第三十二話:二つ目
これで……二つ目だ。
青い、神々しい光を放つそれは、空中に、たたずんでいた。
俺がそれをとるために前へと一歩踏み出すと、木々が、いっせいにざわめいた。これ以上先へ進むな、とでも言うように。
それでも俺は足を止めない。
一歩、一歩と土を踏む度に、あの青い光へと近づく度に、どくん、と、何かが脈打つような気がする。
まるで、時そのものが鼓動を持つように、あの光に、意思があるように。
激しささえも感じられる、明るい光の空間に手を突っ込み、俺は、慎重に、それでいて素早く、
その「歯車」を手中へと収めた。
瞬間、騒がしい雑音が、一斉になりやんだ。さっきまでとるなとるなと囃し立てていた木々たちも、黙りこくったように動かなくなった。威嚇していた光は消え、鮮やかな緑を称えていた草木からは色が失われた。
景色という景色が、一斉に黒へと染まっていった。
そこに風の音は、聞こえない。
鳥はもう、ささやかない。
全部が黒で、輝いているのは、手の中にある、この歯車だけだ。
……時の歯車。青く輝くこの歯車は、そう呼ばれている。
ここら一体の時を司っていて、これを盗ってしまうとその場所の時が停止してしまう。だから、盗るなんてとんでもない……と周りのポケモンはそう言っている。
その通り、今、この場の時は停止している。
俺がこの歯車を盗ったから、停止したというわけだ。
今まで動いていたそれを、自分の手によって止める感覚。まるで、生き物を、殺すような、その感覚。
……やはり、慣れない。気持ち悪いし、動きを止めた世界は、地獄のような場所だった。
けれど、俺は時の歯車を取り続けなければならない。大いなる、使命のために。今度こそ、世界を救わなければならないんだ。
俺は、地面を蹴り、音もなくその場を後にした。