はみ出し者は自分だけ(ポケモン不思議のダンジョン空) - トゲトゲ山は
第十話:時空の叫び
 翌日から、俺達は毎日ギルドの掲示板に貼られた依頼をこなした。依頼の種類は多岐にわたるが、「△△まで連れてって」、「○○を拾ってきてください」、「迷いました!助けて」といった感じで、大きく分類すれば大体三つだった。ちなみにゲームでは最も楽な「助けて」系ばっかりやっていた気がするが、自分には足形文字は読めないので依頼の選択はメアリーに任せた。
 ちなみに「助けて」系などで依頼したポケモンを見つけた際は、「探険隊バッジ」を使ってそのポケモンをダンジョン外に脱出させてやることになっている。しかし俺達はその「探険隊バッジ」の使い方が全く分からなかったので、わざわざ来た道を依頼人を連れて帰るという二度手間をかけていた。

 そんなある日、いつも通り依頼人を連れて帰路についていたところ、偶然イブゼルに見つかった。イブゼルは、メアリー(と俺と依頼人)を見るやすぐに近づいてきて陽気な調子で話しかけてきた。
「あれ?なんたってわざわざそんなめんどくさいことをしてるんだい?」
「ああ、イブゼル。良いところに来たな。探険隊バッジの使い方が分からないんだ」
「お前に聞いてねぇよ。黙ってろ」
「探険隊バッジってどうやって使えばいいのかな?」
「あー!それのことかー!確かに初心者には分かりにくいよね〜。よし、ちょっと待っててね」
その態度、疲れないか?どっちかに統一したらどうだ?いっそのこと俺にもメアリーのときみたいに接してくれれば……いや、それはやめてくれ。
 「こうやって使うんだ。見てなよ〜」
そう言うと、イブゼルは自分の探険隊バッジを地面に思い切り投げつけた。探険隊バッジが地面にぶつかると、突如そこから黄金の光の柱が現れた。ソノハッソウハナカッタ。
「この光の中に入ればダンジョンの外に出られるぜ!」
「ほんとうに!?ありがとうイブゼル!おかげで助かったよ!」
「いやいやお安いご用だぜ!ところでどうだい?今度またお茶でも……」
「あ、うん、えっと…それはまた今度話そ!」
そう言ってメアリーは逃げるように光の柱に駆けていった。メアリーの体が光に重なった瞬間、彼女は姿を消した。イブゼルの言う通りならこれで彼女はダンジョンの外にワープしたっていうわけか。
 一方、端から見れば完璧に誘いを断られたイブゼル。さすがにこれには落ち込んで…
「恥ずかしがりやだなぁ〜!メアリーちゃんは!」
そんなわけなかった。さすがイブゼル。
 そのあと俺はイブゼルに軽く礼を言って、(帰ってきた言葉は罵声だったが)依頼人を連れて光の柱を使ってダンジョンの外に出たのだった。





 ともかく、俺とメアリーはどんどん依頼をこなしていった。メアリーは働き者で、やる気十分だったし、俺も俺でシナリオを早く進めるために依頼はできるだけ多くこなしたかったので、依頼はさくさく消費され、それにつれて俺達の実力もどんどん伸びた。そしてついに、俺が待ちわびていたイベントが起こった。
 ある日、朝礼の後、俺とメアリーはペラオに声をかけられた。
「お前達、トレジャータウンを利用したことはあるか?」
「トレジャータウン?」
知らない風な体で聞いてみる。
「ギルドの崖を降りると交差点に出るだろう?そこからギルドを背にして右にあるのがトレジャータウンだ。探険隊がダンジョンにいくための準備をするのに適した施設がたくさん揃ってるんだよ」
「へー、カクレオンが運営してる店とかありそうだな」
「すごい!当たってるよシン君!」
「ん?メアリーは知ってるのか?」
「うん。ギルドに入門する前は近くに住んでいたからね。でも、一部のお店しか行ってなかったから全部は分からないよ」
「なるほどな。ならこちらから案内を寄越すよ。おーい、デッパー!」
ペラオは大きな声でそう呼んだ。少しして、「ハイでゲスー!」とこれまた大きな声で返事して、デッパ(ビッパ)がドタドタとはしごを登ってやってきた。
「どうしたんでゲス?」
「デッパ、シンとメアリーにトレジャータウンを案内してやってくれ」
「案内でゲスか?分かりましたでゲス!」
デッパが威勢良く返事をすると、ペラオは満足そうにうんうん、と頷いて
「そうそう、メアリーとシンにはやってもらいたいことがあるからトレジャータウンを一通り回ったらもう一度ギルドに帰ってくるように♪」
「はーい」
そう言ってペラオは機嫌よくその場を立ち去った。
 残された俺達。デッパが突然涙ぐみ始めた。
「う、うう……」
「え?え?ど、どうしたの?」
焦るメアリー。デッパは首をふるふると振って答えた。
「い、いや…、アッシにまさか後輩ができるなんて、思いもしなかったんでゲス。ううっ……。しかも後輩に町を案内してあげられるなんて…。」
まあ、確かに後輩が出来るのは嬉しいと思う。ここまで喜びはしないけど。
 感激の涙を流してなかなか動かないデッパを、無理やり案内させるわけにもいかなかったので、デッパの気のすむまで泣かせたところ、ギルドを出たのはデッパと会ってから10分もたった後だった。


 ギルドがある崖を下りて右折し、しばらく進むといくつか個性的な建物が並ぶ場所が見えてきた。おぉ……ここがトレジャータウン…!!ざっと土が整備されただけの大きな道が奥まで続き、その道に沿って種々様々なお店が並んでいる。お店の形は殆ど全部ポケモンの形になっており、右側には手前から順にヨマワル、エレキブル、小さな橋を挟んで、カクレオン、ガルーラを模した形をした店が道の方を向いて並んでいる。左側は、ガラガラ(この店だけポケモンの形ではない)、ラッキー、ネイティオの店が前から順に道に背を向けて並んでいる。ヨマワルの店とエレキブルの店の間にはちょっとした広場があり、色んなポケモン達がそれぞれの話に花を咲かせている。ゲームと全く同じ……!!いや、それ以上じゃないか!ゲームでは分からなかった町の活気!店のポケモンと道行くポケモン達の会話……!
 「シン君、すごく嬉しそうだね」
「え?ああ。なんか感動してさ」
「ただの普通の町だと思うけどな〜。シン君変なの〜」
「変ってひどいな」
「アッシはシン君の気持ち分かるでゲスよ!ドキドキが止まらないんでゲスよね!」
デッパよ、フォローありがとう。でもごめん、ちょっと違う。

 「とりあえず、トレジャータウンの施設をひとつひとつ紹介していくでゲスよ!
「まずは……ここでゲスね!ヨマワル銀行!その名の通り銀行でゲス。ポケ金貨を預けたり引き出したりできるでゲス。ここに預けておけばダンジョンで力尽きても野生のポケモンに盗まれたりはしないでゲスよ!」
 ヨマワル銀行の前で張り切ってそう語るデッパを、ヨマワル銀行の主人らしきポケモン、ヨマワルが嬉しそうに見ている。こちらにも目配せしてきたので一応挨拶しておいた。

 その後もデッパの熱い案内は続いた。技を繋げて繰り出す“コンボ”を学ぶことのできる「エレキブル連結店」、アイテムを預けたり引き出したりできる「ガルーラの倉庫」、ポケモンのたまごを孵化させてくれる「お世話屋ラッキー」、宝箱の中身を鑑定してくれる「ネイティオ鑑定所」、修行をして実力を伸ばせる「ガラガラ道場」(ここだけ開いてなかったが)、そして色んなアイテムが買える「カクレオン商店・専門店」。熱弁してくれたデッパの解説をまとめると、トレジャータウンの施設はざっとこんな感じである。まあここはゲームと同じ感じだったので理解に苦労することもなかった。驚いたのは、ゲームの機能の1つ、技の“連結”はこの世界では“コンボ”で説明されていたということぐらいである。


 「これからよろしくお願いします」
「はいどうもー!よろしくお願いしますねー!」
カクレオン商店のカクレオン達に挨拶をして、デッパの案内が一通り終わりギルドへ帰ろうとしたところ、店に二匹のポケモンがやってきた。青い、まんまるな身体をしたポケモン、マリルとルリリである。
 「こんにちはー!おつかいに来ましたー!」
マリルが可愛らしい元気な声でそう言った。店の主人である緑と紫のカクレオン二匹は目尻を垂らし、優しい笑顔で応答した。
「いらっしゃ〜い♪いつもえらいね〜。今日は何を買いにきたんだい?」
マリルが体にかけていたカバンから紙切れを取りだし、それを見ながら答えた。
「えっと…リンゴふたつと…オレンの実…あと…ばくれつのたねです!」
なんだ最後の、物騒な。カクレオンもギョッとはしたが、客の買い物に口出ししない辺りさすが商売人、「はーい」と気前良く返事して言われたアイテムをマリルのカバンに詰めてあげていた。
 木の実やリンゴ、種でいっぱいになった重そうなカバンを二匹で協力して持ち上げ、マリルとルリリはカクレオン達、ついでに俺達にも挨拶をしてその場を立ち去ろうとした…が、カバンの中を見てマリルがカクレオンにこう言った。
「カクレオンさん!」
「どうしたんだい?」
「リンゴがひとつ多いです!」
マリルはリンゴをカクレオンに渡した。あ〜、優しい世界。素晴らしい。カクレオンは嬉しそうに笑ってそのリンゴをマリルに返す。
「いやいや、これは私たちからのサービスだよ。いつも頑張っているからね〜。二匹で仲良く分けるんだよ」
「あ、ありがとうございます!カクレオンさん!」
「わーい!ありがとうカクレオンさん!」
 ルリリはもらったリンゴを大切そうに持った。リンゴ一個分減ったので今度はマリルだけでも持てるらしく、マリルはカバン、ルリリはリンゴを持って再度俺達に挨拶をしてその場を立ち去った。しかし…
「いたっ!」
 ルリリがいきなりつまづいた。持っていたリンゴがルリリの手を離れ、俺の方に転がってきた。この展開は予測できたので俺は転がってきたリンゴを熟練の内野手のごとくキャッチした。

 予想外は、ここからだった。

 ルリリは泣くのをこらえてすぐに立ち上がり、俺の方に走ってきて礼をした。
「すみません。ありがとうございます」
 俺はルリリにリンゴを渡した。本当なら、このタイミングのはずだった。しかし、俺の予想していた事態は起きない。
 ルリリはそのままマリルの方に走っていき、二匹はてくてくと帰っていった。外見上、なんら問題のないやりとりだ。メアリー、デッパ、カクレオン、そしてマリル達にも異変は感じられないだろう。しかし、俺は自分だけが感じられるこの重大な“ズレ”に、動揺せずにはいられなかった。








 ………“時空の叫び”が、使えない。
 






 



 
 





 

■筆者メッセージ
連結って実際だとどんな感じになってるのかな〜、と考えた結果がコンボでした。個人的にはしっくりきてます。個人的には。
感想、ご意見待ってます。
〜分かったこと〜
シン…“時空の叫び”が使えないらしい
メアリー…だんだんイブゼルにも慣れてきた
デッパ…後輩最高
マリル、ルリリ…ばくれつのたねの用途は彼らも知りません
つらつら ( 2017/04/05(水) 08:40 )