はみ出し者は自分だけ(ポケモン不思議のダンジョン空)








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りんごの森と
第四十一話:朝のいざこざ
 「ふわぁ〜あ。おはよう〜…シンくん〜…」
「おはよう。メアリー」
メアリーは目を擦りながら、体を起こした。昨日の夜更かしがだいぶ体にきているらしい。寝癖はたちまくってるし、目の下にうっすら隈ができている。なにより、今日彼女が起きるのにどれくらい時間がかかったか。ドゴームにどやされたところで、俺は嫌でも目が覚めたが、メアリーはそうはいかなかった。ゴニョゴニョ寝息をたててぐずりながら、いっこうに起きようとしない。

 言い訳したくないが、寝てる姿はすごく可愛かった。だから俺は起こすのを少しためらってしまった。起こそうとしても、言葉にならない、とろけた声を発し、駄々をこねるように寝返りを打つ。それがまた、悔しいがキュンと胸を打つのだ。

 断っておくが、俺は元人間で、人間時の記憶も健在である。よって、価値観も当然人間のものであるから、決して、メアリーにそういった感情はもっていない。もっていない、と断言しよう。

 ま、声をかけるだけじゃ無理だと悟った俺は、体を揺すり、ほっぺを軽く二三度叩いた後、それでも起きないので超微弱の電流を流した。そこまできてようやく、彼女は目を覚ました。



 眠そうにする彼女とともに、俺は朝礼へと出席した。もう既に、俺達以外全員が揃っていた。昨日、助っ人として加わった、ドクローズ達も健在だ。
 ペラオの怒号をうけ、おずおずと参列する俺たちを、スカタンクどもは意地の悪い笑みで出迎えてきた。皆の手前、彼らにも体裁があるので露骨に悪口は言ってこないが、目線は悪意に満ちている。
 俺はそんな視線のなかでも涼しい顔を貫き、列にならんでペラオの話に耳を傾けた。別に我慢をしているという感覚はない。こいつらが、俺たちにこのような態度をとってくるのもシナリオ通りである。むしろ、人懐っこく接してきた方が困るくらいだ。
 だが、隣にいたメアリーはどうもそうはいかないらしかった。寝起きで少し機嫌が悪いのだろうか。顔をしかめ、なんとかペラオの話に集中しようとしていた。 




 「それじゃあ、今日も一日がんばろーーー!!!」
「「「「「おーーーー!!!」」」」」
昨日の朝礼とは打って代わった、いつもと変わりない朝礼が終わり、皆が散らばる。俺たちも、今日の仕事をこなすべく、掲示板へと向かった。













 「ごめん、今日ちょっと用事があるの」
いつもみたく三匹で依頼を見て回ろうか、とチコに話しかけたところ、チコはそう答えた。
「そっかー…。分かった」
メアリーは少し残念そうに言ったが、すぐに笑顔を見せた。チコは申し訳なさそうに頭を下げ、「ごめんね」ともう一度だけ言い残して、はしごを登っていった。
 「イブゼルでも誘ってみるか?」
 メアリーのテンションがやけに低いので、俺はそう提案してみた。しかしメアリーは、
「んー、今日は二人でいこうか」
と断った。まぁ、別に俺もイブゼルにこだわっているわけではないので、二人とも意見は一致し、さっさと掲示板に向かった。
 





 「シンくん、これ、読める?」
「読めない」
「これはね、ノコッチ、って書いてるんだよ。ほら、この部分が…」
 掲示板の前に立った俺は、たくさん貼られた手配書を使って、メアリーから文字の読みについて教えてもらっていた。もちろん、本当の目的は、今日遂行する依頼の選択であり、これはあくまでついでである。
 「ま、ノコッチならいけそうな気がするな。最後の依頼はこれでいっか」
「決まりだね〜。じゃ、早速トレジャータウンで準備してこようか」
 寝起きから覚め、だんだん笑顔を取り戻してきたメアリー。よかった。このままのテンションでやられるとこちらも参る。いやはや、このローテンションの原因が、ただの寝起きだけでよかった。



 だがしかし、事件が起きる。
 メアリーが振り返ってはしごの方に向かおうとしたところ、あるポケモンにぶつかった。彼女はバウンッと弾かれ、尻餅をつく。「ごめん…」と彼女は謝るが、上を見るや否や、バッと立ち上がり、こっちの方に身を寄せた。

 そう、ぶつかったやつらは、ドクローズだったのだ。
 やつらは朝礼の時と変わらない、あざけりの笑いを浮かべている。あの感じ、そしてメアリーの吹っ飛び具合からするに、ぶつかったのもわざとだろう。
 「何してんだ?お前ら」
「…な、何でもいいでしょ」
 分かりきったことを聞くスカタンクに、メアリーは答えた。その声は、やはり小さい。
 ズバットとドガースは、スカタンクの後ろを漂いながら、ただただニヒルな笑いを浮かべている。
 「おいおい、仲良くしようぜ?遠征も一緒に行くんだしよ。ギスギスしてたら、お互い損だぜ?」
 「……」
 メアリーはうつむいている。ちょくちょくスカタンクのほうに目をやっては、何かを小さく呟いている。隣にいる俺にも何を言っているのか聞き取れないので、当然ドクローズにも聞こえない。そしてそんな状況を、彼らはまた面白がる。
 「あ?何て言ってんだ?」
「臆病なのは変わらねぇな!」
「「ぎゃははははははは!!」」
 ドガースとズバットがバカみたいに嘲笑う。メアリーは顔を紅潮させ、二匹を睨み付ける。…が、なにも言い返せない。そんな彼女の様子に、スカタンクはわざとらしくため息を吐いてこう言った。
 「はぁ……。ここまで気が小さいとは…どうしようもない野郎だな」
 「!?」
 メアリーの震えが止まった。いや、硬直した。涙は出ていない。泣いてはいない。けれど、限りなく限界に近い。
 「気にしなくていい。行こう」
 たまりかねた俺は、そっとメアリーにそば立てた。メアリーはうなずく。俺はメアリーを頭をそっと撫で、そのまま掲示板を立ち去ろうとした。

 
 「待てよ、ピカチュウ」
 しかし、やつらはしつこかった。種族名で呼ばれた俺は、返事代わりに彼の方を無言で睨む。 
 

 それにしてもこいつら、昨日に引き続き、今日もまた絡んでくるのか。面倒くさい。それしか思わなかった。ゲームのシナリオの中でも、こいつらはこんな奴等だった。主人公一行の邪魔をしつくし、しかし最後には哀れな結末を迎える。そこまで知っている俺からすると、これは本当にただの茶番のようにしか思えない。
 …が、もちろんそんな感情を表に出してはいけない。今浮かべるべき表情は、怒りである。
 「どうした?」
 俺はつっけんどんにそう返した。
 「へぇ、前とはずいぶん態度が違うじゃねぇか」
 スカタンクは余裕たっぷりの笑みを浮かべる。
 「用がないなら、失礼するが」
目はそらさずにそう答える。スカタンクは一瞬ムッとしたように見えたが、笑みを作り直した。
 「ひとつ、質問があるんだけどよ」
「……なんだよ」
 にやぁ、と。口角をこれでもか、というレベルにまで引き上げ、最高に気持ち悪い笑顔になる。奴はメアリーをじろりと見て、そして俺にこう言った。
 「なんで、こんなやつと探検隊をやろうって気になったんだ?」
 思わず眉を潜めた。隣にいたメアリーの顔から、血の気が引いたように見えた。ドクローズの三匹のにやけ顔は止まらない。どうやら奴等の思い通りの反応してしまったらしい。スカタンクが続ける。
 「お前はなかなか度胸があるやつだ。認めてやる。だからこそ気になるんだよ。こんな臆病者、何処がいいんだって――」

 聞いてられるか。
 「行くぞ、メアリー」
 「え?」
 俺は固まってたメアリーを強引に引っ張った。そのままメアリーを梯子におしやり、登らせる。「おい!何処行くんだ!やっぱてめぇも臆病者か?」とスカタンクが叫ぶが無視を決め込み、俺も続けて梯子を上った。



 ギルドを走り出て、階段を下まで降りた。途中、メアリーがなんどかつまづいたから、そのたびにこけそうになるのをささえた。風車のある交差点に到着したところで、ようやく俺は足を止めた。
 後ろを振り返り、崖の上を見やる。スカタンク達は追ってきていない。どうやらそこまで執着するつもりもないらしい。
 「シンくん…」
 メアリーの声がしたので、俺は振り向いた。
 メアリーは息を切らしていた。耳はピンと立ったまま、でも尻尾は疲れからかぐったりとしている。
 「……あの、さ」
「あいつらの言うことは、無視でいい」
 俺は若干被せるようにして言った。メアリーは小さく何かを言いかけたが、やめて、うつむいた。
 「メアリーは臆病なんかじゃないよ」
俺はフォローのつもりで声をかける。しかし、メアリーはうつむいたまま、「うん」と答えるだけだ。 
 …余計なことをしてくれたな。そこで始めて、俺は奴等に怒りを覚えた。
 何か追加のフォローをしようとしたところで、メアリーは顔をあげた。

 「……ありがとう。とりあえず、探検いこっか」
 メアリーは、笑っていた。












 






 
 

■筆者メッセージ
センターも終わりようやく落ち着いて…とはいきません。とほほ。
〜分かったこと〜
シン…「ノコッチ」が読めるようになったよ
メアリー…眠いよ
つらつら ( 2018/01/16(火) 23:15 )