第三十四話 初めてOFF
「あ、そうだ。言い忘れてたが、近いうちに遠征に行くということで、今日、その助っ人としてある探検隊がこのギルドに来てくれる。その時に、ギルドのメンバーが揃ってないのは失礼だから、皆、昼過ぎまでには帰ってくるように♪」
二つの知らせを聞き終わって、掛け声もあげて、みんなが持ち場につこうとしたとき、ペラオはそう付け加えた。
「はーーーい」
と、みんなに混ざってあたしも返事した。そして返事して気づいた。あれ、昼過ぎに帰ってこいって………ダンジョンに潜ってたら間に合わないじゃん!?
「シンくん、どうしよう…」
「え?何が?」
「ほら、昼過ぎまでだと、いつもみたいに依頼を解決してたら間に合わないよ」
「あ、そういえばそうか」
シンくんは今気づいたらしい。シンくんも、のんきなもんだなぁ。あたしの方が案外しっかりしてたりして。んー、それはないかっ。
シンくんは顎に手を当てて上を向いた。シンくんは、考えるときはいつもこのしぐさをする。今日もいつものそれと同じで。シンくんはんー、と言いながら考えていた。目はちょっと眠そうだけど。
ほんのちょっとして、シンくんは手をポンと、たたいた。なにか思い付いたらしい。
「いっそのこと、今日は休みにしちゃうか」
「え?」
あたしは思わず聞き返した。
「考えてみたら、俺ら結構ずっと働きづめだったし。たまには休んでもいいんじゃないか」
「う、うーん……。良いのかなぁ…それで…」
休んでもいいっていうシンくんだけど、あたしは不安だった。今日、遠征の話を聞いたばかりだ。選ばれるためには優秀な働きを見せなきゃダメだって、ペラオは言ってた。あたし達はただでさえ新米でまだまだなのに、そんな調子で大丈夫なのかな。シンくんは、どう思ってるんだろう。
「ま、あたしも今日はいいと思うわよ」
そう言ったのはチコだった。大きな葉っぱを揺らして、賛同するチコに、シンくんはうなずいた。
「あれだよ、メアリー。今日、時間に追われて依頼をこなしても、いい仕事はできないと思うんだ」
「…んー、それもそっかなぁ…」
うん、シンくんの言う通りだ。言い返せない。……そう、なんだけど。なんだか、ちょっと引っ掛かる。
…いいや、やっぱりその通りだ。あたし、ちょっと焦ってたのかもしれない。
「うん、そうだね。分かった。じゃ、今日は休もっか」
あたしはうんうん、と頷いた。
そして、ちょっとだけ考えた。
……あれ?じゃああたし、何しよう?しまった、考えてなかった。いつもは探検隊のお仕事に追われてたから考えなくてよかったし、そもそもそれが楽しかった。けれど、いきなり休みと言われると、困った、何をすればいいのか分からない。
待って待って。よく考えてあたし。シンくんと探検隊を組む前、あたしはいつも何してたんだっけ?うん、そう。あれ?何してたのあたし!
どうしよう、家でのんびりしてたことしか思い出せない!休日とかって、何してたっけ…。うーん、散歩とかしてたなぁ…。いやでも、それはいつでもできるし…。
「でもシンくん……やっぱりあたし、探検しないと暇だよ」
「………俺もだ」
シンくんも同じことを考えていたらしい。おでこに指を当てて、うーん、と考えるしぐさをしている。あたしも一緒になってうーん、とうなった。けれど、なにも思い浮かばない。
「…釣りとかどう?」
「…え」
シンくんが提案した。思いついたような表情を見せてるけど、ちょっとだけぎこちない感じがする。無理をした提案だってことは、あたしにも分かった。
「えっと…。ちょっと…遠慮したいかな」
あたしはやんわり断った。ちょっと偏見かもしれないけど、ただでさえ暇なのに、ずっと釣糸を垂らしてるだけの釣りは、あまりしたくない。
「ま、そうだよな〜」
とシンくんはちょっとだけ肩を落とした。そして、あたし達はもう一回考える。
「真面目すぎるのよ、あんた達」
痺れを切らしてそう言ったのは、チコだった。あたしとシンくんは一斉にチコの方を見た。
「チコは何かしたいことあるの?」
「いやあるに決まってんでしょ。あたしはつい最近まで探検隊じゃなかったんだから」
じゃあ、何がしたいの?と聞くと、ちょっとだけ険しい表情だったチコが、ニヤリと笑った。
「ショッピングよ!ショッピング!」
「ショッピング?」
「そうよ、ショッピング。あたしもそうだけど、あんた達の部屋、何にも無かったじゃない?あれじゃダメよ。虚しすぎるわ」
「虚しいって…」
そう言われると、たしかにそうかもしれない。別に、探検とかで特別な宝物を手に入れたわけじゃないから飾るものがない。それに、そもそも帰ってきたらいつもすぐ夕御飯で、部屋に戻るのは夜なのだ。ベットに埋まってシンくんと話すのが日課になってたし、別に困ったことも無かったのだ。
「ショッピングっていっても…トレジャータウンにあるのはカクレオン商店くらいだろ?」
シンくんのつっこみに、チコはふっふっふ、と笑って答える。
「トレジャータウンじゃないわ。東の方にある、リバシティに行くのよ!」
「「リバ…シティ?」」
あたしとシンくんは、二匹揃って首をかしげた。 リバシティなんて、聞いたことない。
ずっと田舎の家で暮らしてたし、ギルドに入ってからはここからあまり離れたこともないからかな。
あたし達がピン、と来てないのを見て、チコは小さくため息をついた。
「あんた達、ほんとに探検ばっかりしてたのね…。リバシティっていうのは、ここらの地域で一番大きな街よ。この近くの東の森を抜けた先にあるの」
「東の森…かぁ。行ったことないなぁ」
「東の森は不思議のダンジョンでもなんでもないしね。探検目的じゃ行かないでしょうよ」
チコは、ちょっとだけ笑ってそう言った。
「で、どう?行ってみない?リバシティ」
チコが聞いてきた。あたしの答えは、もう結構決まっていた。
「うん、なんだか楽しそうだね!あたしは行ってみたいなぁ。シンくんは、どう?」
シンくんは相変わらず顎に手を当てたままだったけど、その顔には笑顔が浮かんでいた。
「そうだなぁ。俺も行ってみたいな」
チコはシンくんの返答を受けて、うん、と頷いた。
「決まりね!それじゃあ、すぐに出発よ!」