はみ出し者は自分だけ(ポケモン不思議のダンジョン空)








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滝壺より
第二十一話:包み込む
「ま、待ってよ!あたし達は別に、あなた達の商品を盗んでないよ!」
周りを取り囲むカクレオンに、あたしは話し合いを試みた。けれど、目を真っ赤にしたカクレオン達には意味がないらしく、ただひたすらに「ドロボー、ドロボー」と叫んでこっちを睨みつけてくる。
うう…。いや、そりゃあイブゼルは実際に盗んでるわけだし、、、カクレオン達からしてみれば、あたしとシンくんが盗んでなくても一緒かぁ…。
ていうか、何でカクレオン達はこんなに増えてるの?最初は1匹だったじゃない。今見たら、ざっと10匹は超えてるんだけど。なんて絆の強いポケ達なんだ……。

そんなことを考えていると、いきなり一匹のカクレオンがこっちに黒い影をのばしてきた。
「うわぁっ!?」
ものすごいスピードであたしに襲いかかる「それ」を、なんとか横っ飛びであたしはかわした。
けれど、それが合図となったのか、他のカクレオン達もいっせいにこちらに襲いかかってきた。黒い影に赤黒く光る爪。そのうえ、スリープが使ってた赤紫の光線。そんな多種多様な攻撃が恐るべき速さと密度で迫ってくる。
「ちくしょう!こんなの全部かわせないぞ!」
いつもは冷静なシンくんも、焦って大声でそう叫ぶ。
って、そんなシンくんのことを気にかける余裕もあたしにはなくて。カクレオンが振り下ろした黒いオーラをまとった爪、“シャドークロー”の接近に気づき、間一髪のところでそれをかわす。
今のところは奇跡的な反射神経と、運のおかげでかわせているけれど、このままじゃすぐに全滅だ。

「メアリー、こっちに来てくれ!考えがあるんだ!」
シンくんがあたしに向かって叫ぶ。そしてすぐさま身をそらして、カクレオンが繰り出した怪しい影、“かげうち”をかわす。シンくんにもあまり余裕は無さそうだ。
カクレオンの攻撃を必死で避けているうちに、いつの間にかあたしとシンくんは離れ離れになっていた。どうにかして、あたしはシンくんのもとへ向かおうとする。けれど、カクレオン達の嵐のような攻撃がそれを簡単にさせてくれない。
「きゃぁっ!?ち、ちょっと!?待ってって!」
悲鳴をあげながら、飛んだり、跳ねたり、しゃがんだり、でなんとかカクレオンの猛攻をかわしていく。
だんだん、シンくんとの距離が狭まってきた。シンくんも、カクレオンの攻撃をかわしながら、本当に少しずつなんだけどこっちに近づいてきた。よし、もうちょっと!あと少しで…
そう思って、ほんの少しだけ油断しちゃったあたしの足元に、真っ黒な影が這い進んできた。ダメだ!かわさなきゃ!
ジャンプしてかわそうとしたけれど、びっくりして体勢を崩していたせいで前のめりに地面にぶつかりそうになる。
「よし!」
ぶつかる…!そう思ったんだけど、松明をくわえたシンくんがあたしの左前足をガッと握った。そしてそのまま引き寄せた。
「え??」
何をされたのか理解できないあたしをそのままに、シンくんは、手に持ってたたくさんの爆裂の種をカクレオン目掛けて投げつけた。
大きな爆発音がしたのと同時に、視界が一気に灰色になった。煙が、皆を包んでしまったのだ。

「メアリー!逃げるぞ!」
そう叫んでシンくんは、なんとあたしを抱き抱えながら走り出した。
「ちょ、ちょっとシンくん!?あたし、別に自分で歩けるよ!?」
「煙幕で何も見えないんだ!こうしないとはぐれてしまうだろ?」
「え?いや、そうだけど…」
松明をくわえたシンくんは、まさに必死だった。
だってほら、自分のくわえた松明のおかげで、少なくとも自分の周辺くらいは見えてることに気づいてないもん。
でも、あたしはそんな野暮なことを言う気はなかった。だって、べ、別に悪い気はしないもん。
「ダメだ。重い」
「え!?」
そう言って、シンくんは急に速度を落としてストップした。ガクッと肩を落とし、あたしを地面に優しく下ろす。え?重い?あたしが?そ、そんな…
「シンくん…ひどいよ…」
「え、なんでだよ」
シンくんはどうやら気づいてないらしい。最低だ。だいっきらいだよ、シンくんなんて。
って、あれ?地面に下ろされて、ちょうど足元を見ることになったあたしは、そこに誰かが横たわっていることに気づいた。
「イブゼル!」
そこにいたのはイブゼルだった。カクレオンの一撃をくらってすっかりのびている。目は白目を向いていて、ほっぺをつねっても起きそうにない。
「こんなとこまで吹っ飛ばされてたのか…」
松明でイブゼルの顔を照らしながら、シンくんは呟いた。
「元はと言えばこいつのせいなんだけど…。やっぱり助けてやった方がいいよな」
「そうだね。一応ギルドの仲間だし」
トゲトゲ山の時は結局あたし達のことを助けてくれたわけだし、イブゼルも、根はいいポケモンだろうしね。今は、とってもその事を疑ってはいるんだけど。
「よし。じゃあそうしよう。メアリー、松明持っててくれ」
「うん」
あたしが松明をくわえ、シンくんはイブゼルを背中に背負う。そろそろ煙が晴れてきた。周りが見えるようになった、その先には……
「カクレオン!!」
さっきと同じ、十数体のカクレオンがまたあたし達を取り囲んでいた。な、なんで!?煙幕で何も見えないはずなのに……。
「甘かった…!俺達は松明を持ってるんだ…。煙で見えなくても、明るいところを狙われたんだ…」
「え!?それじゃあ、どうしても見つかっちゃうじゃない!」
焦るあたし達。一方カクレオン達は、目を赤く光らせながら、両手を黒く光らせた。あたしとシンくんはたまらず一歩、後ずさりする。
「きゃっ!」
ぴちゃん。もう既に、後ろは水路になっていた。嘘でしょ!?追い詰められちゃった??
「ドロボー!ドロボー!」
後がないあたし達に対し、相変わらずカクレオン達はそう叫ぶ。万事休す…。どうしようもない状況に、諦めそうになるあたし。ちらり、とシンくんの顔を見る。
シンくんの顔は、まだ諦めてなかった。きゅっと口を閉じ、その目には、眩い輝きが見てとれた。シンくん、もしかして…
「メアリー、松明を貸してくれ」
「策がある」
シンくんは、ゆっくりとそう言った。小さな声で、カクレオンには聞こえないように。それでも、その声にははっきりとした自信が見えた。
あたしは、口にくわえた松明をシンくんにわたす。それを右手に持ったシンくんは、もう1度小さい声でこう言った。
「真っ暗になったら、後ろの水路に、ゆっくりと入るんだ。そして、水の流れる方向に水路を進んで逃げよう」
「…うん、分かった」
あたしの返事を聞いて、シンくんは軽く微笑んだ。そして手に持った松明を見て、ちょっとだけ顔をしかめる。
けれどすぐに表情を戻し、なんと、松明をカクレオン目掛けて投げ出した!
「お別れだ!電気ショック!!!」
シンくんの叫び声とともに、とても大きな電撃が放たれる。その先は、カクレオン…ではなくて、投げ出した松明だった。
見事、電撃は松明に直撃して、松明は大きな破裂音を出して散りとんだ。そして、すぐに何も見えなくなる。
合図はない。でも大丈夫。焦らないで、ゆっくり、ゆっくり水路の中に入るの。

ぴちゃん、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな音が耳に入る。
水はひんやりとして冷たかった。ゆるやかな水の流れが、あたしを力なく押してくる。あたしはその流れに逆らわず、流されるようにゆっくりと、水路の中を泳ぎ出した。
泳ぐにつれて、カクレオン達の叫び声が小さくなってくる。どうやら、カクレオン達はこの暗闇のせいで、あたし達を完全に見失ったらしい。

……シンくんは、何処にいるのだろうか。真っ暗で、何も見えない。本当に、これで大丈夫だったのか。カクレオンから離れて、バタバタした騒がしさが、急に消え失せた。静かだ。あたしが水をかく音以外、何も聞こえない。

冷たい。

闇と、沈黙が、急に身にしみてくる。嫌だ。さっきとはまた別の、それもどうしようもないくらいの不安が、頭の中を支配する。
(メアリー、メアリー。)
誰かの声が、どこか遠くから聞こえてくる。シンくんの声じゃない。でも、どこか聞き覚えのあるその声は……誰?

何も、聞こえない。何も、見えない。不安だ、どうしよう。カクレオンから逃げたその瞬間は、全然何も見えないことなんて怖くなかったのに。なんで、こんなにも、不安になるの…?


その時だった。
あたしの前足を、誰かが「優しく」握ってくれた。さっきと同じその感覚。見えないけれど、それが誰かはすぐに分かった。

シンくん。

何も見えない。けれど、シンくんがそばにいる。それが今、分かった。
それだけで、もう、あたしの不安は消し飛んだ。
もう、大丈夫だ。あたしはまた、暗い、水の中を泳ぎ出した。





「ぶはぁっ! 」
それから少し泳ぎ、水路の行き止まりにさしかかったところであたし達は岸にあがった。カクレオンの声は既に聞こえてこない。多分、逃げきれたのだろう。
「電気ショック」
シンくんの声で小さくそう呟かれたのが聞こえた。そして、周りが一気に明るくなった。シンくんは、あたしの横にいて、背中にイブゼルを背負っていた。
よかった。みんな無事だ。

「メアリー、無事でよかった」
「うん、何度も死ぬかと思ったけどね…。でも大丈夫だったよ。ありがとう、シンくん。」
「いや、俺は…別に…」
シンくんは、少し目をそらす。さすがに分かるよ、シンくん。

「あ!見て、シンくん!」
「ん?おお!」
あたしが前足で指指すその先には、上へと続く階段が。これほどまでに嬉しい階段が、かつてあっただろうか。
あたし達は、軽い足取りになった気で、その階段を登った。


■筆者メッセージ
洞窟で商売するカクレオンって赤字なんじゃないでしょうか
〜分かったこと〜
シン…叫んでくわえて走って泳いでバッテバテ
メアリー…シンほどじゃないけどバッテバテ
イブゼル…気絶なう
つらつら ( 2017/10/12(木) 23:16 )