第二十四話:報告
「なんと!そんな洞窟が滝の中にあったのか!?」
ギルドに帰ってきて、俺達は滝の調査で発見したことをペラオに最初から最後まで伝えた。滝の裏の洞窟、奥地の宝石、そして流された先の温泉…。今振り返ってみれば、割と大冒険をしていたんだなぁ、と思った。ペラオの驚きようからしても、俺達の発見はだいぶすごいらしい。
「こ、これは…すごいことになるぞ!大発見だ!お前達、でかしたぞ!」
ペラオはずいぶん興奮して、さっきから羽をばたつかせている。
「ほんとに!やったぁ!!」
メアリーも、それに負けないくらいおおはしゃぎして、ぴょんぴょん飛びはね、尻尾をくるくる回している。
イブゼルは、宝石が手に入らなかったことが不服だったのか、最初はへそを曲げていた。しかし、異常に誉めるペラオを見て、機嫌はだんだん直りつつある。「大発見→見つけた俺達有名人→メスポケモンにモテモテだ!」なんてフローチャートでも頭の中で組み立てているんだろう。
「よし、お前達!ついてきなさい、親方様に報告しにいくよ!」
陽気な調子でそう言ったペラオは、鼻唄まじりに下へと向かった。メアリーとイブゼルも、軽やかな足取りでそちらへ向かう。
俺は嬉しい反面、少し気の毒になった。
これから、たぶん俺は皆の喜びに水をさすことになるのだから。
「ペラオです。親方様、入りますよ」
ペラオがそう言って、中へと入り、三匹も後に続く。プクリルは、いつもみたく大きなイスに腰を下ろし、大きなリンゴを頬張っていた。え?リンゴ?
「って!なに食べてるんですか親方様!」
「ふえぇっ!?え!何々!?うわっ!ペラオいつの間に!っていうか、うわぁ!いや、違うよこのリンゴは…」
寝てたのかよ。リンゴ食いながら寝るなよ。ていうか、目を開けてリンゴ食べながら寝れるって、もはや起きてるときと見分け方がわかんないよ。
寝起きな上に、自分がペラオに黙って夕食のリンゴを食べていたのがバレて、プクリルはとんでもないくらいに慌てていた。こんなポケモンが親方なんだからやっぱすごいよプクリンギルド。
そんな中、怒るペラオに言い訳していたプクリルと、俺の目が合った。プクリル、そこでやっと俺達の存在に気づいたらしく、
「や、やあ!君たち!どうしたの?」
と、半ば助けを請うように話しかけてきた。しかしペラオ、逃がさない。
「ちょっと!話をそらさないでください!」
「いやでもほら!なにか僕に伝えたいことがあってここに来たんじゃない?」
「っ!……そういえば、、そうですね…」
プクリルの苦し紛れの発言が、どうやらペラオの心をついたらしい。高音でまくし立てていたペラオが、ばたつかせる羽を止め、「そういえばそうだった」などと呟いている。そして、荒れた羽毛を羽で整えながら、ペラオは咳払いをひとつしてこう言った。
「コホン。とりあえず、親方様のことはまた後で考えるとして…まずは親方様、嬉しい報告があります」
機嫌を直したペラオは、胸を張ってそう言った。若干空気と化していたメアリーも、同じように胸を張った。プクリルは、とりあえず一難去ってほっとした様子で再度イスに腰掛ける。
「へぇー、どうしたの?もしかして、頼んでおいた滝の調査のことかな?」
「そうです、親方様。『リユニオン』とイブゼルに調査を依頼したところ、大発見があったんです」
「大発見」を強調してペラオが言った。その「大発見」に反応してプクリルも「ほんと!?」と腰をあげる。
「そうなんです。さ、お前達。結果をご報告するんだよ」
「うん、分かった!」
ペラオに促され、メアリーが一歩前に出る。俺も続いて前に出る。そして、自慢気にメアリーは自分達の探検の成果を報告した。
プクリルは、嬉しそうにうんうん、頷いたり、時おり目を輝かせたりして、ともかくメアリーの報告に聞き入っていた。
そして、ひととおりメアリーが報告し終わると、プクリルは席を立ち、
「すごいよ君たち!大発見じゃない!」
と言って、拍手した。メアリー、「えへへ」と顔をほころばせる。プクリルの部屋に入ってから、一部始終震えっぱなしだったイブゼルも、普通に誉められたので、えっへん、と胸を張った。
「チーム『リユニオン』に任せて正解だったね、ペラオ!君たちは期待の新人だよ!」
「そんなこと言ってもらえるなんて…ありがとうございます!」
誉めるプクリル。喜ぶメアリー。いい構図だ。しかしイブゼルはちょっとだけ疑問に感じたらしく、
「え、俺は?」
「君は別に、もう新人じゃないでしょ?」
「いや、まあ……はい」
プクリルに軽くあしらわれ、落ち込むイブゼル。いやまあ、お前もよく頑張ったよ。ほんとおつかれ。
そんなイブゼルのことは気にせず、楽しそうな感じで盛り上がる三匹。その様子を引目に見ていた俺だったが、ついに覚悟を決めた。
うん、もう空気読めないとか別にいいや。三匹には酷だけど、言うしかないな。いや、一匹に関しては別に酷でもないか。
「あの〜、親方様」
申し訳なさそうな感じで、プクリルのことを呼んだ。呼びかけに気づいたプクリルは、「なぁに?」とこちらに振り返る。ペラオとメアリーも、一緒にこっちを向いた。
「ちょっと、質問があるんですけど。その…もしかしたら…なんですけど」
「どうしたんだ?シン。勿体ぶらないで早く言いなさい」
ペラオがせかす。ちくしょう、どうなっても知らねぇぞ。
「親方様って…前にあの滝の洞窟に行ったこと…ありませんか?」
「は?」
ペラオが思わずそう言った。そして、その後、数秒時が静止した。
「いやいやいや。どうしたの、シンくん?行ったことあるならあたし達に調査なんか頼まないじゃない」
静寂を破ったのはメアリーだった。その次に、くちばしを開いたまま固まっていたペラオが動き出した。
「そうだよ、シン!親方様が一度いったことある場所を、『大発見だ〜』だなんて言って喜ぶと思うかい!?考えてものを言いな!」
ペラオ、バタバタと羽をはばたかせて俺に怒る。しかしちょっとだけ不安だったのか、ペラオはプクリルの方を振り返った。
プクリルは、頭を片手で押さえながら「う〜ん」と考えていた。
「親方様?」
嘘だろ?と言わんばかりの表情のペラオ。しかし、現実は非情だった。
「……行ったこと…あるかも」
「なぁ…っ!?」
崩れ落ちるペラオ。そしてイブゼル。メアリーも、口を半開きにして動かなくなった。騒然とする場に気づいたプクリルは、頭を手でポリポリとかいて、言った。
「あ、あはは…」
「あははじゃ、ないですよ…」
力なくツッコむペラオ。喜んで、怒って、また喜んで、さらにまた怒って…そして落胆。まぁ、疲れるわな。
それからは、まあ気まずかった。謝るプクリルに、別に何も言うことができない俺達。ペラオも、誰に何を言えばいいのか分からず、なんかもう、笑うしかなかった。
少しして、フウラが「ご飯ですよー」って言って皆を呼んだため、皆はそのまま部屋を後にすることができた。こんなにもご飯の呼び出しに感謝したことは、たぶんいまだかつて、一度もない。
いつも通り美味しい夕食を楽しく頂いた俺とメアリーは、そのまま部屋へと戻って藁のベッドに倒れこんだ。
ふわさっと、藁が飛ぶ。藁の香りが鼻に透き通る。俺は、そのままごろん、と寝返りを打って仰向けになった。そのまま横を見る。
「きゃっ!」
メアリーの顔が、すぐ近くにあった。メアリーは小さく声をあげ、そのまま俺から顔をそらした。メアリーも、どうやら俺と同じようなことをしてたらしい。なんで顔をそらされたのかは分からないけど。
メアリーは、ほんの少しだけ離れて再度こっちを向いた。そして、俺に話しかける。
「シンくん」
「どうした?」
「今日も、色んなことがあったね〜」
夜、メアリーはいつもこんな感じで俺に話しかけてくれる。しかし今日は、普段よりも興奮した様子だった。
「洞窟を見つける前さ」
「うん」
「滝の中に突っ込もうって、シンくん言ったじゃない?あれを聞いてあたし、最初はすっごく驚いたんだよ?」
「え?そうだったのか?その割には結構すんなりと引き受けてくれた気がするんだけど…」
「…そりゃあ、シンくんだからね」
「…理由になってないよ」
「えへへ」
えへへって…。たぶんいま俺は困った顔をしてるんだけど、対してメアリーは、可愛らしい顔を緩ませた。
「…カクレオンに追いかけられたときもさ」
メアリーは話を変えた。
「あたし達、真っ暗の中水路を泳いだでしょ?」
「泳いだな〜、そういや。悪かったな、あのときは。水路に飛び込めなんて、無茶言って」
「ううん、全然。確かにちょっとだけ怖かったけど、シンくんが…手を…その、握ってくれたから…」
メアリーは、そう言うと俺から目をそらした。んー。こういうときは、どういう反応をすればいいんだろう。
「いや、あれはその…」
俺が返事に困ってしどろもどろしていると、メアリーはそんな俺の様子がおかしかったのか、少し笑いだしてしまった。
「…すごく嬉しかったよ。ありがとう、シンくん」
メアリーは、とびきりの笑顔をこちらに向けてくれた。ますます返事に困るわ。
「よく分かんないけど、…どういたしまして」
「あはは。シンくん変な顔になってるよ」
誰のせいだよ。
まあいいか。メアリー、こんなに嬉しそうだし。
その後もメアリーは、今日の探検で感じた色んなことを話してくれた。俺は、基本相槌を打つたけで、たまに自分から話すという感じだった。けれど、俺はメアリーのこの話が全然嫌じゃなかった。むしろ、聞くのが楽しかった。
主人公の性格上、俺はあんまりガツガツしゃべる感じじゃないから、口数は少なくなる。たいしてメアリーは、お喋りで、話上手だ。だから、いい感じに話し手と聞き手の構図が成り立っている。そして少なくとも俺は、そんな会話が気に入っていた。メアリーはどうだろうか。話している感じからして、メアリーも楽しんでるんだと思うけど…。ま、相槌しかしてない俺がどうこう言えることでもないのかもしれない。
たぶん、いまの俺は、暖かい目でもしてるんだろうな。変ににやけてなければいいけど。
ひととおり話終わったら、メアリーから「今日はもう寝ようか」と切り出された。ま、頃合いだろうな。俺達は「おやすみ」と言い交わし、俺はそのまま目を閉じた。やはりとんでもなく疲れていたのか、夢の中にいくのにそこまで苦労しなかった。