はみ出し者は自分だけ(ポケモン不思議のダンジョン空) - トゲトゲ山は
第十四話:捻くれ者
 あぁ、畜生。どこで踏み間違えちまったんだろうな、俺は。いや別に、そんないっちょまえな「転機」ってものさえも、俺にはなかったんだろうけど。
 ま、いっかどうでも…。うっ…腹が痛ぇ。



 
 スリープは、ゆっくりと、こちらへ歩いてくる。右手は怪しく赤紫色に光を放ち、にやにやしたスリープの笑顔を照らしている。一歩、また一歩と歩みを進める。何をしてくるかが分からない。俺とメアリーは警戒して同じように引き下がるものの、じりじりと、詰め寄られる。ダメだ、これ以上引き下がると、またルリリを人質に取られてしまう。
 
そこで俺は立ち止まった。メアリーも同じことを考えていたのか、同じタイミングで後ずさりを止める。当然スリープは止まらない。必然と縮まる2対1の距離。右手がいっそう怪しく光る。ダメだ、やられる。
 
俺は頬袋を激しく鳴らし、右手から巨大な電気をスリープ目掛けて撃ち込んだ。しかし、その雷光は、スリープには届かなかった。スリープの目の前で、空中で、静止したのだ。
 そのことに驚く暇もなく、俺の足が地面から離れた。吹っ飛ばされた訳ではない。体ごと、ふわっと、浮かされたのだ。
「なっ…!くそっ…」
「ど、どうしたのシン君!?」
「か、体が…」
 そう言って、俺は四肢をあちらこちらへと動かしてバタバタもがく。しかしそれはすべて何処に当たることもなく虚しく空を切る。そんな様子の俺を見て、スリープはいやらしい顔を浮かべて光る右手をさっ、と横にスライドさせた。

 瞬間、俺の体は後ろへと引っ張られる。踏ん張ることももちろんできず、その軌道に体を任せることしか出来ない。ん?というかちょっと待てよ。確か俺の後ろって普通に壁だったような…
「ぐはっ!」
案の定、壁だった。畜生、“サイコキネシス”か。頭もろとも勢いよく叩きつけられ、意識が一瞬遠のく。
「シン君!」
「め、メアリー、後ろ…」
「え?」
振り向くメアリーの頭上には、不気味な笑みを浮かべたスリープが。
「きゃぁっ!?」
スリープはそのままメアリーを思い切り右手でぶった。ただの物理攻撃だというのにその威力はすさまじく、吹っ飛ばされたメアリーは地面に倒れたまま動けないでいる。意識がはっきりし始めた俺は、それを見ていることしかできなかった。

 ………。一瞬、嫌な考えが頭をよぎる。考えるな、そう自分に言い聞かせ、ふたたび右手に電気を貯める。
 「電気ショック!」
まずは二発、スリープ目掛けて鋭い雷撃を放つ。見え透いた陽動だ。スリープは“サイコキネシス”をわざわざ使うこともなく、するすると電撃の間を通り抜けて攻撃をかわした。そこまでは読めている。俺はスリープと一定の距離を保ちながら、スリープの背中側へと“でんこうせっか”で滑り込む。そして、もう一度電気ショックをお見舞いする。

 しかし、スリープはそれに気づいていた。素早く俺の方へと振り返り、電気ショックを、なんと素手で払いのけた。
 「なんだとっ!?」
まさか素手で対処されるとは思ってなかった俺は驚き、思わず隙を見せてしまった。スリープはそれを見逃さない。紫色の妖光、“サイケ光線”が俺の右肩を鋭く射抜いた。

激痛が右肩を襲い、反撃しようと右手に走らせていた電気が虚しく消える。

スリープの右手が再びギラリと輝いた。

かわさなければ。そう思って足を動かすが、それらは軽く空を泳ぐ。

また、浮かされた。
“サイコキネシス”…しまった。いつの間にか、“サイコキネシス”の射程範囲まで距離を詰められていたのか。

スリープは、笑いながら、無言で右手をこちらに向ける。
宙に浮かされ、どこからも反作用の力を得ることの出来なくなった今の俺に、奴の攻撃をかわす手段はない。……駄目だ。諦めて、歯を食いしばろうとした瞬間、スリープの後ろから影がふっと現れた。

メアリーだ。目は恐怖で閉じかけながらも、ガッと歯を立ててスリープの肩に噛み付いた。「うぐっ!?…な、お前!」
全能力を俺に向けて集中していたスリープは、メアリーの攻撃を予測できなかった。痛みをこらえつつ振りほどこうとするが、メアリーも必死に食らいつく。
堪らずスリープは、俺にかけていた“サイコキネシス”を解除し、標的をメアリーに変えた。空中に釘付けにされていた俺の体は解放され、代わりにメアリーの体が宙に浮く。

スリープは、完全に標的をメアリーにうつしたようだ。メアリーに右手を向けて“サイケ光線”の構えをとる。
「シンくん!今だよ!」
メアリーが叫ぶ。メアリーの意図を理解していた俺は、既に今ある最大量の電気を身体に貯めていた。黄金色に体が発光する。

スリープが、背後の輝きに気づいて振り返る。だがしかし、気づいた時にはもう遅い。

黄色い閃光が、彼の体を貫いた。






あまりの眩しさに、俺は閉じていた目を開けた。脇腹から、血がドクドクと流れ、その流れを感じる度に、刺すような痛みが体を襲う。近くでルリリが顔をしかめてこっちを見てやがる。っち、見るんじゃねえよ。カッコ悪いじゃねぇか。
ルリリの方から目を逸らし、光が差してきた方向に目をやる。煙がもうもうと立ち上がり、スリープ達の姿は見えない。
何があった?戦闘はどうなった?
だんだん、煙が晴れてきた。
誰か、立ち上がったぞ…。数は…1匹か…。…痛ッ!?クソ、傷が開いてきたな…。駄目だ…、視界が薄れてきやがった…。
煙は、ほとんど晴れきっていた。
薄れゆく、景色の中で俺が見たのは、倒れる2匹の間で立ち上がる、1匹のスリープだった。

■筆者メッセージ
お待たせしすぎました。生きてます。
受験と小説執筆の両立を舐めてました。
〜分かったこと〜
シン…イイトコなし
メアリー…イイトコなし
イブゼル…負傷中
スリープ…強い
つらつら ( 2017/05/14(日) 20:35 )