

 かなり珍しい同意に、一瞬イブゼルが呆気にとられるがチコは気にしない。そもそも彼女は、元からイブゼルだからと言って色眼鏡で意見を吟味することはなかった。おそらく彼女なりに素直に考えた結果の結論だろう。
 途中から聞いてるだけの俺にも、その案は納得できるものに思えた。

「メアリーとシン君はどう思う?」

「んーと……。やっぱりあたしもチコに賛成かな。ここで考えてても仕方がないし……シン君は?」

「俺も同意見だな」

 メアリーに会話を振られることはなんとなく予想できたので、そのまま短く返事する。実際、情報量の少ない現状でできることと言えば、チコの言った通り最悪を想定して立ち回ることぐらいだろう。
 それに、あまり当てにはならないがゲームのシナリオからこの先にいるであろうポケモンの予想はつく。さらに言えば、ゲーム上ではこの先は確かに外、そして霧の湖に続いていた。シナリオがどれだけずれようと地形についての事実は揺るがないと思っていいだろう。だから、これまで通り奇襲を警戒しながら進むのが一番なのだ。

「それに、そのすごく熱いポケモン?……さえ乗り越えればいよいよ霧の湖だしね!」

「メアリー、あんたこの先に霧の湖があることに自信なさげだったんじゃないの?」

「う。まあそうだけど……。でも、みんなは信じてくれてるんでしょ?」

 そう言ってみせた彼女の表情に、最初に見せていた不安はどこにも見られなかった。むっとした湿気と汗のせいで体毛は乱れていたが、それを打ち消すほどの輝かしい笑顔だけがそこにあった。

「………」


 あの海岸で出会ってからこれまでの間、彼女の笑顔を見る機会は何度も会った。探検隊を結成したとき、依頼を達成したとき、夜寝る前に話すときだって、彼女はいつも笑顔だった。見慣れてるはずだ。しかしなぜ、今その笑顔を見て胸がしめつけられるように痛むのか。胸だけじゃない。頭痛もする。鈍く重い痛みだ。

「シン君……?どうしたの?」

 彼女が覗き込んできた。笑顔は消え、再び不安げに眉をひそめている。思わず一歩後ろに下がった。

「……ごめん、なんでもないよ」

「……嘘。シン君、何か思うことがあるんでしょ?」

 愛らしい口元をきゅっと曲げてメアリーは抗議した。その顔だ。君の見せるその表情のせいで頭が痛いんだ、などとは口がさけても言えない。だから一瞬考えて、気まずそうな口振りで答える。

「……いや、プクリル達の合流を待つのも、一つの手かなと思ってさ」

 当たり障りのない提案だ。メアリーは少しだけ険しかった表情を解いて、今度は首をかしげ考え込む。

「……でも、他のみんなはこの洞窟に向かってるのかな?」

「まぁ、そこなんだよな」

 答えを言えば、シナリオのズレさえなければ彼らは熱水の洞窟に突入している。だからここで待機していれば彼らと合流することができるだろう。しかし、俺も別に本気でこの提案が通ってほしいと思っているわけじゃない。もちろん、そんな展開はゲームになかったからだ。

「……悪いけど、良い考えではなさそうね。来るかどうかも分からないし」

チコの反論で、結局俺の提案は無しになった。

「ごめんね、シン君…。その、無理に聞き出して」

 さっきまで強気だったメアリーが今度はしおらしく謝ってきた。そのしぐさに、またしても締め付けられるような頭痛をおぼえたが、なんとかこらえて笑顔を作る。

「いや、最初に誤魔化したのは俺の方だし、メアリーが謝ることはないよ」

 俺の返答に、メアリーは申し訳なさそうにしながらもかすかに顔をほころばせる。そして次の瞬間には「じゃ、気を取り直してこのまま進もっか!」と言って、先頭に躍り出た。その様子に、俺はほっと胸をなでおろす。













___また、嘘をついたな。


「………」

 その一連の流れをイブゼルがつまらなさそうな表情で見ていたことに、気づいていた。
 



___お前、いいやつぶってんだろ。



 俺はメアリーの隣に立った。
 頭痛や胸の痛み、それと同時に流れ込んでくる言葉さえも抑え込んで。
 それでも湿気や熱気は顔にまとわりついて離れない。背後の視線が突き刺さる。前後左右追い詰められたような閉塞感を感じながら、歩く。歩く。









***

「____チッ!!」

 緑色の閃光が弾けて霧散する。刃が弧を描くように飛ぶが、軌跡の途中で白骨の棒に防がれた。
 相手の頭の房が揺れる。その奥から青く輝く拳が飛び込んでくるのを、身体を後ろにそらして回避。引き込んだ左手を刃に変え、反動を利用して首を狙う。
 しかし首を落とすことなく、リーフブレードは鈍い音を立てた。またしても白骨。バックステップしていったん距離を取る。
 対峙するルカリオは、変わらないニヤケ面で手にある骨の棒をくるくると回している。息を切らした様子はない。

「やるねぇ。……正直、少し舐めてたよ」

 微塵も心にないであろう言葉だ。垂れた目を細めて笑うトーサの様子に、警戒の意図は全く見れない。あくまでこちらの戦意を馬鹿にする態度をとり続けている。
 癪だが、あんな奴でも「ルカリオ」だ。格闘タイプを持つルカリオの得意とする分野は、間違いなく正面きっての近接戦闘。素早さには自信があるが、このまま接近戦を続けてもジリ貧で勝ち目は薄いと見える。
 ……ならば。


 「いいねぇ。今度はどうくる……のかなぁ?」

 正面突破。”リーフブレード”を両腕に搭載し、姿勢を低くしてトーサに突進をしかける。今の俺が出せる最高速度だ。しかしトーサは余裕の表情で白骨を構えている。やはり近接戦闘は分が悪い。左から放った斬撃を弾かれた反動で身体をひねり、カウンターで放たれた拳をかわす。トーサの横腹が空く。そこに右の”リーフブレード”を___

 「かかったねぇ」




 __滑り込ませず、地面を抉った。

「……!?」

 待ち構えていた攻撃が来なかったのか、トーサの反応が遅れる。それでも奴なら飛び散る石つぶての対処くらいは余裕だろう。石と骨がぶつかり合う音を聞きながら、俺は暗闇の中を進む。


「____……いない?…まさか」


 奴が俺のことに気づいたときには既に手遅れ。「あなをほる」の準備は整っている。声の後方、ちょうど奴の背後に当たる位置にぼこっと穴が空いた。
 







「……なんてね」

 凶笑をにじませて振り返り、トーサは音速の裏拳を背後にお見舞いした。

____グチッと何かが破裂する音。


トーサの顔から笑みが消える。

「……これは!」

「____目つぶしの種だよ」

 答えと同時に、頭上の土もろともトーサを殴り飛ばした。
 こうかばつぐん。トーサの身体は夜空を舞ったあと、地面に激突して土ぼこりをあげる。その煙の中に入り込み、中で倒れ伏す彼の首元に腕の刃を突きつけた。

「……ぐっ…くふ…っ。やる…ねぇ、さすが」

血を吐き息を切らしながらも、トーサはその歪んだ笑みを崩さない。

「……下手に動くなよ。死にたくないなら」

「君にその勇気があるのか……___ギャッア!!」

減らず口を叩くトーサの首筋に刃を押し付ける。鮮血が飛び、トーサは甲高い悲鳴を上げた。

「……追加の質問だ。あのピカチュウについて、知ってることを言え」

「……さっきと、同じ質問、じゃぁない…かなぁ」

傷口を刃で撫でる。トーサは目元を苦痛に歪めながらも、笑みを切らさずに続けた。

「……ああ、私の目的は君と……同じ…と言ったよね」

「……それがどうした」

質問のポイントをずらそうとしているのか、それともただ回りくどいだけなのか。あいまいな回答に若干のいら立ちをおぼえながらも言葉の続きを待つ。




「別に、私の目的は時の歯車だけではないんだよ」

「……だから、それが………」


 考えが、到達する。トーサは血に汚れた口元を歪めて嘲笑した。
 ……してやられた。まさか、こいつらの狙いは………。



***
「………っ」


 全員の足が止まった。示し合わせたわけでもないのにそのタイミングはほぼ同時だった。
 皆、「その音」を聞いたのだ。
 メアリーが一歩後ずさって身をかがめ、チコは蔓をしゅるりと出した。イブゼルは構えこそ何もとらないが、目の色を変えて気の抜けた顔を引き締めた。
 揺れる。地面が。熱気が、近づいてくる。


***


「ユクシーはこの有様だからさぁ?代わりの番人が必要になる…だろう?」

 楽し気にそうつぶやいて、トーサは唇を舌で舐めた。

「くそ……っ!」

 とっさに引こうとした右手を、トーサに握りしめられる。ものすごい力だ。肩を怒らせ、やつの首根を抑えながら引いてもビクともしない。

「単純な力比べなら私の方が上……みたいだからさぁ?……それに、本当にこの場を離れてしまって大丈夫なの……かなぁ?」

「……チッ」

 そうだ。今この場でやつを放置してメアリー達のもとへ向かえば、時の歯車を奪われてしまう。まんまとこいつらの罠にはめられている。
 だが、それもここまでだ。

「お前を殺してから、メアリーたちの加勢にいけばいい」

「ふふ。殺せるなら……ねぇ」


***

『そのポケモンの いのちはない とおもったほうがいい!!』


 画面のなかのペラップは言っていた。
 ゲームで今と同じ様な状況になった時のセリフだった。プレイした当時は、対峙する敵の強大さを煽る演出に興奮し、ボス戦へと挑んだものだ。
 __遠征の最終局面、その最後の壁として立ちはだかるは伝説のポケモン。燃えないはずがない。手に汗握る熱いバトルの幕開け。
 それと同じ状況なのだ。
 そのポケモンは、地響きを連れてやってきた。質量をもった『熱』そのもの。一歩、一歩と近づくたびに、熱波と覇気が合わさって身体全体を圧迫する。地面の揺れは肺を揺らし、揺れた肺は呼吸を急がせる。過呼吸が下半身へと伝播し膝ががくがく震えだした。
 身体が火照る感覚が増すにつれ、それの輪郭が露になってくる。
 巨大なツメ。鋭い牙。マグマのように赤い装甲は、燃え上がって暴れださんとする凶暴性を抑え込んでいるようにも見える。

「……おいおい、まじかよ」

「……うそ…」

 知っている。見たことがある。このポケモンは、まさに……。
 最後の壁として立ちはだかるは、伝説のポケモン。

「…………」

 燃えないはずがない。待ちかねた、伝説のポケモンとのボスバトル。
 違うのは、自分の立ち位置。抱く感情。
 そのポケモンの名は………


「グゥアアァァオオオォアォアオォオオオオオオオオ!!!!!!!」






_____グラードン。

__圧倒的な恐怖が、咆哮をとどろかせた。

 
 
 
 




 




 
 





 
 
 
 





つらつら ( 2020/02/09(日) 17:27 )