はみ出し者は自分だけ(ポケモン不思議のダンジョン空)








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滝壺より
第二十話:報復
第二十話 報復
松明を片手に、チームリユニオンは進む。あれだけ苦労した松明のお陰で、だいぶこの洞窟の中が見えるようになった。足元は赤茶色の岩石でできていて、湿った岩場と同じように湿気でぬるぬるしている。壁も同じく赤茶色の岩石でできていたのだが、松明を持っているとはいえあまり広くは照らせないし、そもそもこの洞窟は結構奥行、横幅が広いので、そうそう壁を見ることは無かった。ちなみに天井もだいぶ高く、松明を上げて見ても見えることは無かった。ただ、時々水滴が落ちてくるから、鍾乳洞みたいな、あのトゲトゲの天井になってるのかもしれない。
問題といえば、脇を流れるこの水路。せせら、せせらと穏やかに流れているが、この水路がなかなかの曲者だ。
まず、松明を持っているとしても暗いのは暗い。当然足元もおぼつかなく、突然現れるこの水路に足を取られ、コケることもしばしばあった。

そして、こっちがもっと重要な問題なのだが、この水路、そして視界の悪さも相まって、
「きゃぁっ!?」
水の中から突然現れる敵に不意打ちを食らってしまうのだ。って、言ってるそばから横を歩いていたメアリーが悲鳴を上げた。メアリーのすぐ横にあった水路から、ニョロモがドンッと、飛び出してきたのだ。突然の登場に驚くメアリー。ヤバイ。ニョロモの口元に集まる渦巻く水。そして、少しも経たないうちにニョロモの口から“みずてっぽう”が発射された。当然、メアリーにかわす準備などできていない。
“みずてっぽう”をモロにくらい、メアリーがこっちの方に吹っ飛んできた。そうなるだろなーって思ってた俺はそのメアリーを受け止めた。が、地面がぬるぬるしてるのと、思った以上に“みずてっぽう”の威力が強かったのとで、俺は体勢を崩しメアリーもろとも倒れ込んだ。
メアリーの下敷きになる俺。突然の出来事に頭が整理できてなかったメアリーの意識が、だんだん研ぎ澄まされていく。
「痛た…って!?」
「はぐぅあっ」
今の状況に気づいてガバっと身体を起こすメアリー。その衝撃は下敷きの自分に結構こたえた。
「ご、ごめん!シンくん!」
そう言って俺から飛び起き、その場を離れるメアリー。
「いや、別に大丈夫だよ」
一応まあ、気にするな的なことを言っておく。ちょっと照れたのか、顔を赤らめるメアリー。そこまで気にすることでもないと思うんだけどなーって、思ってたところ、両脇から殺気に囲まれた。前方はもちろん、ニョロモの方。血気だって、体をブルブルと震わせている。その震えが怯えじゃなくて、威嚇の行為だろうなってことは、ニョロモの獲物を見るような目から分かる。

てか、後ろの殺気は一体…。後ろを振り返ってみると、そこには怒りで顔を歪めたイブゼルが。
「てめぇ…、ふざけやがって…何さらしてくれてんだ!」
「え?何のことだよ」
俺のとぼけた様子に、イブゼルの怒りはさらに増す。
「メアリーちゃんに抱きつきやがってー!」
語弊MAXじゃないか。抱きついてないよ。ていうかそんな下心、さらさら無いよ。そりゃあメアリーは可愛いけど、あくまで俺は人間なんだ。って、そんなこと言ってる場合でも無かったか。
怒るイブゼルの背後には、今にも襲いかかろうとする紫色の毒々しいスライムのようなものが。ベトベターだ。背後の脅威に気づかないイブゼルを、ベトベターは今にもその体に取り込もうとしていた。
「危ない!イブゼル!」
「分かってんだよ、そんなこと」
イブゼルは特に焦りもせずに振り返り、凍てつく右手でベトベターを殴りつけた。“れいとうパンチ”を食らって動きをとめたベトベター。イブゼルは、流れるような動作でそのまま両手をかめはめ波のポーズみたいに構えて、渦巻く水を両手に集める。そして、そのまま両手を突き出して、こう叫んだ。
「みずのはどう!」
突き出された両手の水が、白く発光し、そのまま爆散する。その衝撃に耐えることができなかったベトベターは、そのまま後ろに吹っ飛んだ。
相変わらず、戦闘能力は流石と言わざるを得ない。敵として現れた時、非常に苦労したことを思い出す。

俺は横を振り向いた。しまった、肝心のメアリーをそのまましたままだった。
メアリーは、あい迫るニョロモのみずてっぽうを、なんとか交わし続けていた。しかし、まだ近接技しか扱えないメアリーは、みずてっぽうを交わすのが精一杯で、自分の攻撃範囲にまで近づけずにいた。よし、ここは俺の出番だな。
「電気ショック!」
まずは、牽制の一撃。メアリーに当たらないようにニョロモの背後目掛けて撃ったので、当然ニョロモにも当たらない。しかし、ニョロモの注意はこっちにそれる。
俺は再度、ニョロモ目掛けて電気ショックをぶっぱなした。素早いステップでそれをかわすニョロモ。それでも俺は電気ショックをニョロモ目掛けて打ち続ける。当たることはないが危険視したのか、ニョロモは水路の中に飛び込んだ。多分、そのまま逃げた訳では無いだろう。もう一度水路から飛び出てくるはずだ。もちろんそれは分かってる。俺の狙いは…
「メアリー!松明、持っててくれ!!」
「え?」
そう言って俺はメアリーのもとへ駆け寄った。
「なんとかあいつのもとまで突っ込んで戦いたいんだけど、俺松明持ってるだろ?みずてっぽうを食らって消えてしまうと困るからさ」
「そういうことか!分かったよ。ごめんね、シンくん。あたしが頼りないばっかりに…」
「気にしないでいいよ。あれはメアリーが苦手そうなタイプだし。そもそも水タイプなんだから俺が倒すよ」
「うん…。分かった。じゃ、任せたよ、シンくん!」
「よしきた」
メアリーに松明を持たせた俺は、そのまま放電して身体を軽く光らせた。松明をつける時にやったあの要領だ。理由は、松明から離れても敵を見失わ無いようにするためである。

そして、ニョロモが飛び込んだ水路を睨みつける。まだニョロモは出てきていない。仕方ない。荒っぽいが…
「電気ショック!!」
俺は割と大きめの電撃を水路目掛けて撃ち込んだ。水路に電流が走り、周りがいっそう明るく照らされる。どうやらこの水路は、俺達がいる地面を取り囲んでいたらしい。そして、前方左斜め奥の水路から、ニョロモがたまらず飛び出した。
「今だ!」
俺はすぐさま“でんこうせっか”で飛び出した。地面に叩きつけられたニョロモは、“みずてっぽう”で応戦するが、スピードに乗った俺を捉えきれず、俺はニョロモとの距離を一気に詰めた。ここまできたらかわせまい。
「電気ショック!」
ほとばしる電撃が、ニョロモの体を襲った。ニョロモはしばらく身体を痙攣させて、そのまま地面に倒れ込んだ。
「やったね、シンくん。」
そう言って松明をくわえたメアリーがこっちに走ってきた。松明くわえたままでもその発音は流石だな。
「ああ。ありがとメアリー、松明持ってくれて」
「お安い御用だよ。はい、松明」
「さんきゅ」
メアリーから松明を受け取る。無事、水に侵されることもなく松明は燃え続けている。良かった…。あんなに苦労したんだから、絶対に絶やすわけにはいかない。松明を手に持ってぐるりと当たりを照らし、周りの安全を確認した俺達は、そのまま先へと進んでいった。


その後の道中も、多くの野生のポケモンに襲われた。不意打ちには相変わらず苦労させられたが、なんとか連携プレイでやり過ごした。しかも、だんだんメアリーの耳が研ぎ澄まされ、敵の襲撃に気づけるようになったので、途中からは不意打ちされることなく戦闘を有利に進めることができた。ちなみに、今までは緊張しすぎて、聞こえる音も聞き漏らしていたらしい。 んー、なんともメアリーらしい。
「今日は、よく野生のポケモンに襲われるねー」
割と襲撃が落ち着いてきたところで、一息ついたメアリーはそう言った。
「鬱陶しくてありゃしねぇぜ。弱っちいから手こずりはしねぇけどよ」
「多分、あれだろうな。元々は真っ暗な場所だったのにいきなり明るいものが現れたんだ。そりゃあ警戒して襲ってくるだろうさ」
「ってことは、この松明のせいじゃねぇかよ。消しちまおうぜこんなもん」
「おいイブゼル。何言ってるんだお前は。これを作るためにどれだけ苦労したか忘れたわけじゃないだろ」
「ははっ!冗談だよ。へー、てめぇも怒ったりするんだな」
「こいつ…」
「まあまあ、シンくん。落ち着いてよ、ね?」
まんまとイブゼルのペースに乗せられてしまった俺を、メアリーがなだめてくれた。
「ていうかイブゼル、ひどいじゃない。シンくん、あの松明を作るために一生懸命頑張ったんだよ?それを消しちゃおうだなんて、可哀想だと思わないの?」
「だから冗談なんだって…メアリーちゃん…」
メアリーに怒られて、イブゼルは肩を落とす。なんか、悪いことしたな。
「なんかごめん。イブゼル」
「うるせぇよ。なんでてめぇが謝るんだよ」
「んんん…。いや…なんか…な?」
「けっ、調子狂うぜ。って、ん??」
何かに気づいたイブゼルは、「松明貸してくれ」と俺から松明を貰い、自分の前方、その奥を照らした。目をこらすイブゼル。それを見て、俺も一応注意深くイブゼルの視線の先を見た。…んん?よく分からんが、ちょっとなんか、赤い何かがあるような…ないような…。ぼんやりしすぎて俺には何か分からないが、イブゼルはどうやら見当がついたらしい。
「いいもん見つけたぜ。ついてきな、メアリーちゃん」
「え?うん」
「俺も呼べよ」

イブゼルに連れられて前へ進むと、赤い何ものかの正体がだんだん俺にも分かってきた。赤いものは、いわゆる赤を基調とした、ところどころ渦巻きのような黄色い模様のついたじゅうたんだった。そして、そのじゅうたんの上には、緑色の俺達がよく知るポケモンが立っていた。あのポケモンは…
「カクレオンさん!」
メアリーがそう言った。じゅうたんの上のカクレオンもその声に気づいてこっちを向いた。メアリーはたたたっと近づいて、
「いらっしゃいませー!」
「どうしたんですか?こんなところで…」
「ん?あぁ、お嬢ちゃん。多分それはポケ違いですよ。カクレオンって種族はよく似ていますからね」
「え?そうだったんですか!?す、すみません…あたしてっきり、トレジャータウンのカクレオンさんだと…」
「あぁ、カク吉さんとカク太郎さんですね。前に会ったことがありますよ。あの2匹は街を仕事場にするカクレオン。私は、主にこういったダンジョンで活動するカクレオンなんですよ」
「な、なるほど…」
メアリーはへー、と頷いた。俺も腕組みしながらカクレオンの話を聞いていた。なるほどなー。やっぱあのカクレオンとこっちのカクレオンは別物だったのか。ゲームでも同じようなシステムがあったが、俺はどっちも同じカクレオンだと思っていた。だから、街のカクレオンには恐怖を覚えたものだ。ん?なんで恐怖を覚えたのかって?いや、それはだな。なんとこのカクレオン…
「兄ちゃん、このじゅうたんの上の商品は、何選んでもいいんだよな?」
イブゼルがじゅうたんの上のアイテムを指指しながらカクレオンにそう言った。カクレオンはイブゼルの方を向いて、手もみしながら、
「はい!じゅうたんの上のアイテムは、すべて私の店の商品ですから、ご自由に選んでくださいね」
「オッケーオッケー」
イブゼルは、カクレオンの言葉を聞いた後、次々とじゅうたんの上のアイテムを拾いまくった。ひょいひょい、青い玉に、不気味な種、リンゴに、後はCDディスクのようなもの。どんどん自分専用のバッグに入れていく。
なんだ?今、凄まじい悪寒が背中を襲ったぞ?いや……待てよ。こいつ、もしかして…
どんどんアイテムを拾っていくイブゼルに、メアリーは声をかけた。
「そんなに拾って大丈夫なの?商品ってことは、後でお金を払わないといけないんでしょ?」
「大丈夫さ、メアリーちゃん」
メアリーの心配を意に止めず、イブゼルはついにじゅうたんの上の商品をすべて拾いきってしまった。 そして、カクレオンの方に向かう。
「はい!お会計ですね!えっと…そうですねー」
カクレオンは手をぱぱぱ、と動かして何やら計算風の事をしてみせた。数秒立たずその金額をたたきだす。
「12000ポケになります!」
「高っ!」
メアリーが思わず声を漏らした。
「では、お金を…」
イブゼルは屈託のない笑顔を見せて、

「払うわけねぇだろ。あばよ兄ちゃん」
口の中に一つの種を放り込んだ。瞬間、イブゼルの体が、消えた。沈黙が場を包みこんだ。










やりやがった…こいつ。俺は、恐る恐るカクレオンの表情を伺った。

カクレオンの目は、赤かった。

「ドロボー!!!ドロボー!!!みんなぁ!捕まえてぇえええええええええ!!!」
とんでもない奇声を上げて、カクレオンは衝撃波をその身から放った。突然の出来事にかわすことも出来ず、メアリーと俺は後ろに吹っ飛ばされた。吹っ飛ばされた先では、なんとイブゼルが、そこにいて、高らかに笑っていた。
「はははっ!叫んでる叫んでる。だが、ワープの種を使えばこっちのもんだ。あいつらに囮になってもらって、俺はその間にずらかるとするか…」
「誰が囮になるって?」
「当然お前ら…って、え?………ぼぐぅあっっ!、???」
イブゼルが、俺達に気づくが早いか、イブゼルの身体は目にも留まらぬ速さで俺達の横を吹っ飛んだ。吹っ飛ばされすぎて、イブゼルの姿が闇へと消える。
「い、一体、何が起きてるの…?」
腰を抜かしたメアリーが、ブルブル震えながら呟いた。もはや絶望に打ちひしがれた俺は、一応放電して辺りを照らす。

俺達の周りには、既に十を超える数のカクレオンがいた。どの個体も、目は真っ赤に染まり、口々にこう叫んでいた。

「ドロボー!ドロボー!」



■筆者メッセージ
ロケット投稿〜調子がいいです
〜分かったこと〜
シン…絶望
メアリー…絶望
イブゼル…瀕死
カクレオン…憤怒
つらつら ( 2017/10/11(水) 00:13 )