第二十五話:シンの頼み
第二十五話 シンの頼み
「ひとーつ!仕事は絶対、さぼらなーい!」
「ふたーつ!脱走したらお仕置きだ!」
「みーっつ!みんな笑顔で明るいギルド!」
「さあ皆、仕事にかかるよ♪」
「「「おおーーーーーーーっ!!!!」」」
元気な掛け声と共に、ギルドのいつもの朝が始まる。このギルドでは、いつもこうした朝礼があって、皆で心をひとつにして仕事に取り掛かるという素晴らしい習慣があるのだ。仲間って感じがして、あたしは好きだ。
皆が散らばって各々の持ち場へと動く。
「じゃあ、あたし達も依頼を探しに行こっか」
いつもみたいにシンくんにそう言うと、シンくんは指で頬をポリポリと掻いて、
「俺、ちょっと行きたいダンジョンがあるんだけど……」
と、申し訳なさそうにあたしに言った。え?行きたい場所?シンくんが!?
「珍しいね〜。どこどこ?」
あたしは、ずいっと顔を近づけて聞いてみた。シンくんから行きたい場所がある…って言うなんて…。どういう風の吹き回しだろう!でも、嬉しい!だって、シンくんからそう言われたのって初めてだしね!
「“ほたるの森”って場所なんだ。地図でいうと…あれ?どこだ地図?」
「はい、地図!」
「お、ありがとう」
あたしがシンくんの前に地図を広げて見せる。シンくんは軽く礼をして膝をつく。指で地図をたどりながら、少しして「あ、ここだここ」と言った。指差す先には、特に何のへんてつもなさそうな森があった。
「ここが、“ほたるの森”?」
「そうそう。この場所を探検したいなーって思って」
「ふーん」
シンくんが、こっちを向いた。
「で、どうかな?」
返事はもちろん、
「いいじゃない!行こうよその森!楽しそう!」
「ありがとう」
シンくんは笑ってそう言った。
ということで、あたし達は探検の準備を整えるためにトレジャータウンにやって来た。青空光るトレジャータウンは、今日も今日とて活気に満ちている。
あたし達は、カクレオンの店に寄ってみた。
「お、リユニオンのお二方!いらっしゃいませ〜♪今日は何をお求めで?」
「うーんと、リンゴ四つとオレンの実二つでしょ?あと〜…あ!シンくん、モモンの実って何個くらいあったっけ?」
「一個だけかな」
「おっけーありがとう!じゃあ、モモンの実も二つください!」
「はーい♪そうですね、320ポケになります!」
「はいどうぞ!」
「まいどあり〜!ありがとうございまーす!」
カクレオンに手をふって、カクレオン商店を後にする。カクレオン商店を訪れるたびにダンジョンのカクレオンのことを思い出すんだけど、怖すぎて、あのカクレオン達について聞くことはいつもできない。ま、平和が一番だよね♪
必要なものも買ったし、余分なポケはヨマワル銀行に預けておいた。さ、準備完了!さっそく探検に向かおうかってところでイブゼルと出くわした。
「あ、イブゼル」
「お!メアリーちゃんじゃんか!」
「おー、イブゼル」
「メアリーちゃん、これからどこにいくんだい?」
「無視ね」
「探検にいくの。イブゼルも一緒に来る?」
何気なく誘ってみた。滝壺の洞窟で一緒に冒険して以来、何かにつけてよくイブゼルを加えた三匹でダンジョンに潜ることが多くなったのだ。相変わらずよくシンくんと喧嘩するんだけど(ほとんどイブゼルが勝手にいちゃもんつけるだけなんだけど)、掛け合いの息はピッタリだし、多分なんだかんだで仲はいいんだと思う。
予想通り、イブゼルは誘いに乗ってくれた。
「行く行く!今日はどこに行くんだい?」
「“ほたるの森”ってところだよ」
「へー、あそこかー。あそこに何のようがあるんだい?」
イブゼルは、不思議そうな目でそう問いかけてきた。ていうかイブゼル、ほたるの森知ってるんだ。あれ?それともあたしが知らないのがおかしいのかな。
「シンくんが行きたいって言ったの」
「何?シンが?」
あたしがシンくんの名前を口に出したとたん、イブゼルの顔色が変わった。そして、隣にいたシンくんの顔を見て、あからさまに嫌そうな顔をした後、
「けっ!すまんなメアリーちゃん。シンの頼みってんなら、俺はごめんだぜ」
とそっぽを向いてそのまま去っていってしまった。ほんと、素直じゃないなぁ。
「なんかごめん、シンくん」
何でかよく分からないけど、申し訳ない気がしたのでとりあえず謝る。
「いや、なんでメアリーが謝るんだよ。いつものことだし気にしてないよ」
「それもそっか」
「二匹でも大丈夫だよ。噂によると、そんなに難しいところじゃないらしいし」
そう言って、シンくんは「いこうか」と言って歩き出した。あたしも、「うん」と返事してその後ろに続く。
トレジャータウンの日差しは今日も穏やかで、明るかった。ポケモン達のおしゃべりが、耳を心地よくかけていく。今日も、楽しい冒険が待ってそう。そんな予感に、あたしは胸を踊らせた。